静聴雨読

歴史文化を読み解く

バイエルン紀行・Ⅰ ニュルンベルクからミュンヘンまで

2011-10-05 07:40:01 | 異文化紀行

 

2009年の夏、ドイツ南部を旅した。主目的は、バイロイト音楽祭に参加することだった。その記録は、「バイロイト詣で」と題するコラムにまとめた。ここでは、バイロイト以外での体験を綴ってみようと思う。

これから触れる内容を箇条書きにすると以下のようになる:
・ ルートヴィヒ二世
・ 鉄道の旅
・ 食事情
・ サイクリング文化
・ 英語が通じない

(1)ニュルンベルク

バイロイト音楽祭で『パルジファル』の公演を観た翌朝、ミュンヘンに向け、バイロイトを後にした。途中、ニュルンベルクを観光する予定だ。疲れが残り、体がだるい。あまり、無理な行動はできなかろう。

バイロイトからニュルンベルクまで列車で1時間20分。ニュルンベルク駅で、夕方のミュンヘン行きICE(都市間超特急)を手配し、スーツ・ケースをコイン・ロッカーに預け、さあ、市内見物に出発だ。

駅前から、ケーニヒ通りを通り、中央広場を経て、カイザーブルクまでの道が、ニュルンベルクの中心街だ。端から端まで歩いて1時間の行程。その道筋がなかなか趣きがある。中世以来の街並みを実感できる。広場にも、通りにも、露店が出ている。果物屋、野菜屋が多いが、中には、チーズ専門店も出ている。

カイザーブルクまで登り、デューラーの家を通って、坂道を下ると、ヘンカー・シュテークという運河に出る。ここは、ベルギーのブリュージュを彷彿とさせるところで、古い家並みと運河が調和する景観が広がる。

そこから中心街に戻る途中で、ある、室内装飾店の前で立ち止まった。ちょうど、セールの最中で、ショウウィンドウに、素敵なテーブルクロスがあるのが目に入った。大きなテーブルクロスがセールで54ユーロ、お買い得だ。中に入り、店員と交渉に入った。「セールで安くなっているのはわかるが、2枚買うのでさらにディスカウントしてもらえないか。」店員は私の英語が分からないらしく、「これは、54ユーロ。」の一点張りだ。無論、私も、値切り交渉に拘っていたわけではないので、1点だけ54ユーロの買い物をして、店を出た。

ニュルンベルクの街は、バイロイトに比べればはるかに大きいが、後に経験するミュンヘンの街に比べたらはるかに小さい。その中くらいさが気に入った。
また、清潔一辺倒のバイロイトに比べ、ニュルンベルクにはどことなく猥雑なところがあり、夜この街を訪れたら別の顔を見せるのではないか、と思われた。

ニュルンベルクの名物である「ニュルンベルク・ソーセージ」を味わった。直径1cm、長さ10cmほどのソーセージを目の前で焼いてサーブしてくれる。注文単位は、6本、8本、10本、12本と自由に選べる。付け合せは、ザワー・クラウトかポテト・サラダを選ぶ仕来りだ。少食の人は6本注文すればよい。このソーセージは聞きしに優る旨さだった。

ニュルンベルクがこれほど心地よい街なら、日本からバイロイトに向かう時に、この街を経由すればよかった、と後悔するほどだった。 

(2)ICE(都市間超特急)

ニュルンベルクからミュンヘンまでは、ICE(都市間超特急)を利用した。ICEとは Inter City Express の略で、日本語では、「都市間超特急」の名が当てられている。なぜ、「超特急」なのか?
それは乗ってみると分かる。

ドイツは、弧状の日本とは違って、国土が真四角といっていいほどだ。その中を鉄道網が張り巡らされている。ドイツは鉄道王国なのだ。ちなみに、ドイツ鉄道(ドイチェ・バーン)は国有だ。

そのドイツの主要都市間を結ぶのが、ICE。北はハンブルグ、東はベルリン、西はケルン、南はミュンヘン。いずれの都市間をも高速で結ぶのが、ICEの役割だ。

ニュルンベルクからミュンヘンまでは、ICEで1時間強。わが国に例えると、東京―静岡間の新幹線と同じ行程だ。途中、大きなトンネルを2回通過したところから考えると、おそらく、専用の線路を敷いたものと思われる。最大時速228kmを出していたので、日本の新幹線と比べても遜色ない。

並行して走るアウトバーンをものすごい勢いでICEを追いかける車がいた。さすがに、ICEには負けていたが、それでも時速160kmを超えるスピードで疾走していたようだ。この国のスピード・マニア恐るべし、だ。

ニュルンベルク-ミュンヘン間、ICE2等車座席指定で、49ユーロ(6860円)。
東京-静岡間の新幹線2等車座席指定で、6180円だから、ドイツと日本の超高速列車の運賃は同じようなものだ。 

(3)ミュンヘンの宿

ミュンヘンには4泊する予定だった。事前に調べたところ、リーズナブルで便利な宿を市内で見つけるのはなかなか難しいらしい。
それで、以前「旅チャンネル」の「日本人が経営するもてなし宿」で見たホテルを当たってみることにした。オーナーが日本人で、日本人の旅客によくしてくれるという触れ込みのその宿は、
 ホテル・ガウティンガーホーフ Hotel Gautingerhof
という。ミュンヘン西南の郊外にあるガウティン Gauting という街にあるらしい。
ガウティンは、ルートヴィヒ二世が入水したシュタルンベルガー湖にも近いので、今回のルートヴィヒ二世を偲ぶ旅にふさわしいロケーションだということがわかった。

夜、ミュンヘン中央駅からSバーン(郊外電車)6号線で25分のガウティンに着く。
プラットフォームを出て、自転車をいじっていたおばさんに聞く。
「すみません。Hotel Gautingerhof はどちらですか?」
おばさんは、私の袖を引いて、「こちらに来てごらん。ほら、そこにホテルがある。2軒もある。」と宣(のたま)う。だめだ、こりゃ。どうやら、Gautingerhof が引っかからなかったらしい。

次に、自転車で通りかかった若者に、「すみません。Hotel Gautingerhof はどちらですか?」と聞くと、彼はしばらく頭をひねった後、「わかりません。」と走り去った。

次に自転車で通りかかった若い女性に同じ質問をぶつけてみた。ただし、このホテルがピピン通りに面していることを思い出したので、「すみません。Pippinstrasse に面したHotel Gautingerhof はどちらですか?」と聞いた。「Pippinstrasse なら、その通りを左に真直ぐ行ったところです。」「ありがとうございます。それで、Hotel Gautingerhof は道の右側にありますか、左側にありますか?」
「Straight です。」「???」

言われた通りに道をたどると、細長いロータリーに出た。Pippin Platz (ピピン広場)と標識が出ている。そして、そのロータリーの右でも左でもなく、正に正面に「 Hotel 」の文字の建物があった。彼女の「Straight です。」の意味がようやく飲み込めた。

ホテル・ガウティンガーホーフは20室ほどの小さなホテルで、アット・ホームな雰囲気を醸している。音楽家の日本人女性が一人勤めている。久しぶりに聞く日本語に心和む思いだ。彼女は、フュッセン近郊のヴィース教会でのコンサートを2回終えたところだという。  (2009/9)