■ MMTの発明は「準備預金を貸し出しの後に調達する」という事だった ■
MMTの「万年筆マネー」を従来の経済学で理解しようとすると、どうしても「元のお金はどこから来たの」という疑問に突き当たります。従来の経済学の「又貸し」による信用創造では、「根源的預金」から話がスタートしますが、MMTにはそれが存在しない。「預金通帳に金額を書き込んだ時にお金は生まれる」と説明されますが、ではお金は何処から来るの?という所で、躓いてしまいます。
しかし、色々とMMTを調べていると、結局彼らは「預金通帳に金額を書き込んだ後に、準備預金を手に入れる」と言っている事に気付きました。「準備預金」は預金者の急な引出しに対応する為の準備金で、これがきちんと用意されていなければ金融業は成り立ちません。「又貸し」は先に準備預金を容易して貸し出すと説明し、MMTは貸出た後に準備預金を用意すると考える。
結果的には銀行のバランスシート的には同じ事で、1日の営業が終わって、準備預金が足りなければコール市場で調達すれば良いじゃないかというのがMMT。最終的にその日の内にバランスしていれば同じだろうという事。ただ、コール市場で準備預金を調達する事が正しいかどうかの実務的な事は私には判断出来ませんが、準備預金もコール市場での借り入れも銀行の負債なので、同じと見なす事が出来るのかも知れません。
問題の本質は、どんな資金調達方法を用いるにせよ、銀行が急な引出しに対応するお金を日銀当座預金に持っているという事が重要です。
■ 預金通貨が現金化される割合は限定的 ■
MMTの「足りなければ後から調達すれば良い」という考え方は、ある意味ドンぶり勘定で銀行としては如何なものかと思われますが、「万年筆マネー」で生み出される「預金通貨」が現金化される確率は低く、「通帳上の単なる数字である預金通貨」が人々の間を循環して経済を回して行きます。これがマネーサプライに相当する部分です。
銀行は長年の経験から、預金通貨が現金化される確率を掴んでいます。ですから、「返済が可能と判断したならば信用創造」したお金を貸し出します。ここでポイントとなるのが「返済が可能」という点です。ここを甘く見積もると、不良債権となって信用創造のチェーンに綻びが生じ、現金化出来たはずのお金が何処かに消えてしまいます。実はこれは破綻した相手、あるいは、その取引先が掠め取っている。
■ 日銀は無から通貨を作り出す事が出来る ■
MMTは市中の信用創造では「信用創造で作られたお金は返済された時点で相殺されて消える」と説明します。これは従来の「又貸し」でも理解し易いので、この点に疑問は有りません。
MMTは民間の信用創造の考え方を、政府と日銀の信用創造に拡張して説明します。「政府が国債を発行すると日銀がそれに相当する通貨を無から生み出すので、国債が通貨を生み出す」と説明します。政府の国債発行は民間の借り入れの相当します。
「日銀は無から通貨を生み出す事が出来る(日銀の信用創造)ので自国通貨建てで発行される国債に量的な制限は存在しない」というのは、納得出来る。
ここでも「民間が国債を発行する根源的なお金はどこから来るの」という疑問を抱きますが、MMT的には後からファイナンスされれば問題無いので、「国債発行で市中の資金が増えるのだから、国債を購入するお金は、国債が発行される限り尽きる事は無い」となります。
私なりの解釈としては、日銀が発行した最初の通貨は、日銀の出資者の資産を元に作られた根源的通貨でしたが、それ以降は国債を資産に作り出され、国債発行と同等の通貨が市中に存在するとイメージしています。
国債は国の借金で、通貨は中央銀行の借用書ですから、中央銀行のBS内で、「国債が資産・通貨が負債」に分に仕訳されても、そもそも国債が償還されて中央銀行に償還されるお金が中央銀行の負債なので、この二つは相殺されて消えてしまいます。確かに民間の信用創造と同じで、通貨は無から生まれています。
これでは、あまりにも実もフタも無くて、国債や通貨の信用を損なうので、従来の経済学では、「国債は納税によって価値を持つ」と説明されて来ました。
■ お金を徹底してツールとして捉える ■
MMTはお金を徹底してツールとして捉えています。今風に言えば「単なるデータ」です。今後、電子通貨が主流になると、より一層お金はツール化するので、MMT的な貨幣観は主流になって行くかも知れません。
MMT的には、税収は国債発行と通貨発行の付帯事項なので、「所得再分配」の性質の方が強くなります。要は、MMTがアメリカでリベラルに支持されるのは、その根底に非常にリベラルな思想が流れているからです。MMTの政策的達成目標が完全雇用である事からも、MMTがリベラルな性質を持つ事が分かります。
一方、「国債=税金」というプライマリーバランスを重視する従来の経済学は、ある意味、「国家が年貢で運営されていた時代=封建時代」の国家間を色濃く残しています。
■ MMTは経済や通貨を、違う視点で眺めている ■
「MMTは持たざる者の経済学」と私には見える。従来の経済学は「最初に富を保有している=根源的価値」を基本に構築されていますが、「MMTはお金は無から生まれるツール」と捉える事で、お金を持たない人達にとっては「お金は平等のツールだ」と見える。これが、リベラルな人や、あまり豊で無い人々をMMTに引き付けている根源的な力だと私は考えます。
■ MMTなら財政拡大し放題と考える利権勢力 ■
三橋貴明氏らの「日本のMMT」が胡散臭いのは、「MMTの理論を用いれば、財政均衡は不要なので、財政を拡大して日本を豊にしよう。どんどん公共事業をやって国土を強靭化しよう」などと言う事です。これに自民党の利権勢力は相乗りします。
本家のMMTは完全雇用を目的としていますが、財政の使い道としては直接給付でも構わないと考える。その結果、経済が活性化して雇用が生まれれば自然と雇用は拡大するからです。これは非常にリベラルな考え方です。日本のあまり豊出ないMMT支持者は、ここに「ベーシックインカムの夢」を抱きます。
一方、「財政を拡大して軍備拡張を!」などと主張する三橋氏らは、MMTの良いとこ取りをしているに過ぎません。非常に危険な匂いがする。
■ シムズ理論「物価水準の財政理論(FTPL)」とMMTは目指す先が違う ■
実は色々考え、調べる中で、私にはMMTと主流派経済学(供給サイドの経済学)は全く同じ物に見えて来ました。彼らは共通してお金をツールとして捉えています。
ただMMTの限界はインフレである事には変わりありません。MMTは人々を豊にする事を目的としているので、国民の資産価値を減らし、物価を押し上げるインフレが政策の限界点となります。MMTはインフレ率が高まったら、自縄自縛に陥り、存在価値を失います。
ところが主流派経とい済学は最近は物価水準の財政理論(FTPL)=シムズ理論 を持ち出して来ました。
実質政府債務 = 名目政府債務 / 物価水準
これは直感的にも分かる式です。
物価水準 = 名目政府債務 / 実質政府債務
と小学生でも書き換える事が出来ます。要は、国債をバンバン発行すればインフレになるという、当たり前の事を言っているに過ぎない。但し、シムズは様々なシミュレーションをして、名目政府債務がある点を越えると、物価が急激に上昇するポイントがある(彼ば25倍と計算している)としています。これをハイパーインフレと呼ぶかどうかは定義の問題ですが、財政拡大によるインフレは、ある所からコントロール出来なくなると彼は主張しています。
これをして主流派経済学者が財政拡大を止めろと主張しているかと思えば真逆で、「もっと財政を拡大してインフレを起こすべき」と彼らは言っています。最近の池田信夫氏の変節もこれに近い。その理由を本日の池田氏のブログは書いています。
主流派経済学者の主張は「インフレ税で財政均衡を図れ」と言っている。池田氏は「金利がゼロになった時点で、日銀の目的は金利コントロールでは無く、政府債務のコントロールに移っている」と書いている。これは、「インフレ率を適度に上げて、インフレ税で国民の資産を政府の資産に付け替えろ」と主張している。この手法は、歴史的にみれば政府債務の解消の常套手段です。
■ 日銀法を改正して、財政ファイナンスが出来る状態にする ■
どうやら主流派経済学者が警戒しているのは大規模な銀行破綻の様です。彼らはこれを不可避と考えている。
大規模な金融崩壊が起きると、銀行に預金引き出しの列が出来て、殆どの銀行が債務超過に陥ります。これは通貨の信用の崩壊ですから、インフレ率が跳ね上がります。銀行は含み損による債務超過に陥るので、手持ちの国債を全て市場に吐き出します。これを全量日銀は買い入れ、銀行は預金引き出しに対応すべく現金化します。
しかし、銀行の手元資金は預金引き出し額に達しないので、銀行は破綻します。そこで、政府と日銀は銀行に資金注入をしますが、これはリーマンショック後のアメリカの政策で、当時TARPと名付けられました。アメリカでは強欲な銀行を国民の税金で救う事に反対する意見も多かったので、12月31日の議会で票が同数に割れました。ただ、一人だけ親の葬儀で地元に帰っていた議員がいたので、その議員をチャーター機でワシントンに呼び戻して、最後の一票を投じさせました。彼は銀行救済に賛成して、こうしてアメリカの多くの銀行は生き永らえました。まあ、世界の経営者が大好きな「感動的な演出」に過ぎませんが。
一方、この当時、アメリカでは、政府がプラチナ製の超高額政府コインを発行して、これをFRBに買い取らせて銀行に資金注入しろとの主張もされました。超高額プラチナコインの発行は1枚です。こえは現物資産なので政府に返済義務はありません。価格はプラチナの価値では無く、政府の言い値で決められます。実質的な財政ファイナンスですが、返済義務が無いので、無限国債に近いが、政府の負債が存在しないので、スマートな方法とも言えます。
まあ、危機に当たっては、様々な裏の手が出て来る訳ですが、結果は「通貨の価値の減少=インフレ」として表れます。例えば、銀行システムが崩壊して政府が資本注入を大掛かりに行えば、市中の通貨量が急激に増えてインフレが加速します。こうして、インフレ率が発散的に高まれば、政府債務は圧縮され、同時に民間の預金資産は価値を失います。
MMTは国民の生活を守る為にインフレをブレークスルー出来ないが、主流派経済学と世界の経営者は、インフレによって財政の限界をブレイクスルーしようとしているのです。この時、国民の財産は国家に奪われます。MMTは、「グレートリセット」にとっては都合の良い、露払いの役を果たしと言えるでしょう。