噛みつき評論 ブログ版

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アメリカのデモ騒動の行方

2011-10-10 10:39:35 | マスメディア
 「欧米で若年層の失業と所得格差の拡大が社会を揺さぶる問題として急浮上してきた。欧州では緊縮財政への反対デモが激化、米国でも格差是正を訴える若者らの運動が始まり混乱が広がっている」

 これは10月6日の日経に載った記事の書き出しです。7面のトップでかなりのスペースを割き、社会を揺さぶる問題として重大視していることが読み取れます。その要点は以下の通りです。

 2011年8月における25歳未満の若年失業率はスペイン46.2%、ギリシャ42.9%、イタリア27.6%、フランス23.5%、英国20.9%、米国17.7%、ドイツ8.9%と高い数値が示されます(日本は2010年で9.4%とまだマシです)。

「米国では上位1%の所得が全体の20%を超え、過去90年で最高となる一方、貧困層の人口は過去52年で最多となった」

「英国では上位10%と下位10%の資産格差が100倍超に広がったという。OECDの調べではジニ係数が多くの国で悪化傾向にある」

「ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのカセリ教授は『冷戦後、自由主義思想が格差を許容するような面もあったが、今、巻き返しが始まっている』と指摘する」

「欧州では不満の矛先を移民に向け『職を奪われた』などと移民排斥を訴える極右勢力の台頭も目立ってきた」

「雇用問題に有効な手立てが見当たらぬなかで、『先進国が直面しているのは民主主義の危機』(仏の人口学者エマニュエル・トッド氏)との声も出ている」

 現在先進国で起きている騒動の根深さ、深刻さを示す材料が集められている観がありますが、この署名記事を書いた記者の危機意識の表れなのでしょう。新自由主義を推進する立場をとってきた日経にしてはまことに異色の記事であります。

 これに対し、他の主要紙はこれらのデモ騒動を小さく報道するだけで、さほど重要視している様子はありません。エジプトやリビアなどの騒乱を大きく報道したのに比べるといささか不可解です。この鈍感さは何なのでしょうか。死者の数でニュース価値を決めるという方針でもあるのでしょうか。

 中東の騒動はまあ対岸の火事ですが、欧米で起きている問題は日本にとってもより切実な問題となる可能性があります。アメリカのデモが今後さらに広がって、日経の記事が危惧するように、社会を揺さぶることになるかもしれません。

 中谷巌 著「資本主義はなぜ自壊したのか」によると、アメリカでは1927年頃、上位1%の所得が全体の20%を超えていました。それは1940年頃から急速に低下し、レーガン登場以前では8%となりました。1950年代末には所得税の最高税率は91%に達し、格差縮小が進みました。ところがレーガン以降は格差を容認する風潮によって最高税率は35%まで下がり、現在の格差社会の実現を見たというわけです。

 著名な投資家で富豪のウォーレン・バフェット氏は優遇されている配当などが多いため所得税を17.4%しか払っていないことを示し、富裕層への増税を提唱した話は大きな反響を呼びました。現体制の受益者がその体制を批判したわけです。

 資本主義というものは放っておけば必然的に格差が拡大するもののようです。アメリカのデモの広がりはアメリカ社会のあり方に対する不満の鬱積が高いレベルに達していることを示しています。ノーベル経済学賞を受けたスティグリッツ教授が参加するなど広い層からの支持を得ており、もしかするとレーガン以降の新自由主義の流れが逆転する端緒となる可能性があります。

 米国では上位1%の所得が全体の20%を超えていると書きましたが、上位0.1%の超富裕層の所得は7%に達すると言われています。資産の格差はさらに大きく、階級社会と呼んでもいいくらいです。米国が激しい格差社会にも拘わらず、比較的安定していることに私は疑問を感じてきました。格差と社会の安定性、日本への影響など、とても興味ある問題です。

 民主主義体制ではこうした社会の変革は選挙の投票によって実現できる筈なのですが、デモでないと実現できないとすればいささか皮肉なことです。デモクラシーよりデモンストレーションということになりますか。


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2 コメント

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Unknown (okada)
2011-10-12 23:31:45
自国(日本)に拡散させたくないから報道を控える・・・その通りですね。当事国でも次のような見方があります。

反格差社会デモ「ウォール街を占拠せよ」をインターネットなどで呼び掛けた仕掛け人、カレ・ラースン氏(69)は米主要メディアが運動をあまり大きく報じてこなかったことについて、「CNNやブルームバーグなどの主要メディアも大企業で、われわれが消えることを望んでいるのだろう」との見方を示した。

こういう点に関するメディアの一致団結はたいしたものです。

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Unknown (samu)
2011-10-10 23:54:58
昨今の世界中のデモに対しての報道機関での扱いが、低いのではないかとのご指摘、おっしゃる通りだと思います。
フジデモ騒動はマスコミ自身重々承知であり、他国の格差社会是正のための市民運動が、自国ではマスコミがターゲットになるとわかっており、無用に自国へ拡散させたくないのでしょう。
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