アイヌ民族情報センター活動日誌

日本キリスト教団北海教区アイヌ民族情報センターの活動日誌
1996年設立 

「アイヌ資料集」人権侵害裁判上告 棄却に抗議!

2007-04-17 09:54:58 | インポート
今朝の北海道新聞に「『資料集』人権侵害訴訟 アイヌ民族の上告棄却」の記事がありました。 北海道新聞(04/17 00:20)http://www.hokkaido-np.co.jp/news/society/20912.html
大変、ショックを受けたと共に、司法への強い怒りを覚えます。

もし、わたしたちの家族の実名と住所、そして病名(すなわちカルテ)が、知らぬうちに本にされて一般に出版されたとしたらどうでしょう。しかも、差別と偏見のまなざしで冷たく見られ、劣った人々だという文言がちりばめられ、差別を助長する誤った病名が書かれていたとしたら・・・。

この裁判は、1980年2月に「文化人類学者」を名乗る人が「アイヌ史資料集」を復刻・出版したことに端を発します。その第三巻(医療・衛生編)の中には、当時の和人の偏見に満ちたアイヌ民族への記述がいたるところに存在し、文章全体が著しいアイヌ民族差別に満ちた内容となっています。
しかも、分冊二「余市復命書」と、分冊五「あいぬ医事談」にはあわせて500人以上にもおよぶアイヌ民族の実名、地名、年齢、性別、職業、病名、治療経緯が一覧表記されていて、プライバシー侵害はなはだしく、さらに加えて、アイヌ民族に対する差別を助長する、誤った「病名」等が記されています。
これらの図書をこの「文化人類学者」は、編者として当然、復刻時点でなすべき評価、差別的表現に関する注記や注釈が付されるべきであるにもかかわらず、それらを怠り、そのまま復刻出版しているのです。
これに対し、北川しま子さんや川村シンリツ・エオリパック・アイヌさんら数名のアイヌ民族がこの学者を訴えたのです。

2002年6月の第1審判決は棄却。判決文には

「本件各図書の編集、出版、発行によって、作成当時のみならず現在に至るまでのアイヌ民族全体に対する差別表現がされたと見る余地があるとしても、その対象は、原告ら個人ではなく、アイヌ民族全体である」
とあり(よく分からない内容です)、人格権侵害は、「資料集」に実名が書かれた人達、ないしは、差別表現をされたという点で、「アイヌ民族全体」であることは認めているようですが、この裁判を起こした原告らにはない、という判断のようです。
しかし、原告の北川さんは、祖父母の実名も病名もはっきり書かれているわけです。

06年3月の2審も控訴を棄却。判決理由には

「書物等により、特定の個人の過去の病歴、現在の病名等を明らかにすることは、当該特定の個人との関係でプライバシー侵害になることは言うまでもない」とし、復刻出版に対しても当該人物ないしその遺族の了承なり、それが不可能の場合には伏せ字にするなどの配慮が必要であり、そのような配慮をしていれば本件の問題が生じなかったと被控訴人への配慮の欠けた面を指摘する。しかし、これらは差別をする目的ではなく、研究目的として出版されたものであり、貴重な歴史資料であるので、実名・病名をそのままにしたことは「強く責めることには躊躇を覚える」

とありました。はて、差別する目的ではないからと単純に判断していいことなの?研究目的ということでプライバシー侵害が許されるの? 全く納得がいかない!!
判決文は、さらに

「本件図書に存在する差別的記述が現在も存するアイヌ民族に対する差別を助長するものであるとまでは認められない」
と、現在のアイヌ民族への差別と切り離し、ほぼ一審判決を踏襲。祖父母の実名と病名が載ったと訴えた原告のおひとりの件についても、
「社会通念上許される限度を越えておらず、名誉感情を侵害したとは言えない」
と、却下。
若干、「プライバシー侵害という見かたが出来よう」などとは述べてはいますが、資料の重要性などを理由に挙げ、控訴人らの心の痛みは「間接的なもの」とされたのです。現に今も続く差別の問題、アイヌ民族が誇りを持って生きることの困難な現状、さらにこれらの本によって侵害を受けているという訴えはいとも簡単に切り捨てられたのです。

また、これらの資料の復刻出版によって相当の収益があったはずとの着眼点から、この出版は単なる営業目的だったのではないかとの控訴人側弁護団の主張に関しては一切、判断されませんでした。
北川さんたちはこの不当判決に早速、上告し、わたしたちも協力していったのですが・・・・。
早く判決文を読みたいです(と、言っても「共有財産」裁判の最高裁判決も数行でしたから読んでも意味はないかも・・・・)。