元旦の新聞に掲載された出版社の広告を、どのくらいの方がご覧になったでしょうか?
日曜日ということもあり、今年は出版社の年賀広告が多かったように思います。
各社どれもさすが言葉のプロと思うものばかりでしたが・・・。
その中でもとりわけ新潮社のものが心に響きました。
ドナルド・キーン氏による「日本人よ、勇気をもちましょう」という文章でした。
以下、全文です。
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日本人よ、勇気をもちましょう ドナルド・キーン
かつて川端康成さんがノーベル文学賞を受賞したとき、多くの日本人が、こう言いました。「日本文学が称賛してもらえるのは嬉しいが、川端作品は、あまりに日本的なのではないか」。
日本的過ぎて、西洋人には「本当は分からないのではないか」という意味です。分からないけれど、「お情け」で、日本文学を評価してくれているのではないかというニュアンスが含まれていました。
長年、そう、もう七十年にもわたって日本文学と文化を研究してきて、私がいまだに感じるのは、この日本人の、「日本的なもの」に対する自信のなさです。違うのです。「日本的」だからいいのです。
昨年、地震と津波に襲われた東北の様子をニューヨークで見て、私は、「ああ、あの『おくのほそ道』の東北は、どうなってしまうのだろう」と衝撃を受けました。あまりにもひどすぎる原発の災禍が、それに追い打ちをかけています。
しかし、こうした災難からも、日本人はきっと立ち直っていくはずだと、私はやがて考えるようになりました。それは、「日本的な勁さ」というものを、心にしみて知っているからです。昭和二十年の冬、私は東京にいました。あの時の東京は、見渡すと、焼け残った蔵と煙突があるだけでした。予言者がいたら、決して「日本は良くなる」とは言わなかったでしょう。しかし、日本人は奇跡を起こしました。東北にも同じ奇跡が起こるのではないかと思っています。なぜなら、日本人は勁いからです。
私は今年六月で九十歳になります。「卒寿」です。震災を機に日本人になることを決意し、昨年、帰化の申請をしました。晴れて国籍がいただけたら、私も日本人の一員として、日本の心、日本の文化を守り育てていくことに微力を尽くします。新しい作品の執筆に向けて、毎日勉強を続けています。
勁健なるみなさん、物事を再開する勇気をもち、自分や社会のありかたを良い方向に変えることを恐れず、勁く歩を運び続けようではありませんか。
新潮社 2012年賀正
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日本を、日本の文学を、文化を、こよなく愛して下さっている氏が、
「つよさ」という言葉に「勁」という漢字を当てて下さる。
その思いに、嬉しさだけでなく“誇り”と“勇気”を覚えます。
あの日から10ヶ月の月日が流れました。
あの時の思いを忘れず、ずっと心寄り添わせて。
今年何が出来るか、どう行動するか、今年の行動が後々に大きく影響してくると思います。
私たちにできること、私にできること。
勇気をもって、勁く―。