国際情勢の分析と予測

地政学・歴史・地理・経済などの切り口から国際情勢を分析・予測。シャンティ・フーラによる記事の引用・転載は禁止。

太田述正コラム <支那化するロシア極東>

2006年05月31日 | ロシア・北方領土

太田述正コラム#1261(2006.5.28)
<支那化するロシア極東(その1)>
1 始めに

 恐るべき勢いでロシア極東部が支那化しつつあることが気にはなりつつ、これまで、一度も触れる機会がありませんでした。そこで今回、この問題を取り上げることにしました。

2 支那化するロシア極東

 (1)概観
 ロシアの2002年の国勢調査によれば、ロシアの支那系住民は、1980年代末の5,000人から、326万人へと急増していることが分かりました。この結果ロシアで、支那系は、ロシア系(1億410万人)・タタール系(720万人)・ウクライナ系(510万人)に次ぐ四番目の民族集団に浮上しました。しかも、その四分の三以上が、シベリアと極東に住んでいます。ロシアと中共は、4,300kmに及ぶ国境線を挟み、シベリア・極東の(これら支那系を含む)1,800万人・・極東だけなら(米国の面積の三分の二の所に)わずか700万人・・のロシア人が、旧満州地方等の2億5,000万人・・東北三省だけでも1億人・・の支那人と対峙している、という状況です。
 ソ連崩壊後、両国の間で国境貿易が活発化しましたが、この貿易は支那商人の独壇場となり、それに伴って支那人がロシアに商用のため、あるいは常駐する形で、更には永住権をとったりロシア国籍をとったりする形で次々に進出して行ったのです。この間、シベリア・極東の生活水準がロシア平均の約半分であること(http://english.pravda.ru/russia/25-04-2003/2663-0。5月28日アクセス。以下同じ)に加えて、ロシア全般の経済状況の悪化に伴う住民の西方への流出と、軍事基地の閉鎖・縮小、更にはロシア全般の出生率低下と死亡率上昇により、シベリア・極東の人口は何百万人のオーダーで減少したので、支那人の進出はなおさら目立ちました。現在既に支那人は、極東の経済の30%から40%を支配しており、とりわけ軽工業は100%その支配下にある、という見方もあります(注1)。

 (注1)香港を拠点とする組織暴力団(triad=三合會)のシベリア・極東進出もめざましいものがある。彼らはロシア系の暴力団を駆逐ないし服属させ、支那・香港からヤミ送金したカネや、現地の支那系や支那人商人からせしめたみかじめ料を中華料理屋・カジノ・ホテル・ホステスバー・売春宿等に投資し経営しているほか、非合法木材伐採・漁労(中日韓に密輸出する)を行っており、極東の人口当たり犯罪発生件数はロシア一高くなっている。なお、アフガニスタン産のヘロインを扱う麻薬稼業はタジク人・カザフ人・チェチェン人等の中央アジア系の暴力団が牛耳っており、三合會もこの分野にだけは食い込めていない。

 中共に加えて、日本や韓国との経済的結びつきも強まっており(注2)、シベリア東部以東のロシアの経済は、今やほとんどロシアの西方地区とは切り離された形で東北アジア経済圏に組み込まれるに至っています。

 (注2)ウラジオストックやハバロフスクやイルクーツク(Irkutsk)では、現在、日本製の右ハンドルの車しか走っていないと言っても過言ではない。

 ロシアは、この支那人の攻勢に戦々恐々としています。何せ、2010年までに、ロシア国内の支那系は1,000万人に達するだろうとも言われている一方、毛沢東やトウ小平が、ロシアは支那から領土を奪っており、ウラジオストック(Vladivostok)や ハバロフスク(Khabarovsk)等は本来支那のものだ、と述べたことがあるからです。支那人のこれ以上の流入を防ぐため、支那商人に対し一旦免除されていたビザを復活をしたり、支那人のロシア国籍取得を困難にしたりする動きがありますが、実効を挙げているとは言えません。
 (以上、特に断っていない限りhttp://www.worldpress.org/Asia/1651.cfm、及びhttp://www.asiapacificms.com/articles/russia_triads/による。)

(続く)
http://www.ohtan.net/column/200605/20060528.html

太田述正コラム#1265(2006.5.30)
<支那化するロシア極東(その2)>
 (2)最新状況
 ここまで読んできた方は、シベリア・極東、特に極東では支那人や支那系の人々であふれている、と思われたかもしれません。しかし、実際にはこれらの人々の姿はほとんど目に付きません。というのは、ウラジオストックやハバロフスクやブラゴヴェチェンスク(Blagoveshchensk)などの都会では、彼らはロシアの排外主義的な若者達に襲撃されることを懼れて自分達の工場や農場(後述)、そしてホテルやレストランやカジノや支那人市場の中に閉じこもっているからです(注3)。

 (注3)もう一つの可能性は、言われているほど、極東における支那人ないし支那系の人口(定住人口)が多くないことだ。4~5万しかいない、という説もある。仮にこの説が正しいとしても、いずれの説によっても、1991年には支那人ないし支那系の定住人口はゼロだった、というのだから、急速に増えていることは間違いない。

 特に彼らが多いのがアムール河(黒竜江)河畔のブラゴヴェチェンスクです。支那側の黒河(Heihe)市との間をジェットフォイル艇が30分間隔で行き来し、支那の日用品を運んできます。この都市では、建設業も支那の一社がほぼ独占しており、現在極東一高いビルを建設中です。また、食糧についても、支那から輸入されるものと支那人がやみでロシア側で耕作している畑からとれるものが全部を占めています。このブラゴヴェチェンスクのあるアムール州(Amursky oblast)は363,700平方kmと日本の面積に匹敵しますが、人口は90万人しかありません。ところが、対岸の黒竜江省(Heilongjiang)の人口は3,500万人にも達しています。 極東全体では、支那側から輸入される日用品や食糧の80%は密輸品であり、ロシア側から輸出される木材もほとんどがそうです。(海産品の分野だけは、ロシアの漁船が活躍していますが、ロシアの税金や関税が高すぎるため、ロシアに水揚げされるものは少なく、大部分はこれまたヤミで日本の新潟や韓国の釜山に流れてしまっており、売上金も日本や韓国の銀行に預けられています。)
 (以上、http://www.atimes.com/atimes/Central_Asia/HE27Ag01.htmlによる。)

3 コメント
 ロシアのシベリア・極東、特に極東で、広義のロシア人が減少していく一方で広義の支那人が増大していく傾向は今後とも続くことは必至であると考えられます。そうである以上、少なくとも極東・・資源の宝庫・・が、今世紀中に熟柿が落ちるように支那の実質的支配下、あるいは完全支配下に入る可能性は排除できません。日本としては、軍事的ないし経済的安全保障の観点からも、可及的速やかに北方領土問題を国後択捉両島は諦める形で解決し、日本が極東やシベリアで、ステークホールダーになれるような緊密な関係をロシアの間で確立する必要があります。また、ロシア側としても、北方領土問題さえ解決すれば、支那に対抗するためにも、日本との関係強化を切望しているはずです。このような政策転換を図るためにも、日本における政権交代が待たれるところです。

(完)
http://www.ohtan.net/column/200605/20060530.html

【私のコメント】
2002年のロシア国勢調査でシナ系住民326万人というのはソースでもそう書いてあるが、何らかの誤りであろう。34557人で52番目の少数民族というのが真実であると思われる。
http://www.hi-net.zaq.ne.jp/nizhniy-kobe/nationalities_runk.htm

北方領土問題はサンフランシスコ条約を厳密に解釈して、1956年以前の日本の要求であった2島返還で決着すべきという太田氏の持論である。これはそれなりに正論であるが、私の見るところではロシアは2島を上回る返還(場合によっては4島全て?)を意図している様に思われる。

私見だが、近い将来にホロコーストや南京大虐殺の捏造が明るみに出て第二次大戦における連合国の正義というウソが通用しなくなることをロシアは覚悟しているのだと思う。そして、その後にソ連が第二次大戦で領土を拡大したことで激しく非難されることをロシアは危惧しているのだと予測する。それ故に、日本とEU以外との国境問題を残して他の全ての国境問題をロシアは解決してしまった。第二次大戦で領土を失った日本・ドイツ・フィンランドに対する領土問題での譲歩をロシアは予定しているのだと思われる。北方領土問題の解決はその一つのモデルになるのだろう。

また、ロシアはソ連から独立したエストニア・ラトビア・ウクライナとの間でロシア系住民の待遇の問題や潜在的領土問題を抱えている。北方領土問題はこれらの領土問題の解決についてもモデルになる必要がある。

私の想像する解決策は以下の通り。

まず、北方領土を返還する際にそれは第二次大戦以前の国境線への全面的回復にはならないことで、ドイツが旧国境線に戻りポーランドが領土を失うことは避けられる。フィンランドもカレリアのうちでラドガ湖北岸地域等の一部のみを返還され、ペテルブルグの目と鼻の先に国境線が位置するという不安定な事態は避けられる。カリーニングラードはドイツに全面返還されてロシア人は引き揚げ、その土地はイスラエル滅亡後の東欧系ユダヤ人の引き上げ先又は欧州共同体の新首都の一つとして発展することになるだろう。

北方領土の日本への返還に際してはそれがソ連による不法占拠であったとの主張を日本が取り下げる事で、ロシアはバルト三国からの不法な併合との非難を避けることができる。北方領土返還に際して現地居住ロシア人の日本国籍取得の自由を認めることで、バルト三国やフィンランドに対しても「領土を返還して欲しいならばロシア系住民に無条件に国籍を取得させよ、国籍取得を認めないなら領土は返還しない」との主張を行うことができる。ロシア系住民の増加を望まないバルト三国は領土返還を断念するかわりにロシア系住民をロシアに引き揚げさせることを選択するだろう。ウクライナについても、クリミア半島の返還要求を取り下げることの引き替え条件として、ロシア語をウクライナの第二公用語として公式に認めさせることができるだろう。結局、ロシアとバルト三国・ウクライナの国境は現状のままで確定することになると予測する。

人口が減り始めたロシアにとって、カリーニングラードやラドガ湖北岸地域、北方領土などの辺境を維持することは日本や欧州との戦争を行うのでもない限りほとんど無意味である。また、バルト三国からロシア系住民を引き上げさせることもロシアの人口減少の痛みを小さくする効果がある。日本・ドイツ・フィンランドの旧枢軸三カ国とロシアの間で既に何らかの合意が出来ているのではないだろうか?

-------------------------------------------------------------------------
これは阿修羅掲示板の投稿を再掲したものです。
http://asyura2.com/0601/asia4/msg/765.html
http://asyura2.com/0601/asia4/msg/779.html

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 5/20にロシア国会で北方領土... | トップ | 北方領土 露TVで四島返還... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿