■ 「国会運営」という名のプロレス ■
「国会運営」なる言葉をニュースで良く耳にしますが、国民にはチンプンカンプンです。
昨今の様に与党が国会で安定的な多数を占める状況では、いかなる法案も強硬的に可決しようとすれば出来てしまいます。しかし、実際にはそれは最終手段であり、会期ギリギリまで政府は国会で野党の質問攻めに合っています。尤も、最期は多数決の原理に則り、多少の修正が加えられたとしても法案が可決される場合が多い。
これは一つの儀式の様なもので、「民主主義が機能している」と国民が信じる為には、「国会できちんと話し合いが行われている」というポーズを示す必要が有るのです。
もし仮に与党が強行採決を繰り返したらどうなるか・・・国民の多くは「国会が機能していない」と判断し、次の選挙で与党の票を削り、与野党伯仲の状況になるはずです。だから安定的な多数を確保していても、「国会運営」においては与野党ともそれなりのプロレスが要求されます。
■ 憲法が定める「臨時国会の開催要求」 ■
先日の国会では、日本の国会のシステム的な問題点が見事に露呈しました。
モリカケ問題で野党の追及が厳しくなり、内閣支持率が低下する中で安倍政権はどうにか通常国会を乗り切りました。
通常であれば、次の通常国会まで休会となりますが、野党は「臨時国会」を開催しろと政府の要求します。
憲法第五十三条
内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。いづれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない。
野党は憲法53条に則り「臨時国会の召集」を要求しましたが、内閣はこれに応じず「休会中審議」でお茶を濁します。当初は安倍首相が出席する予定は無かったのですが、内閣支持率がジリジリと下がり、仕方なく首相が出席し「丁寧な説明」と発言して国民を納得させようとします。
この間も野党は「臨時国会の召集」を要求し続けましたが、内閣はこれを拒み続けます。しかし、このまま臨時国会の召集を拒み続ければ明らかな憲法違反になりますから、どこかの時点では臨時国会を召集しなければならない。
■ 北朝鮮のミサイル発射と「臨時国会の冒頭解散」 ■
出来ればモリカケ問題が沈静化するまで、或いは加計学園の大学審議会の審査が終了するまで臨時国会を召集したくなかった安倍首相ですが、風向きが突然変わります。
北朝鮮が相次いでミサイルを発射し、「Jアラート」に国民が度肝を抜かれたからです。これで内閣支持率が回復し始めます。
さらに「安倍首相でなければ憲法改正を成し遂げる事は難しい」。「野党が憲法改正に反対している間にも北朝鮮は日本にミサイルを撃ち込むかも知れない」。こんな声が国民の間で急激に広がります。
この状況に焦りを抱いたのは民進党です。憲法改正に消極的な党内のリベラル勢力を抱えたままでは支持率が下がる事が明確だからです。
安倍首相はこの「潮目」の変化を見逃しませんでした。「臨時国会を召集」して、冒頭で衆議院の解散を宣言したのです。
■ 憲法7条の「衆議院の解散」■
社会科の授業では、「内閣不審銀案が可決された場合、内閣は衆議院を解散する事が出来る」と教わります。
憲法第六十九条
内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。
これは「対抗的解散」とも呼ばれ、内閣は不審銀決議案が可決された場合、総辞職するか、或いは衆議院を解散して国民に是非を問うものとされています。
しかし、今回の臨時国会で野党は不信任案を提出していません。議席数が過半数に届かない状況で不信任案を提出しても与党側に否決されるだけだからです。ところが、何故か安倍首相は臨時国会冒頭で自ら衆議院の解散を宣言します。
憲法第七条(天皇の国事行為)
天皇は内閣の助言により衆議院の解散を宣言する
通常は次の様な流れで憲法第7条が運用されます。
1) 内閣不信任案が可決される
2) 首相が衆議院の解散を決める
3) 衆議院議長は本会議において「日本国憲法第7条により衆議院を解散する
という解散詔書を読み上げる
ところが、今回の冒頭解散では、安倍首相は7条だけを適用して自ら衆議院を解散してしまいまいした。実はこれと同じ事を、民主党政権時代の野田首相が実行しています。
■ 解散によって自公が安定多数を占める不思議 ■
本来は内閣不信任案とセットであるべきの首相による衆議院の解散ですが、これが単独で行使われると色々と問題が発生します。
1)事件などによって与党に大幅に有利が世論が形成される
2)与党の首相が衆議院を解散して、有利な状況で衆議院選挙を行う
3)選挙の結果、与党の議席が大幅に増える
実は非常にトリッキーな方法ですが、野田元首相の解散は、自公の票が大幅に増えるタイミングで行われています。いくら世論が民主党政権に否定的であったとは言え、衆議院で民主党が多数を占める状況で不自然極まりない。
同様に今回の安倍首相の解散も、北朝鮮のミサイル発射で世論が若干安倍支持に動いたとは言え、共産党と民進党が仮に共闘したとすれば、与党の衆議院での安定多数は崩れていたはずです。
この明らかに不自然な解散によって、結果としては自民党と公明党の与党が衆議院の2/3以上を占める結果になっています。
私は安倍首相が解散を実行した時点では、小池氏と前原氏の話が着いていたと妄想します。そして、安倍氏と小池氏との間では、今回、小池氏が衆議院選挙に立候補せず、公約もグダグダで新党が自滅する筋書きも出来ていたと妄想しています。
だから安倍首相は解散に踏み切った。
■ 問題の多い憲法7条による衆議院の解散に制約を加えるべきだ ■
あくまでも陰謀脳による妄想ではありますが・・・
憲法7条によって首相が勝手に衆院を解散する事が出来てしまう現行憲法には、上記の様な大きな問題が存在します。
これは「天皇の国事行為」という「衆議院の解散を拡大解釈」して強引に運用しているだけなのですが、それに歯止めを掛ける法律が存在しません。
本来ならば、この様な法律システムの欠陥は、法律の改正によって是正されるべきですが、与野党ともこの問題に触れる事はありませんでした。何故なら、野党が政権を取った時にも便利に利用出来る抜け道だからです。
今回、枝野氏は憲法改正議論に当たり、9条よりも7条の改正を優先すべきだと主張しています。これは全く持って正しい意見です。憲法7条の拡大解釈を放置したままでは、今回の選挙の様にこれを与党が便利に利用して勢力を伸ばす事が出来るからです。
憲法7条に制約を加える方法として、憲法改正よりもハードルが低いのは「国会法」の改正です。ここに「内閣は不信任案の可決無くして衆議院の解散を宣言出来ない」と加えるだけで、現在の異常な状態は解消します。
「議会制民主主義」の根幹に関わる、憲法と法律の根本的欠陥を国民が容認するのであれば、飾りだけの民主主義なんて犬に食われた方がマシだ。