ネイビーブルーに恋をして

バーキン片手に靖國神社

映画「Uボート 最後の決断」〜”Meningitis"

2021-12-21 | 映画

本年最後の紹介となる映画は、やはり潜水艦ものになってしまいました。

戦争映画というジャンルの中でその評価の良し悪しを問うことなく、
時には「悪食」というレベルの駄作も紹介し世に残すのが
当ブログ映画部の使命と心得てきたわけですが、
こうやって取り上げる以上、作品が面白いにこしたことはありません。


正直ここのところ、ニュース映像の繋ぎだけでできた作品とか、
明らかなプロパガンダ映画とか、意余って力もあまり過ぎたあれとか、
映画会社の社長の愛人を主役に映画を撮ることだけが目的だったあれとか、
ジョン・ウェインものとか、映画の出来以前に面白くない作品が続きました。

ですから、最後まで手を止めず「ながら見」もせず、
画面を凝視しているうちに映画が終わったことに驚き、
そして久しぶりに映画らしい?映画を楽しんだ、という気分になったものです。

その面白かった作品とは、2004年度作品
「Uボート 最後の決断」、原題「In Enemy Hands」

最初にお断りしておきますが、この映画に潜水艦映画として、
つまり軍事的リアリティに対し評価を下すのは大間違い。
それほど戦争や潜水艦に詳しくない人でも常識を働かせれば、
あり得ないことや非現実的な展開が嫌でも目に付くというレベルです。


しかしそれをおいても、この映画が観るものを決して退屈させずに
最後まで引き込んでいくということは、このわたしが保証します。
おまえに保証されてもな、という向きもありましょうが。

そして、あるあるパターンというか、容易に着地点の見当がついてしまう
従来の戦争映画とは全く違い、この映画の展開は予測不可能で、
「画面から目が離せない」というアオリ文句が誇大ではないということを、
是非申し添えておきたいと思います。

というわけで、この映画はいつもより「ネタバレ」が憚られます。

映画を見る前に決して前情報はいらない、という主義ならずとも、
ここまで読んで少しでも興味をお持ちになった方は、
必ず映画を観てから本稿に目を通されるか、
あるいは以降をスルーしていただくことをお勧めしたうえで始めます。





Uボートが進水を行っているモノクロフィルムから映画は始まります。



Uボートの進水は造船台から真横に滑り込む方法です。
ナレーションはこのようなものです。



ドイツはUボートの生産を1,000%増やし、月に17隻を大量生産した。



ヒトラーは、ヨーロッパでの戦争に勝つための鍵は
大西洋を支配することだと考えており、
その狙いは的中した。






1942年までに、ウルフパックと呼ばれた潜水艦群は、
1,000隻以上の連合国の船を沈めた。



彼らの成功はドイツに決定的なアドバンテージを与えることになる。



ドイツは戦争に勝ちつつあった。
そして、そのままいけば、ヨーロッパ全体が敗北したであろう。



しかし、チャーチルとルーズベルトは、会談において
Uボートの殲滅を誓い合い、技術を結晶して反撃にでたため、
それからUボートの「没落」が始まった、と続きます。

最初の2分間で「Uボートの栄枯盛衰」がさっくりと説明されるわけです。




1943年6月3日、大平洋艦隊司令部で、潜水艦長として志願し、
来週出航することが決まったランドール・サリバン少佐
ケンツ提督と会談しています。

提督は軍人だったカーン少佐の父親の知己であったようで、
「父上のことを思ってこれまで君を後方に配置していた」

と特別扱いしていたことを直球で言い出すのですが、そんなことってあり?

提督は、彼の艦の先任伍長がネイサン・トラヴァーズであると聞くと、
「彼は頼りになる男だ」
と太鼓判を押します。



この映画のちょっと変わっているところは、艦長ではなく先任伍長、
アメリカ海軍の「チーフ」が主人公であることです。
そのチーフ、ネイサン・トラヴァーズを演じるのはウィリアム・H・メイシー

バイプレーヤーとして(もしアメリカに同名のドラマがあれば絶対出ている)
誰でも顔は見おぼえがあるという俳優ですが、
いかにも本当にいそうな先任伍長役のこの人が主役ということが
まずこの映画の普通と違うポイントです。



そしてこのおじさんに不釣り合いなくらいの美人妻がいるという設定・・・。
あれ?この人どこかでみたことないですか?



ほら、これですよ。エミリー・レイク大尉
そういえばあれも潜水艦ものだった・・・
「イン・ザ・ネイビー」(ダウン・ペリスコープ)
の紅一点サブマリナーを演じた、ローレン・ホリー



しかも、この映画の夫であるメイシー・ウィリアムズは、
同じ映画で主人公と模擬戦をする原潜の艦長役でした。

これ絶対わざとキャスティングしてるだろ。



2ヶ月後の大西洋。
そこには、ヨナス・ヘルト(Jonas Herdt)艦長が率いる
U-429が、敵との攻防を繰り広げていました。
U-429は実在したUボートですが、この映画との関連性は全くなく、
実際は米軍の空襲で係留中無人のまま45年3月に撃沈されています。



駆逐艦から雨霰と落とされる爆雷をじっとやりすごし、その後反撃に出て
逆に相手を撃沈するという老練な戦いをする艦長の下には、
ファースト・ウォッチ・オフィサー(副長)のルードヴィッヒ・クレマーがいます。
(タイトル画の右側は実はこの人だったりする)



こちらは同じく大西洋。
これも実在した潜水艦USS「スウォードフィッシュ」が登場します。
しかし、史実的にこの映画の大前提はアウトです。
第二次大戦中、大西洋に展開したアメリカの潜水艦はほとんどなかったからです。

実際の「ソードフィッシュ」も太平洋で日本船を沈め、最後は
日本海軍に撃沈されて消息を絶ったといわれています。

近年の映画でアメリカの潜水艦はよく大西洋上のUボートと対決しますが、
もはやこれはSFと言ってもいいくらい「無い話」なのです。

そもそも「潜水艦対潜水艦」というシチュエーションが、場所を問わず
第二次世界大戦には起きなかったということを、
特にハリウッドの潜水艦映画は全く無視していると言えましょう。

潜水艦同士しかも米潜とUボートの対決、これらはいかにも
戦争アクションとして「美味しい」シチュエーションなので、
ハリウッドがやたらこのパターンにこだわるのもわからないではないですが。



「ソードフィッシュ」では出航以来3ヶ月、新米艦長が張り切って
何度も訓練を行うので、嫌気が蔓延していました。


新米の艦長がベテランチーフに対して持ちがちな気遅れを
持っているがゆえに、自信のなさから訓練を無闇に繰り返す。
それに対し乗員は不満を持つ。
さらにそれを敏感に感じ取り、チーフが彼らを抑えられないことに苛立つ。

サリバン艦長はこんな拙いスパイラルに陥りかけていました。

苛立ちと焦りから、艦長はチーフのトラヴァースを呼びつけて、
訓練のタイムが上がらないと叱責しますが、
チーフからは、もう少し皆にゆとりを持たせてはどうか、
と逆に具申されてしまいます。

ここでまた艦長はチーフの面従腹背を敏感に感じ取るのでした。


こちらはU-429。
こちらは実際にドイツで建造された本物のUボートを使用しています。
ただし、建造してすぐイタリア海軍に譲渡され、
イタリア降伏後はドイツに戻って訓練艦となっていました。
もちろんイタリア海軍のもとで戦闘を行なったことは一度もありません。

それが喪失を免れた理由となったようです。


Uボートの艦長室では、艦長と副長がチェスをしながら会話をしています。
この会話が、2度目に見ると伏線のオンパレードでした。
お節介ですが箇条書きにしておきます。

1、お前(副長)は本来ならとっくに艦長になっているはずだと艦長が説教
2、こちらの魚雷は半分が不発である
3、戦局が好転すれば「生きて祖国に帰れる」


4、エニグマ暗号機による通信



そのエニグマで送られてきた通信には、
「艦長の娘の学校が爆撃され、生存者はいなかった」
というニュースが書かれていました。

敵側にあえて「同情ポイント」をあたえる、という手法は
最近の戦争ものでは珍しいことではありませんが、
この映画では互いの個人的事情については敵味方問わず公平に描かれます。

というのは、この映画の立ち位置が「戦争は善対悪の戦いではない」という、
多くの戦争映画が意識的にしろ無意識にしろ、見てみないふりをしている
この一点の上にあるからだとわたしは思います。


ちなみにこのシーンで、通信士が艦長に「ヘア・ヘルト、ヘア・クレマー」
と呼びかけますが、ドイツ海軍では「Herr」の後には階級がくるので、
正しくは「ヘア・カピタン」とか「ヘア・カーロイ」となるはずです。



こちら「ソードフィッシュ」では、27回目の演習に乗員たちが不平たらたら。


中間管理職の任務として、チーフはそんな彼らをたしなめます。
たとえ艦長のやり方に個人的に疑問があったとしても、艦長と乗員の間を取り持ち、
艦を円滑に運営するのが彼の仕事だからです。


とのとき、彼我双方の潜水艦の乗員の運命を変える出来事は
「ソードフィッシュ」のトイレで起こりつつありました。
「ソードフィッシュ」副長が昏倒していたのです。

軍医は念のため彼の隔離を命令しました。

「髄膜炎の疑いがある」

髄膜炎がどんな恐ろしい病気かは、調べていただけるとお分かりでしょう。
「狭い密室」「濃厚接触」「劣悪な生活環境」「ただちに専門的なケアができない」
このような条件下そのものである潜水艦内に感染者がいたら?
考えただけでぞっとするシチュエーションですね。

しかし、艦長は危険海域に入ったという理由で、
副長を「生きている限り」現場に立たせるように命令しました。
副長の病気を知っているはずなのに・・。

((((;゚Д゚)))))))


その2日後、同じ海域に別のUボート、U-821がいました。
通信士がグレン・ミラーのジャズの放送をキャッチすると、
艦長は何を思ったか、それを艦内に流すよう命令します。

実際のU-821は、1945年3月、イギリス空軍機4機とと海面で交戦し、
モスキート1機撃墜と引き換えにロケット弾と爆雷を受けて轟沈しています。


その音楽を聞きつけたのは「ソードフィッシュ」のソナーマンでした。
艦長はすぐさま攻撃を命じます。

危険海域でジャズを鳴らす艦長も大概ですが、ジャズが聞こえただけで
相手がUボートだと判断したというこの設定もすごいですね。


しかもここでこの映画は、それ以前の大きなミスを二つしています。

まず、「ソードフィッシュ」の撃った魚雷は、Uボートの近くで爆発しますが、
近接起爆装置を備えた魚雷でないとこのようなことにはなりません。

確かにアメリカ、イギリス、ドイツは、いずれも大戦初期ごろ
磁気近接起爆装置の研究を行っていましたが、問題が非常に大きいため、
すぐに使用をやめ、戦争の残りの期間、接触起爆装置を採用していたのです。

それから、本作で当たり前のように行われている潜水艦同士の撃ち合いですが、
当時の魚雷は誘導式ではなく、一旦発射すれば直進するのみ。
しかも探知は多くを聴覚に頼っていました。
目視できない潜水艦に魚雷が命中する可能性はほぼゼロだったといえます。

従って、第二次世界大戦当時、潜水艦による潜水艦への魚雷攻撃は不可能でした。

しかるに、潜水艦同士でドンパチやりあうこの映画を
「全く価値のないゴミ戦争映画」と一刀両断する評価が後を断たないのです。

だが待ってほしい。

あなたはスーパーマンや猿の惑星に科学的根拠を求めますか?
この映画も「戦争SF」というジャンルだと思って観ればいいのです。

「もし大西洋でアメリカの潜水艦とUボートが対決したら?」

というお題の「仮想空想科学映画」だと思えばいいのです。

というわけで、この映画では、あたかも西部のガンマンの撃ち合いのように、
2隻の潜水艦からほぼ同時に相手に向かって魚雷が放たれ、中央ですれ違います。


そんな息詰まる潜水艦対潜水艦の対決の場から4千m離れたところに
状況を見守っているU-429がいました。

「ソードフィッシュ」の魚雷はU-821に命中し、爆破させ、
その知らせを聞いた乗員は一瞬沸き立ちます。

中にはとたんにタバコを咥えて火をつける水兵がいますが、これもアウトで、
当時のディーゼルボートの内部は油分を含む蒸気と
バッテリーからくる水素が充満していたため、火気厳禁とされていました。
喫煙は浮上して甲板ですることになっていたはずです。

「撃沈なんか簡単さ!」

つい艦長が調子こいてこんなことを言った途端、
倒れたままの副長の様子を見たチーフが一言。



「死んでます」

えええええ!
それは打ちどころが悪かったとかではなくて?



次の瞬間、「ソードフィッシュ」を狙いすましたU-821の魚雷が襲いました。

炎上する機関室、即死する機関員。
エンジンが停止し、たちまち前部魚雷発射室から浸水が始まりました。



サリバン艦長は艦を浮上させ、チーフに促されて
わかってるよ!と言いながら「総員退艦」を命じました。

今やろうと思っていたことを人に言われるのって嫌なもんですよね。


ところが艦長、全員が退出した後、ふらふらと艦内に戻っていくではありませんか。

「部下が先だ」

残りはもう全員亡くなっているというのに?
しかも、チーフに向かって、自分は艦と運命を共にする、などと言い出します。

この言動には、艦長だけが心に止めているある重大な秘密が関わっています。


そんな艦長を無理やりチーフが艦から引きずりだした後、
(潜水艦から人事不正の人を引き摺り出すのは物理的に至難の技だと思いますが)
文字通り「棺」となった「ソードフィッシュ」は爆発大炎上しました。


続く!



映画「大平洋機動作戦」〜”Fire! Fire! Fire!”

2021-12-06 | 映画
「オペレーション・パシフィック」、大平洋機動作戦最終日です。


「サンダー」は偽装船との衝突で通信装置が壊れてしまい、
そのため消息が絶たれてしまいました。

ハワイの艦隊司令部には、その知らせを聞きつけて
元妻というだけで今は無関係の関係であるMSがやってきました。



この4年間、別れた夫の艦がどこにいても関心も持たず、
他の男とデートとかしてたのに、急にどうしたというんでしょうか(棒)

そもそも副長の別れた妻というだけの、しかも一介の看護師中尉が
司令部のプロッティングルームに入るなど普通は許されるはずがありません。


しかし「サンダー」は無事に真珠湾に到着しました。
士官室では一連の破損などについての事情聴取が行われ、
艦長の死など、原因の全てが魚雷の不調にあるという結論に達します。



下艦した乗員たちは誰いうともなく教会に集まりました。
哨戒中に失った艦長始め戦死者の霊に祈りを捧げるためです。



ギフォード少佐は水葬の際に捧げられる海軍の祈りの言葉を唱えました。

「私たちは、その魂を神に委ね、その身体を深みに委ねます。
それは、イエス・キリストによる永遠のいのちへの復活を、
こころより、そして確実に願ってのことですが、
そのイエス・キリストが世を裁くために再びよみがえるとき、
海はその死者を放棄するでしょう」


ペリー艦長の弟、ボブは兄の死の責任がギフォードにあると考えます。
戦闘ではなく、副長の潜水命令が彼を死に至らしめたというのです。


副長として乗員全員の命に責任を持っていたから潜航した、と彼を庇うMSに、
ボブは、それならなぜ緊急潜水してすぐ戦うために浮上したのか、と反撃します。

「かばうのはよせ、彼は英雄になりたかっただけなんだ」


そこに現れたデュークに、ボブは冷たく
「あなたは兄を見殺しにした」
と言い捨て、去っていきました。



どちらにもいい顔をしたいMSは、デュークに
「彼もいつかはあなたを恨まなくなるわ」

辛ければわたしを頼って、などというのですが、
デュークは冷たく、

「潜航は自分ではなく艦長が自らを犠牲にして下した命令だ。
誰にも恨まれる筋合いはない」

正論ですが、自分を無視されてカチンときた彼女は、スティール師長中佐に、

「自分の立場がよくわかった気がします!」

といい、荒々しく部屋をあとにします。
わかったなら、今後はあまり出しゃばらない方がいいと思うね。


さて、このへんでどうしても書いておかなくてはならないことがあります。

当作品制作にあたり、朝鮮戦争の関係で日本人侮蔑表現はやめよう、
ということに決まったといいながら、
透けて見えるこの映画の拭い難い差別表現についてです。

当たり前の話ですが、潜水艦というのは、
基本的に敵の船に奇襲をかけて彼らを殺すのが仕事です。
それは戦争であるから仕方がないことでもあるのに、あえて
映画はアメリカ側の殺戮の正当性をサブリミナル的に盛り込んできます。

この映画の戦闘相手は軍艦のみならず、民間船のこともあり、
そこには当然生きた人間が乗っているわけです。

しかるに、この映画で日本人が乗った船が破壊されて沈められる時、
画面にはただ「記号のような」撃沈シーンが繰り返されます。
魚雷で吹き飛び、沈んでいく船には人っ子ひとり乗っていないような描き方です。

ところが、今回の戦闘シーンのように、撃沈しようとした民間船が武器をとり、
反撃してきたというシチュエーションにおいて、彼ら日本人は卑怯にも
白旗の偽装をし武器を偽装し、艦長を撃ち殺すという「色付け」がされます。

つまりこのことによって、見ている方は意識するしないにかかわらず、

「こんな卑怯なことをされたら殺しても仕方ない(構わない)」

という我が方の民間人殺戮に対する「言い訳」を植え付けられることになります。

この人種差別的な「死の分類」により、この映画による戦争では
二種類の死しか起こらなかったように見えます。

一つは、「悪い日本人が奇襲攻撃をしたことによるアメリカ人の死」

そしてもう一つは、

「善良なアメリカ人が奇襲攻撃に対して自衛的に対処したことによる日本人の死」



さて、本国での休暇命令をあえて断り、ギフォード少佐は、
ペリー艦長が行うはずだった魚雷の不具合の原因究明に乗り出しました。

信管の問題なのに、技術者でもない彼に何ができるのかという気もしますが。


これらの映像は海軍工廠の魚雷組み立て中の本物です。


こちらは海軍工廠でロケさせてもらったらしい映像。


工廠で仕上がった魚雷には信管に問題はないのに、なぜ?



というわけで落下実験が行われることになりました。


魚雷目線で見た地面の図。
クレーンの先にカメラをつけたんですね。



しかし10回にわたる実験を繰り返しその度に部品を変えてもダメ。
ちなみに映像は三回同じ実験を使い回ししています。



そこで撃針を軽いものから交換してみようということになり、
ようやく問題は解決されました。

ちなみに魚雷は設計や製品に不備があると、グッドヒット
(魚雷が目標の側面に対して垂直から約45度以内に当たること)
で誤作動するというのは本当ですが、同じ魚雷でもちゃんとしたものなら
下手な当たり方(船体側面に対して鋭角に当たる)でも確実に爆発します。

この問題は映画のように潜水艦の乗組員によるものではありませんが、
米海軍では実際に同じような経緯を経てで発見され、解決されています。


魚雷の不具合も判明し、正式に「サンダーフィッシュ」の艦長になったデュークは
ご機嫌でMSをデートに誘いにきますが、こっぴどくはねつけられます。
彼女は自分がせっかく慰めているのに拒否されたことを怒っておるわけです。

「あの時もそうだった。夫婦は慰め合うものなのに、
あの子が死んだ時、あなたは自分の殻にとじこもるだけだったわ」

なるほどー、そこにもっていきますか。


その話を盗み聞きして一言言わずにはいられないのが
もはや単なるおせっかいおばさん、スティール中佐、

「自分以外を必要としていないなんて、あなたが彼によく言えたわね。
あんなことを言ったら彼は二度と帰ってこないわよ!

(´・ω・`)



同時刻、「サンダー」が次の哨戒に出た太平洋のどこかの空母には、


ペリー弟のボブが、艦載パイロットとして乗り組んでいました。


どうやらこれから日本軍がレイテ島を奪還に来るようです。
(いいかげん情報)

実写

その頃「サンダー」は他の駆逐艦に洋上補給をおこないました。

故障したエンジンギアを送ったついでに、
こちらの見終わった映画「ジョージワシントンがここに泊まった」(コメディ)と、
向こうの持っていた「エキサイティングな潜水艦映画」を交換します。


早速その夜は映画上映会。

ケリー・グラントの潜水艦映画・・ということは、間違いなく
「デスティネーション・トーキョー」でしょう。

Destination Tokyo - Trailer


しかし本職にはやっぱりあまり受けないようで、チーフは居眠りするし、
このナビゲーター士官ラリー中尉は、映画どうだったと聞かれて、

「まあ、ハリウッドの連中が潜水艦でなんかやってるってかんじですかね(笑)」
(Oh, all right I guess, sir... the things those Hollywood guys can do with a submarine.)

それはそうだがお前がいうな。

「あいつらはワシントンの映画、楽しんでるかな」



しかし次の日、彼らは海面の油膜の間に残骸とともに漂う
「ワシントン・・・」のリールボックスを見つけてしまいました。

そして彼らを撃沈したと思われる潜水艦の存在を感知します。


「艦影早見表」で彼らが見ているのは伊121〜124のデータです。
潜望鏡で敵潜を確認しながら、あそこで何をしているんだろうと副長が呟くと、
ギフォード艦長は、こういいます。

「太陽で艦位を確認しているか、舌舐めずりしてるんだろう」


「ファイア!」

この時魚雷は水面をポーポイズ運動しながら進みますが、
潜水艦の発射した魚雷は決してこのような動きをしません。

魚雷は見事ヒット。
コールドウェル少尉が、潜水艦の撃沈を初めて見た!とついはしゃぐと、
いきなり音楽が止まり、艦長が無言で彼を睨み付けていました。



「・・・・・・」

はしゃぐなよ、といったところでしょうか。
失われた命に対する最低限の敬意ってもんがあるだろ、的な?



続いて大船団をレーダーで見つけた「サンダー」は、それが船団ではなく
聯合艦隊であり、しかも周りを360度包囲されていることに気づきました。
空母、戦艦、巡洋艦などが勢ぞろいです。
(音楽はラソラ〜ラソラ〜ラソラドラソラ〜♪みたいなアジアンテイスト)



先ほどのラリー中尉は、思わず呟きます。

「今後ハリウッドの戦争映画ぜってー馬鹿にしないわ、おれ」



ギフォード艦長は、爆雷に耐え、ありったけの魚雷をぶっ放し、
混乱させてここから脱出すると指令を下しました。

「ファイア!」「ファイア!」「ファイア!」

連続して放った6本の魚雷は敵艦に大当たり。(画像省略)


そしてその後雨霰のように爆雷が降ってきます。
レギュレーターや排気管なども各種破損し発射管室も浸水。



駆逐艦を撃破し、他の艦隊も去った海域に、空母が残っています。
しかもよく見ると航行しています。なぜに?

実際は故障した程度の空母を駆逐艦が護衛しないというのはあり得ません。
もし損傷が酷かったとすれば、艦隊は自らの手で撃沈してから海域を去るはずです。

しかしまあこれは映画なので、艦長は当然この空母の攻撃を命じます。
空母一隻撃沈をスコアに加えるため、そして「艦長の仇を取るため」に。



その頃、ルソン沖に達した先ほどの艦隊を攻撃するために、
ボブ・ペリーの所属する航空隊が空母から出撃していました。

実写映像

「サンダー」はパイロットの海域での救助を命じられ、急行します。
そして航空機から連絡を受け(これは技術的にあり得ない)救助に向かうと


なんと要救助者はボブ・ペリー中尉その人でした。
イッツアスモールワールド。


そこに日の丸をつけたT-6テキサンが例のアジアンメロディとともにやってきます。
8機撃墜した零戦の「エース」という設定です。



機銃でボートが転覆し乗員が投げ出されたのを見て、
艦長は自ら海に飛び込みました。

生存者二人(ボブとコールドウェル少尉)を収容した時、機銃で艦長は負傷。
先任伍長とアラバマ出身の海軍ファミリー出身水兵は亡くなりました。



しかし、零戦は機関銃で海に叩き込んでやりました。(ストック映像による)


艦長は下っ端の少尉に対してもちゃんと労をねぎらいます。

「ミスター・コールドウェル、ありがとう」


そして救助した恋敵、ペリー中尉の枕元でタバコを吸いながら、
(そういう時代です)

「どうだ様子は」
「礼を言わなくてはいけませんね」
「私たちは7人搭乗員を助けた。君はその一人さ」

「この間はひどいことを言ってすみません」
「身内を亡くしたら誰でもああいうさ」
「広い太平洋であなたの近くに落ちて、またあなたを英雄にしてしまった」


そのときヘリがやってきて、ペリー中尉は搬送されることになりました。
その頭をぽんぽん(というかどう見てもバシバシ)叩くデューク。

「・・・なんです?」
「なんでもない」

なんでもないじゃないだろ?
ボブが動けない&立場上怒れないのをいいことに子供扱いって・・。

しかもボブは、別に助けてもらったからって、MSを諦めたなんて
一言も言ってないよね?



無事帰国すると、埠頭にはメアリー・スチュアートが待ち構えていました。


そして二人は駆け寄り、出撃前の問題が何も解決しておらず、
ボブ・ペリーとの関係も何も変わっていないというのに、
何もなかったかのように熱い抱擁をかわすのでした。

それから二人で一緒に手を取り合って歩いて行きます。
彼らの行き先は病院。

ジャングルから連れ帰った赤ちゃん「ブッチ」を彼らの養子に迎えるためです。
潜水艦と陸で連絡が取れなかったはずなのにいつの間にこんな話になっているのか。

それに、そもそも二人の問題の根源だった「夫の不在」という点で言うなら、
ギフォードが潜水艦艦長となった今後の方が、いろいろと見通し暗くない?

時間的にも、生存率の点でも。


最後に、わたしの感想に最も近いと思われたレビューを一つ紹介します。

第二次世界大戦中やその直後に作られた映画には、50年以上経った今となっては、
時代遅れのステレオタイプとしか思えないようなものも多いが、それでも、
国民全体(その世代の人々)をそのように行動させ、
感じさせた理想や価値観が反映されている。

戦時中、海軍に所属していた私の父は、ジョン・ウェインの大ファンだった。

ウェインは、父が少年時代や軍人時代に受け入れた価値観と
同じものを体現していたのだろう。

このことは、私にとっていくつかの妥当性と展望を与えてくれる。

この映画がウェインの最高の戦争映画とはみなされていないことは承知しているが、
彼の戦争映画がなぜ人気があったのか、

そして今もあるのかを示す良い例だと確信している。


終わり。


映画「太平洋機動作戦」〜”Take Her Down! "

2021-12-04 | 映画
ジョン・ウェイン主演の戦争映画、「太平洋機動作戦」2日目です。

ここは真珠湾の海軍病院。

看護師でギフォードの元妻、メアリー・スチュアート中尉は、
上司のスティール中佐から「サンダー」を迎えに行くよう命令されました。

ペリー艦長が友人のギフォードのために気を利かせて
元妻に会わせてやろうという企み、艦長特権で 指名してきたのです。

なんのためにペリーがこんなことを画策するのかわかりませんが、
おそらく、彼らが元鞘に収まった方がいいと考えたのでしょう。

その理由は後で明らかになります。

しかし、MSはそれをやんわりと断ります。

「会うならわたしのホームグラウンドがいいんです」

亀の甲より年の功、すぐに女心を察したスティール中佐ですが、
これは一応上官からの命令でもあります。

「でも向こうからの名指しなのでね〜。
・・・あーそうそう、頭痛の具合はどう?」

「酷いです」(きっぱり)

「それでは許可します」(`・ω・´)

メアリーを演じているのはパトリシア・ニール

皆さん当ブログでこの名前と顔に見覚えがありませんか?
この14年後、この二人は「危険な道」(In harm's way)で共演しました。

ニールはまだこのとき24歳でウェインと19歳の年齢差があったため、
ウェインは彼女の起用に反対し、そのせいもあったのでしょう。
彼らは結局撮影が終わるまで打ち解けることはありませんでした。

ニールの方もウェインに全く魅力を感じなかったばかりか、
(それでもキスしたり抱擁したりしなければならない俳優って大変)
彼のゲイの広報担当に酷い扱いを受けた、などと告白しています。

今回この「ゲイの広報担当」と言う言葉に「ん?」と思い、
英語のいわゆる4channelのようなところまで読んでみたら、
ジョン・ウェインにはかなり濃厚な「ゲイ疑惑」があるんだそうです。

彼はアメリカの男らしいヒーローを演じ、大衆には愛されましたが、
ラブシーンがことごとく見るに耐えないのはなぜなのか、ということは
わたしがかねがね気になっていたことの一つです。

まあ、なんでもありのハリウッドなので、よしんばそれが本当だったとしても
あまり驚きませんし、ウェインの女性に対する一種隔壁を感じさせる演技も、
もしそうなら納得というか合点がいくというものです。

パールハーバーへの帰還シーンはどの潜水艦のものか、実写映像です。

着いた途端セットになります。
真珠湾の潜水艦隊司令が乗艦してきて乗員を労います。

コワモテの先任伍長は、子供がいなくなって大慌て。
なんとこんなところから(ボイラーみたいな)出てきて皆大笑い。

艦長以下幹部は基地司令と魚雷の問題について話し合います。
それは磁気式信管に問題があるので、着発信管に戻すつもりだ、と司令。

艦を降りる尼僧たちにお別れの挨拶。

「しかし変だな・・」

デュークに会わせるため、艦長命令で指名した看護師のメアリーはどこ?

あ、いたいた、と後ろからトントンしたら別人でした。

「すっすみません人違いで」

艦長の企みなど夢にも知らないデュークは、
一人で新生児室の「ブッチ」に面会に来ていました。

さっそく怖い婦長少佐が飛んできて、やれ赤ん坊を泣かすなの、
マスクしろのとやいやい怒られてしまいます。

「あなた父親なの?」
「いや僕はあの子をジャングルから連れてかえ」
「ここはジャングルじゃありません!ご機嫌よう」
「ブッチに会いに来ただけなのに・・・」(独り言)

「・・・ブッチですって?」

「・・・そう呼んでる・・君は嫌がるかもしれんが」

「いい名前ね・・・あの子と同じだわ」

ん?

んんんんん〜〜〜?

この二人、離婚したんですよね?
どうしてこうなる!


潜水艦「サンダーフィッシュ」の副長、デューク・ギフォード少佐と、
看護師メアリー・スチュアート中尉はかつて夫婦でした。


二人の最初の息子「ブッチ」が生まれてすぐ亡くなった時、
夫の激務で一緒にいられなかったことが齟齬を生み、二人は離婚に至ります。


しかし互いへの愛情がなくなって離婚したわけではないので、
今回再会するなりつい熱い抱擁をしてしまったようです。

この時の二人の会話によると、メアリースチュアート、MSは
Penance、つまり懺悔の意味もあって、離婚後、
看護師の資格を取り海軍に奉職しました。

「ブッチ」とあだ名をつけた赤ちゃん。
彼女との4年ぶりの再会。
これは運命すぎる!

デュークは勢いついでにその場で復縁を切り出し、
その夜のパーティーに誘いますが、彼女の口からショックなことを聞きます。

「今夜はボブ・ペリーとデートなの」
「・・・艦長の弟か?小さい時よく頭をポンポンしてやったもんだ」


相手が若造だと知ってすっかり安心したデューク、
ダメ押しで押し倒そうとしたら師長に見つかってしまいます。



「ここをどこだと・・・」
その瞬間、MSが

「中佐、見てください!これがわたしの”頭痛の種”なんです」


あのガキなら勝てる、と余裕こいたものの、そこは慎重な潜水艦乗り。
兄であるところの艦長ペリーに、
君には小さい弟がいたけどどうしている、と探りを入れると、

「もう一人前の男になっておまけにイケメン、女の子にMMさ」


(そ、そうなの?)



そこにMSと一緒にご本人ボブ・ペリーが登場。
こりゃ確かにイケメンだし明らかにデュークよりお似合い。
階級も中尉同士で同じだし、おまけに潜水艦乗りの天敵、パイロットだと?

うーむ、これはますます許せん。

しかも、「サンダー」が魚雷の不具合で逃した艦隊は、
僕の航空隊が片付けてしまいましたよ〜とかいうではありませんか。

「ピッグボート・ボーイ(潜水艦乗り)にはこんなことできないっすよね。ふふっ」


カチンときたデューク、MSと踊ろうとするボブに割り込み、
僕と踊ろう、いや拙者が、と女の取り合いが始まりました。
するとMSは二人の間からするりと抜け出して、


「わたしはポップと踊りたいわ」

POP=「親父」「お父さん」だけあって避難所扱いなわけですな。
しかしこの女、どちらも選べないというよりどちらにもいい顔をしたいのね。
そんな狡い女心もお見通し、亀の甲より年の功(アゲイン)。
ポップは彼女にズバッと釘を挿します。

「自分の本当の気持ちをごまかすために弟を利用するのは感心しないな」(正論)



こちら野郎二人のテーブルでは、もうガキじゃないボブがデュークに、

「僕は確かに昔文武両道でスターだったあなたに憧れました。
でも、今ではあなたが彼女を不幸にしたのが許せない。
僕は必ず彼女と結婚します!

と宣戦布告します。
そして、もうプロポーズもしたもんね、という言葉を聞くなり
デュークは席を蹴立てて立ち、


ポップの腕からMSをもぎ取るように奪い、

「奴にプロポーズされたのか?」

幼稚で子供っぽく性急な元夫に呆れた風で、MSは、
今来たばかりだというのにボブを連れてさっさと帰ってしまいます。



女が自分と張り合っていた元夫を振り払って自分に家まで送らせたら、
男なら誰だってこれはオレに脈ありだと思いますよね。

なのにMSはボブのキスを今更拒否するじゃありませんの。

「彼のことどう思ってるの?」
「別れた夫と会えば色々と考えてしまうのよ」


なんとその会話をこっそり物陰で聞いているデューク。
ボブが去るなり飛び出して、



「あいつ(kid)にプロポーズされたのか!」
「海軍と全く関係のないところで暮らそうって言われたのよ」
「あんな子供とキスして感じるのか(zing)!」←おっさん・・

子供子供ってあんたね。
自分が勝ってるところが歳しかないって言ってるのと同じだよねこれ。


彼がいつも君のことを考えていた、もう一度チャンスをくれ、
と熱心に口説いていると、またしても「仕事」が彼の邪魔をしました。


彼の乗員たちが門限を過ぎて外出許可区域外で女の子を読んで馬鹿騒ぎをし、
住民の器物を破損して警衛を殴ったカドで憲兵隊本部に連行されたのでした。



しかも全く反省の色がなく、収監中の檻で歌ったり踊ったり。



なんとか穏便に、と懇願するデュークに憲兵隊中佐は、

「もう我慢できん!毎日うちの部下がボーリングのピンみたいに殴られてるんだ。
『サンダー』だけじゃない。
『タング』『シルバーサイド』『ワフー』
『グラウラー』の連中にな」

はいずれも実在の潜水艦です。

このとき日本語字幕が「グラウラー」だけを翻訳しませんが、
これは翻訳者が「グラウラー」とその艦長の逸話を知らず、この名前が
伏線として出てきたということに気がつかなかったせいでしょう。

デュークは、憲兵隊長に今回の任務で子供や尼僧を助けたから大目に見ろと言い、
さらに被害を訴えていた酒場の親父が密造酒を提供していたのを逆手にとって
全員の無罪釈放に漕ぎ着けます。


そして次の哨戒の出撃の日がやってきました。
この映像では昼ですが、次の瞬間場面は夜になります。



出航する艦長のポップの弟であり恋人のボブと一緒の車に乗り、
見送りに駆けつけたメアリーに、これみよがしのキスするデューク。
後ろで固まるボブ。

この後ボブとMSの二人は喧嘩にならなかったのかしら。


「サンダー」は出航するなり3隻もの船舶を魚雷で葬りました。


しかし、そのうちまたしても魚雷の不調に脚を救われはじめます。
命中したのに爆発しない不発が続いて士気下がりまくり。

艦長は、弾頭が直角に当たった魚雷がいずれも不発だったことから、
その原因を突き止める必要があると断定します。

連絡を取った本部はペリー艦長にその任のために艦を降りることを命令し、
ペリーは後任としてギフォードを艦長に推薦しました。
つまりこの哨戒がポップの「サンダー」艦長としての最後の航海となるわけです。


そして次のターゲットである民間船が現れ、魚雷が発射されました。


撃たれた民間船は魚雷に気がつきました。
しかし、最後の魚雷はまたしても命中したのに不発です。



そのとき、不思議なことが起こりました。
日本の船が国籍旗を降し、代わりに白旗を揚げたのです。

相手に無線でコンタクトを取ろうとしますが応答なし。
そしてなぜかこの貨物船は救命ボートを降し始めました。



浮上して機銃を構えながら近づいていくと、



軽快な中華風のBGMとともに中国人ぽい船員たちが飛び出してきて、
高射砲やブラウニング機銃(日本にねーよそんなもん)をむき出しにしました。

奴らはこれらの武器に風呂敷をかけて航行していたようです。
なんて卑怯なジャップなのでしょうか。

ここでちょっと解説しておきますと、このような武装民間船は、
第一次世界大戦でUボートに対抗するためにイギリス海軍が始めたもので、
Qシップ(Q Ship)といいます。

正直Uボートに対してはあまり実用効果はなく、これにならって
アメリカが運用した5隻のQシップも全く成果はなかったそうです。

日本には「でりい丸」という偽装船が実在しましたが、初出撃の次の日、
この映画のように「正体を表す前に」潜水艦「ソードフィッシュ」にやられました。

「武装商船」Qシップはなにも日本の専売特許でも卑怯な技でもないですが、
白旗を揚げておびき寄せておいて攻撃する、というのは
明らかに創作であり、ついでに悪質な印象操作です。


そして、偽装船の攻撃で艦上にいたペリー艦長が銃弾に倒れました。
彼は叫びます。

「Take her down! Take her down!」

どこかで聞いた言葉だとこのブログをお読みいただいている方は思うでしょう。
そう、彼と同じように特務艦「早埼」の機銃に斃れるも自分を残したまま
艦の潜航を命じたUSS「グラウラー」のハワード・ギルモア艦長の言葉です。

史実によるとギルモア艦長は外からハッチを閉めましたが、この映画では
ペリー艦長はすぐに死んでしまったので、ハッチは中から閉められます。

今や自動的に艦長となったギフォード少佐は、潜航を命じ、その後
貨物船の後方(そっちには武器がないらしい)に浮上をし体当たり
(つまり昔でいうところの衝角攻撃ってやつですね)を決断しました。


艦橋から叫び、自ら斃れた者の銃をとってぶっ放すウェインの姿は
そのまま西部劇の悪漢を倒すガンマンのようです。



「相手への突撃」も、「グラウラー」と「早埼」の間で実際に起こりました。

「グラウラー」と「早埼」はどちらもが体当たりを企図して接近しましたが、
全速力で体当たりしてきたのは「早埼」の方で、それを取舵で避けた結果、
「グラウラー」が「早埼」の艦体中央部に激突したというのが事実です。


実写映像

この映画では卑怯な貨物船は体当たりによって轟沈します。

「グラウラー」は相手を撃沈したと思い込み、記録もそうなっていましたが
実際は「早埼」は日本に無事帰還して終戦を迎えています。

戦後は復員輸送艦となって働き、その後賠償艦としてソ連に引き渡されました。



続く。



映画「太平洋機動作戦」〜”Operation Pacific”

2021-12-02 | 映画

「マーフィーの戦争」「東支那海の女傑」「オキナワ」と、正直
駄作が続いてしまったので、今回ジョン・ウェインの潜水艦映画、

「太平洋機動作戦」(原題:Operation Pacific)

を観て、その「まともさ」に驚きました。

さすがにジョン・ウェインが出ているというだけあって、
一応戦争映画として定型を踏まえており、少なくとも観終わったあと、
虚しさに力なくため息をついたり、その志のあまりの低さに
怒りを覚えたりせずにすむ程度には仕上がっていて、
それなりに安心して最後まで観終わることができたのです。

レビューを検索すると、評価はニュートラルな意見はあまりなく、
好き嫌いによってキッパリ二分されています。

否定派は本作を「深く静かに先行せよ」「眼下の敵」「Uボート」
などのいわゆる名作と言われる戦争映画と比べますが、
わたしははっきり言って(『Uボート』は別にして)これらの映画が
本作と比べてそれほど優れているとはどうしても思えませんでした。

まあ、それもこれも駄作を何本も最後まで観続けたのみならず、挿絵を描き、
解説までしたせいで、「許容レベル」はだだ下がりしてしまい、
今回評価の点数がかなり甘くなったからに違いありません。

"We watch the Skyways" Operation Pacific. 

それでは早速参りましょう。
潜望鏡のスコープに「太平洋作戦」と言うタイトルより先に
「ジョン・ウェイン」の名前が出てきます。

マックス・スタイナーのマーチ風テーマも悪くありません。
ちょっとハープの上下行を多用しすぎですが。

スターウォーズ方式で字幕が流れます。

太平洋艦隊が真珠湾攻撃によって破壊されたとき、
米海軍を支えたのは潜水艦であった

その後の4年間で、米海軍の潜水艦は帝国海軍の最も誇らしい軍艦をはじめ、
600万トンに及び大量の日本の船舶を沈めた

一方アメリカ軍は52隻の潜水艦と3500人に及ぶ将兵を失っている

この映画を「サイレント・サービス」とその乗組員に捧げる

映画は、太平洋のどこかの島から、米軍部隊が夜明け前に
子供たちと引率の尼僧を密かにボートに乗せるシーンから始まります。

その中には生まれたばかりの新生児もいました。
どう見ても生まれて2週間以内って感じの本物赤です。

本作戦を指揮するのはジョン・ウェイン扮する
デューク・E・ギフォード少佐
潜水艦「サンダーフィッシュ」のXO、つまり副長です。

俳優ジョン・ウェインのあだ名が「デューク」であったことを知っていれば、
なるほどね、とこのファーストネームにうなずくことでしょう。
ちなみにウェインの本名はマリオン・ロバート・モリソンといいます。

さて、ウェインは今回少佐役です。

1951年の撮影当時、ウェインは44歳ですから、もし実年齢だとしたら
かなり出世がゆっくりですね?という感じですが、劇中では
ギフォード少佐は「できる子」で、三十代という設定なのだと思われます。

彼らがゴムボートで向かうのは、沖に停泊した潜水艦でした。
このゴムボートは海軍の純正品の表示がついていますが、
よくよく見ると1949年8月製造を表す8/49という記載が見えます。

潜水艦が現地の子供達を乗せて救出したというのは、
1944年5月、ネグロス島から

USS「クレヴァル 」(USS Crevalle, SS/AGSS-291)

が、28名の女性や子供たちを含む48名を収容した、
という出来事から着想を得ています。
この中には「バターン死の行進」から逃れた者も混じっていたそうです。

ただしこの救出劇ですが、ある説によると、
女子供の救助は「カバーストーリー」に過ぎなかったといわれています。

つまり潜水艦が送られたのは、海軍乙事件で捕虜となった福留繁中将と、
幕僚から押収した最重要文書の回収をする任務のためだったと。

ちなみに英語では乙事件を「Z事件」、この文書を「Z計画」と呼びます。

この映画は、いわばそのうわっつらの「いい話」だけを採用しているのです。
よく考えてください。
いくら(自国民と連合国民の)人命第一のアメリカでも、
わざわざ一般人の島からの脱出に潜水艦なんか出しませんよね。

まあ、しかしそれはよろしい。映画ですから。

さて、というわけでボートを待っていた潜水艦が浮上しました。

本作でも、一部のセットを除いてほとんどが実写の映像を使用しており、
そのためこの映画は大変低予算でできたということです。

司令官ギフォードが、全員が揃うまで待っていると、
最後の一人、ジョージーが気絶した日本兵を担いでやってきました。
どさりと下に降ろし、

「お土産です」

途中で出くわしたので半殺しにして担いできたというのですが、
その理由は、日本軍に脱出の情報が伝わるとまずいからです。

しかしそう言う理由なら、わざわざ担いで来ず普通そこで殺さないか?

ギフォードも彼を始末させず、その辺に放っておけ、などと言います。
その後この日本兵が起き上がって殺し合いになったりするのかと思ったら、
そういう展開もなく、日本兵はそのまま放り出されて終わり。


ある時代までのアメリカの戦争ものあるあるとして、
アメリカ軍は決して相手を無差別に殺戮しない
人道的な軍隊であるように描かれるものです。

特にこの映画は「ウェインもの」なので、要は彼のもう一つの役柄である
西部劇の正義の味方がそのまま軍人になったような人物しか出てきません。

ここで日本兵が殺されずに済んだのはそのおかげですが、ついでに
彼が侮蔑的な表現をされなかったのにはこんな理由がありました。


この映画の前年6月、朝鮮戦争が勃発し、アメリカは参戦しました。

朝鮮戦争では日本が出撃基地となっただけでなく、
掃海部隊の派遣や物資を輸送するなど、旧日本軍の協力や、
旧軍基地がそのまま後方基地として機能することになります。

そういう大人の事情から、軍から内々のお達しでもあったのか、
映画制作にあたっては、旧日本軍を描くにあたっても
人種差別的用語はできるだけ使わないようにという決定がされたといいます。

子供達を迎えての食事に乗員たちは大喜び。

給養係もはりきって食事の用意をします。
皆がはしゃぐ気持ちもわからないではないですが、

食前のお祈りのときには静かにね。

(´・ω・`) (´・ω・`)(´・ω・`)

そして皆さんの予想通り、このガキども艦内を奇声を上げて走り回るのです。

パネルのスイッチを触ろうとしたガキをひょいと担ぎ上げ、
無言のまま捕獲にきたシスターに渡す男前の機関員。

そのときターゲット発見。

”Pass the word.(送れ)Main induction closed.”

”Flood negative."

”Release air."

”Clean board.”

”Position the boat."

もしかしたらこの映画、かなり海軍的に正確なのかも?と思ったこのシーン。

潜望鏡を持ってぐるぐる回る艦長の反対がわで、もう一人が
丸い羅針盤のようなものを持って一緒に回っています。
潜望鏡の反対側に角度が表示されているのかなと思いました。

もう一つ。
潜望鏡を上げよと命じてから、艦長は膝をついてしゃがみこみ、
まだ下にある潜望鏡が上がっていくのにつれて
目を潜望鏡から離さず立ち上がりながら覗いています。

映画で初めて見ましたが、これももしかしたら
本物の潜水艦っぽい動作なのかもしれません。

そしてにっこりしながら

「空母だ」

仕留めれば金的の空母が射程内に現れたのです。

「ジャックポット(大当たり)です」

砲員が魚雷発射管をキスした手で叩き、頼むぜ、といった途端、

子供がなだれこんできました。
勝手に梯子を登り出したりします。

こんなしつけの悪いガキども、怒鳴りつけてやればいいのに。

「ペチコート作戦」では乗り込んできたドジっ子の女性看護師が
魚雷発射ボタンを押してしまって目標を外しましたが、
今回もこの子供達のせいで攻撃失敗するのかと思ったら、
さすがにそこまでベタではありませんでした。

彼らが乱入したのが司令塔だったということもあります。
ちなみにこの潜水艦内はまるで「IKEAのショールームのように」広く、
子供たちが駆け回るのに十分なスペースがあります。
本物ならまず大人の足元をすり抜けることも不可能なはずです。

しかし彼らの攻撃は失敗に終わりました。
なぜならターゲットに当たる前に魚雷が爆発してしまったからです。

そしてその返礼として駆逐艦がやってきました。

爆雷を撃ってくる実写映像に一瞬だけ隅に映り込むのが
米軍の格好をした水兵だったりするのはご愛敬。

「大丈夫だ子供たち、赤ちゃんを見ろ」

寝てます

そういえば、グランドキャニオンに行く小型機に乗ったとき、
わたしたちはあまりの不安定さに怖くて生きた心地がしなかったものですが、
当時2歳のMKは( ˘ω˘)スヤァ と寝ていたのを思い出しました。

ギフォードは赤ちゃんを「ブッチButch」と呼んでいます。
ブッチは概ね「男らしい」と言う意味合いの形容です。

そもそも子供たち、全く怖がる様子もなかったんですけどね。
これは彼ら子役に演技力が皆無だったせいです。

魚雷発射室浸水!
シスターが気を遣って

「何か手伝うことあります?」
「奴らを罵ってやれ!」(Spit the teeth and cuss!)

もう一人が、

「すんませんねシスター、非常時なもんで」

というと男前のシスター、

「大丈夫、お続けなさい。わたしは罵って(歯を吐いて)差し上げますから」

そして駆逐艦の執拗な攻撃も去りました。
艦長は部下に、潜水艦の建造元技術者宛に手紙を書いてくれといいます。

「なんと?」

「親愛なる造船会社御中、”ありがとう”と一言」

帰途につく潜水艦内で、副長と先任伍長のおっさん二人が、
なにやら真剣なおももちで鍋に向かい、乗員が見守っていました。

まず両手を消毒し、ゴム手袋を熱湯消毒。
手袋の中にミルクを入れ、手首部分を縛って指先にピンホールを開けます。

即席哺乳瓶の出来上がり。
っていうか、シスター、今まで赤ちゃんになにもやってなかったの?

島のジャングルを子供を連れて荷物も持たず65キロ横断する間、
この子の母親は出産し、その際死んでしまったようなのですが
その後新生児はどうやって生きてこれたのでしょうか。

「サンダーフィッシュ」艦長「ポップ」(親父)ペリー中佐
ギフォードの上司でありながら年上の友人とも言う関係です。

潜水艦の艦長はガトー級の場合少佐ですが、次級以上は中佐が多いので、
「サンダーフィッシュ」は「バラオ」か「テンチ」級ということになります。

この階級は絶対ではなく「ガトー」級は大尉が艦長になることもありました。

ペリーとギフォードの年齢差は10歳くらいと言う設定ですが、
二人の俳優の年齢差は4歳しかなく、実際そのようにしか見えません。

言うまでもなくジョン・ウェインが年相応のせいです。

ペリーは共通の知り合いであるギフォードの元妻、
メアリー・スチュアートがこれから寄港する真珠湾にいる、といいます。
そしてなぜか二人の会話は海軍兵学校に始まる思い出に・・。

「アーミーネイビーゲーム、
ゲームの後のベルビュー・ストラトフォードでのパーティ、
アカデミーの卒業式、帽子投げ。
アカデミーチャペルでの結婚式、ハネムーン・・」

「それから潜水艦学校だ・・ニューロンドンの寒くて凍る冬。
海上勤務・・・・ノーホーム、ノーリーブ(家に帰らない)

彼女(元嫁)ならそれくらい覚悟していただろう、
というポップに、デュークは諦め切った口調で言うのでした。

「息子が生まれたとき、新しいソナーのテストで留守、
5週間後にその子が死んだときも艦に乗っていて留守だった」

これは・・だめだろうなあ。
二人の離婚の原因は、子供が亡くなったことにあったようです。

ジャングルから連れ出した赤子が、彼の傷ついた思い出を呼び覚まし、
さらには別れた妻への思いをよみがらせていました。


続く。


映画「オキナワ 神風との対決」〜史上最低の戦争映画

2021-11-12 | 映画


「世紀の駄作」と人のいう戦争映画、「OKINAWA」2日目です。

オキナワと題名につけるのであれば、沖縄上陸もからめ、
陸戦の様子や、せめて艦砲射撃によって死んでいく
挺身隊の女生徒などの描写もあればまだ見られるのですが、
この映画における「沖縄」とは、どこにあるのか知らないけれど、
アメリカ海軍の一個艦隊で全体を隙間なく周りを包囲できる、
淡路島の半分くらいの大きさの島であり、
彼らがどこかわからないまま艦砲を打ち込んでいる(らしい)
観念上の島にすぎず、相変わらず映画は
艦上で総員配置と解除をくりかえして時間稼ぎしております。

先日「マーフィーの戦争」の項でご紹介した
「SAVE THE CAT」の法則に当てはめるまでもなく、
まったくこの映画には、人の興味を継続させる要素が見当たらないのです。

もしブログで扱うという使命?がなければ、
おそらく始まって10分で観るのをギブアップしていたに違いありません。

何度目かわからない総員配置の間にも、
無線からは前方の艦が特攻にやられたと連絡が続々とはいってきます。

「機関室が炎上中!」「こちらも複数命中した!」

映像はありません。通信だけです。

全速でそちらに向かうことになった駆逐艦「ブランディング」ですが、
それを全く知らされない(のもなんか変じゃね?)乗員たちは呑気です。

ヒスパニック系のクリスマスの思い出を語るのはデルガド。

「あのとき棒で叩いた人形の中から出てくるのはお菓子だったが、
今空に向かって棒を振り回して落ちてくるのは人間だ」

と無理やり今の状況にこじつけて眉を曇らせるのでした。

はて、ピニャータ(中にお菓子を入れたハリボテの人形などで、
木に吊るして目隠しをしたその日の主人公が叩いて壊し、
参加した子供たちが皆で中のものを分け合う)の儀式は
確か誕生日のイベントだったような気が。
クリスマスにそんなことする風習あったっけ。

その後特攻の被害を受けた艦のいる海域に到着し、
彼らが黒煙を吐きながら炎上している僚艦(実写による映像)
を目の当たりにしてショックを受けていると、
またしても総員配置が命ぜられます。

しかしまたすぐ解除。 
本当にこの繰り返しがしつこくて、
ここで映画を観るのをやめてしまう人は多いと思われます。

彼らが見たのは、カミカゼ攻撃を受けた無残な僚艦の姿でした。
艦首が全くなくなってしまった惨状に息を呑み目を背けます。

そしてついに彼らは特攻機に遭遇することになりました。

とは言え映像はどこかで見たことのある特攻機突入のシーンと、
登場人物たちのいる砲塔内の退屈なクロスカットが続きます。

そしてついに駆逐艦「ブランディング」は船倉に損傷を受けました。
被害を受けたのはなぜかビールだけでした。

ところでもう設定から無くなっているようだけど、
爆発した蒸気配管っていつの間に直ってたの?
みんなで噛んだガムで穴をふさいだのかしら。

特攻で欠落して欠けてしまった船を地図から外しながら、

「今の私を子供が見たら遊んでると思うだろう。
遊びは戦争の本質だがな。
あっちこっち撃ち合って互いの玩具を壊し合う」

という艦長。
相変わらず地図の上では少数の艦で南西諸島の周囲を
円形に取り囲んでおります。

戦争に関して悟ったような比喩をかます俺イケてる、と思ってるのでしょう。

次の戦闘でついにまともに特攻の激突を受けます。

本作品唯一の模型を使った戦闘シーンですが、
姑息にも艦橋の模型の後ろのスクリーンに実写の映像を映し、
それをキャメラで撮影するという、涙ぐましいほどせこい方法です。

そして、指揮官率先とばかり、単身現場に飛び込んでいく艦長を、
乗員は誰一人助けず息を飲んで見物しているのも妙な設定です。

この迎撃の前に手袋をとり落としてしまったエマーソンは、
素手で薬莢を移動させる任務をしたため、手に火傷の重傷を負いました。

医療品も炎上して血漿がないので、彼は送り返されることになり、
欠員の出た砲員の席には、下働きだった
フィリピン人のフェリックスが念願かなって入ることになりました。

駆逐艦というような小さな軍艦の場合、下働きなども
一応戦闘時の非常配置というのが決まっていると思うし、
兵員の補充に対してもある程度決まっているはずだから、
何の予備知識もない下働きを
いきなり砲塔に入れることはないような気がしますが。

その夜、すっかり乗員の士気が落ちていると感じた艦長は、
副長のフィリップスに「とっておきの」映画を見せるように命じました。

リールのタイトルを見てフィリップスはやれやれという顔をします。

「熱帯病の原因と対処」

ところが!
その中身はマリリン・モンロー主演の
「Ladies of the Chorus」(日本未公開)でした。
ちなみにこの作品は1948年の公開なので、この頃には存在しません。

フィリップスびっくり、総員大喜びで士気もあがりまくりです。

「熱帯病、最高だぜ!」

これが唯一この映画の映画らしいエピソードかもしれません。
しかし、残念ながら戦争映画に嫌というほどあるパターンです。


ちょうどその時、艦長のもとに無線によるニュースが届きました。
合衆国大統領、フランクリン・デラノ・ルーズベルト死去。

艦長は悲痛な顔をしてつぶやきます。

「大統領は海軍の親友だった」

その次から始まる実写には日本人なら誰でもびっくりです。

なんと、「沖縄の米艦隊を今目指してくる特攻隊」と言う設定で、
義烈空挺隊出撃のニュースリールが延々と流れるではありませんか。

「全員喜び勇んで往きます」

という隊長奥山道郎大尉の挨拶もちゃんと収録された映像です。

ご存知のように義烈空挺隊は空挺決死作戦に散華した部隊であり、
彼らのいう航空特攻、「キャマカゼ」とも「カミカチ」とも
全く関係がありません。

間違いもいいところです。

しかもこの映像を見れば、彼らが搭乗しているのが
輸送機であり、戦闘機でも艦爆でもないことは誰にでもわかります。

要するに中身を全く調査せず適当にフィルムを使っているのでしょう。
色々と残念な映画ですが、これにはほとほと呆れ果ててしまいました。

一瞬本物の陸軍特攻の映像が挟まれますが、すぐに場面は
義烈空挺隊の出征シーンに替わります。

今ならインターネットで調べられるんですけどねえ。
ってそういう問題じゃないだろ!

その義烈空挺隊の特攻が迫る中、駆逐艦「ブランディング」は
特攻で出た負傷者を移送するために護衛艦の接岸を待っていました。

「ロードアイランドに帰れる」

とうっとり呟く両眼をやられた乗員。

しかしそのとき、彼らのいうところの「義烈空挺隊の特攻機」が、
真っ直ぐ護衛艦に突入しました。(もちろん実写)
そして彼らが乗るはずの護衛艦は目の前で轟沈してしまいます。

「あっやられた・・・!」

「沈んでいく!」

手をこまねいて目の前の護衛艦の沈没を見ているしかありません。


その後「ブランディング」は迫るカミカゼを撃墜しましたが、
(どこかの実写映像)、同時に機関を損傷しました。
エンジンを停止したところになんと敵潜水艦が現れたので、
艦長は爆雷の投下を命じました。

実に盛り沢山ですが、きっとこの潜水艦映像も
どこかの映画からパクってきていると思います。

爆雷を受けた潜水艦は何がどうなったのかわかりませんが浮上してきました。
そして直進する「ブランディング」と直角に衝突してしまいます。
はて、駆逐艦のエンジン、さっき停止させたんじゃなかったっけ。

このシーンに浮上したばかりの筈の潜水艦の甲板には
なぜかたった一人だけ、セーラー服を着た水兵が乗っていて、
衝突の前にあわてて海に飛びこんで笑わせてくれます。

(この日本兵役:H.W. Gim)

しかし衝突の衝撃で砲塔から顔を出していたロバーグは死んでしまいました。
ちなみにロバーグというのは砲塔勤務の長老的存在で、
賭けの好きなグリップなど、ロバーグの年齢がいくつか賭けていました。

ここは砲塔内ですが、衝突時、
ロバーグはよりによって外に顔を出していたようです。

ともあれ、これで彼らの任務は終わりです。
虚脱したかのように甲板で夕日を見つめながら吐息をつくのでした。

「祖国に帰れる・・・」

砲員をねぎらうためにやってきた艦長は、まずエマーソンに
(どこで二人の会話を聞いていたのか)こんなことを言います。

「君の予想(カミカゼは我々を飛越す)は外れたな」

それを受けてエマーソンは、

「彼らは我々をパスするべきでした。彼らの目標は間違いだった」

するとグリップが、

「そうだ、カミカゼは頭がおかしい」

この映画の制作者のレベルがよく表されているセリフです。
そして艦長は、それに対し、

「わたしはそう思わない。
彼らは子供で死を尊ぶように洗脳されている。

同じ教育を受ければ我々もああなっただろう」

特攻についてはいろんな扱い方があると思いますが、
「洗脳」の一言で片付けてしまっている映画は初めて見ました。


そして艦長はグリップに手を差し出します。
「よくやった」

そして兼ねてから互いに握力自慢を標榜していた二人は、
お互い握られた手の痛みに顔を歪め、それから笑いだすのでした。
いいシーンのつもりだと思われます。

そして、

「これにて沖縄戦は完全に終結する__エンド」(字幕)

いや、これで終わらなかったし。
ちょっとは沖縄戦について調べろよ!
海兵隊もびっくりだよ。

 

いやー、駄作だとは聞いていましたが、こんな駄作があったとは。
戦争映画のできというのは上を見てもある程度限界はありますが、
下はまるでマリアナ海溝並みでその底知れぬ深さにめまいがしそうです。

この映画をもし一言で言い表すとすれば、

「女性下着をつけていない時の
エド・ウッドの戦争映画」

だと思いました。


最近gooブログの編集形式が変わり、それでなんとなく
文字レイアウトを中央に変えたのですが、
前の画面で3万文字になんとか収めた記事がなぜか制限字数を超え、
2日に分けることを余儀なくされたので、最初に作成したこのタイトル画を
人数半分ずつにわけて2パターン追加で製作しました。

こんなつまらん映画のために手間暇かけて
3パターンも絵を製作してしまうわたしってなに?と改めて思いましたが、
せっかく描いたので、採用しなかったオリジナルを載せておきます。

終わり。

 


映画「オキナワ」神風との対決〜エド・ウッドの戦争映画?

2021-11-10 | 映画


戦争映画ばかりを集めた「戦場の目次録」というセットDVDを買い、
数ある作品の中からタイトルだけをみて選んでしまった今回の映画ですが、
まさか「マーフィーの戦争」を上回る駄作とは思いませんでした。

どれだけ駄作かというと、観終わった瞬間内容を忘れるくらいの駄作です。
記憶に残るのは義烈決死隊などの特攻の実写映像が使われていたことだけ。
映画史的にも全く評価が残っておらず、
wikiにも出演者くらいしか情報がないという・・・。

苦労して映画サイトを調べると、たった一人だけ、
感想を述べている人がいましたが、
これがあまりに痛烈に的をいているので翻訳しておきます。

これにはがっかりした。
何千人ものキャストで構成された感動的な大作になるはずだったが、
数十人のキャストで構成された

くだらない安っぽい小品になってしまったのだ。

沖縄への侵攻には何千何万という兵士が必要だったにもかかわらず、
映画製作者たちはこの費用を巧妙に避けようと考えたのだ。

そこで彼らは、沖縄侵攻のストック映像を大量に使い、
下手な俳優たち(少なくとも台詞の下手な俳優)にそれを演じさせ、
あたかも戦争が起こっているかのように装わせた。

彼らは本当に「何もしていない」!(NOTHING!)

来るシーン来るシーン、文字通り人々が戦争について話し、
何が起こっているかを説明するだけ。
彼らは本当にほとんど何もせず、

わたしはこれがエド・ウッドの戦争映画かと思ったほどだ。

全ての面で酷過ぎ。
観るだけ時間と労力の無駄である。


文中の「エド・ウッドの戦争映画」って何かしら、と思って調べたら、

自らが製作した映画がすべて興行的に失敗したたため、
アメリカで最低の映画監督」と呼ばれ、
常に赤貧にあえぎ、貧困のうちに没した。
死因はアルコール中毒。

最低最悪の出来の映画ばかり作り、評価も最悪だった
(というよりその全てが評価対象以前だった)
にもかかわらず、それでもなお映画制作に対する熱意や、
ほとばしる情熱を最後まで失わなかったため、

「ハリウッドの反天才」と呼ばれる。

真珠湾攻撃の後に海兵隊伍長としてタラワの戦いに参加。
日本兵の銃床で殴打され前歯2本を失い、

機関銃で足を数回負傷している。

女装癖があり、第二次世界大戦に従軍した際、
上陸作戦中にブラジャーとパンツを軍服の下に着込んでいた。
そして「殺されるよりも、負傷して軍医にばれることを恐れていた」wikiより

 

Oh・・・(戦慄)

しかし逆張り上等のティム・バートンとか
クェンティン・タランティーノなどは彼の作品を支持していますし、
今や一周回って一部にカルト的な人気があったりするそうで・・

ティム・バートンなど、好きすぎて「エド・ウッド」という
彼の伝記映画まで作っています。

ちなみに彼の代表作?は

「死霊の盆踊り」(原題Orgy of the Dead死者の乱痴気パーティ)

あ、これわたしでも知ってるぞ。有名ですよね。
観てないけど。

 

さて、それでは「エド・ウッド並み」と人の言う、
戦争映画の解説を始めましょう。(なんか怖いな)


1945年4月1日、第五艦隊は日本本土上陸作戦に向かいました。
その初めての目的地は沖縄でした。

噂通り?さっそく実写映像の連続です。

映画の舞台となるのは第5艦隊のピケットラインに配属され、
補給船と上陸部隊を支援する駆逐艦「ブランディング」
これがどうやら本作の「主人公」らしいです。

緊張した面持ちでその時が来るのを待つ駆逐艦の乗員たち。

この巨大なヘルメットを装着しているということは・・・

沖縄本土に向けて艦砲射撃が行われるのです。

また一頻りニュースリールの映像が続き・・

「どこに向けて撃ってるんだ」

「オキナワって島だ とにかく撃て」

水兵たちは目標を見ることができないので、自分がどこを撃っているのか
全くわからず各自の動作を淡々と行なっているわけです。

実際に沖縄上陸に際して米軍が行った艦砲射撃では、
そのせいで島の地形が変わったとも言われ、
生き残った沖縄の人々は、戦後、自分たちのことを
「カンポーヌクェーヌクサー(艦砲射撃の喰い残し)」
と表現したほどでした。

撃ち方やめになって、どこに撃つのかぐらい知りたいとか、
狭くて暗いところはゴメンだとか、暑さと湿度が暴力的だとか、
手袋をしていても手が熱いなど、皆で愚痴の言い合いが始まります。

本編の主人公たちは砲塔勤務の砲員たちのようですね。

上陸部隊の舟艇が岸に向かうと、援護射撃が再び始まりました。

噂通りここまでほぼ実写映像と繋ぎだけで構成されていますが、
浅瀬を歩いて上陸するアメリカ兵や火を噴く艦砲、
燃える民家の横を海兵隊が進軍する姿など、
実際の映像がふんだんに見られるのはそれはそれで貴重です。

同じ映像を何度も使い回ししなければなおいいのですが。

総員配置が解かれ、ヘロヘロになって砲塔から出てきた砲兵たち。
いきなり甲板に崩れるように転がって横になりました。

タバコよりビールが欲しいとうめく兵。
同僚にそれ艦長に頼めと言われると、

「”あいつ”がそんなことをしてくれるもんか」

そこにコーヒーを持ったフィリピン人の給仕、フェリックスがやってきます。

下働きの彼は大胆にも軍艦の砲員になる野望を抱いていますが、
その理由は、故郷ミンダナオが日本に侵略されたので
仇を取りたいからだ、とこんなところで言い出します。

しかし、フィリピンはもともとスペインの植民地で、
その後米比戦争で大量に民衆を虐殺された結果、
アメリカ合州国が植民地支配していたわけですし、
第二次世界大戦で亡くなったフィリピン人のうち、約4割は
アメリカの無差別爆撃で亡くなったという事実があります。

フェリックスがどういう経緯で軍艦に乗っているのか知りませんが、
日本だけを恨んでアメリカ側に立っていることそのものが
かなり史実をわかっていないということが言えると思います。

アメリカは戦勝国なのをいいことに、結構
自国に都合の悪いことを日本のせいにしたりしているのですが、
このフィリピンでの被害問題もその一つです。

ま、いずれにしてもこれは、アメリカ軍の無慈悲な沖縄攻撃を
正当化するために、ことさら日本を悪者にしているという場面です。

そのとき艦橋から士官のフィリップスが声をかけてきました。
特に意味はありませんが、ただ戦闘後の兵隊たちの働きを労うためです。

「勲章好きのヘイルなんかよりフィリップスが艦長ならよかったのに」

この水兵グリップは、硫黄島でフィリップス中尉と一緒だったのですが、
彼に比べ3日前に艦長になったヘイルは出来が悪い、
となんの根拠もなく決めてかかっています。

さて、士官室では艦長が本日の状況について反省会を行っていました。

艦砲の照準が2度も合わず目標を外した(目標って何だろう?)
ことが、ヘイル艦長のお気に召さないのです。

原因を聞かれて理由がわからないと砲術長が答えると

「なるほど、天皇がそれを聞いたらさぞ喜ぶだろうな」

なるほど、嫌味なタイプか。これじゃ嫌われるわ。

乗員に受けのいいフィリップス大尉は、八方美人なのか
場を取り持つ性格なのか、老朽化した艦まで擁護しています。

演じているリチャード・デニングは、主役級ではないものの、
生涯非常に多数の映画に出演して脇役を演じてきた俳優で、
本人も自分のキャリアについて、

「素晴らしいというものではないが、
そこそこ普通を長年続けてきたことに満足している」

と語ったそうです。
日本で言うと平田昭彦みたいなポジションかしら。

次の作戦についての艦長の説明が始まりました。
こんな風にレーダーを搭載した艦が沖縄を囲む、というのですが、
もしかしてこいつら、沖縄諸島全体を淡路島くらいの大きさと思ってないか?

そして艦長は、日本の「カミカゼ」について言及します。

「未熟で着陸方法すら学んでいない若者がやらされる。
死を恐れずむしろ死にたがる。日本最大の武器だ」

「キャマカゼ・・神聖な風という意味だ」

そのとき、艦内で大音響が。 
かけつけてみると、蒸気配管が爆発しました、との報告。

「最低の艦だな」

艦長は吐き捨てるのですが、これって艦長としてどうなの。

そして、明日の朝までに修理できなければ、作戦に加われず、
したがって沖縄を取り囲む例のラインに穴が開く、というのですが、
南西諸島が無人島も入れて113個あり、総面積1,418.59平方㌖って知ってる?


そして、唐突に昔車が壊れた時噛んでたガムで直した話などを始め、
「全員でガムを噛めば明日までになんとかなる」
と力強く言い切るのでした。

兵員のバンクでは女の話ばかりしているデルガドがギターを弾きながら
他の兵員たちと取るに足りない馬鹿話をしています。

このおっさんが主役というあたりでこの映画の低予算が読めてしまいます。

そのとき士官たちは陸軍の増援要求の無線をキャッチしました。
しかしまだ艦の故障は修理できていません。

にもかかわらず上陸部隊を特攻から守るため、
「ブランディング」が前哨に赴くことになりました。
乗員たちはそこで遭遇するであろう「カミカチ」についての噂を始めます。

曰く、「ガキが日本酒をガブガブ飲んで飛び立つ」
「彼らは自ら望んで命を捨てに来る」

しかしそれもすぐに飽きて、ヘイル艦長嫌いのグリップが
さかんに口癖の物真似を披露していると、本人登場。

慌てて曹長が「彼らはストレスが溜まっていて・・」と言い訳すると、
艦長は、

「別に怒っていない。
が、私を評価するにはまだ何も知らないんじゃないか」

と鷹揚なところを見せます。

 

そして幾度も訪れる総員配置シーン、これは映画独自の撮影ですが、

あとは全て実写フィルムです。

「カモメだった」

誤警報のたびに極度の緊張をしつつ総員配置して待つことが、
「戦闘より辛い」とついこぼしてしまう砲員たち。

バンクでイライラするグリップとインテリのエマーソンが口論しています。

エマーソンの言い分はこうです。
「いくら前哨に立っても、カミカゼは飛行機だから
俺たちは飛び越され、目標にアタックされるだろう」

それに対しグリップは、
「奴らは必ずこの艦に突っ込む。なんなら賭けるか?」

基本グリップはなんでも賭けにしてしまいます。
それにしてもなんて意味のない論争なのか。

その後もグリップがカリフォルニアでグレープフルーツを売っていたこと、
酒がどうしたこうしたという愚にもつかないヨタ話。

映画を見ている人には全く以てそれがどうしたという会話ですが、
しかるに登場人物はそういった話をいつまでもデレデレと垂れ流し続けます。


この手の話をくだらなく思うのは、わたしが日本人だからで、
もしかしてアメリカ人なら、何か琴線に触れるものがあるのだろうか、
と、冒頭の感想を見ていなければ、危うく思ったかもしれません。

そして、驚いたことに、何も起こらないまま
映画はこれで半分来てしまうのです。


ここまで観てわたしは確信しました。
「エド・ウッド並み」どころか、少なくとも、
「死霊の盆踊り」のほうが確実に面白いに違いないということを。



続く。



映画「東支那海の女傑」後編

2021-10-24 | 映画

新東宝のアクション映画、「東支那海の女王」、続きです。
今日の挿絵は趣向を変えてアメコミ風に描いてみました。

女海賊、李花のアジトに中国海軍の士官がやってきました。
中国海軍の士官がこんな制服だったとは初めて知りましたが、
夏の二種制服の白に詰襟というのは世界共通なんでしょうか。

中国海軍は、海賊が日本の艦船と乗員を匿っていることを聞きつけ、
引き渡すよう要求して来ますが、李花は毅然とそれをはねつけます。

「ありがとう!」

田木少佐は感動して礼を言いますが、なぜか彼女は
顔を曇らせたまま無言です。

こうなったら一刻も早く、という横山の言葉通り、
黄海賊と帝国海軍が協力し、
漢万竜とその一族への攻撃はすぐさま実施されることになりました。

黄司令率いる部隊は島の正面から、横山大尉率いる部隊は側面から
敵の根拠地に乗り込んでいく、と李花はいうのですが、彼女の船はこれ。



伊勢志摩にいったときに見た観光船を思い出すわー。



海軍と海賊で両面から島に潜入しましたが、不思議なことに
島は今のところも抜けの殻状態で誰もいません。

万竜(中央)

それもそのはず、漢の部隊は侵入者を一望できる優位な場所に陣取り、
敵がやってくるのを今か今かと待ち構えていたのでした。

地雷に戸惑っていると上からの攻撃を仕掛けられます。
激しい銃撃戦が始まりました。

崖を這い登ろうとすると上からハリボテ丸出しの岩を落とされたり、
すっかり黄軍は不利な戦いとなりました。

横山大尉率いる海軍陸戦隊が側面から侵入してきました。
皆「呉竹」の乗員ですが、ちゃんと陸戦服に着替えております。

敵を引きつけてから撃つという李花の作戦に、横山の部隊が
側面から援護射撃を行い、さらに銃弾飛び交う中を軍刀で斬り合い。

当然の結果として、一人残った李花の侍女その2も銃弾に斃れました。

形勢不利と見て逃げようとする頭領の漢を横山が負い、
戦っていると、横から李花が容赦無く撃ち殺してしまいました。

駆け寄った横山大尉のセリフがすごい。

「李花、復讐を遂げておめでとう」

「とうとう仇を打ちました」

・・めでたいとかいう話かな?

しかも、この数分間で漢軍は全滅してしまったらしいんですよ。
なんか色々と展開が雑駁すぎるというかね。

さあ、次は海賊が約束通り「海軍を日本に送り返す」番です。
警備艦「呉竹」、いまや「泰明丸」の艦橋から田木艦長が放送を行いました。

「全員に告ぐ、ただいまより我々は母国日本に向かって帰る」

全員じゃなくて「総員」ね。
それから母国より「祖国」の方が適当かな(おせっかい)

祖国に帰れる喜びに、互いに顔を見合わせる乗組員総員。
しかし、リアルタイムで本艦には中国海軍が迫っていました。

「中国海軍が全速力で追って来たら泰明号と遭遇するのはここです。
この線さえ通過すれば、この島にいるあたしの仲間を通じて
あなたたちを日本に送り込めます」

なんか突っ込みどころ多すぎる気がしますがもういいや。

「ここまでお送りしたらわたしたちの仕事は終わりです」

「・・・お別れしなければなりません」

横山大尉はそれを聞いて目を伏せるのでした。

ところで、日中戦争終戦が9月9日ということは、映画が始まった時点で
すでに第二種軍装の着用期間は終わり、第一種に衣替えしているはずですが、
本作では最初から最後まで夏用の第二種で押し通しております。

これはひとえに第二種のが映画的に「見栄えがいい」とか、
そちらの方が天知茂の軍服姿が一層かっこよく見えるから、とか、
世間的にこちらの方が人気が高いからとかそういう理由によるものでしょう。

そして、このストーリーに無理やり海軍を絡めて来たのも、
この一種のコスプレ効果を期待してのことだと思われます。

またこの海軍二種が似合うんだ。天知茂。

泰明丸は東支那海に航海を始めました。
これは機関部のどこかだと思います。

海賊と海軍で運用をしているので見張りもこのようなことに。

その艦上で李花と横山大尉はまたも二人きりになりました。

「横山大尉、このような言葉があるのをご存じ?
『会うは別れの始めということ』

そんな言葉は日本人なら誰でも知っておる。

そして二人は、初めて会った時から互いに惹かれあっていたことを
あらためて確認するのでした。

(BGM『支那の夜』ストリングスバージョン)

「李花!」「横山!」

もしかしたら李花さん、横山大尉のファーストネームまだ知らないんですか?

二人の唇があと数センチで触れ合おうとするとき、
すんでのところで艦内に警報が鳴り響きました。

この「配慮」はプロデューサーの大倉貢が現場にいて、
社長に愛人のラブシーンをお見せするに忍びないと
現場が忖度したからだ、というのは穿ち過ぎでしょうか。

中国海軍が現れ、停船命令を発して来ていたのです。
ところが全力で逃げようとしたとたん、獅子身中の虫、
張が武器を手に艦橋に押し入って来ました。

張は停船を命じました。
泰明丸に乗り込んでいた海賊の多くが、実はうらで張と通じ、
叛逆の機会を待っていたということになります。

張はこの船を中国海軍に渡し、黄海賊も皆殺しにして、
東支那海の縄張りを自分のものにしようとしているのでした。

そして艦艇からダイヤを奪取させた成見を撃ってしまいます。
だからダイヤはクローゼットではなく金庫に入れておけとあれほど(略)

「次はお前だ!」

とさっきまでボスであったはずの李花を手にかけようとした時、
瀕死の成見が抵抗し、怯んだところを李花素早く射殺。

あとは乗員たちが大立ち回りして海賊をやっつけてしまいます。
これって李花以外の海賊は全員裏切り者だったってことでおK?

うーん、なんのために月月火水木金金の訓練を施してやったのか。

しかしそんな非常時にも中国海軍の停戦命令は続いています。

「仕方ありません!
潔く敵中へ突っ込んで華々しい最後を飾りますか!」

おいおい、横山大尉、何を言うとるんだ。
田木艦長は冷静に、

「戦争は終わったんだから艦長として無駄死には許さん」

田木艦長は総員退艦して日本に帰ることに力を尽くせと訓示します。

乗員は口々に何故戦わないのか、とか艦を見捨てることはできない、
などと叫びますが、艦長は文字通りの錦の御旗的に
陛下の御名前を出し、皆を黙らせてしまいました。

 

この映画が仮にも「戦争映画」を標榜するのならば、
最後に「呉竹」は中国艦隊に単身突入し、
派手な砲撃戦のうちにまず李花が斃れ、駆け寄った横山がやられ、
火の海となった艦橋に仁王立ちする田木艦長と、
その田木に総員退艦を命じられて涙を浮かべながら敬礼する乗員、
ついでにラストシーンは甲板で手を握り合って倒れている横山と李花の姿に
スポットライトがあたり、暗転して「終」が出ることでしょう。

しかしこの映画で描きたかったのはそんな戦闘シーンではなく
あくまでも女海賊のコスプレをした高倉みゆきであり、
その他もろもろは「彩り」というやつにすぎないのです。

そもそも戦闘シーンを描ききるほどの特撮技術も、
ご予算の関係で円谷英二を使えないのでは仕方ありません。

 

しかし流石にこれではあまりに海軍に失礼?ということなのか、
田木艦長が総員退艦後一人艦に残ると言い出します。

「艦長が陛下からお預かりした艦と運命を共にするのは最大の幸せだ」

でもこの艦、すでに海賊に売却されてませんでしたっけ。
陛下からお預かりした艦を中国海賊に売るのはオッケーだったの?

横山大尉は、

「艦長と一緒に死に花を咲かせてください」(意味不明)

乗員たちも自分も残るので戦わせてくれと口々に・・・。
すると田木艦長いきなり拳銃を出して、

「この後に及んで上官の命令に服従しない者は俺が処罰する!」

あーもう無茶苦茶ですわ。

わたし、このシーンでリアルに「おい(笑)」と声が出てしまいました。
しかもダメ押しに、

「横山。李花。日本に帰って一緒に暮らしてくれ」

うーん、それははっきり言って余計なお世話ってやつでわ。

「総員退艦!艦長に敬礼!」

前半から全く存在感のなかった田木艦長が、まるで主人公です。

そして一人舷側に立つ艦長と内火艇に乗り移った横山大尉たちの間に
最後の敬礼が交わされます。

帽振れは?帽振れはないの?

ボートの水兵たちは座ったまま敬礼。
これ海軍的にありですか?

そのときです。
いつ爆薬を仕掛けたのか全くわかりませんが、泰明丸、いや、
帝国海軍の警備艦「呉竹」は大爆発を起こして自沈しました。

( ;∀;) イイハナシカナー

「アッ・・・・!自爆だ」

沈みゆく艦に敬礼すると、横山大尉は

「田木艦長は・・日本海軍の最後を立派に飾ってくれた。
今、艦長の霊魂は我々の帰国を見守ってくれるだろう」

とさらに意味不明なことを言い、李花はそれまで胸につけていた
(冒頭写真ではくわえてますが)花を、
死者へのはなむけとして海に投じました。

彼らが内火艇で立ったまますごした夜が明けました。

日本にダイヤモンドを持ち帰るという任務の果てには、
この二人に新しい明日が待っているというわけです。

中国人の女海賊と海軍士官が結婚するというのは大変困難だと思いますが、
まあそれは横山大尉が出世を諦めればいいだけの話です。
それにこの後すぐに日本は大東亜戦争に突入ですよね?
そんなことを言っている場合ではなくなるはずです。

しかし二人は一縷の希望を抱きつつ日本への海路を進むのでした。

しかし内火艇に立ったままで東支那海から本土に帰るのは
なかなか辛いものがあるかもしれんね。

それから、この画面の水平線には、明らかに
大型船が3隻航行しているのが見えてますが、
これが中国海軍ではないことを彼らのためにも祈りたいと思います。





映画「東支那海の女傑」中編

2021-10-22 | 映画

新東宝映画、「東支那海の女傑」、2日目です。

李花が無情にも軍艦の砲を撃ちまくって敵に大ダメージを与えた夜、
アジトは勝利の美酒に酔う海賊たちの蛮声が響き渡りました。
海軍警備艦の乗員たちも混じって大宴会が行われています。

そんな中、横山大尉を体育館の裏に呼び出す李花。
ところが横山大尉、開口一番、こんなやばいことを言い出します。

「僕はあなたをそんな人だとは思いませんでした。
もっと・・・」

「もっと?」

「女らしいひとだと思いたかった」

アウト〜!ポリコレアウト〜!
さらに畳み込むように、

「なぜもっと女らしい道を選ばないんです!」

それを海賊の統領に言ってもだな。

自分の好み視点で相手を責める横山に、李花は、漢一族と黄一族の
東支那海の覇権をめぐる歴史的な相克について語ります。

「漢一族に復讐して東支那海を平和な海にしたいのです」

復讐、それは相手の殲滅と残党に対する容赦ない弾圧。
それを「平和」と言ってしまいますか。


しかし、これでおどろいてはいけない。
それを聞いた横山大尉、ツカツカと彼女に近づき、

「李花!」

と突然呼び捨てにして彼女の手を握ろうとするじゃありませんか。
それまでの話のどこでスイッチが入ったのか横山大尉。

っていうか人の話聞いてた?

手を握ることに失敗した横山大尉が宴席に戻ってくると、
用心棒の張恵烈がいきなりナイフを投げつけ絡んできました。

これはあれだな、嫉妬というやつだ。

いきなり殴られた横山ですが、きっかり相手を投げ飛ばしてお返しを。

この一連の激しいアクションを、天知茂はスタントなしで演じています。

横山にコテンパンにやられ、悔し紛れに短刀を振り回し、
それもやられて短銃を持ち出した張を阻止したのは李花でした。

ところで海賊たちと李花の会話は全て中国語です。
高倉みゆき発音こそあまり上手ではないものの、
長台詞もちゃんと演じています。

その晩、泰明号の周りをうろついていた漢海賊の一味が捕らえられました。
なぜそこにいたか聞き出すために、まず手下が拷問し、
縛り首にする寸前で女統領の元に連れて行きます。

すると彼女はにっこりと、

「目的を話してくれたら縄を解きます」

これで簡単に彼らは口を割るというわけですね。
そして彼らの目的とは。

「トランクを探して来いと言われました」

そこでピコーンときた李花、横山大尉をわざわざ呼びつけ、

「やっぱりあなた、何か隠していますね」

「・・・・・」(; ̄ー ̄)ぎくーっ
横山大尉、無言でしらばっくれます。

さて、ここは「呉竹」改め泰明号艦上。
「呉竹」の乗員がぷんすかしながら、海賊を指導しています。

「貴様らなんて物覚えが悪いんだ!
貴様らがちゃんとやってくれなければ俺たちは日本に帰れんのだぞ」

確かに海軍と海賊の契約は、軍艦を海賊に売って、そのかわり、
海賊は海軍艦で東支那海を突破して日本に送り届けるというものですが、

ちょっと待って?

この海賊が軍人を差し置いて海軍艦を運用する意味ってなんなの?
逆にいうと、海軍軍艦なら東支那海を突破できるってことなんじゃ?

それなら、何もこれを海賊ごときが無理して運用する意味もないですよね?

眉根を寄せながらアンニュイな表情で舷側をそぞろ歩く横山大尉を
田木少佐が呼び止めます。

「横山大尉、だんだん海賊ヅラになって来たな」

そもそも「大尉」を「だいい」と発音しないのがもうダメなんですけどね。
当ブログ的には。

「このまま海賊の頭目にでもなりますか」

「はっはっは」

しかし、田木少佐、そうボンクラでもないと見え、こんなことを言います。

「貴様の大冒険も悪い目が出そうな気がするよ」

「どういう意味ですか」

海賊同士の争いに巻き込まれかねないし、
そもそもあの女頭目が信用できない。
そういう田木少佐に横山が彼女を信用するべきだとおずおずと反論すると、

「惚れたな?あの女海賊に。
なに、海賊の女頭目をいっそのこと女房にするか」

気まずく薄笑いを浮かべる横山大尉でした。

そのとき、中国海軍が黄一族のアジトに乗り込んできました。
彼らは漢一味の密告により、日本の軍艦の存在を知ったのです。

中国海軍は李花に軍艦と日本人乗員の引き渡しを迫ります。

彼らを追い返した後、横山を憎む張は、日本人を軍艦ごと引き渡せ、
と李花に言いますが、彼女はこれをはねつけ、
我々と日本人が手を組めば中国海軍にとって脅威となる、と断言します。

「我々は無血で日本軍艦と日本軍を手に入れたいのです」



その晩、またしても李花の個室に侵入した横山大尉。

中国海軍から守ってくれた礼を言いにきた横山大尉に、
李花は、我々は中国海軍とは必ず戦う、なぜなら

「あなたたちを守って日本に返すのが海に生きるわたしたちの魂です」

とかいうんですよ。

女らしくない李花に失望したくせに、逆に海軍軍人たる自分が
女性に守ってあげると言われることになんの痛痒も感じないのか横山?

しかもほれた弱みというのか、思い入れたっぷりに

「あなたのことをもっと知りたいのです」

とかいわれて、ぺらぺらとダイヤモンド運搬の密命を喋ってしまいます。
(ちなみにこのダイヤで敗戦後の日本の再建をするそうです)

その任務遂行に力の及ぶ限り協力します、という李花。

前回拒否されましたが、今回は彼女の手を握りしめることができました。

よかったですね(棒)


ところで、新東宝と天知茂主演映画にありがちなことですが、
この映画は戦争ものではなく、主人公が海軍軍人というのは、
あまり本筋に意味がないというこの事実です。

「終戦のどさくさに日本にダイヤモンドを持ち帰る密命を受けた主人公が
海賊の助けを借りて東支那海を突破し日本まで送り届けてもらう_」

というこのあらすじにおいて主人公が軍人である必要はありませんし、
繰り返しますが、なぜ海軍が海賊に守ってもらわねばならないのか
全くわけがわかりません。

いくら沿岸に海賊が跋扈しているといっても、前半でもそうだったように
艦砲もないジャンク船など軍艦の相手ではないのですから、
軍艦でそのままぶっちぎって日本に帰ってしまえばいいのです。

考えられる可能性としては、敗戦したので中国海軍に見つかったら、
そのダイヤを接収されてしまうから、裏道を海賊に案内してもらう、
ということになろうかと思いますが、そんなこと言ってないんだよな。

いずれにしてもこの大前提にあまり説得力がないのは困ったものです。

李花をとられてやけ酒を飲んでいる張に、
当初から軍艦の中でこそこそ秘密を嗅ぎ回っていた怪しい日本人、
成見が、ダイヤモンドの奪取をけしかけます。

そのとき、前回李花が釈放した漢側の海賊二人が
やすやすと艦長室に忍び込んで、トランクを探し出しました。

あのさあ。

国家予算に相当するほどのダイヤを、どうして洋服ダンスの棚に入れて
鍵もかけず見張りもおかずに放置しておくと思うわけ?

もちろん、彼らはたちまち見張りに見つかって、
気の荒い乗員たちにタコ殴りにされるのですが、その騒ぎの中、
転がったトランクをこっそり持っていく人物がいました。

そう、もちろん成見ですよ。
なんと自分でカッターを下ろして軍艦から逃げ出しました。
もと海軍軍人かな?

ワクワクしてトランクを開けたら中から出て来たのは艦長の下着でしたとさ。
クローゼットに入っていたのですから当然でしょ?

その頃、「呉竹」あらため泰明号では、
横山らが李花に無事にダイヤモンド(らしきもの)を見せていました。

いくら説明するためでも現物を見せる必要あるかなあ。
しかもこのダイヤ、キラキラ光って原石にはとても見えません。
ブリリアントカットしてあるのかしら。

海賊団で会議が行われています。
議題は、いまさらなのですが、

「中国海軍に日本人を引き渡すかどうか決める」

それはしないと頭領の李花がもう宣言したんじゃなかったっけ。
つまり張が蒸し返してしつこく引き渡しを主張しているだけなのですが、
中国語でワイワイやっている彼らを眺めながら日本側は

「我々を引き渡すかどうかもめているようです」

と心配しています。
海賊と軍艦の売買契約をしてバーター成立したんじゃなかったのか海軍は。
もしかしたら文書とか全く取り交わしてないとか?

「我々は日本人との約束を守る!」

改めて李花が鶴の一声で議論を打ち切ったとき、ちょうど
漢一族のジャンク船がこちらに攻めて来たという知らせが入りました。

しかし、現れたのはジャンク船一隻のみ。
そのマストには、

「黄李花 大歓迎 漢万竜」

と書かれているではありませんか」

「謀られたっ!」
この一隻は囮で、軍艦をアジトから遠ざけるためだったのです。

主力軍の留守にアジトに攻め入った漢一族は、
留守番をしている者を無残にも殺害していました。

李花の侍女、長老も・・・・留守部隊は壊滅です。

ところがその中で一人生き残っていたのが成見でした。
当然彼は裏切り者の疑いをかけられます。

必死で言い訳をしますが、持っていた銃に硝煙反応がないことを
横山大尉に突き止められてしまい、田木艦長はいきりたって

「日本人の面汚しだ!俺が殺してやる」

などと銃を突き付ける騒ぎに。

そこで李花が成見を取り調べることになりました。
最後に生き残った無電師が成見を指差して死んだことから、
彼が無電師を使って漢に信号を送ったのだろうという推理です。

もう少しで自白するという時に、張がしゃしゃり出て来て、

「こんな奴は俺が本当のことを吐かせてやる!」

とか言いながら連れて行ってしまいました。
なぜかって?

もちろん彼らは裏でつるんでいるからですよ。
そして今回のことも実は張が計画したことなのです。
目的はダイヤモンドの奪取(だと思う)。

無残な殺戮の痕跡を目の当たりにした横山大尉は、今では
李花と黄一族が漢一族に持つ憎しみがよく理解できる、
と言い出しました。

「死んだあなたの部下の霊を慰めるためにも、今漢万竜を討ち、
復讐を遂げるべきです!」

「しかしわたしたちは1日も早くあなたがたを送り届ける責任が」

「ありがとう。
しかし、今この時を逸しては漢万竜に報いる時が無くなります。
我々に協力させてください!」

いやいや、軍隊というのは所属する国の防衛が主任務であって、
他所の国の、しかも惚れた女の復讐を果たすために、
一大尉が動かせるものではないんだが。

横山大尉、すっかり海軍部隊を私物化してるっぽい。
そして、

「我々は少数でも戦闘にも絶対の自信があります!
必ず勝ちます!我々を信じてください」

と胡散臭いセールスマンみたいなことを言い出すのでした。
戦闘に絶対の自信があるならどうして海賊なんぞに(略)


続く。


映画「東支那海の女傑」 前編

2021-10-19 | 映画

ディアゴスティーニの戦争映画コレクションより、東宝作品、

「東支那海の女傑」

を紹介します。

DVDパッケージは軍人姿の天知茂がマシンガンを構え、
高倉みゆきが仲間を引き連れて崖に立っているというもの。

これだけでも突っ込みどころ満載で、
当ブログで取り上げるべき作品に違いない、
と思いつつ、今まで手を出さなかったのは、
東支那海の女海賊というテーマ、しかもその海賊を演じるのが
高倉みゆきという、わたしの苦手な女優であること、
女性が主人公の戦争映画の全く興味をそそられなかったからです。

しかし、ディアゴスティーニシリーズの海軍ものも
残り少なくなってきたことですし、
天知茂の海軍二種軍装に免じて、今回は取り上げることにしました。

プロデューサーは新東宝のワンマン社長大倉貢本人です。
高倉みゆきが大倉の愛人だったことは、本人が

「女優を2号(妾)にしたのではなく、2号を女優にしたのだ」

と豪語したことで世間に有名になりました。

畏多くも高倉に昭憲皇皇后陛下を演じさせようとして、
共演予定のアラカン、嵐寛寿郎が難色を示したのに腹を立て、

「ワシの女やから、気品がないというのか? よし、見ておれ!」

と、無理やりゴリ押しキャスティングしてしまった前科もあります。
(ディアゴスティーニのコレクションには件の作品、
『天皇・皇后と日清戦争』もあるのでいずれ取り上げるかもしれません)

さて、それでは始めましょう。
場面は、終戦間近の中国、廈門のナイトクラブ。

扇情的な半裸の女性ダンサーが踊るシーンから始まります。
それにしても、このダンサー、スタイル容姿が全体的に残念すぎ。

しかもダンスが上手いわけでもなく、クルクル回ってはしゃがむだけ、
音楽と踊りが壊滅的に合っておらず、観客はこんなものを見て
いったい何が楽しいのかという代物です。

そこに用心棒と侍女?を引き連れて現れたのは高倉みゆき演じる
ナイトクラブのオーナー、黄百花

どうみても皇后陛下よりこっちの方が適役と思うがどうか。

カウンターには、プレーン(背広)姿の海軍士官、
我らが天知茂演じる横山大尉がいます。

そのとき憲兵隊が踏み込んできて、オーナー百花を
密輸容疑でいきなり引っ立てようとします。

「待て!」

そこに立ち塞がった横山、海軍司令部の肩書きをちらつかせて、

「日本軍に協力している人だ」

しかし上からの命令が、となおも反駁する彼らを撃退します。
一介の大尉ごときにそんな権限があるのかな〜?

しかし日本軍に協力しているあなたがどうして日本軍に疑われるのか。
それは何か怪しいことをしているからですか?と直球で聞く横山大尉。

彼女はそれには答えず、

「特務機関の方ですのね」

「はっはっは!」

なぜか話はここで終わってしまうので、
結局この時の容疑がなんだったのかは最後までわかりません。
まあ、一介の大尉が介入できるくらいなので
もともと大した話ではなかったのでしょう。

 

ナイトクラブは次の瞬間空襲に襲われるのですが、場面はすぐに
その爆音が爆竹音に変わり、終戦だという説明が字幕で行われます。

ご存知のない方ももしかしたらおられるかもしれないので書いておくと、
この戦争はアメリカなどの連合国軍の勝利で日本は負けた側。

正式には昭和20年9月9日です。

ここ廈門の海軍司令部では、司令官細川俊夫、役名なし)が
徹底抗戦するべきと訴える若い士官をなだめていました。

そこにやってきたのは横山大尉。

そこで司令官は横山にとある密命を授けました。

それは、日本国民が供出し海軍が保管しているダイヤモンド💎を、
敵方に窃取される前に日本に持ち帰り、海軍省の野村中将とやらに届け、
日本政府に返還させるというものでした。

なんで海軍が民間人から召し上げたダイヤモンドを
中国大陸で預かっているのかよくわかりませんが、
まあ要するにそういうことです。

しかし動乱の廈門はテロが横行し、沿岸には海賊が絶賛跋扈中。
脱出、しかもダイヤモンドを持ってのそれは容易なことではありません。

「しかしこれができるのは君を置いて他はない!」

悩める横山大尉が中国服に身を包んで歩いていると、
物陰から狙撃を受けます。
ところがちょうどそのとき、百花を乗せた車が前を横切り、
狙撃者を撃ち殺して彼の命を救いました。

この狙撃者が誰だったのかも最後まであきらかにされません。


さて、通常の方法で脱出は不可能だと考えた横山大尉は、

毒を持って毒を制すという作戦に出ました。

つまり海賊の有効利用です。

日中戦争当時「東支那海の女王」と呼ばれた、黄八妹という、
日本軍兵士を色仕掛けで誘って殺したとか、
リボルバーを両手に大立ち回りをしたとか、
それは海賊というよりスナイパーと違うんかい、
という伝説の女賊が実在していたそうです。

この映画はこの噂話に着想を得ていて、横山大尉はこの伝説の女海賊、
(本作では黄李花)に助けてもらおうとしたのです。



さてそのためにはまずどうするか。

「警備艦一隻買って頂きたい」

横山は黄李花の窓口となっている自称貿易商の劉に会うなりぶちかまします。

「軍艦を売ってやるから、その見返りに、
その乗員全員を日本本土まで安全に送り届けること」

それが横山大尉の出した条件でした。

ダイヤモンドを持った横山大尉自身ももちろん乗り込むつもりですが、
それにしても、一介の大尉に海軍軍艦一隻を
よりによって海賊に売ることを決める権限はあるんでしょうか。

というかこの計画、いろいろと突っ込みどころ多すぎ。

自分の一存では決められないので統領に会ってくれ、という劉の依頼に、
譲渡する予定の警備艦「呉竹」でアジトに向かうことにしました。

快くその任務を引き受けた艦長の田木少佐を演じる中村寅彦は、
現成蹊大学創立者の息子で、東京帝大卒。
「学士俳優」(いまなら高学歴俳優)の第一号です。

ちなみにもう少し下の世代には陸士及び東京帝大卒の平田昭彦様がいます。

アジトの島に近づくと、哨戒艇が警戒信号を発信して来ました。
しかし、劉が灯りを数回転させただけで去っていきます。

一体どういうスーパー通信方法なのか。

そしてアジトとされる島にいよいよ近づきました。
この島(じゃないと思うけど)は、ロケ現場となった和歌山県にあります。

ボートで上陸した彼らをお迎えしたのは、

敵意に満ちた目をした中国人海賊の皆さん。
はて、わたしたちなんか嫌われるようなことしました?

アジトに一歩踏み込むと、控えていた連中が手にした銃の実弾を
てんでに空に向かって撃ちながら走ってきました。

思わず身構える海軍士官たち。
しかしそれは女統領が帰還してきたことに対する歓喜の雄叫びでした。

どんだけボス好きなんだよ。
頭領が帰ってくるたびにこんなことしてたら弾がいくらあっても足りないぞ。

そして改めて海賊の頭領、黄李花の「謁見」を受けた横山は、
それがナイトクラブの百花と同一人物であるのに驚愕します。

李花は、自分の部下に警備艦の航行技術を伝授すれば、
あなた方を日本に送り届ける、とあっさり約束しました。
しかし、

「軍艦の艦名は『泰明号』と変えます!」

勝手に名前を変えられて、一瞬艦長の顔が曇りますが、
この際仕方ありません。・・仕方ないのかな。

李花のボディガード、は男前の横山が気に入らないらしく、
何かと最初からガンをつけてきます。

皆の前では黙っていた横山大尉ですが、後でこっそり李花の部屋に行き、

「驚きました・・・まさか百花さんが」

「百花ではありません。黄李花です」

そして

「あなたがたには何か重要な役目があるのでしょう。
なぜなら、よっぽどのことがなければ海軍軍人の命に等しい軍艦を
売るなどということは考えられられません」

と図星を付き、横山は押し黙ります。


翌日から海軍による海賊への航海術指導が開始されました。

手旗信号。

六分儀を使った天測。

射撃訓練。

それをするなら艦砲射撃じゃね?と思いますが、予算の関係上
セットが用意できなかったのだと思われます。

一番大切な、錨の揚げ降ろし。甲板作業一般。

そんなとき、海賊のジャンク船団が武器を満載して香港に向かっている、
という知らせが飛び込んできました。

相手は彼女の一族と東支那海の派遣を争う漢一味です。

すると李花は、警備艦「呉竹」を出撃させよ!と命じます。
いつのまに売却が済んだんだろう。

しかもマストにはいつのまにか旭日旗の代わりにこんな旗まで・・。

これ、田木艦長以下「呉竹」の乗員は誰一人文句ないの?
いくら上からの命令でも、中国人、しかも海賊に
艦名もメインマストも乗っ取られたとあっては、
おそらく下士官兵のクーデターは必至だと思うのですが。

模型は新東宝の特技班が手掛けています。

そして敵のジャンク船団・・・うーん・・(特撮のレベル微妙すぎ)

そして、いつの間にか司令官になり切った李花が、

「戦闘用意!」

田木艦長、貴様本当にそれでいいのか?

しかしいくら偉そうにしていても操艦は全て艦長が行います。
当たり前だよね。

と言いたいところですが、

「左20度!」「左20度!」

おい、いつから帝国海軍は取舵を左というようになったのだ。

そこでまたイラッとすることに、李花が

「攻撃用意!!」

そのセリフ回しが、なんと言ったらいいのか、

「あなたおしぼり持って来て」

とバーのマダムがボーイに命令するような口調なんです。
少なくとも軍艦の艦橋で人に聞こえるような声ではありません。

しかも、

「撃て!!」

まで言っちゃうんですよ。
撃てじゃないだろ!てー!だろ?
なんだこの女、とドン引きした横山大尉が、

「無抵抗に等しいものをなぜ撃つんです!
威嚇射撃だけでいいじゃないですか!」

と嗜めても、無視して、

「攻撃続行!」

周りの士官たちは互いに顔を見合わせながらも、しかたなく攻撃ヨーソロ。
田木艦長、貴様重ね重ねそれでいいのか・・・っ!


続く。


映画「マーフィーの戦争」〜”危険物は必ず落ちて欲しくないところに落ちる”マーフィーの戦争の法則

2021-10-05 | 映画

評論家のいう「雑なアクション大作」、
映画「マーフィーの戦争」最終回です。

ナチスに殺害されたエリス中尉が乗っていた水上艇を修理し、
撃沈され、全滅した商船の仲間とエリス中尉の仇を取るために、
Uボートとたった一人で戦争する気になった男、マーフィー。

・・・とここまで書いて、映画ではここに至るまで、
マーフィーという人物が一体どういう立場で商船に乗っていたのか
まったくわからないのに気がつきました。


さて、こちらは終戦のニュースを聞いたUボートの乗員御一行。

甲板で記念写真を撮ったり、寝転がってビールを飲んだりと、
それなりにまったりした時間を過ごしています。

彼らの表情が明るいのも、負けたとはいえ命存えたからでしょう。

乗員と一緒にお酒を飲んでいた艦長に、甲板から連絡がきました。
頭に包帯をしているのは、マーフィーの爆撃で負傷した副長と思われます。

「変な音がします」

姿を現したオンボロ船を見て彼らは愕然とします。
あの「しつこい男」が諦めていないことを知ったのでした。

これはあれだな、戦争が終わったことを知らないに違いない。
と思った艦長は、メガホンで

「イギリス人!イギリス人!戦争は終わったぞ!」

「戦争は終わった!ドイツは降伏したぞ!
そのまま進むなら攻撃する!」

マーフィーは、憎々しげに
「何か叫んでやがる」
とタバコを咥えながらも手を止めず、一緒に乗っているルイがそれを聞いて、

「終戦だと言ってるぞ!」

というと、

「あいつらの戦争はな。俺のはまだだ」

説得が通じないと悟った艦長は、艦内に総員配置を命じました。

さすがはUボート、その一声で全員が瞬時に戦闘モードに。

機銃の照準はこちらに向かってくるボロ船に合わせられました。

「フォイヤー!」

魚雷も発射準備完了。

もうすっかりUボート本気モードです。

はいこれはなんですか〜?魚雷発射のスコープですね。

引きつけるだけ引き付けて2番発射管(前方)から魚雷を放つのです。

「フォイヤー(2)」

面舵を切ってなんとか魚雷を回避することができました。
ってか、マーフィー、なんで操舵ができるんだろう。元船員?

魚雷が外れたので船との衝突を避けるため艦長は潜航を命じました。

本当にこの潜水艦は潜航を行います。
最初にも言いましたが、操艦はすべてベネズエラ海軍が協力しています。


魚雷回避のために思いっきり舵を切ったはずのマーフィーの船は、
瞬く間に90度転舵して、再び潜水艦に向かっていきました。

すげー、もしかしたらプロか?

そして、潜航していく潜水艦に船体をぶつけようと
必死で進むのですが、惜しいところで逃げられてしまいます。

もしぶつかっていたら自分もただでは済まなかったと思うけど。

ところが逃げたはずの潜水艦は、浅瀬に乗り上げてしまいました。

それを知ったマーフィー、これで勝つる!と大興奮。

何をするかというと、岸に打ち上げられたさっきの魚雷、
これを船のジブで吊って、奴らの上に落としてやるというわけです。

もはや狂気としかいいようがありません。

(ひくわー・・・・)

ルイは黙って船を降り、岸に向かって歩き出しました。
そして、マーフィーに向かって、一言、

”Let them die in peace.”(静かに死なせてやれよ)

そりゃそうです。
浅瀬に座礁し、おそらくそのまま死ぬであろう彼らの上に
危険を冒してまでなんで魚雷を落とさなくてはならないのか。

そもそもなんでそこまでやらねばならないのか。

親でも殺されたのか。

観客の全てが思っていることをルイが代弁しています。

もし逃げられたら2度と捕まらん!と叫ぶマーフィーに、
そうかもしれないがもう十分だ、と去っていくルイ。



一人じゃ無理だ、と半泣きで叫ぶマーフィーに、ルイは
吐き捨てるようにこう言い残すのでした。

”You're a small and lonely man, Murphy.
Like me.
The world will never build us a monument.
The difference is I know that.”

「アンタは小ちゃくて孤独な男だ、マーフィー。
俺みたいに。

俺たちのために記念碑は建たない。
アンタと俺の違いはそれを知ってるかどうかだ」

かつてここまで痛烈にその人格を否定された映画のヒーロー?
がいたでしょうか。

こちら、座礁したUボートでは必死の脱出努力が続けられています。
今や何もすることのない魚雷室の乗員は天井を眺めながら、

「鉄十字章は無理かな」

まーね。戦争もう終わってますし。

ルイに見捨てられ、砂浜にへたり込んだマーフィー、
普通ならそこであきらめそうなものですが、こいつは普通ではない。

なんと魚雷をジブで釣り上げ開始。
もしかしたらクレーン免許と玉掛け作業の免許も持ってるとか?

Uボートは発射管からの排気と後進でなんとか抜け出そうとします。

しかし・・・艦長の表情もさすがに悲痛に歪み、
乗員の中に諦めの沈黙が広がっていきました。

と、そのとき、彼らは聴いたのです。
あの男が帰ってきた音を。

マーフィーはさっきまで泡の立っていた場所に船を止め、川面を凝視します。
正確に狙いを定めるために。

そして舌舐めずりしながら泡の出たところに船を動かし、
・・・そのまま魚雷を一気に落としてしまいました。

魚雷は水中のUボートに命中し、爆発音が轟きます。
「やった!」

しかし同時にクレーンが倒壊して倒れ、マーフィーは見事その下敷きに。

爆発はUボートを一気に押しつぶさず、あちこちに穴を開けました。
艦長が脱出を叫びますが、艦体はその後爆発を起こしました。

そして船の方も沈没し始めます。
クレーンに挟まれたマーフィーはそのまま船と一緒に沈んでいきました。

クレーンで真下、しかも浅瀬に魚雷を落とした場合、
真上にいる船がどうなるかということくらい想像できなかったのでしょうか。

というわけで「マーフィーの戦争」はやっと終わったのです。

ベネズエラ海軍に感謝を捧げる字幕でこの後味悪い映画は終わります。

 

さて、それではお約束通り、最後に本家の「マーフィーの法則」から
この映画を表す言葉を抜粋してみましょう。

「クレーンは必ず倒れてほしくない方向に倒れる」
(『パンは必ずバターを塗った側を下に落ちる』から)

「何か失敗する方法があれば必ずそれをやってしまう」

そして、

 "Anything that can go wrong will go wrong."

「うまくいかない可能性のあることは必ず失敗する」

 

終わり。

 


映画「マーフィーの戦争」〜”SAVE THE CATの法則に外れた映画はヒットしない”マーフィーの法則

2021-10-03 | 映画

世紀の駄作と悪名高い超大作、「マーフィーの戦争」、2日目です。
Uボートに乗っていた船を撃沈され、大好きだった(らしい)
エリス中尉を殺害されてからは、生きる目的が
Uボートに復讐することになった男、マーフィー。


彼はこのシーンについて、

「もし恐怖に駆られた人の表情を見たければ、
わたしが最初に飛び立ったときの写真を見てほしい」

と後年述べています。

この後マーフィーが島の上空を飛び回るシーンは、
飛び立つトキの大群やオリノコ上空の壮大な自然など、
ナショジオ的映像としては決して悪くありませんが、
せっかく費用を投じて借りたこの歴史的な飛行機を、できるだけ
スクリーンに長い間登場させなければ損だという下心が透けて見えます。

「水上機とそれを操作する人間との間の、ずさんで退屈ですらある
クロスカッティング(ショットを交互に繋ぐ手法)」

という酷評は、まさにこれを言うのだとおもいました。

しかしそれなりに収穫はあって、マーフィーはオリノコ川支流で
偽装して潜んでいる憎きUボートを発見したのでした。

喜び勇んで水上艇で何度もとんぼ返りもしてしまうマーフィー。

彼が「潜水艦を飛行機で沈める」という目的を持ったのはこのときです。 

村に帰るや、ルイを助手に武器作りを開始しました。
いよいよ「マーフィーの戦争」の始まりです。

「どこで爆弾作りなんか覚えたんだ?」

「親父が活動家で作るのを見た」

第二次世界大戦当時のイギリスの「活動家」ってなんなんだろう。
パルチザンかな(棒)

この爆弾をガラス瓶のガソリンに縛り付けて航空爆弾の出来上がり。
ちなみにこの武器作りのシーケンスも冗長で退屈です。

そこに、ヘイデン医師がお買い物リストをもってきました。

「ロンドンのフレンド会に手紙」「新しい通信機」

は必ずお願いします、と念押し。
おばちゃんマーフィーが飛行機でどこに行くか全くわかっておられない。

しかし、翼の下に取り付けた大きな瓶を見て、ルイに

「あれは何かしら」

「世界で一番大きな『モロトフカクテル』でさあ」

モロトフカクテルについては、ベトナム戦争展の項で説明しましたので
重複は避けますが、要は火炎瓶のことです。

「何するつもりなの」

「潜水艦に落とすんですよ」

「無謀だわ!戦争はもう終わるのよ」

ヘイデン医師を尊敬し内心慕っているルイは即座に、クレーンを止め、

「彼女の言う通りだ」

といいだしますが、マーフィー聞く耳持たず。
ルイはヘイデン医師の言うことは無視できないが、この際仕方ない、
と言った様子で作業を続け、飛行機は水面に降ろされました。

「間違ってるわ!」

「海底にいる連中にそう言え!」

「互いを殺し合うなんて感覚がおかしくなってる」

「殺す?もしやれたら嬉しいね」

「もし失敗でもしたら村がその後どうなると?」

「心配ご無用、ドイツ兵たちは皆殺しにしますから」

「楽しそうなのね!」

「ええ」

「戦争が好きでたまらないんでしょう?」

「戦争を?俺が始めたわけじゃない」

「よく考えて頂戴!」

「ご心配なく、相手は潜水艦じゃなくてただの老いぼれワニなんだから」


さあ、ワニの運命やいかに!



というわけで、水上機に自家製の爆弾をくくりつけ、
女医の反対を押し切って飛んだマーフィー。
前回見つけたUボートの係留地に行くまでに燃料がなくなりました。

マーフィーがマーフィーならUボートもUボート。
前回マーフィーに発見されたというのに相変わらずそこにおります。

マーフィーはなんとか自家製爆弾を投下することに成功しましたが、
飛行機はガス欠で川に不時着、その時のショックで肋骨骨折の負傷。

そこで水上機をえっちらおっちら手で漕いで帰還します。
肋骨折れてたらこの動作は無理だと思うけど。



あくまでも空気読めない系のマーフィー、
ぷんすか起こりながら治療してくれる女医ヘイデンに
唐突に「キスしたい」などと言い出し、余計に怒らせます。

ひげもじゃのルイはこう見えてマーフィーと違い繊細な男。

内心お慕い申し上げているヘイデン医師に、マーフィーの暴挙を
止めなかったことを叱責され、すっかりしょげてしまいました。

ヘイデンは叱責を謝るついでに、ルイの頬にチュッとキスして去ります。

うーん、マーフィーにキスしたいと言われた直後にこれかよ。
おそらく彼女、ルイの気持ちも知ってるよね。
あざとい。実にあざとい女である。

翌日、オリノコ川にUボート(に見えないけどそのつもりで見てね)が
不気味に浮上を行いました。

マーフィーの落とした爆弾はほとんどダメージを与えなかったのです。

ヘイデン医師が出発前のマーフィーにいった懸念が現実になりました。
彼らは前日のマーフィーの攻撃の仕返しにやってきたのでした。

本来ならばUボートが民間人しかいない村を攻撃する意味はありません。
が、マーフィーが彼らを怒らせてしまったのです。

これが本当の憎悪のエンドレスサークルというやつです。

「フォイヤー!」

艦長が腕を振り下ろし、艦上から銃火器が火を噴きます。

彼らはまず問答無用で水上機を中心に村を攻撃。

そしてゴムボートで上陸してきました。
目的は・・・・・そう、もちろんマーフィーの捕獲。

負傷者の手当てをしているヘイデン医師を連れてきて
マーフィーの居所を聞き出そうとします。

「彼はどこだ」

拷問くるか?くらいの勢いなのに、次のシーンでヘイデンは
平然と(洒落じゃないよ)負傷者の治療に戻っているから不思議です。
なんか場面がつながってなくない?

マーフィーは崖下に身を潜めて隠れていたため、Uボート乗員たちは
これもやってることの割には不思議なくらいあっさりと帰っていきます。

誰もいなくなってから気まずそうに隠れ場所から出てくるマーフィー。

「沈めたと思ってたんだが」

ってそっち?

「悪かった」

それを女医に謝る意味ってある?
崖の下の村はUボートの攻撃で焼き払われ、村人に死傷者も出たというのに、
この男には彼女の機嫌を損ねたことだけが問題なのね。

女医もまた、それに対して

「済んだことよ」

すんでねーし。
彼らの目的はマーフィーなんだから。

死んだ村人の葬式が(どうも数人は死んだ模様)行われているとき、
ヘイデン医師はドイツが降伏したというニュースを聞きます。

同様のドイツからの放送はUボートにも届いていました。

「望みなき戦いに終止符を打ち・・」 

「6年間の英雄的戦闘を終える」

ヨーロッパの戦争は終わりました。
ヘイデン医師が看護師と涙ぐんで抱き合い、かたや
Uボートの乗員たちは沈鬱な、諦めの表情でその知らせを受け取ります。

しかしたった一人、全く戦争を終える気がない人間がいました。

チャーチルの演説を放送しようとするラジオを床に叩き落し、
今度は船で突撃しようとする男。

 っていうか、マーフィーって何してる人?
軍人ではないのははっきりしているわけですが、商人?技術者?
漁師?学校の先生?(じゃないことは確か)


しかも、飛行機が破壊された今、彼はこの船で

潜水艦に体当たり

するつもりなのです。
この船はルイが寝起きしている、つまり彼にとっては自宅なんですが、
そのことなど1ミリも考えておりません。

ヘイデン医師はルイの船を操舵しているマーフィーを見るや、
その意図を察し(なんでやねん)、小舟で追いかけながら叫ぶのでした。

「ミスター・マーフィー!戦争は終わったのよ!」

彼女はルイにも同じことを告げますが、彼には聞こえませんでした。
しかも彼がニュースを聞く前にマーフィーがラジオを壊してしまいました。

そしてマーフィーの船(というかルイの家)は行ってしまいました。


ところで唐突ですが、「SAVE THE CATの法則」をご存知でしょうか。
マーフィーの法則が出たついでに法則つながりで説明しておきます。

それは、
『ヒットする映画はある定型を踏んでおり、逆にいうと
その法則に従えば映画の脚本は誰でも書ける』
というものです。
具体的にこの「猫救いの法則」に当てはめた本作の進行は以下の通り。

1.オープニング(船が撃沈される)
2.問題の提示(マーフィーが助かる)
3.何かのきっかけ(エリス中尉殺される)
4.変化への抵抗
5.決心 行動(水上艇と爆弾の準備)
6.報われる最高の瞬間(Uボートに爆弾投下)
7.選択の誤り(とどめがさせなかった)
8.すべてを失う(Uボートが村を攻撃)
9.絶望(死者多数、女医に愛想尽かされる)
10.再びチャレンジ(今ここ)
11.エンディング

なのですが、本作には法則4番の「変化への抵抗」だけが見当たりません。
これを分析すると、この主人公はまったく逡巡せず、
躊躇いもせず、もちろん自省もせずに、とにかく
思い込んだままただ突っ走って現在に至るということになります。

これは一事が万事で、主人公をただ偏執的な復讐者としてのみ描き、
キャラクターを掘り下げたり共感を持たせるための努力を
この脚本が放棄しているということの表れと言えましょう。
これがひいては映画のひとりよがりと見えるのは否めません。

つまり「SAVE THE CAT」の法則に照らしても、
この映画がヒットする可能性はなかった、ということになるのです。


続く。


映画「マーフィーの戦争」〜”夫婦共演の映画はヒットしない”マーフィーの法則

2021-10-01 | 映画

今までいろんな映画を取り上げてきましたが、
これほど評価の低い、というか酷評されている作品は初めてです。

「何もかもがうまくいっていないという感覚が蔓延しており、
それは、技術的なディテールから、主要な俳優の共演にまで及ぶ」

「嫌悪すべきものからありえないものへと、
興味のないものを経由して進んでいく物語」

「これほど平板でトーンや雰囲気のない大作映画はめったにない」

「暗くて自滅的な冒険映画」

「停滞したアクション・スペクタクル」

「制作のバリューの高さの割にサスペンス性は低い冒険物語」

と散々であるうえ、興行的にもパッとせず、すぐに忘れ去られ、
今ではこんな映画があることを誰も知らない映画になりました。

しかしその割にこのタイトルには既視感があるなあ、と思いません?

「マーフィーの戦争」つまりMurphy's War。
言わずと知れた「マーフィーの法則」Murphy's Lawをもじっています。

「自分が並んでいる列よりも、他の列のほうが早く進む」

「別の列に移動すると、もといた列の方が早く動きだす」

「機械は、動かないことを誰かに見せようとすると動く」

こんな経験則(あるある)を法則の形式で表したものですが、
日本でこれが流行ったのは90年代。
映画が公開されたのは1971年なので、小規模の流行があった、
とされる70年代前半には少し早かったかもしれません。

まあ、たとえ「マーフィーの法則」ブームで多少集客につながったとしても、
この映画の評価は動かなかったと思われますが・・・。


さあ、それではこの映画は「マーフィーの法則」のどの格言を表すのか、
最後に総括することを目標にして始めたいと思います。

タイトルロールは、いきなりUボートに攻撃されて
炎上するイギリス商船の阿鼻叫喚に重なります。

海面に逃れた生存者はUボート乗員に容赦なく射殺されていきます。

Uボートによる残虐行為は戦後のイメージほど実際に発生しておらず、
民間人殺戮などで戦後戦争犯罪に問われた例はない、
と以前話したことがありますが、この映画では
それがなくては「マーフィーの戦争」が始まらないので仕方ありません。

 

この画面の炎の向こうに主人公役のピーター・オトゥールが実際にいます。
オトゥールはこの後海に潜り、炎の下を通ってこちらに逃げるという
本来ならスタントに任せるアクションを自分でやっています。

わたしの俳優ピーター・オトゥールのリアルタイムでの印象はというと、
「ラスト・エンペラー」の語り部で実在の人物、
皇帝の家庭教師だったサー・ジョンストン役しかありませんが、
実際彼を有名にしたのは、「アラビアのロレンス」の主役でした。

彼は「ロレンス」でスタントを使わなかったことで有名ですが、
この映画でも最初それをやろうとしていたのでした。

しかしほどなく、彼はハードなアクションに根を上げ、そもそも
自分がやるよりスタントマンの方がずっと巧いことに気がついたので、
それ以降は基本的に人に任せることにしたと語っています。

ダズル迷彩を施したUボート。
いわゆる「UボートIX型」のつもりらしいんですが、
遠目に見ても全くUボートに見えません。

U-IX型

共通点は潜水艦であるということだけって感じですね。

本作スタッフは制作にベネズエラ海軍の協力を取り付け、
この潜水艦も同海軍のARV-Cartie(S-11)を撮影のために借りた、
ということになっていますが、
艦影を見ておそらく皆さんもお気づきのように、この潜水艦、アメリカ製。

第二次世界大戦時に日本と戦いを繰り広げた、アメリカ海軍の

バラオ級潜水艦 USS Tilefish (タイルフィッシュ=アマダイ)(SS-307)

だったのです。

ダズル迷彩は、おそらく似てなさをできるだけ誤魔化すためだと思います。
(Uボートってダズル迷彩してたんだっけ)

そのセイルから民間人の虐殺を指揮しているラウクス(Larchs)艦長。

演じているホルスト・ヤンソンはバリバリの?ドイツ人俳優です。

憎っくき潜水艦と艦長の姿をその脳裏に焼き付けようとする生存者のひとり、
それが本編の主人公マーフィーでした。

救出されたマーフィーはクェーカー教徒の村の女医で
自身もクェーカー教徒であるヘイデン博士に診察を受けました。

マーフィーのセリフで、彼女がクェーカー教徒であることを

「血塗れの尼さんみたいなもんだろ」

というのがあるのですが、クェーカー教ってそういうイメージなの?
調べた限りそんな感じではないので、これ、
かなり各方面に失礼なセリフなんじゃないかと思いました。

ところで、このヘイデン医師を演じたシアン・フィリップス
ピーター・オトゥールは当時結婚していました。
夫婦のよしみで出演が決まったのかもしれませんが、
最後まで二人にロマンスは起こらず、ラブシーンもありません。

夫婦で出演しているせいなのか、どうも一緒のシーンに緊張感がなく、
そもそも二人でいるシーンがどうにも絵面的に地味です。


本作は小説がベースになっていて、監督のイェーツが映画化を計画する前、
バート・ケネディ監督フランク・シナトラの「スター計画」として、
彼を主人公に映画化しようとしていたという話がありますし、また、
本命だったウォーレン・ベイティがあまりにも高額のギャラを要求したため、
オトゥールにお鉢が回ってきたという話もあります。

もしシナトラかベイティがマーフィーを演じていたら、
この映画の出来やひいては評価も変わったでしょうか。

わたしは少なくとも興行的にはかなりましだったのではないかと考えます。
花のない女優、しかも糟糠の妻の起用も、
二人の関係が医者と患者のままで終わった理由だとおもいますし、
ロマンス要素が全くない展開も、興行的な失敗の原因でしょう。

ベネズエラ海軍の協力を仰いだと言う事情があって、
撮影はベネズエラのオリノコ川などで行われています。

ここでマーフィーは自分を助けてくれたフランス人の
ルイ・ブレザンと親しくなります。
(この男も何をしているのかさっぱりわからない謎の人物)
彼との会話で、マーフィは川の深度が潜水艦も侵入可能であると知りました。

 

さて、こちらは大物を仕留めて歓びに沸くUボート内。
乗員が空き缶から作ったというお手製の鉄十字を贈られたラウクス艦長は、

「ありがとう。本物の鉄十字章より嬉しいよ」

と流暢な(当たり前ですが)ドイツ語でいいます。
この映画のいいところは、ドイツ人がドイツ語で喋っていることですが、
案外これがアメリカ映画では珍しかったりするのよね。

そのとき、マーフィーがいる村にイギリス人が救出され運ばれてきました。
名前を、

エリス中尉

といいます。
(わたしがこの映画を選んだ唯一の理由をお分かりいただけただろうか)

 

イギリス海軍の「liutenant」は大尉ですが、中尉と少尉は「sub-liutenant」で、
中尉も(当方と同じく)単にLiutenantと称するので、
彼の年齢から見ても中尉で間違いないと思われます。

エリス中尉は飛行将校で、水上機パイロット、そして
マーフィーと知り合いでした。

彼が不時着させた飛行機をマーフィーとルイは発見しました。
機体には「マウント・カイル」と書かれていますが、これは商船の名前です。

ということはこの水上機は商船搭載の軍用機なんでしょうか。

商船に英軍のラウンデルが付いた軍用機が積まれているのも不思議なら、
撃沈された船の搭載機だけがなぜ別のところに不時着しているのか、
この映画は全く説明してくれません。

推測するに、エリス中尉はUボートの攻撃が始まったとき、
水上機で単独脱出してその後川に落ち、
そのまま海まで流されて海岸に打ち上げられたということのようです。

っていうかなんなんだよこの設定。
普通それ死んでないか。

このグラマンOA-12「ダック」は、わたしが昨年見学したところの
オハイオ州デイトンにある空軍博物館に展示されています。

しかしながら、この水上機はイギリス海軍には使用された事実はありません。

さて、そのときです。
なんと!Uボートの一行がボートで島に乗り込んできたのです。

なんと彼らの目的は自分が沈めた船の生存者を探すことでした。
商船の乗員相手にこの執念はなんなの。

沈めたのが軍艦で相手が軍人でもこんなことしないですよね。

だいたい、戦略的に労多くして益が少なすぎというか、潜水艦乗員、
しかも合理的なドイツ人がわざわざ陸に上がってすることかと。

このあたりのプロットの無理やり感も映画に入り込めない理由の一つです。

でね。

ラウクス艦長ったら、エリス中尉のベッドまでたった一人でやってきて、
しんみりとシガレットケースを出して勧めたりするんですよ。
いい人アピールか?

そしてまるで一昔前の西部劇にでてくるインディアンみたいな英語で、

「Necessity・・・find・・・not to find・・responsibillty」
(必要、探す、探せなければ、責任)

といいます。

どうでもいいけど、兵隊ならともかく将校、特にドイツ将校なら
英語くらいもうすこしましに話せると思うがどうか。

これ、艦長として俺には生存者を探す責任があるってことかしら。
続いて彼はドイツ語で、部下に対して示しがつかん、と呟くのですが、

これもはっきり言って全く意味不明です。

潜水艦は船を沈めるのがお仕事で、人員殲滅の責任なんてないっつの。

艦長が「見つけても勝手に撃つな」と部屋の外の部下にドイツ語で言う隙に、
エリス中尉、なにやらベッドの下に手を突っ込みはじめました。
それを見たラウクス艦長、脊髄反射でエリス中尉を射殺してしまいます。

さっきの「勝手に撃つな」ってなんだったんだ・・。

ちなみにエリス中尉の出演時間は全部で3分くらいです。(-人-)

飛行機を曳航して帰ってきたマーフィーは、エリス中尉がやろうとしたのは
「ベッドサイドにある自分の飛行服を隠すことだったんだろう」
とエリス中尉(わたし)に言わせると、は?な推理を働かせるのでした。

つまりエリス中尉は自分がパイロットであり、飛行機があることを
気づかれないようにしたかったんだろうて、ということらしいんですが、
そもそもナチスは射殺した士官の身分を検分もせずに帰っています。

エリス中尉、なにもそんな危ないことをしなくても、
自分はパイロットだが飛行機は船と一緒に沈んだ、
とでもいえばいいのでは、とエリス中尉(わたし)は思うのです。


そしてここからが摩訶不思議な展開です。
この二人がどんな関係だったのかとか、どれほど親しかったかとか、
そういうエピソードらしいものが全く語られないのに、
マーフィーはただエリス中尉の仇を取るために
飛行機を使ってUボートを攻撃することを決意するのです。

そこでまず飛行機を動かせるようにすることから始めます。
ルイの手助けを借りて、なんとかオリノコ川に浮かべることに成功。

水上を滑走することはできましたが、マーフィー、
今まで水上機を操縦したことがなかった模様。

水上機を離水させることができず、いつまでも川面をぐるぐるしています。
つい最近こんな場面の映画を見た記憶があるような・・。

そう言えばあちら(『北緯49度線』)は操縦していたのがUボート乗員、
こちらはUボート乗員に仕返ししようとする男。
奇遇といえば奇遇ですね。


ちなみに、水上機シーンはスタントなしでオトゥール本人が演じています。

「飛べ!このやろう!飛べ!」

そしてやっとのことで・・・。




続く。


映画「北緯49度線(潜水艦轟沈すあるいは『緯度49大作戦』)」3日目

2021-09-15 | 映画

映画「北緯49度線」、邦題「潜水艦轟沈す」3日目です。

カナダを舞台にした本作は英国で製作され、カナダとアメリカに配給されましたが、
この、フランス語圏(モントリオール・ケベックなど)のために製作されたポスター、
もうめまいがするほど突っ込みどころ満載です。

 

まず、目に留まるのは、金髪のマネキン?を横抱きにしている猟師ジョニー。
この人、最初の30分で乱入してきたナチスに殺されましたよね?
そもそも全編通じてこんな女性どこにもでてこないっつーの。

ポスターを見た人は、有名なローレンス・オリヴィエ卿、レスリー・ハワード、
そしてカナダの人気俳優レイモンド・マッセイの3人が、
アメリカでのタイトルである「インベーダーズ(侵略者たち)」と
駆け回ったり美女をお姫様抱っこしたりして戦う話だと信じて疑わないでしょう。

しかしながら、国家危機に対する啓蒙という映画の目的に感じ入り、
揃いも揃って通常の半分のギャラで出演していたこの有名俳優たちが、
実は主役ではなく脇役だったということは、実際に映画を観るまでわかりません。

最初しか出てこないオリヴィエ卿、映画開始から1時間28分後まで出てこないハワード、
マッセイに至ってはラスト13分に登場し出演時間はわずか11分。
こんなこともThe End のタイトルが出るまでわかりません。

なぜならポスターにナチスなんぞ描いても確実に客は映画館に足を運ばないからです。
たとえ彼らを演じたのがイギリス人俳優だったとしてもです。

今ならこんな宣伝はしませんが、当時は紙のポスターは絶大な広告ツールであり、
嘘大袈裟紛らわしかろうと、センセーショナルな(あるいは劣情を掻き立てる)
予告で人を釣って、とにかく映画館に客が呼べれば勝ちだったんですね。

それでいうと、今回の邦題も、

「北緯49度線より潜水艦轟沈すの方が客が呼べる(かも)」

などという配給会社の「客が入れば勝ち」的方針に準じるものなのです。

 

この映画に対しては、心優しい善人の市井人で、それゆえヒルトに処刑された
フォーゲル水兵への同情的な描き方がけしからん、とマスコミの非難があったといいます。

逆に、ドイツ人にはよほどこの映画が屈辱らしく、映画製作から30年後の1974年、
イギリスのテレビが放映することに対し、抗議を行ったという話もあります。

ドイツ人の気持ちもわからんではありませんが、所詮国策映画なんですから、
そんな時代もあったねと客観的に捉えてもよさそうなものでしょう。

さて、盗んだ衣服一式を着込んですっかり紳士風になったナチス一行、
バンクーバーに向かう汽車に乗り込み、ちゃっかり景色を楽しんでいます。

ちなみに彼らが乗るつもりである「日本行きの船」とはこのことだと思われます。
カナダ太平洋鉄道の汽船ラインはバンクーバーから日本→中国→マニラ→香港までの航路を
「極東航路」として売り出していたのです。

さて、汽車は西海岸に近いバンフ国立公園(アルバータ州)にさしかかっていました。
車掌は、今日は「先住民の日」なので見ていかれてはどうか、と言います。

車掌は「インディアン」と言っており、アメリカの「ネイティブアメリカン」とちがい
カナダではこれが憲法上の呼称なのですが、現在では多くが「ネイティブ」
(フランス語はautochtonオトシュトン)と呼称しています。



「バンクーバーまで急ぐので」

と車掌にヒルトは答えましたが、なぜか汽車を降りて
人混みを3人でうろうろし始めているではありませんか。

なぜ、と言いたいところですが、追っ手が迫るのをヒルトは
追い詰められた動物のように直感したのかもしれません。

彼らが降りた後、カナダ警察が車両を捜査にやってきて、
車掌に聞き込みを始めました。

やっぱりヒルトのドイツ訛りが怪しまれたようです。

群衆が集まる広場の上のバルコニーに、突如現れた
自称「マウンテンポリス」、正確にいうと、

王立カナダ騎馬警察/王立カナダ国家憲兵(Royal Canadian Mounted Police RCMP)

のオフィサーが、いきなり、

「この中に3名の我が国の敵がいます!」

そして見つけたら通報してほしい、とアナウンスします。

「彼らはあなたの隣に立っているかもしれません!」

そして人相風体などを細かく話し出すではありませんか。

「周りをよく見てください。その場を動かないでください」

「一人は背が低く縄で縛った荷物を持っていて」

「彼らは無抵抗の人間をもう11人殺しています」

次の瞬間、慌てて荷物を捨てたクランツは群衆に取り押さえられました。

これでまた一人脱落し、残るナチスはヒルトとローマンの二人です。

騒ぎに乗じてその場を逃げ出した二人は、いつしか湖畔に彷徨い出て、
湖でボートでのんびり釣りをしているインディアン研究者の
スコット(レスリー・ハワード)に出会います。

休暇にきたと偽る彼らを、スコットは自分のテントに招待しました。

休暇中と言いながらこんな格好でしかも手ぶら、しかも挙動不審。
スコットってもしかしたら疑うことを知らない人?

ピカソの「母と子」やマチスの本物があり(なぜ?)
クラシック音楽がラジオから流れるテントで、スコットは、ヘミングウェイや
トーマス・マン(マンはナチスが政権を握ると亡命した)について語るのでした。

富裕階級のいわゆる高等遊民というところでしょうか。(上級国民じゃないよ)
芸術至上主義のエピキュリアン、おそらく芸術のパトロンでもあるに違いありません。

夕食の前にと勧められた簡易シャワーを使いながら、
そんなスコットをヒルト大尉は軟弱だと心から馬鹿にします。

「あんな芯まで腐った男がいるなら、カナダは戦うことすらできんな」

「それは弱さと怠惰だ!俺は・・冷水を浴びる!」(バシャ)ヒィ((ll゚゚Д゚゚ll))ィ!!!

ヒルト大尉ったらお茶目さんなんだからー。

波乱は食後に起こりました。

スコットが専門のインディアンの部族の慣習を語るついでにゲッベルスの物真似をし、
ヒトラーを揶揄し始めると、ヒルトの表情が一層険しくなりました。

硬い態度で戦争に行かないスコットに臆病だと罵るヒルトに、彼は快活に、

「うーん、今日は新しい発見があったな。
初対面の人を夕食に招待し泊めてあげたら好感を持ってくれるものだと思ってたけど、
僕はもしかしたら自惚れていたのかな」

ヒルト「どうしてここまで言われて殴りかからないんだ」

「人間には話し合って解決するという能力があるからね」

とか言っていたらいつの間にか後ろから銃を突きつけられてるし。

「これはこれは。(Well, well, well,)こりゃあ初体験だな」

だからそういう態度が気に入らんのだ、とばかりヒルトは、

「戦争も嫌なことも5千マイル遠くで起こっていると?
それはこのテントの中でも起こっているというべきだったか?」

「・・・?」

「君はハドソン湾でUボートが撃沈されてドイツ軍が逃げたニュースを?」

なるほど、道理で傲慢で愚かで礼儀知らずなはずだ、と薄笑いを浮かべ、
皮肉る彼を怒鳴りつけ、
本棚に両手を縛り付けてしまいました。

ローマンが銃を突きつけながら、

「すみませんスコットさん。
我々はいまだに未開の部族のやり方を踏襲しているんですよ」

と丁寧に皮肉るのが不気味です。

こんな事態でもスコットは怖がる様子一つ見せず、
逃亡のために二人が彼の服をあさろうとすると、

「君らには似合わないよ」

財布から金を取ろうとすると、

「悪いね、現金があまりなくて・・領収書くれる?」

全く怖さを感じないね、と嘯いていた彼が表情を変えたのは、
ローマンがマチスの絵を蹴飛ばしたときでした。

こわい・・

「戦争はそのうち終わるが、芸術は永遠だ、ですか?」

そう言うや、ローマンくんたら、ライフルの銃床でマチスを破り、
ピカソを膝で叩き割って火にくべてしまうじゃありませんか。

うーん、この物知らず。というか無知とは贅沢なことよのお。

ついでとばかりトーマス・マンの本とスコットの研究も火に放り込み
(本国に次いでカナダの山中で再び焚書されるトーマス・マン・・)

ご丁寧にスコットの口に紙を突っ込んで、彼らは去っていきました。

スコットのテントから馬の鞍を盗んで逃げようとした二人ですが、
物音で他のテントの人々を起こしてしまい、逃げ惑って右往左往。

そのうちローマンがヒルトに罵られっぱなしなのにキレて、

「黙れ!」

「そっちに行くな!」

「あんたはもう俺の上官じゃねーよ!」

などと逆らい始めます。

そしてついに水兵が大尉のの後頭部を殴り倒すという下克上へと。

その間、逃げるローマンを緊縛を解かれたスコットと
テントのメンバーが皆で追い詰めていきます。

スコットは、ローマンの持っている銃に残っている弾丸、
4発を全て撃たせるため、潜んでいる洞窟に近づいて行きました。

全くたじろぐことなく飄々と歩を進めるスコット。

バン!

「One.」

ズギュン!

「Two.」

バン!

「Three.」

この時のハワードの演技は、言うなればシェイクスピア俳優でもあった
彼の真骨頂ともいうべきもので、おそらく英米のみならず、
全世界のファンはこの勇姿に胸をときめかせたことでしょう。

ちなみに、この映画の2年後となる1943年6月1日、戦争が始まってから
各地で兵士達を応援する講演活動を行なっていた彼が搭乗した
リスボン初イギリス行きの飛行機が、ビスケー湾の公海上で
ルフトバッフェ(ドイツ空軍)のユンカースJ 88に撃墜されて墜落。
レスリー・ハワードは50歳の生涯を閉じました。

最後の4発目が太腿をかすりましたが、
もう弾はないと知っている彼は一人洞窟に入って行き、まず、

「ああ、君だったか。もう一人が良かったんだがな」

というなり、襲いかかってきたローマンを

「トーマス・マンのお返しだ!」

「マチスの分だ!」

「これはピカソだ!」

「で・・これは僕の分だ!」

と叩きのめしてしまいます。(映像はなく声だけ)

二人には軟弱と見えた男は、ひとたび愛するものが棄損されたとなると、
侵害者を決して許さず、決然と武力を行使するのでした。
それはそのまま外敵に立ち向かう国体の姿の比喩となっています。

そして、足を引きずりながら洞窟から出た彼は

「ああ、実に公平な対決だった。
かたや武装した『スーパーマン』。
対して武器を持たない退廃的な民主主義者さ」

コミック「スーパーマン」が最初に世に出たのはこの3年前。
すでに全世界で大人気になっていました。

この両者の立場が『公平』であるとはどういう意味かというと、
つまり民主主義がいかに強いか、と言いたいのだと思われます。

そして最後に。

「さて、ゲッベルス博士ならこれをどう説明してくれるかな」

一人になって北緯49度線を目指すヒルト大尉に、
ドイツのラジオから鉄十字を授与する旨呼びかけがなされました。

カナダが国を挙げて行方を追う一方、ドイツからは
彼の支援が公然と表明されて、いまやヒルト大尉は時の人です。

 

ところでいまさらですが、日本語映画字幕では「ロイトナント」を中尉と訳しています。
前にも説明したようにドイツ軍のロイトナントは実は少尉なのですが、
潜水艦のナンバーツーが少尉のわけはありません。

おそらく映画ではイギリス軍のLiutenantつまり大尉であるという設定なのだろうと
独自に判断したので、当ブログではヒルトを大尉としています。

「ヒルトはどこに?」

失踪してから48時間が経ち、メディアがその存在を報じる中、
当人は、なんとナイアガラの滝の近くを走る貨物列車に乗っていました。
必死に西海岸に近づいたのに、また東に飛んでとんぼ返りとはご苦労なことです。

そのとき列車の貨物室になぜか闖入してきた乗客あり。

ポスターに描かれた3人目の「主人公」、レイモンド・マッセイ演じる
アンディ・ブロックは、軍籍に身を置いており、休暇後の警護任務のために、
ナイアガラ運河に向かう途中でした。

ちなみにマッセイはカナダ出身の俳優ですが、これが、
役柄でカナダ人を演じた唯一の映画だったということです。

スコットから盗んできたスーツを着ている彼を見て、

「素晴らしい自家用車を持っていそうだな」

と気を許した様子。

貨物列車に潜み、顔に傷を負っている男を怪しみもしません。

油断していたら、ヒトラーの悪口を言いながら軍服着替えているところを、
後ろからヒルトに銃で殴られてしまいました。

なんのためって、そりゃ軍服を奪うためですよ。
まさか逃亡中のナチスがカナダ軍人の格好をしているとは誰も思うまいってか?

そのとき列車はカナダ側のナイアガラの滝駅に到着しました。

ヒルトが物陰でブロックに銃を突きつけていると、
車掌が荷物を見回りにきて、車両に鍵をかけて行ってしまいます。

汽車は国境を超え、アメリカに入国します。

まさにヒルトの思う壺。
思わず喜んでハイルヒトラーしてしまう根っからナチスのヒルトでした。

「我々は軟弱な民主主義に勝った。
民主主義国の君たちの、薄暗い、濁った心には及びもつかない、
我々の内側にあるものによってだ。

すべてのアーリア人を結びつける血と人種の輝かしい神秘的な絆について、
君は何を知っているというのだ?」

カナダ人のおっさん一人を相手に高らかに勝利宣言するヒルト。

2輌しかない貨物列車はまさにナイアガラの運河を渡りつつあります。

アメリカに向けて・・・と言いたいところですが、このカット、
どちらもアメリカ側から撮られており、列車はカナダに向かっています。

さらにさきほどブロックがこぼしていた軍隊の食事などの愚痴について、
貴様らの国は劣等であると揚げ足を取ると、いきなりブロックが反撃に出ました。

「ゲシュタポに監視されているお前らにはそんな文句も言えまい?」

好きなものを食べて自由に話す権利がある、
抵抗する自由、不平を言う自由、それが民主主義だ、と。

ヒルトがぐっとつまっていると、列車はアメリカ側に到着しました。

見回りにきたアメリカ側の税関職員二人に、ヒルトは軍帽を脱ぎ捨て、
銃を二人に渡し、ドイツ領事館の身分保護を要請します。

え・・・?

じゃなんでわざわざブロックの軍服を奪う必要があったんだろう?
もしもに備えてかしら。

彼はアメリカの法の下、たとえ軍人であっても、
ドイツ市民として自分の身分は保護されると主張したのです。
戦時下ではない当時、それは確かに合法でした。
(引き渡し法もなかったと思われます)

このまま送り返せ、と叫ぶブロックに、法は法だからな、と職員。

「貨物の点検をするのが我々の仕事だ」

という言葉尻を捉え、ブロックは

「それなら貨物の目録にこいつは載ってないだろ?」

「・・・そうだな、確かに載っとらん」

税関員は列車をカナダに送り返す、と宣言しました。
とんちかよ。

ありがとうと叫ぶブロックに、彼は

「我々は任務を行なっただけですよ、兵隊さん」

「法律違反だ!」

と叫ぶヒルトに、喜色満面のブロック。

いや、これカナダまでナチスと二人で閉じ込められてるのよ?
いくら銃は税関職員にわたしてしまったとはいえ、怖くないの?

と思ったらご安心ください。
すっかりヒルト大尉、怯え切っております。

そして、バリバリ現役兵士のブロックは、軍帽を拾って被り、

「手を上げろ、ナチ公」

後ろの扉にしがみ付いていたヒルトがホールドアップすると、

「違う、そういう意味じゃない」

とファイティングポーズを取り、

「ズボンを返せ、とお願いなんぞしないぜ?

・・・・奪ってやる

この作品は、アカデミー賞を受賞した数少ない第二次世界大戦の潜水艦映画、
と言われているそうです。

確かに国策映画としては非常によくできていると思いますし、
エンタメとして面白いのは認めますが、
これを潜水艦映画のジャンルに入れるのはいかがなものでしょうか。

 

それと、最後の舞台となったナイアガラの滝は、北緯49度線上にありません。

 

終わり。

 


映画「北緯49度」(潜水艦轟沈す)2日目

2021-09-13 | 映画

           

第二次世界大戦時のイギリス政府による国策啓蒙映画、
「北緯49度線」(邦題『潜水艦轟沈す』)2日目です。

カナダ北部で商船を攻撃していたU37がカナダ国防軍に轟沈させられ、
たまたま上陸していたため生き残ったナチスの残党6名。

ハドソン湾の交易所を襲い、やってきた水上機を強奪して
逃亡のため全員が乗り込んだ、というところまできました。

 

2日目のタイトルにはこのナチス残党メンバーを描いてみたのですが、
「Uボート」や「メンフィス・ベル」のような戦争ものあるあるというか、
メンバーがたくさん過ぎて一度見ただけではキャラクターの見分けがつきません。

たとえば昨日、ヒルト大尉とクネッケ大尉が言い争う様子を冒頭絵にしたのですが、
わたしは2回目以降細部を見直すまで、ヒルトの相手が私服であることから、
てっきり交易所のカナダ人だと思い込んでいました。

え?ちゃんと観てなかったんじゃないかって?

さて、続きです。

ナチス一行は唯一操縦ができエンジニアなので全てを熟知している、
と豪語するクネッケ大尉に水上機の操縦をさせ、

ハドソン湾を飛び立とうとするのですが、いかんせん人多杉。

山ほど人と食料を乗せているので湖をぐるぐるするだけで
なかなか飛び立つことができません。

「重量超過だ!何か捨てろ!」

 

しかしそれくらいではまだ飛べません。
クネッケは全て、つまり銃を捨てることを要求しました。

そのとき、やられた仲間の復讐をせんと、
このイカしたヘアスタイルをしたエスキモーの兄ちゃんが・・・

銃を廃棄するためにフロートに立っていた水兵を狙撃しました。

ここで一人脱落。
ジョニーを殺害したヤーナーです。

因果はめぐる。

一人が水中に没し、重量を減らした水上機は、やっとのことで
離水しハドソン湾を出発することができたのでした。

ようやく水面から飛び立った飛行機は、順調に飛行を続けていました。
しかし何人かが後ろで爆睡を始めたころ、突如機体が異常に見舞われます。


一度給油を行った(どこで?)にもかかわらず、ガス欠になってしまったのです。

ヒルト大尉はさっそく、給油の時に非常用タンクを確認したのか?

とクネッケ大尉にしつこく畳み掛けます。

『何でもできる俺』でクネッケにさんざんマウントを取られていたせいもあって、
ヒルトのこのときの逆上ぶりは常軌を逸しています。

クネッケ大尉はウゼー!とばかり、

「それを確認したかしなかったかが何だ?」

と開き直ってキレまくり。
ヒルト大尉、さらに激昂して、

「確認したのかしなかったのかどっちだ!?」

「ああ、してねーよ!(それがどうした)」

ちょうどそのとき燃料計がゼロに(笑)

緊急着陸を余儀なくされてしまいました。

「どうするんだ?」

「俺だってミスはする!司令官のお前があとは何とかしろ」

「お前のせいだああ!」⇦ヒルト大尉

佐清状態

なんとか機体を湖まで運ぶことまではできましたが、
頭から墜落してしまいました。

一瞬にして修羅場となった機内。
比較的冷静なフォーゲルが外から機体を破いて脱出成功です。

この中の一人の俳優は泳げなかったのでマジで溺れかけているそうです。

そして結局、操縦していたクネッケ大尉だけが亡くなりました。

このとき、溺れ死んだ彼の肩を持って二人の水兵が岸まで運びますが、
よく見ると死んだはずのクネッケ大尉の脚がちゃんと動いています。

遺体を前に、ヒルトは一言呟きます。

「これがクネッケという男だ」(So, that's Kuhnecke.)

先ほどジョニーに十字架を渡したフォーゲルは、遺体に十字を切りますが、
ヒルトの視線に気がつくと慌てて元に戻ります。

ナチス原理主義のヒルトに対して、キリスト教徒であるフォーゲル、
この二人はイギリス的価値観により「悪と善」と位置付けられます。

着の身着のまま無一物で彷徨していると、広がる小麦畑が現れました。

一同はそこにいた娘、アナに職探しの季節労働者と思われたのを幸い、
フッター教徒のコミュニティに入り込むことに成功しました。

彼らが荷物を何も持っていないのに疑問も持たないのは、
彼女がまだ15歳(2日後に16歳)だからでしょう。

フッター派というのは、火焙りの刑に処されたヤーコプ・フッター(1500-1536)
を開祖としたキリスト教宗派で、カナダを中心とする北米に分布し、
主として農業を共同で営んでいます。

●高度な農業技術を有し、自給自足はもちろん農産物を外部に販売している

●隔絶的な生活、信仰と固有の文化に固執する

フッター派ドイツ語独Hutterisch, 英Hutterite German)を固持する

ヒルトが案山子の頭に使われた新聞紙を見てドイツ語だ、と狂喜しましたが、
それはフッター派ドイツ語だったというわけです。

問題は彼らが

●文化の同化をしないという関係で、政治には一切かかわらない

ということなのですが、そんなところヒトラーの落とし子たちが
混入して、一体どうなるのでしょうか?(予告編風に)

客としてとりあえず彼らは食堂に案内され、貪り食います。
パンは高坏のような台に乗せられたのを各自取る仕組み。

しかしフォーゲルはパンを一口かじって微妙な顔を・・。
実は彼、シャバではパン職人だったのです。

「不味くてすまんな」

話しかけてきた隣のおやじは、この共同コミュニティが
各自の得意分野を無償提供し合うというルールを説明します。

「靴屋は靴を、鍛冶屋は鍛冶をという具合にな」

「あんたの専門は何だ」

「俺か・・パン屋だ」

気まずい。
二人は無言で互いから目を逸らしそそくさと食事に集中するのでした。

彼らはグループのリーダー、ピーターに挨拶しますが、
彼にドイツ人かと聞かれなぜか口ごもります。

アナが彼らのベッドを用意しに与えられた家にやってきました。
ところが4人の男ども、手伝うわけでなく、
ポケットに手を突っ込んで彼女を取り囲みます。

このアナ役には最初エリザベス・バークナーという女優がキャストされていました。
しかし本物のフッター派コミュニティの村でロケが行われたとき、
彼女がネイルをして煙草を吸っていたのに怒ったフッターの女性に平手打ちされ、
怒って役を降りたので、代役として出演したのがこのグリニス・ジョンズでした。

さて、アナは彼らに、ドイツ人の母親がカナダに移住する際、乗っていた船が
ナチスの魚雷によって沈没し、亡くなったということを打ち明けました。

無神経に『船は粉々になったのか』と聞くローマンとクランツを、
彼女に同情的なフォーゲルはたしなめます。

とりあえず落ち着き場所を得たので、ナチス一行は
シャツにパンツの寝巻き姿で作戦会議を行いました。

なぜか、リーダーのピーターはドイツのスパイに違いない!
という自分たちに都合の良い意見に達して会議終了。
おやすみなさいのハイルヒットラーを行います。

シャツにパンツ姿のハイルヒットラーシーンは、
戦争映画数多しといえどもこれだけに違いありません。

ベッドに入ったヒルトが、

「我々の今回のことはのちにヒトラーユーゲントの教科書に載る」

などと言い出しますが、フォーゲルは

「我々が沈めた船には女や子供が乗っていたんですね。
交易所では無抵抗の男を殺してしまいましたし」


「これは戦争だ。女子供も敵だ。
ビスマルクを読んだことないのか?
『涙を流すのは目だけにせよ』とな」
(Leave them only their eyes to weep with.)

ついでに、お前は任務を果たすには人情を優先させすぎる、
クランツを見習ってはどうだ、と説教します。

次の朝、目覚めるとフォーゲルのベッドは空になっていました。

驚いたヒルトがクランツに彼を探しに行かせると、フォーゲル、
何とパン焼き場で昔取った杵柄とばかり、パンを作ってます。

15年のキャリアを持つ彼の腕は全く衰えておらず、
その出来上がりは人々を驚かせ、喜ばせました。

今手が離せない、と呼びつけを無視したため、
ヒルト大尉が現場にむかつきながらやってきますが、
周りの皆がフォーゲルを褒めそやすものだから、つい、

「おめでとうフォーゲル、適職だな」

と言わざるを得ませんでした。

問題はその後です。
敬礼こそしなかったものの、つい習慣で、ナチスドイツの
カチッと踵を打ち合わせるポーズをしてしまうフォーゲル。

それを見ていたのは・・・リーダーのピーターでした。

そしてその日行われた会合で、波乱が起こります。
周りがドイツ系であるというだけで、何を勘違いしたのか
ヒルトが演説をぶち始めました。

曰く、他の民族は劣っている、我々はドイツに忠誠を尽くすべきだ。
東方から起こる嵐は全世界に新しい秩序をもたらすであろう。
その時力強く太陽は昇るのだ云々。

「太陽って何のことだね」

ドン引きした聴衆の一人が聞くと彼らは立ち上がり、

「ドイツ人たちよ!兄弟よ!
我々の栄えある総統閣下に敬意を!」

「ハイル・ヒトラー!」🙋‍♂️

「ハイル・ヒトラー!」🙋‍♂️ 🙋‍♂️👨←フォーゲル

あーやっちゃったよ。ハイルヒトラーやっちまいましたよ。

静まり返る一座、気まずい雰囲気。
そりゃそうだよね、彼らはドイツ系かもしれないけどドイツ人じゃないし、
ましてやナチスでもないわけだから。

リーダーは静かに、我々がここにいるのはヨーロッパでの迫害、
貧困から逃げてきた、あるいは宗教的な理由であるが、少なくとも
ここで安全と平和、寛容と理解を得てきた、それは
君らの総統によって踏みにじられたものだ、と語ります。

「しかし我々はドイツ語を喋りドイツ語を読みながら君たちとは別だ。
君たちの『兄弟』ではない。
世界に疫病のように広がり人々の自由を奪うヒトラー主義は受け入れられない」

ここで下っ端の二人が暴れだすという展開はなく、
静かに場面は転換します。

もし現実なら無事にこの場がおさまるはずがないと思いますが。

グレタさんの上位変換

その晩、アナは彼らの居室にやってきて、彼らに激しく迫りました。

「あなたたち、ナチスなのね?」

「たとえ教えに反するとしても、わたしはあなたたちを憎むわ!」

母だけでなく、彼女の父親もまた言論弾圧でナチスに殺害されていました。

警察に通報する、という彼女の言葉にいきりたつ下っ端二人。
しかし、フォーゲルは彼女をかばい、部屋から連れ出します。

キレちまったよ

「・・・許さんっ!」

一方アナを家に送り届けたフォーゲルに、リーダーのピーターは、
君のような善良な人間がなぜ彼らと一緒にいるんだ、と聞きます。
そして彼らと別れてここで暮らすことを勧めました。

フォーゲルは喜び、一旦自首して拘留を済ませたら帰ってくるといいます。

翌朝、フォーゲルはパン焼きの仕事をしていました。
粉をこねる合間に、彼がオーブンに入れたのは『Anna』の名前入りパン。

今日はアナの16歳の誕生日だからです。
ということは、彼らがここにきてまだ2日目ということになります。

そのとき彼の背後にナチス兵、ローマンとクランツが立ちました。

「機関室技術兵(Artificer)フォーゲル!逮捕する」

「貴様は第三帝国を裏切った。
正式な裁判所の決定はないが、私が上官の権限で死刑に処す」

何か言い遺すことは、と聞かれ、ただ宙を仰ぐフォーゲル。

「総統の名の下に直ちに処刑する」

続いて銃声が二発、朝の湖に響きました。
フォーゲルを連れてきた部下はその直前まで武器を持っていなかったのに・・。

まあ細かいことはこの際よろしい。よろしくないけど。

彼らは食料のたっぷりあった村から、なぜか何も持たずに手ぶらで出発し、
テクテク歩いて北緯49度線に近いウィニペグにたどり着きました。

実際に冬場、ナイアガラの滝に行ったことのあるわたしが断言しますが、
真冬、徒歩でカナダの湖沿いを野宿して移動するなど
全く不可能です。

しかしこの際細かいことはよろしい。というかもうどうでもいいや。

繁華街のニュース掲示板では、彼らが乗り捨てた飛行機が見つかり、
逃亡しているナチスの残党のことが報じられています。
人混みに紛れてそのニュースを見るヒルトの姿がありました。

ヒルトが客船の切符売り場にに様子を見に行っている間、クランツとローマンは
ふらふらとと隣の食料品店のウィンドウに吸い寄せられていきます。

目を背けてもそこにはナッツ屋、フィッシュ&チップスの店、
チャプスイ(アメリカ風中華)屋、ステーキハウスのネオンが
これでもかと瞬いているのでした。

彼はヒルト大尉の双眼鏡(たぶんカール・ツァイス製)を売って
食料を買うことを勝手に判断しました。

しかしこの「独断」はことのほかヒルトを喜ばせました。

「よくやったローマン。
双眼鏡の使い道としてこれ以上の方法はない」

双眼鏡は結構な値段(当時の7ドル)になり、(ドイツ製ですから)
おかげで彼らは温かい食べ物にありつくことができたのです。

「は、我々はこれで未来をよりよく見ることができます」

誰が上手いこと言えと。

腹を満たしながらヒルトは彼の考えた計画を打ち明けました。

国境付近は警戒中なので、2000キロ移動してバンクーバーに向かい、
そこから来月出航する日本の船に乗ってロシアに逃れ、そこで味方を見つける。

それにしても2000キロ、どうやって移動するつもり?と思ったら、

歩いてるし。

荷物を持たないで、しかもこの軽装、手袋もコートもなしでカナダの荒原を。
真冬にエリー湖畔に行ったことのあるわたしに言わせると(略)

ずっと歩いていたら寒さを感じないのかしら。
それとも心頭滅却すれば火もまた涼しの反対?

そしてあっという間に彼らレジャイナ(Regina)に到着しました。

ちなみにウィニペグ空港からレジャイナ空港まで577キロ、
グーグルマップによると徒歩だと123時間34分かかるわけですが、
彼らがどこで眠り、何で食い繋いでこれだけ歩いたかは謎です。

というか、歩いている間に周りの雪は消え、季節はいきなり夏になっています。

そのとき彼らが休んでいるその近くで運悪くタイヤをパンクさせてしまった車が。

中には新品の洋服(しかもスーツ)がぎっしり。
もうこれは彼らにとってカモがネギ背負って飛んできたみたいなものです。

それにしても車の持ち主、よりによって、なんて運の悪い人なんでしょう。

ほくそ笑んだ彼らは、タイヤ交換を手伝うフリして、
後ろからスパナで後頭部を一撃!

不思議なことに、車にはスーツのみならず帽子やネクタイ、
シャツにベルトに靴まで、彼らのぴったりサイズが揃っていました。

何日間も風呂に入っていないはずの彼らが、どうしてこう
髭も剃ってこざっぱりしていられるのかも大いに謎ですが。

列車は風光明媚なカナダの山間部を走っていきます。
気のせいかまた季節が冬になっているような気がしますが、
この際細かいことはいちいち気にしないで話を進めましょう。

 

続く。

 


映画「潜水艦轟沈す〜北緯49度線」

2021-09-11 | 映画

          

できるだけ世間からは忘れられた無名の戦争映画を紹介する、
というのが当ブログ映画部のポリシーの一つでもありますが、
その中でも今回の映画は無名度においては際立っています。

わたしもそうでしたが、おそらくみなさんの中で、この映画を
元々知っていた、観たことがある、という方もあまりないのではないでしょうか。

「潜水艦轟沈す」

とりあえずタイトルとパッケージから受ける直感で選んだこの作品ですが、
日本語タイトルが案の定タイトル詐欺そのものでした。



原題は「49th Parallel」

北緯49度線とは赤道面から北に49度の角度をなす緯線であり、
そこには知る人ぞ知るアメリカとカナダ国境があります。

この国境が映画にとって重要なファクターとなるわけです。

いや、確かに潜水艦は轟沈するんですが(笑)
映画のタイトルとしては
全く内容を言い表しているとはいえません。

というわけで、またしても日本の映画配給会社のセンスのなさに
絶望する羽目になった、ということをお断りした上で始めることにしましょう。

「本作品を制作に協力してくれたカナダ・米国・英国の全ての政府と人々に捧げる
そして我々の物語を信じて演じるために世界中からやってきた俳優たちにも」

という字幕が、雪山の空撮に重なります。

この映像とともに始まる音楽が素晴らしい。

Ralph Vaughan Williams: 49th Parallel (1941)

映画最初の出だしの音楽、しかも数小節でこれほど心を掴まれる例もそうはなく、
ほおー、と感心して聴いていたら、字幕に

 Ralph Vaughan Williams (レイフ・ヴォーン・ウィリアムズ)

と出てきたのでのけぞりました。

ヴォーン・ウィリアムズは、ホルストと並ぶイギリスで最も有名な作曲家です。
「グリーンスリーブスによる幻想曲」と言う作品が有名ですが、
本国では「惑星」のホルストよりも評価されているくらいです。


これだけで、作品の内容そのものに期待してしまうではありませんか。

ちなみになんとなく認識していたこの名前ですが、「ヴォーン」は
ファーストネームとかマザーネームではなく、ウェールズ特有の
『二重姓』で、ついでにファーストネームは「ラルフ」と書いて
「レイフ」と読むということを今回初めて知ることになりました。

そういえばレイフ・ファインズという俳優もRalphと書きますね。
これはイギリス風の古風な発音によるものなのだとか。

映画音楽の演奏は安定のロンドン交響楽団です。

そしていきなり北米の地図が現れ、モノローグが始まります。

「大陸を横切る1本の線がある。
連なる砦も、川も山も何もない。
それは100年前に取り決められた国境だ。

境界に隔てられた両国は同盟国である。
北緯49度は世界で唯一軍不在の境界だ」

映画のポイントがあくまでもこの国境線にあるというダメ押しです。

空撮は映画の舞台、セントローレンス湾を映し出します。

そのセントローレンス湾に突如浮上したのはドイツ海軍のU-37。

浮上シーンは実写で、これは捕獲されたUボートが搭載していた
ナチスのニュースリールの映像ということですが、撮影に使われたのは
ハリファックス造船所で建造された実物大レプリカなのだとか。

レプリカは空のオイルバレルを2トン分使って10日で制作したもので、
輸送するために五つのパートに分けることができる仕様となっていました。

映画が制作されたのは1941年。

1939年のポーランド侵攻を受けて制作された国策映画というもので、
カナダ政府もこの制作意図に協賛し制作に協力していたのですが、
いかんせんカナダは国境警備のため、潜水艦を映画に貸し出す余裕はなく、
制作側としてもレプリカで我慢するしかなかったようです。

ちなみに撮影の行われたニューファンドランドは当時まだカナダ領ではなく、
潜水艦の実物模型の持ち込みには関税と輸入税が要求されました。

制作側は知事に直接、ここで撮るのは戦争努力のための映画であると上訴し、
最終的に支払いを免れています。

浮上したU37の甲板に立つナチス将校。

わざわざ浮上して双眼鏡で自分たちが仕留め着底した貨物船を見物です。

「見事だな」「カナダと戦闘開始だ」

とキングスイングリッシュで喋るナチス将校。
おそらく右が艦長で左が副長だと思われます。
本作は、いつもの、

「英語で喋っていますがドイツ語だと思って観てください」

というあの方式ですが、ほとんどの作品がとりあえず
ドイツ語っぽい喋り方を心がける傾向があるのに対し、本作は

「ドイツ語のアクセントの痕跡すらない完璧なイギリス英語」

で押し通しております。

着底した「アンティコスティライト」号は早速ハリファックスにある
カナダ国防省の合同作戦室に無線を打ちます。

ところで、この沈められた船、さっきのカットと全く違う形ですよね?

そして哨戒機、駆逐艦などが派遣されました。
これはなぜかアメリカ陸軍のマークをつけております。

救命ボートに乗り込んだ船員たちを、司令官は呼びつけます。

一番高位の二等航海士に尋問を加え、船名と行先、
そして積荷が原油であることを聞き出します。

そこで自分を撮影しているカメラを怒りに任せて海に叩き落とした二等航海士、
すぐさま海に叩き込まれてしまいました。

ただの箱だよね

ちなみにこのときのカメラは本当に海に叩き落とす関係上、
ドイツ製なのに日光カメラにしか見えない代物です。

しかし感心にも?遭難者たちに攻撃を加えるわけでもなく、潜航していきました。

さりげなく部屋にはヒトラー総統が子供の頬を撫でている写真。
うーん、いくらゴリゴリのナチス党員でも、こういう写真を艦内に飾るかな。

潜航中の司令室では、司令官と艦長が、身を隠す場所を協議しています。
おそらく副長のエルンスト・ヒルト(Hirth)大尉は、ハドソン湾を提案しました。
説明はありませんが、水深があり、島が多いからだと思われます。

しかし氷山の多い海域、潜航は危険だ、とベルンスドルフ司令。

ハドソン湾のフィヨルドの奥の浜にたどり着いたU37ご一行様。
ベルンスドルフ司令はヒルト大尉と補佐のクネッケ大尉率いる6名を上陸させ、
交易所を占領して食料と燃料を調達するように命じました。

「君たちはカナダに足跡を残す最初のドイツ軍だ!
ドイツ軍の名に恥じぬ振る舞いを!
各自が任務を全うし総統閣下の壮大な理想実現に貢献せよ!
今日は欧州、明日は世界を征服する!」

「ハイル・ヒットラー!」

とかやっていたら、しっかりカナダ防衛局には足がついていて、
攻撃機がやってきてしまったじゃありませんか。



景気良く爆弾を投下する爆撃隊、そしてあっという間に「潜水艦轟沈す」。
タイトルにあるわりに、潜水艦が出てくるのはここまでです。

ダミーの潜水艦の爆発シーンは本物の飛行機を使って行われましたが、
爆発と飛行のタイミングが合わず、飛行機は何度も基地と現場を往復したそうです。

呆然とする上陸チーム。
つまりこの6名を除いてドイツ軍は壊滅してしまったのです。
もちろん彼らの住居でもあった潜水艦とともに。

「カナダの豚野郎!」

と叫んでヒルト大尉に頭を叩かれるヤーナー水兵。

つまりなんですか。
この話は、潜水艦が轟沈した後、敵地に取り残されたUボート乗員が
一人一人脱落していく、というサバゲー趣向かな?

さて、その襲撃目標であるハドソン湾沿いの村の交易所。
人懐こいエスキモーのニックが入り込んで勝手に料理しています。

そこにやってきたのはカナダ人ファクター。
そのとき風呂場からフランス語の鼻歌が聞こえてきました。

風呂に入っていたのは猟師ジョニーでした。

ところでわたしはこのフランス系カナダ人という設定のヒゲモジャの原始人が、
あのローレンス・オリヴィエ卿だと理解するのに大変な時間を要しました。

毛皮を獲る猟師で1年ぶりに帰還してきたという設定ですが、これはひどい。

少し解説しておくと、この映画はナチスの脅威に対して、
国際的に認識を高めるというのが目的で、英国情報省が依頼したものです。

しかし1940年当時、ヴィシー・フランスがドイツと同盟だったことから、
ケベック州の多くのフランス系ドイツ人は圧倒的に親ドイツでした。
映画はそういう層に対していわゆるプロパガンダを行う目的で作られています。

この映画に出演している最も有名なスター、オリヴィエ卿の役が、
フランス系カナダ人であるという設定は、まさしくその意図を感じさせます。

風呂に入り髭を剃ってさっぱりしたジョニーは、早速、
交易所の通信係でもあるアルバートとフランス語混じりで世間話を始めます。
ヒットラーは虚勢だけだから戦争にはならない、という浦島太郎のジョニーに、

「あほか、とっくにドイツは去年ポーランドに侵攻しとるわ」

カナダが戦争になるなんて信じられん、ドイツ人だって全員悪人じゃない、
とそれを聴いても相変わらずお花畑のジョニー。
(つまりこれが多くのフランス系カナダ人を表しているのです)

一緒に歌なんぞ歌っていたら、そこにやってきたのは話題のドイツ軍。

エスキモーはいきなり立ち向かって銃床で殴り倒されてしまいます。
ひでーことするなあ、おい。

一晩交易所を占拠し、ヒルト大尉はここからの脱出法を聞き出しますが、
答えは、

「船は1年に一度、次は7月」

というご無体なもの。

そうこうしていると、ミシガン州の通信所から連絡が入ります。
お互い氷に閉じ込められているもの同士、彼らは無線で
3日おきにチェスをしているのですが、ヒルトが無視することを命じると、
クネッケ大尉は、

「無線が通じなかったら事故があったと判断して連絡がアメリカに行くぞ。
そうしたらU37の撃沈が知れ、追っ手が来る!」

だから奴らにチェスをさせろ、と主張しました。

ここでの意見の食い違いは、クネッケ自身が言うように、理想主義のヒルトと、
エンジニア出身で船にも通信にも飛行機にも(自称)詳しい、
現実主義のクネッケの人間性の違いであり、おそらく日頃の対立が根にあります。

ジョニーは見張りの若いドイツ兵、ヤーナーをからかっています。
最寄りの駅名が「チャーチル」だと聞き、条件反射で
「チャーチルッ!」と憎々しげに呟いてしまう彼にウィンクしたり、

「なあ、ベルリンでは皆こうやって歩いてるのか?」

「そうだ」

「あ〜・・・(ニヤリと笑って)なんで?」

そして、銃を持ったクネッケ大尉が横に張り付いて、

「あまり良くない手だ。次の手は?」

などと仏頂面でツッコミを入れながら見守る、
妙なチェスシーンが展開されるのでした。

このせいで、わたしはこのシーンまでは、

「もしかしたらドイツ兵と現地の人のほのぼの交流の展開もありか?」

と、儚い期待をしてしまったことを告白します。

ヒルト大尉は駅への案内を拒否するジョニーに、

「フランスはドイツに降伏したのだ。
フランス系カナダ人も
フランスから開放されて自由になるべきだ」

と独善的に言い放ち、

ヒトラーの「我が闘争」を恭しく出して(よく持ち出せたな)、
これが聖書である、などと「布教」を始めたりします。

そのときです。

無線のチェス相手の奥さんが、新聞を見て騒ぎ出しました。
ハドソン湾でUボートが哨戒機によって撃沈されたというニュースが、
ついにアメリカにも報じられたということになります。

それを知るや、彼らがここにいるということを相手に知らせようとして、
ジョニーは無線に向かって駆け寄るそぶりを見せ、撃たれてしまいました。
彼を撃ったのは、さっきから彼が盛んにからかっていたヤーナー水兵です。

ヤーナーがついでに無線機も叩き壊してしまったため(バカ?)
それを治している一晩中、放置されているジョニー。

ドイツ軍が逃避行のために家中から洋服や食べ物を漁っていると、
そこに定期便の水上機がやってきました。

何も知らずに迎えのエスキモーのカヌーに乗って上陸する
水上機のパイロットたちですが・・

ナチスのお迎えです。
驚いて踵を返し逃げようとした二人を、

「足を狙え!」

というヒルトの注意も虚しく、周りのエスキモーらと一緒に射殺してしまいました。

ちなみにこのパイロット役は本物の搭乗員です。
彼はこの映画出演ののちカナダ軍の航空隊に入隊し、若くして戦死しています。

こちらは交易所に横たわる瀕死の猟師ジョニー。

ヒルトらが部屋を後にしようとすると、縛られているファクターが呼び止め、
同じキリスト教徒ならば、彼に水をやってくれ、と頼みます。

「私はキリスト教徒ではない」

と言いながらも瀕死のジョニーが何か言いたげなのを見て、

「彼は何が言いたいんだ」

「十字架が欲しいんだろう」

ヒルトが

「そんなものが何の役に立つ?」

と言いながらジョニーの口に水を含ませて去ろうとすると、
ジョニーは
最後の息を振り絞り、

「もし・・カナダが戦争に勝ったら、ドイツに宣教師を送ってやるよ」

これは、以前この街にいたドイツ人の宣教師が実はスパイだった、
とヒルトが暴露して聞かせたことに対する意趣返しとなっています。

ジョニーを冷酷な目で見下ろしながら彼の最後の皮肉を聴くヒルト大尉。

ドアの外で聞いていた部下のフォーゲルは、立ち去り際に
素早くジョニーの胸に自分の十字架を置いてやります。

「ありがとうよ、兄ちゃん(Laddie)」

しかしフォーゲルはその後、何を思ったか、次の部屋に貼ってあった
カナダの国王夫妻の写真を
引きはがし、
荒々しく壁に銃剣で鉤十字を刻んで交易所を去るのでした

 

続く。