精子提供募り2千回分確保 都内不妊治療施設、1年で ドナー7割が「非匿名」
AIDは70年以上の歴史があるが、ドナー情報を子どもに知らせない匿名提供が続けられてきた。超党派の議員連盟が進める生殖補助医療の法整備論議に関し「非匿名化すればドナー確保が難しくなる」と指摘されるが、今回の結果は懸念払拭の一助となりそうだ。
宮崎薫(みやざき・かおる)院長は「『困っている人を助けたい』などを提供の理由に挙げるドナーが多い。非匿名での提供は、遺伝的ルーツをたどりたいという子どもの気持ちに応える姿勢の表れだ」と話した。
非匿名ドナーの精子は、AIDを複数回受けても妊娠せず、より技術的に高度な顕微授精を実施する際に用いる。18日時点で33組の夫婦が顕微授精を受けたという。
同クリニックは従来、精子提供を医学生に依頼していたが、2022年2月からウェブサイトなどで20~39歳の男性に協力を呼びかけた。23年1月までの応募者は279人。精子の検査所見などの審査を経て147人がドナー登録、計2067回分の精子を確保した。
非匿名を選択したドナーは103人。子どもが18歳以上になって希望すれば、ドナーとの面談や、電話、メール、手紙での接触についてクリニックが双方の意向を確認しながら仲介する。
ドナーの氏名や生年月日などの個人情報を子どもに伝えるかどうかは、面談などの接触後に双方の合意に基づき対応する。匿名ドナーの場合はこうした接触の機会はなく、個人情報も伝えられない。
匿名、非匿名を問わず、ドナー自身が体の特徴や趣味、職業、提供の理由などを記入した「精子提供者の周辺情報表」を妊娠した夫婦に渡す仕組みも導入、子どもの成長に合わせてドナーがどんな人か伝えられるようにした。夫婦が同様の情報に基づき、ドナーを選択することはできない。
同クリニックは必要量を上回る精子が確保できたとして、現在はドナー募集を縮小している。
※提供精子を用いた人工授精(AID)
無精子症など男性不妊に悩む夫婦に、第三者の精子を用いて人工授精を試みる医療。慶応大病院で1949年に最初の赤ちゃんが誕生、これまでに国内で1万人以上が生まれたとされる。日本産科婦人科学会の集計によると、2020年には国内の12医療機関で計2010件実施された。はらメディカルクリニックは763件で、全体の38%を占める。近年、この医療によって生まれた人たちが「遺伝的ルーツを知りたい」と声を上げ、出自を知る権利の重要性が認識されるようになった。超党派の議員連盟が、卵子などの提供も含め法整備を目指し、議論を続けている。
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