人力でGO

経済の最新情勢から、世界の裏側、そして大人の為のアニメ紹介まで、体当たりで挑むエンタテーメント・ブログ。

『はたらく魔王さま』・・・アニメで最近の若者の生態観察

2013-06-13 12:36:00 | アニメ
 

 

■ 『はたらく魔王さま』にみるフリーターの実態 ■

私達、「大きなおともだち」がアニメを見る楽しみの一つに、
「現代の若者の世相」を覗き見する楽しさがあります。

マンガやアニメやラノベは子供や若い人たちをターゲットにしていますから、
彼らの「共感」に訴えるられるかどうかが、作品成功のカギを握るとも言えます。
現代の若者が、何を大事にしていて、何に憤りを覚え、また何に不安を抱くのか、
同年代の子供を持つ親としては、非常に興味深いテーマであるとも言えます。

今期のアニメの中で、この点で突出して面白いのは『はたらく魔王さま』でしょう。

異世界エンテイ・イスラの征服を企む魔界の王サタン・ジャコブ(魔王)は、
勇者エミリアによって駆逐され、魔界のゲートに逃げ込みます。
魔王に付き従うのは魔王軍四天王の1人にして悪魔大元帥、アルシエル。

ゲートの出口は東京・笹塚。

そして、魔王達はお互いの姿を見て驚愕します。
彼らの姿は、人間に代わっていたのです。

さらに二人を驚かせたのは異世界の東京の光景です。
車を見ては、「あの馬車は何で走るのだ・・・」ってな感じ。
と、二人に声を掛ける者達が・・・職務質問の警察官です。

「君達、外人? それ、コスプレってやつ?」
警官たちは、外国語らしき言葉を話す魔王達をてっきり外人のレイヤーと勘違いします。
勇者との戦闘で怪我をした二人を、障害事件の被害者だと勘違いした警官は、
彼らを警察署に連れて行き、調書の為に尋問します。

それぞれ、別の部屋で尋問を受ける魔王とアルシエル。
二人の前には、それぞれ、お決まりのカツ丼が。

警官にあれこれ質問される魔王の目が怪しく光ます。
そう、魔力を使ったのです。
魔王は警官を催眠術で寝かして、アルシエルの部屋へと向います。

そこで、魔王が見た光景は・・・・・
カツ丼を貪るり喰う、軍師アルシエルの姿でした。

魔王は催眠術でこの世界の情報を得、アルシエルに説明します。

「魔王さま、ではその机の上の物は?」
「これはカツドゥーンという。この世界では極々一般的な食べ物だ。」
「なる程、カツドゥーン。何と力強い響きだ・・・。」


キターーーー!! 掴みはバッチリだぁーーー!!

魔王は催眠術で手に入れた情報を元に、戸籍と住居を手に入れます。
さすが、魔界一国を治めていた男だけに、実に見事な手際です。
不動産屋に出向いて、日本語で話始めます。

「オレタチ・イエガサガシテラレマース」

いや~~、もう可笑しくてタマリマセン。

二人が住み始めたのは謎の大家が経営する6畳一間のオンボロアパート。
彼らは、この一室を拠点として、再び世界制覇を目指す事に。
そして、部屋を「魔王城」と名付けます。

ところが今度は魔王がいきなり倒れます・・。

「この体、食事が必要だったのか・・・」

救急車で病院に運ばれた二人を、再び脅威が襲います。


「点滴一本で、魔王城一ヶ月分の家賃と同等だと!!・・・」
「聞くところによると、国民健康保険なるものが・・・」


実はこの世界では魔王は魔力の補充が出来ません。
既に魔王の魔力はほとんど残っていません。
この世界で二人が生きてゆくには、働くしか無い・・・。

なけなしのお金で買ったのは、履歴書。
そこに書いた名前は、真奥 貞夫(まおう さだお)と芦屋 四郎(あしや しろう)・・・
なんなんだ、この脱力感は・・・・。

そして、魔王がありついた仕事はファーストフード「マグロナルド」の店員のバイト。
魔王はコツコツと額に汗して働きます。

「そう、こういうこ小さな積み重ねが、いつか魔王として復活する為に必要なのだ」

店員としての魔王は優秀です。
そこは、魔界を統べていた男だけに、客を観察して、細かなサービスを心掛けます。

一方、アルシエルといえば・・・どうも要領が悪い。
バイトもすぐにクビ・・・。
アルシエルは家事に専念しながら、異世界に帰る方法を探す事に。

魔王のバイトは順調で、時給が100円上がったと大喜びの魔王。

「魔王様、それでは完全に下っ端では無いですか・・その部下の私は下っ端以下・・」

打ちひしがれるアルシエール・・・・。

魔王の働きぶりは上司に認められ、彼はA級クルーに昇進します。
喜び勇んで、アルシエールに報告する為に自転車を走らせる魔王の前に女が立ちはだかります。

そう、彼女こそが、魔王をエンテ・イスラから駆逐した勇者エミリアだったのです!!

勇者エミリアのアルバイトは携帯電話会社のコールセンターのオペレーター。
彼女はワンルームの小奇麗なアパートに住んでいます。
・・・男より女性の方が割りが良い職業にありつき易いのか・・・?!

・・・すみません。勢い余って第1話のあらすじを書いてしまいました。
でもね、このこみ上げる面白さは、実際、魔王とアルシエールの掛け合いを見ないと理解不能。

もう、おへその裏あたりから、くすぐったい笑いが
ク、クmクmク・・・とこみ上げて来て、もう大変!!

■ 「貧しい若者」・・・昔は当たり前だった ■

『はたらく魔王さま』の魔王とアルシエールの生活は大変貧乏に見えますが、
私が大学生時代では、当たり前の生活だったとも言えます。

6畳一間で、キッチンは玄関脇に小さなシンクと一口のコンロだけ。
風呂、トイレは共同・・・。
家賃、2万4千円。

こんなアパートの一室に、いつも4人くらいの友人達が集まっていました。
飲み会をやったり、試験勉強をしたり・・・
まあ、むさ苦しい事この上無いのですが、
それを貧乏とは、あまり思っていませんでした。

山に行っては栗を拾って栗ご飯を炊いたり、
当時はタダ同然だったイワシを魚屋でバイトしているヤツがさばいたり・・
大家の庭のカキをこっそり頂いたり、農家の百円野菜にも随分お世話になりました。

だから、魔王城の生活は、妙に懐かしい・・・・。

皆が貧乏だった時代には、むしろ当たり前過ぎて、
この作品のシュールな笑いは生まれなかったかも知れません。

日本のGDPは1980年代まで後退していますから、
日本人の暮らしも30年前に逆戻りしているのでしょう。
当時はバブル前の円高不況真っ只中でしたから、物価もデフレの今とだいたい同じ。

ホカベンものり弁当は当時も290円くらいでした。

一方、社会の空気は高度経済成長が終了して、
ガムシャラな経済成長から、少しずつ「高度な消費」に移行する時期でした。
ジャパン・アズ・ナンバーワンと持ち上げられ、
最早アメリカから学ぶものは何も無いと言われた時代・・・。

プラザ合意で円が突然切り上げられ、
ドル建ての国民所得が急増した時代・・・。

企業は円高不況と戦いながらも、将来を非観はしていませんでした。
今より豊な未来を普通に夢見られる幸福な時代でした。

魔王の野望は、バイトを足がかりに成功を続け、将来は世界を征服する事です。
今だからこそ、笑い話にしかなりませんが、
今から30年前を思い返すと、確かにそうやって夢を実現した人達が沢山居ました。

同じ「貧しさ」であっても、経済が成長する過程の貧しさと、
経済が収縮する過程の貧しさでは、随分と気分が違うものです。

尤も、貧しさが「笑い」に転嫁出来る程、
現在の日本に貧しさが馴染んで来たのかも知れません。





■ 高校生の本音が素晴しい『やはり俺の青春ラブコメは間違っている。』■




現在放映中の『やはり俺の青春ラブコメは間違っている。』も、
現代の高校生を観察するにには最良のアニメです。

『はたらく魔王さま』は大ヒットしていますが(多分)、
『やはり俺の青春ラブコメは間違っている。』は多分フォアボールを選んで出塁って感じ。
ほとんど話題にもなっていないかも・・・。


高校2年の比企谷 八幡(ひきがや はちまん)ははっきり言って超ネガティブ人間。

クラスの中では目立たない様に心掛け、
人の好意の裏には必ず何か目的があると疑うような人格。
そんな八幡が教師に強引に入れられたのが「奉仕部」。
困った人の悩みを解決する部活です。

部室に強引に連れていかれた八幡は、黒髪長髪の美少女がそこに居るのに気付きます。
彼女は雪ノ下 雪乃(ゆきのした ゆきの)
容姿端麗、成績優秀、さらに県議会議員の嬢さんのスーパー高校生。

でも・・・彼女に友達は居ません。
必要としていないのは八幡と同じ。

そんな二人だから、部室の空気は重い・・・
二人で離れて本から目を上げる事もしません。

そんな二人の所に依頼が舞い込みます。
八幡のクラスメイト、由比ヶ浜 結衣(ゆいがはま ゆい)が持ち込んだ依頼は、
「クッキーを上手く焼きたい」というもの。
彼女のクッキーは、「ジョイフル本田で売ってる木炭みたいなもの」になってしまうのです。

雪乃と八幡は仕方なく彼女に付き合う事に。
雪乃はそつなくクッキーを焼き上げます。
そんな事があってから、結衣も奉仕部に入部します。

八幡はクラスでの結衣をそれと無く観察します。
彼女は明るく振舞っていますが、じつはそれは上辺だけ・・・
クラスの仲良しグループのリーダーのワガママにイヤと言えないだけ。
空気を読む事が上手だけれど、それによって自己嫌悪に陥るだけ・・。

クラスの仲良しグループの軋轢から結衣が孤立した時、
八幡と雪乃が彼女を救います。


・・・まあ、こうして書いてみると、どーでも良いお話・・・・。

しかし、八幡の超マイナーなモノローグと、
そして的確な状況分析は、大人の私でも思わず頷いてしまいます。

人間が見せる些細な仕草から、本心を見抜き、
そして、表面に被った皮の内側の気持を理解する方法は見ていて興味深い。

■ 文化祭実行委員のやり取りは、社会の縮図 ■

物語は10話から文化祭の話になっています。

教師の横暴でクラスの実行委員に選ばれた八幡。
女子の委員は、クラスのリーダー格の男子の推薦で決まります。

「そんなのウチには出来ない」と拒絶する彼女の真意を八幡は見抜いています。
・・・本当の拒絶とは、もっと冷たい視線で「無理」の一言だ・・と。

文化祭実行委員には雪乃も選ばれています。
何かと姉に対抗意識を燃やす雪乃は、
文化祭実行委員長として成功を収めた姉に対抗する為に立候補したのです。

しかし、生徒会長が姉の話を持ち出して委員長をやらないかと聞くと、断ります。
そして、彼女は副委員長の役を引き受ける事に。

委員長は何と八幡のクラスの娘が立候補します。
「高校時代のステキな思い出にしたい」これが彼女の立候補の理由。

ところが委員長になったのは良いが、能力が伴いません。
結局、雪乃が仕切る形になりますが、
協調性の無い雪乃は、一人で仕事を抱え込む事に・・・。

仕事の分担を迫られる雪乃の心中が八幡には痛い程分かります。
彼女は自分の力で姉に対抗したいのです。

一人でやる事がそんなに悪い事なのか・・・・心の中で呟く八幡ですが、
「あのー、分担するのは好いけど、俺の仕事が増えるのはイヤだな。」

「君って最低だね」と吐き捨てる様に言う生徒会長ですが、
八幡は雪乃が「一人で大丈夫です」と答える機先を制したのです。
雪乃は「皆さんで分担しましょう」と承諾するしか無くなります。

・・・こういうネガティブな芸風が、見ていて本当に素晴しい八幡君。
実は高校時代は私も相当ネガティブだったので、
どうしても、当時の自分に重ね合わせて、八幡君に共感してしまいます。

■ 出来損ないの『僕は友達が少ない』ではあるけれど・・・ ■

『やはり俺の青春ラブコメは間違っている。』はネガティブな高校生の心の内を、
あまりヒネル事無く吐露する事で、一種の共感を生みますが、

一方で『僕は友達が少ない』の様な、ポップで弾けた感じはありません。
作品としては非常に地味で、出来損ないの『僕は友達が少ない』の様でもあります。

しかしストレートな分、今時の高校生の生態観察には最適です。
娘も、「そうそう、こういう事言うヤツ居る居る」と感心しきり。

昔も今も、高校生の友達付き合いはケッコウ大変みたいです。



本日は、現在のアニメに見る、若者の生態観察をお送りしました。

『はたらく魔王さま』は、笑い成分が最近足りないと思うアナタには最適です!!