◎ジェイド・タブレット-外典-05-03
◎天の露-03
『タロットの宇宙/アレハンドロ・ホドロフスキー/国書刊行会』は、タロット好きによるタロットとともに生きる人たちのための本である。アレハンドロ・ホドロフスキーは、タロットの奥義を極めているように見える。
アレハンドロ・ホドロフスキーは、スラブ系のチリ人であって、チリに移民してきた際に近親者が火で亡くなったが、遺骸の上に一枚のタロットカード『戦車』だけが焼け残っていて、それが形見の品になった。
また彼が幼少期を過ごしたチリの漁港には、リトアニアのユダヤ人『狂ったアブラハム』が経営するビリヤード場があって、アブラハムは、いつもその奥のテーブルで、カードで大きな城を作っては、それを壊し、俺は神を真似て創造と破壊を繰り返しているなどと、宣まわっていた。
などなど心の深奥を打つようなタロットカードにまつわる印象的なエピソードで始まる本である。
アレハンドロ・ホドロフスキーはタロットの絵柄にはうるさく、後年真正カモワンタロットの復刻みたいなことをやるが、タロットの向き合い方は心得ていて、タロットを媒介に自分が鏡になることであるときちんとわきまえている。(この本には『いかにして鏡になるか』という一章も設けてある)
そういう点では、彼はすでにタロットカードのくびきは脱していて、またリーディングでは金をとったことはないみたいな雰囲気ではあるので、ちゃんと占断における正統的な作法は心得ている。
こうした点からすると、彼は求道者の用いる神占としてタロットを使っている。
私はタロットの下手の横好きだが、22枚ある大アルカナの16番以降に連続して大気中の天の露(エーテルか)が描かれていることは、この本で初めて知った。22枚全部順序に並べて眺めてみないとそんなことには気がつかない。
C.G.ユングの「個性化とマンダラ」という本の中に、古代人は、意志が弱く、現代人のように意志を固めて能動的に行動するのはなかなかできないというようなことが書いてあった。古代人は意志が弱いので、魂があくがれ歩きやすいということ。
古代人は意志を固めるためにこの「天の露」を集める必要があったのか、それとも離遊の運魂を身体の中府に鎮めるためには、意志を固める必要があったのか。
その意志とは定力なのか。
天の露は、17番目のカード『星』では星の図柄になっているが、星の運行を待ってやる技術もあるので、この星も天の露みたいなものだろうか。
それにしてもタロットの真価は、吊るされ人と愚者にあるので、時を俟(ま)つ技術にことさらにこだわるのは、クンダリーニ・ヨーガ系の技術であることを示している。