■ 若冲展の前売りチケットを買った ■
昨年9月、娘と
千葉市美術館の『唐画もん武禅にろう苑、若冲も』という美術展に行きました。大阪が生んだ二人の絵師、「墨江武禅」と「林ろう苑」を中心とした作品展でなかなか見応えのあるものでした。特にろう苑は大胆な構図と勢いのあるタッチで大変素晴らしい作品が多くありました。
展示会の名前の最後にオマケの様に付けられていた「若冲」ですが、「鸚鵡図」や「旭日松鶴図」、「象鯨図」など若冲の作品のインパクトは大きく、京都琳派の若冲に展示会の主役であるはずの大阪の絵師達の作品が完全に食われてしまって・・・。
そんな訳で、娘が今回、東京都美術館で開催されている『伊藤若冲展』に行きたいと言いました。家内が前売り券を3枚購入して、先遣偵察として初日の夕方に出かけて行きました。2時間待ち程度で入館出来、平日の閉館前と言う事も有り、比較的ゆっくりと鑑賞出来た様です。
私も早めに行きたかったのですが時間が取れず、ゴールデンウィークに入ってしまいました。そんな5月4日の朝、家内のワンセグでNHKを観ていたら、若冲の特別番組が放送されているではありませんか。これはイカン・・・混雑してしまうと、あわてて家を飛び出しました。ただ、「前売り券を持ってるオレって勝ち組?」なんて慢心もしていたのですが、美術館前の長蛇の列に唖然。何と、チケットを持っていても4時間待ちだとか。
普段はラーメン屋の列に並ぶ事すらしない性格なので、当然パス。
仕方無く、社会人になった当時オフィスのあった鴬谷方面に久ぶりに行ってみる事にしました。当時の根岸界隈は同潤会アパートなど古い建物が残る町並みでしが、バブル花盛りの頃で木造家屋がどんどんと取り壊されて行きました。街中の銭湯は解体した家屋を燃料に湯を沸かしていましたが、周囲に燃やす家屋が無くなると、銭湯も次第に姿を消し、唐破風の立派な構えも今は見られません。街並みは随分と変わっていました。ただ、くねくねと曲りくねった路地は当時のままです。
かつての同潤会のアパートの近くに在る「手児奈せんべい」は昔ながらのたたずまいで交差点の角に残っていました。
ここの「おおごま煎餅」は絶品で、胡麻の香ばしさと固めに焼き上げた煎餅の相性は抜群です。煎餅を買って、店のオバサンと昔話を一しきりしたら、「これオマケ、食べながら歩いてよ」って、「おおごま煎餅」を1枚頂きました。
少し歩くと「こごめ大福」で有名な「岡埜栄泉」の本店、「竹隆庵 岡埜」が在ります。本店ではここでしか買えない「粟大福」が在りますが、販売は月に二回だけです。(今もあるのでしょうか?)
交差点の所に連子格子の古い床屋が在って、良くロケなどで使われていましたが今はもう無くなりました。ここの店主は刈り上げをバリカンでは無くハサミ一本で仕上げるという技を持っていたのですが・・・。
若冲展には入場出来ませんでしたが、懐かしい街を散策した一日でした。
■ 平日昼間に再チャレンジ ■
TVで度々若冲展について放映されたらしく、行列は日に日に長さを増している様です。ネット情報では5月17日はシルバー無料の影響も有り、とうとう待ち時間は5時間20分に達したとか・・・・。ディズニーの新アトラクション並の人気です。
土日は無理と諦めて、5月20日の金曜日、徹夜仕事明けの朦朧とした頭で再チャレンジに出かけました。12時を少し過ぎた頃でしたが・・・4時間待ち・・・・。無理、絶対にムリだから・・・。
ふと見ると科学博物館では『恐竜博2016』を開催中。昨年幕張メッセで『大恐竜博』に行ったばかりですが、今回は全長15mの世界最大の肉食恐竜の骨格標本が展示されているらしい。これは見るしか有りません。
実は恐竜に関する学説は5年でがらりと変わります。次々に発見される化石が、この巨大な古代生物の知られざる生体を明らかにしているからです。私が子供の頃は恐竜は変温動物で尻尾を引き擦って歩く鈍重な生き物と図鑑には載っていましたが、『ジュラシックパーク』の頃から尻尾と頭を平衡にする事で敏捷に走り回る姿が定着して来ました。
2014年の発見で、「羽毛」が生えている種類も確認され、恐竜は恒温生物であったという仮説が出て来ています。下の写真は羽毛が生えた小型恐竜の復元模型です。
現在の地球上で恐竜に一番近い生物は「鳥類」で、ティラノサウルスなどの竜盤類から早期に分岐した小型の恐竜がその祖先というのが現在の学説の主流です。
そんなこんなで、眠たい眼を擦りながら、改装されて立派になった「科学博物館」を常設も含めて堪能してしまいました。
■ 3度目の正直・・・ならず ■
翌21日の土曜日、アパートから戻って来た娘と3度目の挑戦です。開館前の8時に到着しましたが、既に長蛇の列は美術館を一回りして芸大の方まで伸びています。早くも4時間待ち・・・。
娘は午後から友達に会う予定だったので、一瞬で断念して、国立博物館の「黒田記念館」のカフェで列に並ぶ人達を眺めながらコーヒータイムを楽しみます。時折雀がエサを探しにテーブルの上にまでやって来ます。そういえば最近、野鳥が人を恐れなくなりました。キジバトなども近寄っても逃げる素振りも見せません。これ、人々が野鳥を捕まえたり、脅かしたりしなくなった影響が大きいでしょう。野鳥は何世代かを掛けて、だんだんと人との付き合い方を変えている様です。
ところで煉瓦作りの黒田記念館ですが、日本の洋画の父とも呼ばれる黒田清輝の死後、遺族がコレクションを国立博物館に寄贈した事を切っ掛けにその収蔵用に建設された建物です。
芸大美術館でも見て行こうかと思いましたが、娘が六義園に行ってみたいと言うので、駒込まで山手線で移動します。実は六義園は私も初めてです。
徳川五代将軍・徳川綱吉の側用人・柳沢吉保の下屋敷として築造された六義園ですが、明治元年に三菱財閥の創始者、岩崎弥太郎に買い取られ、荒廃していた庭園は修復されます。後に東京都に寄付され現在に至ります。
駒込駅に近い染井門は裏門に当ります。門を入るとクスノキや赤松、ケヤキなどの大木が林立する鬱蒼とした林の下に小道が続きます。自然林を残しながら、その中に小川や池を後から構築していますが、今となっては自然に出来た沼の様に見えます。
六義園と言えば、正門側から観た池の景観が有名ですが、自然林を残した林は「借景」として池の背景を形作っているのでしょう。
アジサイには少し早いのですが、早咲きの株がほのかに水色に染まっていました。
朝ごはんが早かったので、小腹が空いたので池の畔の茶屋で抹茶と茶菓子を注文します。早起きは三文の得と言いますが、まったりとした午前中を過ごして、娘と分かれます。
■ 4度目の正直 ■
ネットで色々調べた所、若冲展を見るには朝一番か、午後の遅い時間が良い様です。徹夜は禁止されている様ですが、それでも始発組が沢山いらっしゃるそうです。6時前に列に並んだとして9時入館まではタップリ3時間は並びます。
ただ、日中と違い、列が進まないので折り畳みのイスを持参してゆっくりと待つ事が出来る様です。確かに日中は日差しも強いので、早朝に並んだ方が楽そうです。
寝起きの悪い娘を叩きお越して朝食を済ませ、駅までダッシュして5時11分の始発に飛び乗ります。美術館の前には5時50分頃に到着しましたが、既に列が伸びています。数えたら193番目でした。
7時頃には既に600人程度は並んでいたでしょうか?「日本人ってどんだけ並ぶのが好きなんだよ」とか毒づきながらも、しかり自分達も列を成す一員でした。普段は並んだり待ったりする事はキライで避けているのですが、もう「並ぶ事が目的化」しています。文庫本を読みながら、コーヒーとドーナッツを齧りながら、開聞の時間を待ちます。
開聞は7時50分頃、それから美術館の前庭に再び整列して、8時30分頃に最初の一団が館内に案内されます。300人程度でしょうか。
ここでロッカーに荷物を預けますが、娘と二人でロッカーに走るという痛恨のミスを犯してしまいました。列の何処に戻れば良いのか分からなくなって、最後尾に並び直します・・・。悔しい・・・。
8時前には展示室に案内され、各自、お目当ての絵を目指して速足で散って行きました。多くの方の目的は1回の円形の展示室。今回、初展示の作品が並んでいます。
4度目の正直でようやく「入館」する事が出来ました。嬉しい!!
・・・えっ?若冲はどうだったかって?
家内の図録を随分と眺めていていたので、なんだか新鮮味が・・・・・。
それよりも、同時開催されていた、
『公募団体ベストセレクション 美術 2016』の現代アートの展示品に、「スゲー」とか「カッコイイーー」を連発する父娘でした・・・。
どうしてこんなに苦労して「若冲」を観たのかって・・・それはチケットを買ってくれたカミサンに父娘そろって「ヘタレ」「根性ナシ」と言われちゃったから。「そこまで言われたら意地でも見てやる!!」と、根性をある所を見せたかった訳です。
もう、完全に目的を違えています・・・・。
尤も、行列する多くの観客も、行列のニュースに奮起した方がほとんどでは無いかと・・・「そんなに並ぶなら、私も並ばなくちゃ!!」って・・・バーゲンセールの感覚ですね。多分。