感染症対応は政府一丸で…菅前首相「ワクチン1日100万回接種に勝負を懸けた」
省庁の縦割り打破 重要
新型コロナウイルスの5類移行を前に、コロナ禍に官房長官、首相として対応した菅義偉・前首相が読売新聞のインタビューに応じた。感染症危機の際には、省庁の壁を越えて政府が一体となって対応することが重要だと強調した。
――コロナ禍で得られた教訓は。
感染拡大が始まった時、まったく情報がなかった。まずは省庁の縦割りを排し、政府が一丸となって取り組む体制を作ることが重要だった。その代表例が2020年2月のクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」を巡る対応だ。
乗船者のPCR検査で31人中10人の陽性が判明したのは、2月4日夜10時頃だった。大変な事態が起きたと考え、直ちにホテルの一室を借りて厚生労働相や国土交通相、官僚を集めて対応を協議した。陽性と判明した方には速やかに下船してもらう方針を決め、そのための病床も確保するよう指示した。
各省庁が一つになって対応するには、官房長官の私が指揮をとらなければいけないと思ってやっていた。
――感染拡大防止と社会経済活動の維持の両立をどう考えた。
非常に厳しい判断の連続だった。感染症の専門家は感染拡大防止が最優先だというような意見を言い、世論も当初は厳しい対策を求める声が相当多かった。
一方で、第1波の緊急事態宣言で多くの経済活動がストップしたため、20年4~6月期の国内総生産(GDP)は年率換算で前期比マイナス28%と戦後最悪の落ち込みだった。あれはショックだった。
社会経済活動を維持し、国民の暮らしも守らなければならない。2回目の緊急事態宣言以降の感染防止対策は、専門家が「効果が高い」と指摘している飲食店に的を絞った。諸外国と比べて失業率はそれほど上がらず、感染者数や死亡者数も少なかった。いろいろと批判もされたが、今振り返ると妥当な対応だった。
――ワクチン接種は欧米に出遅れたが、接種率では欧米を追い上げて世界トップ水準を実現した。
切り札はワクチンに限ると思った。「一本足打法」ともやゆされたが、「1日100万回接種」の目標を掲げて本気度を示したというか、勝負を懸けた。
政府は準備や段取りはしたが、実際には各地の医療や介護などの現場の人の協力がなければ接種は進まなかった。期待以上に動いていただき、日本人は本当にすごいと思った。
――21年夏の第5波では感染者が病床不足で入院できず、自宅で死亡する事例が相次いだ。
日本の医療が総力を挙げて戦わなければならないという覚悟で取り組んだが、大都市で、計画通りに病床が稼働していない病院があった。このため、例えば、独立行政法人・地域医療機能推進機構(JCHO)にコロナ専用病院をつくる、国立病院機構にも東京都内での病床を増やしてほしいと要請した。危機に際し、国公立・公的医療機関が先頭に立って範を示す必要がある。そういう思いだった。(聞き手 足利浩一郎)
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