てすさび日誌

哀しき宮仕えを早期リタイアし、“サンデー毎日”のomorinが生活の一コマや雑感を認めた日誌です(2005/4/20~)

アンズ

2011-06-07 10:28:00 | 暮らしと生活
 永らく貸家にしていた弟の屋敷だが、この度の転居手伝いに伴い20数年ぶりに入った。
 気になっていた裏庭に植えていた2本のアンズの木は、柿の木と樹勢を競うように共に大木に育ち、青い実をたわわにつけている。一見しただけではウメと見紛うほどだが、ウメの果実は完熟しても果肉に甘みを生じず、種と果肉が離れないのに対し、アンズは熟すと甘みが生じ、種と果肉が離れる離核性がある。

 弟からいつでも取って食べてくれと合鍵を渡されているので、さてどう加工したものか今から思案している。アンズは酸味が強いため、生食よりもジャムや洋菓子などに加工されることが多い。
 また我が家のウメが今年も不作(アブラムシが発生し落実)のため、ウメの代用で「アンズ干し」も悪くない。
 アンズ酒にする手もあるのだが、昨秋に漬け込んだカリン酒が手付かずだし、2年~3年物のウメ酒がまだ残っているのでパス。

 食べる話はそこまでにして、アンズといえば室生犀星の『杏っ子』を思い浮かべる。
 『杏っ子』は、室生犀星が67歳の熟年に達してから1年間に渡り、東京新聞に連載した。自分の幼い頃の過酷な境遇から、結婚、娘の誕生、娘の結婚、離婚という風に、自分と娘の生き様をモチーフとした半自叙伝的な小説である。
 男系家族に育ち、3人の倅を育てた小生としては、犀星の描く父娘関係は大いに関心があった。また芥川龍之介などとの交流、大正から昭和にかけての日本の歴史的な事件の記録も描かれていて興味は尽きない。 

 犀星の抒情小曲集の一節「ふるさとは遠きにありて思ふもの そして悲しくうたふもの」の詩句はあまりにも有名である。彼が文壇に名を轟かすようになった後も故郷の金沢にはほとんど戻ることがなく、そのかわり犀川の写真を貼っていたという。
 片や弟は一時都会で骨をうずめる覚悟でいたが、家内に先立たれこの度の単身帰郷となった。両親の生前からのたっての希望通りである。これでふるさとを遠く離れて思うこともない。


大木に育ったアンズの木

その実はまるでウメ
コメント (4)
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