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WAR HORSE 「戦火の馬」

2012-03-15 | 映画

         

絵を描いていて泣いたのは初めてです。
映画「戦火の馬」のこのモブ・シーン、実はこれは左端の一部分。
元々はこの4倍、右側に馬と兵士が連なっていました。
9分仕上げて、あと一息、と思ったその時。
国会中継を同じパソコンで聴きながらやっていたせいでしょうか。

いきなり、画面がブルーになって、それまで仕上げた部分が
全て消えてしまいました。     orz ←リアルこれ

よりにもよって、なんだってこんな大作を描いているときに、天は我を見放したもうか。
いつもの数倍時間をかけた、労作が、まさに一瞬で・・・。
「ひえええ」と絶叫後、しばし呆然としてから、しみじみと落涙したエリス中尉でありました。

しかし、不幸中の幸い、虫の知らせというのでしょうか、
いつもはあまりしないのですが、約2割できたところでセーブしていたんですね。
左から順番に描いていったので、本日画像部分だけはわりと仕上がっていたのです。
しかしもう一度同じことを一日かけてする気には到底なれなかったので、
できている一部分だけカットしてアップしたのが本日画像。

なぜ、こんな苦労をして画像を描きたかったかというと、このシーン、
第一次世界大戦における騎馬隊の戦闘シーンにいたく感動したからで。

先日、息子とこのスピルバーグ作品「戦火の馬」WAR HORSEを観ました。
乗馬をやっている知り合いの熱いおすすめによるものです。

1910年、イギリスの片田舎。
ある日、頑固な父親テッドが、地主と張り合って農耕馬ではなくサラブレッドを買ってくる。
ジョーイと名付け、愛をそそぐアルバート。
しかし、豪雨のため作付ができなかったテッドはジョーイを軍馬として売ってしまう。
ジョーイは第一次世界大戦中の戦場へ。
戦地で生きる様々な人々とかかわっていくジョーイ、そして出征したアルバートとの再会。


という話なのですが、ジョーイをナラコット家から買った英軍中尉の騎兵隊が、
朝一番の奇襲をドイツ軍の駐屯地にかける、これが本日画像のシーン。
これ、凄いですよ。

このころの騎馬隊の訓練が、映画には描かれています。
サーベルを正面に構え一列に並んだ隊が一斉スタート、
ゴールには人間の首の高さにブルーの輪がかけてあります。
一番早く到達した騎士はその輪をサーベルの先に掛け、名乗りを上げる。
まだまだ一次大戦初期は騎士道的戦いをしていたということが描かれています。

突撃ー!となったら、これもやはりサーベルをまっすぐ構え、
馬が隠れ人しか見えないような高く茂った草むらの中を大隊ごと全力疾走。
仲間同士で事故は起こらなかったのだろうか?
前にいる人をサーベルでつついてしまったりしなかったのだろうか?

しかし、そんな心配をしている場合ではなかった。
朝駆け早討ちに驚くものの、さすがは技術国ドイツ、
陣地後方にはちゃんとマシンガンを設置して敵襲来に備えているものだから、
騎馬隊はバタバタと倒されてしまいます。
つまり、画像の人も馬も、この直後に草原を血に染めて死んでゆく運命なのです。

第一次世界大戦は、初期の頃はまだ白兵戦が多々行われたのですが、この映画で
騎馬隊が全滅させられるように、普及しだした機関銃によって一個大隊が瞬時に全滅、
というようなことが起こりだしてからは、レマルクの「西部戦線異状なし」にも描かれた
「遠戦」そして「塹壕戦」が主流になるわけです。

この映画では、馬のジョーイが戦地に赴いた大戦当初の頃と、
のちに主人公アルバートが徴兵される頃の戦況の変化にそれがあらわれています。

アルバートが赴いた戦線では、塹壕にアルバート一人が残され、
「命を惜しんで逃げて塹壕に戻ってきた兵士を撃ち殺す係」を命じられます。

主人公が塹壕で戦死した日、隊長の日誌に書かれた一言、「戦線異状なし」。
これがレマルクの小説のラストシーンですが、
この頃から人間一人の命がより軽く扱われる、
より非人間的な戦争をする時代に突入していったわけです。

因みに主人公役のジェレミー・アーバインは、第一次世界大戦中多くの兵士が患った
「塹壕足炎」(長い間泥につかることでなる凍傷のような炎症)にかかってしまったそうです。



それにしても、この映画、馬好きならずとも動物好きには是非観ていただきたい。
馬がね・・・・演技するんですよ。まじで。

冒頭画像のいちばん右にいるのがジョーイなのですが(冒頭の事情により前半身だけ)
その左側を走っている黒い馬が、ジョーイの「戦友」。
突撃の後捕獲され、ドイツ軍の手にわたってしまったジョーイと黒馬は、
丘の頂上まで大砲を運ぶ過酷な労働に使われます。
潰れた馬はその場で射殺。情け無用で馬を使い捨てする非情のドイツ軍。
(スピルバーグって本当にドイツ嫌いなのね)

驚異的な体力を持つジョーイと違って、疲労で死にそうな黒馬を兵士が駆り立てようとすると、

「おれがやる!そいつをはなしてやってくれ!」

とジョーイが労働を買って出るんですよ。(涙)
これ、本当に演技してるの。見ていただければわかります。
このシーンを見て「まるでディズニー映画・・・」と思った次の瞬間、
これがディズニー映画であることに気がついて苦笑してしまいました。

それはともかく、遂に疲れて動けなくなった黒馬が、ジョーイを見て言うんですよ。

「ありがとよ、ジョーイ・・・またお前と競争したかったぜ」

どちらも名演技すぎて中にショーン・ペンとケビン・スペイシーでも入ってるのかと疑うレベル。

あるシネマサイトによると、スピルバーグは終始馬が演技してくれないので不満だった、
なんて書いてあるんですが、映画パンフレットには
「わたしはただそこに座って、あの馬たちが自分が演者であることを理解し、
瞬間瞬間に力を尽くしてくれる幸運に感謝するだけでした」

どっちが本当だ?

この映画のために100頭からなる大規模の馬専門の部署が設けられましたが、
ジョーイを演じたのは全部で14頭だそうです。
馬たちはジョーイのトレードマーク(額と四本ソックスの白)のメイクを施されました。


ところで、このストーリーの原作はマイケル・モバーゴという絵本作家の作品です。
かれがこの話の着想をどこで得たのかはわかりませんが、日本にはこんな話があります。


日中戦争の頃、馬も戦地に徴用されました。
徴用された農家はそれを名誉なこととし、馬を神社に連れて行って「武運長久」の祝詞を受け、
餅や赤飯を与えてから騎兵隊に引き渡したそうです。

大陸に渡った馬たちは、それっきり、一頭として再び日本の地を踏むことはなかったのですが、
ある農家出身の兵士が、戦地でかつての愛馬に再会したというのです。
飼い主を覚えていたのはなんと馬の方でした。
懐いてきた馬に飼い主が驚き、そしてかつての愛馬を抱きしめ涙したそうです。



映画を観て帰ってきてから、息子が「原作は絵本らしいよ」と映画評を見て教えてくれました。
「ふーん、じゃお芝居でもやってたかもしれないね」と何も考えずにいうと、
「ちょっと、ママ、あの映画どうやって舞台でやるのw 絶対無理」
瞬時に下のような状況を思い浮かべて二人で笑い転げたのですが、



なんと、
舞台版の作り物の馬が完ぺきに演技をするのに対し、
本物の馬は監督の言うことを聞いてくれないのでスピルバーグは不満だったようだ」
と書いてあるサイトを見つけてしまいました。


どうやって演技させるのか、作り物の馬。
もしかしたら、中にアル・パチーノとロバート・デ二―ロでも入っているのか?




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