予告ではベストテンの発表でしたが、『バビロン』があまりにも衝撃的でしたので、急遽、この作品の紹介を。
ネタバレ全開なので、少しでも興味を持たれた方は、先ずは作品を観てからお読み下さい。
■ 胸糞悪い名作映画『セブン』 ■
20年以上前になるでしょうか、『セブン』というハリウッド映画を劇場で観ました。ブラッド・ピットが演ずる若い刑事ミルズと、連続殺人犯「ジョン・ドゥ」の対決の物語。ジョン・ドゥは「名無しの権兵衛」の意味。
ジョン・ドゥはキリスト教の七つの大罪になぞらえて、猟奇的で残忍な殺人を繰り返します。食欲、色欲、強欲、怠惰・・・。5つの殺人の後にジョンはミルズの前に姿を現しますが、彼はミルズにミルズの妻の切断された首を差し出す・・・。ミルズは激情にかられジョンを射殺します。
この瞬間に、ミルズは「憤怒」の罪に落ち、ジョンは「嫉妬」の罪で死ぬ。
デビット・フィンチャーが監督した『セブン』は、ハリウッド映画の中でも一二を争う「後味の悪い」作品ですが、それ故に多くの人の記憶に残りました(私も含め)。・
『セブン』より
■ 『バビロン』はセブンを越える胸糞悪いアニメだが・・・・名作だ! ■
『バビロン』より
現在配信されているアニメ『バビロン』を観ていると、どうしても『セブン』を思い出してしまいます。
行政特区の実験都市「新域」の首長選の不正と、謎の自殺事件を負うと特捜検事の正崎であったが、事件は思わぬ展開を見せます。首長となった齋 開化(いつき かいか)は、人々が自由に自殺する選択が出来る「自殺法」を制定すると言い出し、姿を消します。そして64人の人々がビルから集団飛び降り自殺をする。
この事件の背後に一人の女性の影がチラつきます。彼女の存在が、言葉が人々を惑わし、自殺へと駆り立てる。彼女が耳元で囁くだけで、人々は死にたくて、死にたくて、どうする事も出来なくなる。死は彼らにとって抵抗する事の出来ない快楽となる。
彼女の名は「曲世愛(まがせ・あい)」。彼女は正義の対極の存在として特捜検事の正崎に挑戦する。いや、彼女の言葉を借りるなら「一人の勇者が魔王を打ち取る為に戦うゲーム」をしている。魔王は「世の正義やルール」。
7話において曲世は正崎が信頼を置く女性の部下を拉致し、四肢を斧で切断して殺害します。その状況をネットで正崎に見せつけながら。彼女は正崎に「悪について理解して欲しいの」「理解しなくても、悪について、もっと考えて欲しいの」と正崎に迫ります。
『セブン』に匹敵する「胸糞悪い」内容でしたが、一方で、だからこそこの作品の素晴らしさが引き立つ内容でした。私的には名作認定です。
■ 体に「点線を引く」という行為で異常性を引き立たせる・・・名シーンだ(胸糞悪いけど) ■
ゾンビ映画やホラー映画では首が飛ぶ、内蔵が飛び散るなど、直接的な残酷描写多くあります。それに比べると『バビロン』の殺人シーンは抑制が効いています。曲世は拘束した女性の四肢にマジックで点線を描いてゆく。そして斧を手に取り、振り下ろすカットが描かれます。それだけで、視聴者は四肢が切断された事を理解し・・・戦慄する。
ヒッチコックの『サイコ』のシャワールームの殺害シーンに匹敵する歴史的シーンだと私は思います。
ただ斧を振り下ろすのでは無く、「点線を引く」という行為を加える事で、ネットを通じて曲世の行為を傍観する正崎に「四肢切断」を予想させ、それを実行する。そして私達は正崎に完全にシンクロする事で、このシーンに恐怖します。
「切断の予告」を「身近な文房具で点線を引く」という「遊び」的な行為に貶める事で「冒涜性」が際立ち、視聴者は言い表す事の出来ない嫌悪感と恐怖を覚えます。
それまでも、曲世の異常性は親戚の医師の証言や、自殺した刑事の死の直前の言葉で表現されていましたが、今一つ実感に欠けていました。しかし、「点線を引いて切断する」描写によって曲世の異常性は、初めて実感として視聴者に伝わります。
■ 誰もが疑わない「自殺は悪」を疑う事で、悪とは何かを追及する ■
「自殺」はキリスト教では「悪」とされます。近代国家の法律でも自殺は肯定されていません。一部の国で「安楽死」は認められていますが、末期がんの患者などの救済を目的としたもので、健常者が普通に自殺を選択する事はモラルに反する事とされています。
「自分の命を選択する事が何故悪い事なのか」・・・これに論理的に答える事は難しい。「自殺は悪なのか」「自殺が悪ならば悪とは何なのか」・・・・一種のトートロジーではありますが、
この作品は悪とは何かを、誰もが選択し得る「自殺」を通して問いかけます。原作者は野崎まど。『正解するカド』の方ですので、安心は出来ませんが、いまの所は200点を差し上げたい。
今後、どういう展開になるのかは分かりませんが、正崎の妻子の描写が・・・『セブン』的な結末を暗示している様で・・・胸糞が悪くなります。
『セブン』同様に、正崎の個人的怒りが限界を超え、曲世の殺害を実行する事で、正崎の正義が崩壊する・・・そんな『セブン』の様な結末を迎えるのでは無いか・・。(原作は未読)
ハッキリ言って今年一番の作品です。
■ この作品が完結するまではベスト10は発表出来ません ■
この作品の完結の前に、ベスト10を付ける事は出来ないので、『バビロン』が完結してから、ベスト10は発表したいと思っています。
3話まで観て、あまりに素晴らしいので、年末にじっくり観ようと取っておいて良かった。そうで無ければ、次回が気になって一週間悶絶する事になったでしょう。
2019年も1年間、当ブログをお読み頂きありがとうございました。
2020年が皆様にとって良い年で有るよう、お祈り申し上げます。