●ドル覇権の終焉:ロン・ポール下院議員の議会演説 2006年2月15日 (その1)から続く
最も重要なことは、ドルと石油の関係はドルの傑出した地位のために維持されなければならないことだ。この関係へのあらゆる攻撃は従来同様、力強く反撃されるだろう。
2000年11月にサダム・フセインはイラクの石油輸出をユーロ建てにすることを求めた。彼の傲慢さはドルへの脅威であった。彼の軍事力は欠乏しており、決して脅威ではなかった。ポール・オニール財務長官(訳者注:2001-2002就任)によれば、2001年のブッシュ新政権の初回の閣僚会議の最も主要な議題はどの様にしてサダム・フセインを追放するかであった。彼が米国に脅威を与えた証拠は何ら無いにも関わらずである。このサダム・フセインへの深刻な懸念はオニールには驚きと衝撃であった。
911事件後にブッシュ政権は即時に反応したが、それは侵略と政府転覆を正当化するためにどうやってこの攻撃とサダム・フセインを結びつけるかという問題を中心に展開したことは今では良く知られている。911事件との関連性の証拠なしに、更には大量破壊兵器の証拠なしに、歪曲や猛烈な勢いの偽りの陳述によって世論や議会の支持が作り出され、サダム・フセイン政権の転覆が正当化された。
サダム・フセインが原油をユーロ建てで得ることにより準備通貨としてのドルの完全性を攻撃したため、彼の追放に関する公開の議論は行われなかった。米国がイラクに執着した真の理由はこれであると多くの人々が信じている。私はこれが唯一の理由であるとは思わないが、戦争を遂行する動機に重要な役割を果たしただろうと考える。軍事的勝利の直後からイラクの原油輸出は全てドル建てとなり、ユーロは見捨てられた。
2001年にはベネズエラの駐露大使が、原油輸出を全てユーロ建てにすることを口にした。1年たたない内に、ベネズエラのチャベス政権に対するクーデターが起きたが、それはCIAの協力によるものであったと伝えられる。ユーロを押し出してドルに代わる世界の準備通貨にするというこれらの企ては抵抗に遭い、ユーロに対するドルの大幅な下落は元に戻った。これらの事件はドルの優位性を維持する点で重要な役割を果たしていると思われる。米国政府はチャベス政権の転覆を企てた人々に共鳴しており、その失敗に当惑していることが明らかになってきている。チャベスが民主的に選出されているという事実は、我々がどちら側を支援するかということにほとんど影響していない。
現在では、石油ドル体制に対抗する新たな企てが生まれている。「悪の枢軸」の別の構成員であるイランが2006年3月に石油取引所を開設すると宣言した(訳者注:2007年5月現在、この取引所は開設されていない)のだ。取引がドル建てでなくユーロ建てで行われた場合のことを考えてみるとよい。
多くの米国人は、米国の政策が体系的かつ不必要にイラン人と長年に渡って敵対してきたことを忘れている。1953年にCIAは民主的に選出されていたモハメッド・モサデク政権の転覆を支援し、権威主義的だが親米のシャーを後釜に据えた。1979年の人質事件の時もイラン人は依然としてこのことでいきり立っていた。1980年代初期にサダム・フセインがイランを侵略した際も、米国とフセインの同盟は事態を改善できず、更に明らかなことだが米国とフセインの関係にも大きな影響は無かった。2001年に米国政府が「イランは悪の枢軸の一部である」と宣言したことも、米国とイランの間の関係を改善する事は出来なかった。原子力を巡る最近のイランに対する脅迫も、イランが核保有国に取り囲まれている事実を無視するものであり、イランを怒らせ続ける人々に有効であるとは思えない。ほとんどのイスラム教徒が米国の戦争をイスラム教に対するものであると認識していることとこの最近の歴史を考えれば、イランがドルを弱体化させることで米国に被害を与える政策を採ったことに疑問の余地はほとんどない。イラクと同様にイランは米国を攻撃する能力を全く有さない。それにも関わらず我々はサダム・フセインを世界を支配しようとする現代のヒトラーと見なしてしまった。今回、特に原油のユーロ建て化を計画した後で、イランは米国による侵略の前にイラクが被ったのと同様の宣伝戦の犠牲者となっている。
ドルの優位性を維持することはイラクに対する戦争の唯一の動機ではないだろう。これはイランに対しても同様だ。戦争を望む真の理由は複雑なものであるが、開戦前に宣伝された大量破壊兵器の存在やサダム・フセインと911の関係などの理由が偽りであったことを今や我々は知っている。ドルの重要性は明白であるが、それは中東を作り替えるという新保守主義者達の長年に渡る明確な計画の影響力を減弱させるものではない。イスラエルの影響力もキリスト教のシオニストと同様に開戦要求に一役買っている。「我々の」石油供給を防衛することは米国の中東政策に何十年にも渡って影響を与え続けてきた。
しかしながら、このような好戦的な対外干渉政策の費用の支出は増税、貯蓄増加、米国国民による生産の増加といった古典的方法では不可能である。1991年の湾岸戦争の支出の多くの部分は多くの意欲ある同盟国が負担した。しかし、現在はそうではない。過去にもまして現在は、ドル覇権、つまり世界準備通貨としてのドルの優位性が膨大な戦争費用を負担する事を迫られている。決して終わることのないこの戦争の2兆ドルの費用は何らかの方法で支払わねばならない。ドル覇権はその手段を提供しているのだ。
真の犠牲者たちの多くは、自分達が請求書の支払いを行っていることに気付いていない。何も存在しない状態からマネーを作り出す認可が、価格インフレーションを通じた請求書の支払いを可能にしている。米国国民だけでなく日本、中国、その他の国々の一般的な国民も価格インフレーションの被害を被っているが、それは米国の軍事的冒険の支出を支払う「税」を意味している。それはごまかしが露呈するか、外国の製造業者がドルを受け取らないと決断するか、あるいは商品の対価として受け取ったドルを米国に還流せずに長期間手元に保有するかのいずれかの時点で終わるだろう。通貨制度のいかさまをその被害者から隠すためのあらゆる手段が既に実行されている。もし石油市場がユーロ建てに切り替われば、米国の際限のない国際準備通貨製造能力は削減されるだろう。
米国にとって、価値ある商品を輸入してその対価として減価したドルを輸出するのは信じがたい程の利益である。輸出国は自国の経済成長のために米国の購買力の中毒になっている。この依存は彼らを同盟国にしていかさまを継続させており、彼らの協力によってドルの価値は人為的に高く維持されている。コノ体制が長期間機能できるならば、米国市民は二度と働く必要はないだろう。我々もまたローマ人と同様に「パンとサーカス」を楽しむ事ができるだろう。しかし、ローマ人の持つゴールドが尽き、征服した国家から略奪することも不可能になったことでローマ帝国は滅びた。
我々が変わらないならば、米国にも同じ事が起きるだろう。米国は直接略奪するために外国を占領してはいないが、世界130カ国に軍隊を派遣している。米国が中東の産油国に勢力を伸ばそうと必死で努力しているのは偶然ではない。しかし、昔とは違って我々は天然資源の直接の所有権を主張しているわけではない。我々は単に、我々が欲しいものを買い、我々の不換紙幣で支払いを行うことを主張しているだけだ。米国の権力に挑戦する国は大きな危険を負う。
米国議会はかつてイラクに対して行ったのと同様、再びイランに対する戦争を宣伝している。必要ならば経済的・軍事的にイランを攻撃すると言う議論も現在行われている。これらの議論は全て、失敗に終わった費用のかさむイラク占領作戦の理由と同様の偽りに基づいている。
米国の全経済体制は現在の通貨協定が継続されることに依存しており、そこではドルの還流が決定的に重要だ。現在、我々は毎年7000億ドル以上を寛大な支援者から借りている。彼らは勤勉に働き、商品の対価として紙切れを受け取っている。そして、我々は帝国を守るために必要な全ての資金(国防省予算4500億ドル)以上の金を借りている。米国の軍事力は米国通貨の後ろ盾である。全世界に米国の軍事的優位に対抗できる国は存在しない。それ故に、我々が今日の「ゴールド」であると宣言するドルを受け取る以外に彼らにはほとんど選択枝はないのだ。これこそが、イラク、イラン、ベネズエラといったこの体制に挑戦する国々が米国による体制転覆の標的になる理由である。
皮肉なことに、ドルの優位は米国の強大な軍事力に依存している。そして、米国の強大な軍事力はドルに依存している。外国が実物財の対価として米国ドルを受け取り続け、米国の度を超した消費と軍国主義の資金を快く用立て続ける限り、米国の対外債務や経常収支赤字がどれほど巨額になろうとも現状が維持されるだろう。
しかし、現実の脅威は我々の政治的敵対者から訪れるだろう。彼らは米国に軍事的に対決する能力はないが、経済的に対決しないほど内気ではない。我々がイランからの新たな挑戦を深刻に受け止めている理由はそこにある。イランが米国の安全に対する軍事的脅威であるとの切迫した議論はイラクに対する濡れ衣と同じぐらい信頼できない。しかしながら、イラク攻撃に反対する政治的議論で派手に活動した人々は今回のイランとの対決に全く反対していない。
国民や議会は先制攻撃を主張する人々の安易な主戦論に簡単に納得させられてしまっている様に思われる。人命と費用の損失を計算するまでは、国民が愚かな軍国主義に反対することはないだろう。
奇妙なことに、米国民の大多数にとってイラクでの敗北はもはや明らかであるのに、国民も議会も不必要で危険なイランとの対決を求める主張を黙認している。そして再び、米国がオサマ・ビン・ラディンを発見できず彼の情報網も破壊できないのに、我々は911と全く無関係の戦争でのイラク人との対決を思い止まっていない。全てを中断してサダム・フセインにユーロ建てで原油を得るという反抗に対する教訓を教えるという米国の意志は、原油価格を全てドル建てにする事への利害関係によって説明可能である。そして再度、イランが全てユーロ建てでの新たな石油取引所を開設するまさにその時期に、イランへの制裁と軍事的威嚇を緊急に求める主張が行われている。
真の価値を持たない貨幣の受容を人々に強制しても、それは短期間しか成功しない。結局それは国内・国際の両方での経済的混乱を招き、高い付けが支払われることになる。
正直な交換には真の価値ある物だけが必要であるという経済学の法則は破棄できない。全世界規模の不換紙幣という我々の35年間の実験の結果として起こる混乱状態は、真の価値あるマネーへの回帰を必要とする。我々は産油国が石油の対価としてドルやユーロではなく、金又はそれと等価なものを要求する日が近づいていることを知ることだろう。それはより早期であることが望ましい。
<終>
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最も重要なことは、ドルと石油の関係はドルの傑出した地位のために維持されなければならないことだ。この関係へのあらゆる攻撃は従来同様、力強く反撃されるだろう。
2000年11月にサダム・フセインはイラクの石油輸出をユーロ建てにすることを求めた。彼の傲慢さはドルへの脅威であった。彼の軍事力は欠乏しており、決して脅威ではなかった。ポール・オニール財務長官(訳者注:2001-2002就任)によれば、2001年のブッシュ新政権の初回の閣僚会議の最も主要な議題はどの様にしてサダム・フセインを追放するかであった。彼が米国に脅威を与えた証拠は何ら無いにも関わらずである。このサダム・フセインへの深刻な懸念はオニールには驚きと衝撃であった。
911事件後にブッシュ政権は即時に反応したが、それは侵略と政府転覆を正当化するためにどうやってこの攻撃とサダム・フセインを結びつけるかという問題を中心に展開したことは今では良く知られている。911事件との関連性の証拠なしに、更には大量破壊兵器の証拠なしに、歪曲や猛烈な勢いの偽りの陳述によって世論や議会の支持が作り出され、サダム・フセイン政権の転覆が正当化された。
サダム・フセインが原油をユーロ建てで得ることにより準備通貨としてのドルの完全性を攻撃したため、彼の追放に関する公開の議論は行われなかった。米国がイラクに執着した真の理由はこれであると多くの人々が信じている。私はこれが唯一の理由であるとは思わないが、戦争を遂行する動機に重要な役割を果たしただろうと考える。軍事的勝利の直後からイラクの原油輸出は全てドル建てとなり、ユーロは見捨てられた。
2001年にはベネズエラの駐露大使が、原油輸出を全てユーロ建てにすることを口にした。1年たたない内に、ベネズエラのチャベス政権に対するクーデターが起きたが、それはCIAの協力によるものであったと伝えられる。ユーロを押し出してドルに代わる世界の準備通貨にするというこれらの企ては抵抗に遭い、ユーロに対するドルの大幅な下落は元に戻った。これらの事件はドルの優位性を維持する点で重要な役割を果たしていると思われる。米国政府はチャベス政権の転覆を企てた人々に共鳴しており、その失敗に当惑していることが明らかになってきている。チャベスが民主的に選出されているという事実は、我々がどちら側を支援するかということにほとんど影響していない。
現在では、石油ドル体制に対抗する新たな企てが生まれている。「悪の枢軸」の別の構成員であるイランが2006年3月に石油取引所を開設すると宣言した(訳者注:2007年5月現在、この取引所は開設されていない)のだ。取引がドル建てでなくユーロ建てで行われた場合のことを考えてみるとよい。
多くの米国人は、米国の政策が体系的かつ不必要にイラン人と長年に渡って敵対してきたことを忘れている。1953年にCIAは民主的に選出されていたモハメッド・モサデク政権の転覆を支援し、権威主義的だが親米のシャーを後釜に据えた。1979年の人質事件の時もイラン人は依然としてこのことでいきり立っていた。1980年代初期にサダム・フセインがイランを侵略した際も、米国とフセインの同盟は事態を改善できず、更に明らかなことだが米国とフセインの関係にも大きな影響は無かった。2001年に米国政府が「イランは悪の枢軸の一部である」と宣言したことも、米国とイランの間の関係を改善する事は出来なかった。原子力を巡る最近のイランに対する脅迫も、イランが核保有国に取り囲まれている事実を無視するものであり、イランを怒らせ続ける人々に有効であるとは思えない。ほとんどのイスラム教徒が米国の戦争をイスラム教に対するものであると認識していることとこの最近の歴史を考えれば、イランがドルを弱体化させることで米国に被害を与える政策を採ったことに疑問の余地はほとんどない。イラクと同様にイランは米国を攻撃する能力を全く有さない。それにも関わらず我々はサダム・フセインを世界を支配しようとする現代のヒトラーと見なしてしまった。今回、特に原油のユーロ建て化を計画した後で、イランは米国による侵略の前にイラクが被ったのと同様の宣伝戦の犠牲者となっている。
ドルの優位性を維持することはイラクに対する戦争の唯一の動機ではないだろう。これはイランに対しても同様だ。戦争を望む真の理由は複雑なものであるが、開戦前に宣伝された大量破壊兵器の存在やサダム・フセインと911の関係などの理由が偽りであったことを今や我々は知っている。ドルの重要性は明白であるが、それは中東を作り替えるという新保守主義者達の長年に渡る明確な計画の影響力を減弱させるものではない。イスラエルの影響力もキリスト教のシオニストと同様に開戦要求に一役買っている。「我々の」石油供給を防衛することは米国の中東政策に何十年にも渡って影響を与え続けてきた。
しかしながら、このような好戦的な対外干渉政策の費用の支出は増税、貯蓄増加、米国国民による生産の増加といった古典的方法では不可能である。1991年の湾岸戦争の支出の多くの部分は多くの意欲ある同盟国が負担した。しかし、現在はそうではない。過去にもまして現在は、ドル覇権、つまり世界準備通貨としてのドルの優位性が膨大な戦争費用を負担する事を迫られている。決して終わることのないこの戦争の2兆ドルの費用は何らかの方法で支払わねばならない。ドル覇権はその手段を提供しているのだ。
真の犠牲者たちの多くは、自分達が請求書の支払いを行っていることに気付いていない。何も存在しない状態からマネーを作り出す認可が、価格インフレーションを通じた請求書の支払いを可能にしている。米国国民だけでなく日本、中国、その他の国々の一般的な国民も価格インフレーションの被害を被っているが、それは米国の軍事的冒険の支出を支払う「税」を意味している。それはごまかしが露呈するか、外国の製造業者がドルを受け取らないと決断するか、あるいは商品の対価として受け取ったドルを米国に還流せずに長期間手元に保有するかのいずれかの時点で終わるだろう。通貨制度のいかさまをその被害者から隠すためのあらゆる手段が既に実行されている。もし石油市場がユーロ建てに切り替われば、米国の際限のない国際準備通貨製造能力は削減されるだろう。
米国にとって、価値ある商品を輸入してその対価として減価したドルを輸出するのは信じがたい程の利益である。輸出国は自国の経済成長のために米国の購買力の中毒になっている。この依存は彼らを同盟国にしていかさまを継続させており、彼らの協力によってドルの価値は人為的に高く維持されている。コノ体制が長期間機能できるならば、米国市民は二度と働く必要はないだろう。我々もまたローマ人と同様に「パンとサーカス」を楽しむ事ができるだろう。しかし、ローマ人の持つゴールドが尽き、征服した国家から略奪することも不可能になったことでローマ帝国は滅びた。
我々が変わらないならば、米国にも同じ事が起きるだろう。米国は直接略奪するために外国を占領してはいないが、世界130カ国に軍隊を派遣している。米国が中東の産油国に勢力を伸ばそうと必死で努力しているのは偶然ではない。しかし、昔とは違って我々は天然資源の直接の所有権を主張しているわけではない。我々は単に、我々が欲しいものを買い、我々の不換紙幣で支払いを行うことを主張しているだけだ。米国の権力に挑戦する国は大きな危険を負う。
米国議会はかつてイラクに対して行ったのと同様、再びイランに対する戦争を宣伝している。必要ならば経済的・軍事的にイランを攻撃すると言う議論も現在行われている。これらの議論は全て、失敗に終わった費用のかさむイラク占領作戦の理由と同様の偽りに基づいている。
米国の全経済体制は現在の通貨協定が継続されることに依存しており、そこではドルの還流が決定的に重要だ。現在、我々は毎年7000億ドル以上を寛大な支援者から借りている。彼らは勤勉に働き、商品の対価として紙切れを受け取っている。そして、我々は帝国を守るために必要な全ての資金(国防省予算4500億ドル)以上の金を借りている。米国の軍事力は米国通貨の後ろ盾である。全世界に米国の軍事的優位に対抗できる国は存在しない。それ故に、我々が今日の「ゴールド」であると宣言するドルを受け取る以外に彼らにはほとんど選択枝はないのだ。これこそが、イラク、イラン、ベネズエラといったこの体制に挑戦する国々が米国による体制転覆の標的になる理由である。
皮肉なことに、ドルの優位は米国の強大な軍事力に依存している。そして、米国の強大な軍事力はドルに依存している。外国が実物財の対価として米国ドルを受け取り続け、米国の度を超した消費と軍国主義の資金を快く用立て続ける限り、米国の対外債務や経常収支赤字がどれほど巨額になろうとも現状が維持されるだろう。
しかし、現実の脅威は我々の政治的敵対者から訪れるだろう。彼らは米国に軍事的に対決する能力はないが、経済的に対決しないほど内気ではない。我々がイランからの新たな挑戦を深刻に受け止めている理由はそこにある。イランが米国の安全に対する軍事的脅威であるとの切迫した議論はイラクに対する濡れ衣と同じぐらい信頼できない。しかしながら、イラク攻撃に反対する政治的議論で派手に活動した人々は今回のイランとの対決に全く反対していない。
国民や議会は先制攻撃を主張する人々の安易な主戦論に簡単に納得させられてしまっている様に思われる。人命と費用の損失を計算するまでは、国民が愚かな軍国主義に反対することはないだろう。
奇妙なことに、米国民の大多数にとってイラクでの敗北はもはや明らかであるのに、国民も議会も不必要で危険なイランとの対決を求める主張を黙認している。そして再び、米国がオサマ・ビン・ラディンを発見できず彼の情報網も破壊できないのに、我々は911と全く無関係の戦争でのイラク人との対決を思い止まっていない。全てを中断してサダム・フセインにユーロ建てで原油を得るという反抗に対する教訓を教えるという米国の意志は、原油価格を全てドル建てにする事への利害関係によって説明可能である。そして再度、イランが全てユーロ建てでの新たな石油取引所を開設するまさにその時期に、イランへの制裁と軍事的威嚇を緊急に求める主張が行われている。
真の価値を持たない貨幣の受容を人々に強制しても、それは短期間しか成功しない。結局それは国内・国際の両方での経済的混乱を招き、高い付けが支払われることになる。
正直な交換には真の価値ある物だけが必要であるという経済学の法則は破棄できない。全世界規模の不換紙幣という我々の35年間の実験の結果として起こる混乱状態は、真の価値あるマネーへの回帰を必要とする。我々は産油国が石油の対価としてドルやユーロではなく、金又はそれと等価なものを要求する日が近づいていることを知ることだろう。それはより早期であることが望ましい。
<終>
【関連投稿】
●ロン・ポール候補、マイク・グラベル候補、東条由布子候補の選挙戦が政変を通じて新時代を切り開くか?
取材:常岡浩介
翻訳:中間百合子
Aleksandr Valterovich Litvinenko/Александр Вальтерович Литвиненко
1962年ロシア・ヴォロネジ生まれ。旧ソ連国家保安委員会(KGB)、ロシア連邦保安局(FSB)に20年以上にわたって勤務し、ロシア特務機関の最も機密性の高い部署を歴任したリトビネンコ氏は、98年以来組織内の腐敗と組織的に行われていた違法工作活動の実態を暴露し、公に批判したことからプーチンと対立、99年にはFSB内の刑務所に収監された。度重なる脅迫の末、2000年10月、生命の危機を自覚しトルコに出国した後、2001年5月、英国で政治亡命が認められた。プーチン統治下ロシア特務機関の暴走に警鐘を鳴らす。著書に「FSBがロシアを爆破する」「LPG-ルビャンカ犯罪集団」。昨年末には、著書をロシアへ輸送するトラックが武装FSB部隊に襲撃され、積荷をすべて強奪された。プーチンが最も恐れる男。
Q 日本でのロシアの特務機関の活動は?
ロシアの特殊機関によるチェチェン人の信頼失墜と日本における特殊機関の活発化については次のことが言える。ロシアに旧KGB将校であったプーチンが権力を握って以来、ロシア特殊機関は手を広げてきた。彼らは事実上法の枠内をはずれ、好き勝手をやり出した。彼らは裁判、検察局、内務省、すべての省をコントロールし始めた。外務省もその中に入っている。
Q 独裁ということか?
そうだ。彼らはロシアに特務機関による独裁政治を敷いたのだ。ロシアは現在、警察国家だ。言論の自由も、マスメディアの独立性もない。自由はどんどんなくなっている。ビジネスでもそうだ。ロシア特務機関のコントロールに入っていないビジネスはない。ユコスという会社があり、ユコスはそのコントロールに入ることを拒んだのだ。その結果、この会社がどうなったのかは皆さんも知っている。事実上この会社は破壊され、立派な人間であった社長のホドルコフスキー氏は今、刑務所の中にいる。私は公表された罪で彼が刑務所にいるとは思わない。
同じことがロシアの諜報活動にも言える。その背後にはプーチンがいる。プーチンは彼らに青信号を与えたのだ。プーチンがロシア大統領になってから、西側外国、アメリカ、日本などにおけるロシアの諜報員の数は、ソ連時代と同じくらいになった。いくつかの国ではソ連時代より多くなった。たとえば私の知っているイギリスではソ連時代よりも多くなった。日本でもそうだと思う。
どうしてロシア特務機関は日本に興味を持っているのか。それはまず日本が最大の経済ポテンシャルを有する大国だからだ。日本にいる特務機関員は、主に2つの方向性で仕事をしている。まず経済諜報活動。2つ目が内政干渉、つまり自分たちの諜報員を日本の政治構造に導入させることだ。どうしてこのようなことをしているのか。経済諜報活動は自明のことだ。日本は最も強大な経済大国の一つで、その技術は精密で、日本製品はロシアの特務機関、特に技術諜報員の興味を引いている。これらの技術を軍事技術に導入するためなどだ。第2の政治的諜報活動について。ここでの主な活動は、日本はG7に入っている。プーチンは何とかしてその中に入ろうとしている。確かにロシアはたぶん88年からG8として入っているが、それはG7の正式な8番目の国としてではない。どうしてプーチンはG7に入りたいのか。それは自分の帝国主義的野望を満たすためであり、国際政治に何らかの形で影響を与えるためだ。
どうしてロシアの特務機関はチェチェン人の信頼失墜に努めているのか。第一にプーチンがチェチェンにしていることは、民族大量虐殺(ジェノサイト)だ。民族大量虐殺の過程で4分の1のチェチェン民族が殺戮された。主な犠牲者は、山で武器を手にし、民族の解放を求めている人ではなく、村や町で平和に暮している人たちだ。ほとんどが破壊されてしまった。主に死ぬのは女性、老人、子供だ。またそれが我慢できなくなって、積極的にチェチェンにいるロシアの特務機関やロシア軍におおっぴらに抗議し始めた人は、人権を主張し、誘拐された人の返還を求め、ピケを張り、道路を封鎖し、ロシアの特務機関が人々を誘拐することをやめるように求め、ジャーナリストと接触し、何がチェチェン共和国領内で起きているのか、真実を語り始め、またロシアの裁判所、国際裁判所に嘆願書を出し始めるが、このような人のことを、特務機関は尾行し、殺害する。これが特務機関の第一の目的だ。人々を殺して、埋める。殺す前に、暴行を加える。もし今、チェチェン共和国でシャベルを持ち、地面を掘ったら、5回掘ったら、そのうちの2.5回は頭部のない、暴行された死体を発見する。チェチェンの土地は死体でいっぱいだ。これはたとえば日本だったら、広島と長崎に原爆が落とされたことと匹敵する。しかも主な犠牲者は民間人なのだ。女性、老人、子供。軍人は何とか自分を守ることができるだろうが、これらの人たちは空爆から自分の身を守ることができない。彼らが第一の犠牲者だ。だから今、チェチェン共和国で起きていることは、プーチンがチェチェン共和国で行っていることは、日本で言えば、1945年の原爆投下の悲劇に匹敵する。日本人はあれを一生忘れることはできないだろう。
チェチェン人の方がもしかしたらもっと悲劇かもしれない。彼らはもう5年間殺され続け、国民の4分の1が殺されている。すでにプーチンと彼の補佐官たちはチェチェン領内で行われている民族大量虐殺の事実を隠すことがどんどん難しくなっている。またエリツィン時代には比較的民主的な国家であったロシアが、全体主義的になり、ファシストの思想に席巻されているという事実を隠すことがますます難しくなっている。
このためプーチンは何とか自分を救うために、欺瞞を使って、チェチェンと世界テロとを結び付けようとしている。ロシアの特務機関は、チェチェンの反体制勢力が世界テロと結びついているという資料を公表している。私が言いたいのは、チェチェン人はもう400年もロシアからの独立のために闘っているということだ。この戦いが始まったのは、テロリズムについて誰も知らなかった頃のことだ。そんな言葉もなかった。当然、この400年の間、この戦いは消えかかったり、また盛んに燃え上がったりしていた。つまり消えたり、燃えたりしていた。その過程でどんどん新しい形になってきた。たとえば100年前には主な武器が剣と馬であったものが、今日では自動小銃、機関銃、装甲車である。当然ロシア軍がチェチェンの抵抗勢力から打撃を受けることは、プーチンも知っているし、チェチェン抵抗勢力のリーダーたちも知っている。何とかしてマスハドフの評判を落とすために、プーチンと特務機関はテロ行為を組織している。彼らはロシア領内で組織している。
あなたにあげた本の中には、ロシアの特務機関がモスクワ、および他都市での住居アパート爆発を組織した直接の証拠が載っている。この本の中には、この10 年、ロシアでは大量のテロが行われたことが非常に詳細に書かれている。93年にモス
残念ながら今日のロシアは、ファシストが政権を握っている状況だ。彼らに名前をつけるとしたら、正直に言って、ファシストだ。今日ロシアでは内政も外交も憎しみを持っている人によって行われている。残念ながら、外国人、よそ者に対する憎しみだ。肌の色が違う人、顔の色がロシア人とは違う人など。だから私はロシア人として恥ずかしいし、すでに言ったようにスラブ顔か、コーカサス顔か、分けているのだから。日本がロシアの一部であったら、さらに日本顔の人と区別されただろう。
私が言いたいのは、今日ロシアで起こっているプロセスは恐ろしいもので、これは日本にとっても大きな脅威だということだ。日本はロシアと国境を有しているからだ。しかし日本は経済大国で、G7にも入っている。だから私が私のレベルで日本政府、日本国民にアドバイスできることは、ロシア人の政治家たちの中で友人を正しく選ぶようにということだ。今日のロシア政府がコーカサスの小さな民族をジェノサイトしていることを現実視しなければならない。我々がこの容赦のない、誰にも必要のない戦争を終結しない限りは、立派な人間はロシア政府とは何も話さなくていいということだ。まず我々がしなくてはならないことは、プーチンに、何の罪もない女性や子供を殺すことをやめるように要請すること。それができてから、プーチンと話すことができる。我々のことを人間として認めるなら、立派な人間として認めるなら、自分の妻や子供、国の将来のことを考えるのなら、孫の代になって我々が抹消されるような、苗字が変えられるようなことはやめてもらいたい。まずプーチンにコーカサスでの戦争をやめてもらいたいと要請すること。その後、北方領土についての話し合いや平和条約締結についてあらゆることを話し合うといい。もしプーチンがこの殺人的で、強奪的な戦争をやめないなら、民族を全滅させることをやめないなら、プーチンが民族大量虐殺をやめなかったら、プーチンがファシスト的な政治をやめないなら、プーチンが人殺しをやめないなら、ロシアが本当の民主主義にならないなら、立派な人間は彼と同じテーブルについてはいけない。もしプーチンが日本に来るということになったら、日本人は通りに出て行って、みんな自分の政府に向かって、プーチンが人殺しをやめない限りは、彼が来ないようにと嘆願するべきだ。何らかの条約締結などもってのほかだ。もし日本が今日、あのようなことを行っているロシア政府と平和条約を締結したとしたら、これこそ日本史上もっとも恥ずべき公式文書になるだろう。これはもっとも不名誉な文書になる。このような首脳部とは、何の平和条約も締結する必要はない。もし日本の政府が平和条約を締結しなかったら、この政府が正しかったことを後に歴史は証明する。
我々がこの世に生きていて、生活して、毎日食事をして、我々の頭の上に屋根があり、太陽が照らしてくれる一方で、我々のすぐ近くに爆弾や戦車の下で、何の罪もない人が死んでいることを理解して欲しい。すべてプーチンが悪いのだ。もしも聞いてくれるなら、これを日本人に言いたい。(了)