アイヌ民族情報センター活動日誌

日本キリスト教団北海教区アイヌ民族情報センターの活動日誌
1996年設立 

2019年9月16日開催 旭川アイヌ民族フィールドワーク報告 その1

2019-10-11 14:40:17 | 日記

さる9月16日、当アイヌ民族情報センターと日本キリスト教団北海教区道北地区社会担当委員会主催で旭川アイヌ民族フィールドワークを開催しました。

常盤公園の旭川美術館前に集合して公園内にある「風雪の群像」を説明する予定でしたが、この日は旭川最大の祭「食べマルシェ」の最終日で、常盤公園の駐車場に集合することは困難と判断し、急きょ、集合場所を川村カ子トアイヌ記念館に変更し、「旭岡墓地」、市立北門中学校にある「知里幸恵文学記念碑」とまわりました。記念館に戻り、川村シンリッ エオリパック アイヌ館長のお話を伺い、お昼には川村久恵副館長が準備してくださったチェプルル(鮭汁)を美味しく頂きました。部分参加も含めて42名の参加でたいへん盛会でした。

旭岡墓地での川村さんの解説

午後に榎森進さんの講演が行われました。2019年4月26日に公布され、5月24日施行された「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(略称「アイヌ施策推進法」)をとりあげ「アイヌ民族の歴史と『アイヌ施策推進法』」と題しての講演をしてくださいました。現在、この法に対し、最前線のアイヌ民族の歴史の研究者がとり上げて講演するというたいへんタイムリーで貴重な講演となりました。

榎森さんは「アイヌ施策推進法」を、中身にごまかしがたくさんあるのをそうでないように見せるためにきれいな言葉をところどころにおいていると批判。

法名に「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するため」とかっこいい言葉が使われているが「施策」すなわち「アイヌ対策」であり、それは政策を実行する側の考え方であって、本来はアイヌ民族が主人公になった法律であるべきなのに、この法の主人公は内閣総理大臣にあることが問題。また、先住民族と述べながら「国連宣言」で謳っている先住民族に関する権利について何も書かれていないし、具体的な経済政策や教育政策も述べられていない、あくまでアイヌ文化についてのみとなっている。文化は大切だがそれのみで誇りが出てくるのか疑問だ、とさいしょに概観しました。

 

以下、榎森さんのお話(一部)をまとめます。

この法は第1章から8章(45条)まであり、政府としてなにをしようとしているのか基本的内容を示しているのが第1章総則の第1条~第6条に詰まっている。

総則(目的) 第1条には、アイヌ民族を「北海道」の「先住民族」と謳うが、「国連宣言」で謳う先住民族の「先住権」については、何一つ記していない。したがって、アイヌ民族を法律で「先住民族」と謳ったのは、本法が最初であるが、「先住民族」が有する「先住権」が保証されなければ、「名ばかり先住民族」規定と言わなければならない。

第4条にはアイヌ差別の禁止が述べられているが、罰則規定はない。日本国の基本的法規である「日本国憲法」で国民の「基本的人権」を謳った第11条の規定及び第14条第1項で「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において差別されない」との国民の法の下の平等をすでに謳っているのにそれが守られておらず差別はなくなっていない。それゆえ、今回も差別禁止を謳ったところですぐ差別がなくなるわけではない。守られるような政策を国がやっていないのだから、このままでいけば基本的にアイヌ差別はなくならないだろう。

 知里幸恵文学記念碑前で川村さんの解説

2、本法の基本的性格。

アイヌ民族の生業・生活基盤を強化するための政策は無く、アイヌ文化を中心とした政策で、その中心政策は国による「民族共生象徴空間構成施設」の設置。

「民族共生象徴空間構成施設」とは「国立アイヌ民族博物館」・「国立民族共生公園」・アイヌの遺骨を収納・慰霊するための「慰霊施設」の3施設で構成される。

「国立アイヌ民族博物館」という施設は、日本で初めて建設されるものなので、「博物館」それ自体の新設は問題ないが、「アイヌ施策推進法」なる新たなアイヌ民族政策の中核的政策としての「民族共生象徴空間構成施設」なるものの重要な要素として位置づけられているだけに、問題は、極めて多い。

まず、展示の基本的な考え方として、政府の資料に「国内外の多様な人々に、アイヌ民族の歴史や文化を正しく学び、正しく理解する機会を提供するために、アイヌの歴史・文化等を総合的・一体的に展示する」とある。

しかし、館内の「基本展示室のゾーニング」を見ると「歴史」コーナーは、4面の内の1面のみで、「私たちの歴史」なるコーナーのみ。かかる狭い空間のみで、「旧石器時代から現代までの時間軸、および周辺の人々との交易を含めた空間の広がりを重視し、重要なトピックを取り上げながら歴史を紹介する」ことも、アイヌ民族の「苦難の歴史」を展示・説明することも技術的に不可能。博物館学では説明文の字数は、400字以内でないと読んでくれない。

「国立民族共生公園」という施設は、所謂テーマ・パークで、「伝統的コタン→チセ群等の再現によるアイヌの伝統的生活空間を体感できる施設」の他「体験交流施設」・「工房」・「芝生広場」で構成されている。嘗ての「ポロト・コタン」のイメージと基本的に変わらない。

「慰霊施設」→これは大問題の施設。北海道大学・札幌医科大学・東京大学・京都大学・東北大学・新潟大学・金沢医科大学・大阪大学・大阪市立大学・天理大学・南山大学・岡山医科大学の計12大学で保管している1、636体のアイヌの遺骨の他、全国の博物館で保管しているアイヌの遺骨(これらの多くは、過去に東京帝国大学{現東大}の小金井良精、京都帝国大学{現京大}の清野謙次、北海道帝国大学{現北大}の児玉作左衛門を初めとする解剖学・自然人類学を専門とする研究者達がアイヌの墓地から盗掘したもの)の内、その祭祀承継者や関係地域に返還出来なかった遺骨を集約し、慰霊するための施設。なお、これらの大学・図書館の大部分は、現在保管しているアイヌの遺骨を自主的にその祭祀承継者や関係地域に返還する意思なし。→関係者がこれらの機関(北大・札医大)を提訴して初めてその一部が関係地域へ返還されているのが現状(北大開示文書研究会の活動)。  つづく