フィールドノート

連続した日々の一つ一つに明確な輪郭を与えるために

5月2日(月) 晴れ

2016-05-04 11:13:40 | Weblog

7時、起床。

今日の松本の最高気温は29度の予報が出ている。な、なんと。ほぼ真夏日ではないか。

リッチモンドホテルの一階には「ガスト」が入っていて、宿泊客は朝食をここでとることになっている(朝食の時間帯は一般客は入れない)。バイキング形式で、和食テイストでまとめる。卵は温泉卵で、これで卵かけご飯にして食べる。シンプルにこれだけでもよかったが、850円払っているので、おかずとサラダと味噌汁とスープをチョイス。

焼き鮭はふっくらして美味しかった。

ホテル泊で朝食を付けることのよい点は、朝食をとった後、チェックアウトの時間(11時)まで部屋で寛げることである。この場合、ホテルの部屋は寛げる程度の広さがあることが前提である。ベッドの周囲の空間がほとんどないような圧迫感のある部屋ではだめだ。バス・洗面台・トイレユニットについても同じ。今回のリッチモンドホテルは値段(9600円=GWなので普段より高いが)の割にゆったりとした空間でよかった。

一方、ホテルの朝食の欠点は(ほとんどの場合)コーヒーが美味しくないことであるが、私は朝は紅茶なので問題ない(ティーパックだから)。

11時にロビーで放送大学の坂井素思先生と待ち合わせる。坂井先生は数日前から大町の別荘に滞在して、松本で椅子関係の取材(放送教材のための)を続けているのだ。

今日は一緒に街歩きをすることになっているが、最初に坂井先生の馴染みの「灰月」(かいげつ)というギャラリーに連れて行かれる。高美書店のビルの2階にある。ここにギャラリーがあることは知っていたが、入るのは初めて。

「灰月」という個性的なネーミングは、もしかしたら志賀直哉の「灰色の月」から取ったのかと思ったが、そうでなくて、お店のホームページでこんなふうに店主さんが説明している。素敵な文章なので、紹介しておこう。

 「灰月」という店名は私の好きな月の色、 「限りなく白に近いグレーの月」
 と いう意味と、もうひとつ、「薄墨色の時間」という意味があります。
 夕刻、薄いブルーグレーから始まって、ゆっくりと暮れ、次第に群青色の
 夕闇へと変わるこの時間帯がこの上なく好きです。
 一日の仕事を終え、夕方の涼しい風に吹かれながら暮れてゆく空を見ていると、
 その日の嬉しいこと、悲しいこと、全てに感謝する気持ちになれるのです。
 いつしか私の中にはこのわずかな時間が、幸福の大切なイメージとなりました。
 そして、「灰月」という言葉となり、店名になったというわけです。 

 坂井先生が店主さんとおしゃべりをされている間に店内を見て回った。

窓際の棚に置かれた陶器に目が行く。

風薫る季節を感じさせるデザインだ。

手前の湯呑を購入(3200円+税)。

「GRAIN NOTE」へ行く。

二階の展示室で木楽工房(山形英三)の椅子展を開催中。

山形さんが在廊されていて、坂井先生とは取材を通してお知り合いである。

 木楽工房(山形英三)のホームページは→こちら

山形さんは大学時代に一枚の写真と出会った。スペインのアンダルシア地方の小さな村で作られた素朴な椅子の写真である。

同じタイプの椅子をゴッホが描いている。

以来、山形さんの椅子職人としての人生が始まった。

山形さんが長年の夢だったスペインアンダルシア地方を訪れたのは2011年の秋のことだった。

 

一階の通常展示で見つけた砂田政美さんの蕎麦猪口を購入。これも風薫る季節にふさわしいデザインだ。

12時に予約しておいた「ル・コトリ」に昼食を取りに行く。

エンドウ豆のボタージュスープ。香りが深い。

オマール海老のアメリカカンヌソース。坂井先生はスズキのオーブン焼きを注文。

食後のコーヒー。デザートを注文しなかったのは、カフェめぐりの途中だからだ(スイーツはそこで食べることになるだろう)。

写真をお店の方に撮っていただく。彼女はシェフの奥様だと私は思い込んでいたが、そうではなかった。「シェフの方がずっとお若いのですよ」と彼女はちょっと嬉しそうに私の誤解を訂正した(笑)。

細身の坂井先生はカジュアルな出で立ちがお似合いである。

「chiiann」に坂井先生をご案内する。ここは彼は初めて(私のブログを読んで知ってはいる)。

昨日と違って、今日は客はわれわれだけ。ご主人によると昨日が特異日だったらしい。

私はカステラ(自家製)とダージリンを注文。

坂井先生はコーヒー(中煎り)とレモン風味のパウンドケーキを注文。(例によって、カステラとパウンドケーキはシャアして食べる)

コーヒー通の坂井先生は一口飲んで、ここのコーヒー豆は高砂通りにあるコーヒー豆の焙煎店「ローラ」のものであると断定した。「そうですよね?」とご主人に尋ねたところ、「その通りです」とのこと。私が感心していると、「実は、先日、「ローラ」に豆を買いにいったときにここのお店のカードが置いてあったんですよ」と種明かしをされた。

この店のアンティークな椅子について坂井先生がご主人とおしゃべりを始めた。ホント、椅子が好きだな(笑)。「この人、放送大学の先生で、椅子の専門家なんです」と私が説明する。半分は正しく、半分は冗談だが(専門は経済学)、私が真面目な口調で言うとたいていの人は信じてしまう。

ご夫妻の写真をブログに載せてもいいですかと尋ねると、最初固辞されたが、「遠くからなら・・・」ということでOKとなる。

ご主人の名前は健さん、奥様は千春さん。

奥様の子どもの頃の呼び名「チー」に「庵」を付けて店名にした「chiiann」は昨年の9月にオープンしたばかり。お二人とも松本のご出身ではない。「なぜ松本に?」と質問すると、「僕は妻のいいなりなんです」とご主人が答えたのが可笑しかった。第一印象は夫唱婦随のお二人のように見えるが、人は見かけによらぬものである(笑)。でも、ホントかな?

★後から調べたら、ご主人が自身のブログでカフェ開店のいきさつを書かれていた。

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cafe chiiann

東京から松本へ移り住む理由はいくつかあるのですが、
理由のひとつとして、cafeを開くことにあります。

自分を喪うことが何よりも恐ろしい事なのに
それが静かに進行してくることがあります。

ひとりゆっくりと考えること、仲間と語り合うこと、
新しい出会いがあること、そんな小さなことの積み重ねが
大切だと私たちは考えました。

そんな空間が提供できたら良いなと。

そして、昨今、地方都市における特徴は中心部は寂しくなり、
ロードサイドに大手チェーン店が多く出店し、道路には車が溢れ、
その代わり歩く人は見当たりません。

魅力ある街はどの時代もどんな地域も歩いて回れる街です。
そんな街つくりの一助にもなればとも思います。

空気が澄んでいて、水が綺麗、そして何より人が良いという松本の地で
千の庵として「chiiann」、「松本一佇まいの良いカフェ」を目指して
2015年9月、開店しました。

http://cafechiiann.com

これからよろしくお願いします。

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ちなみに東京では大田区にお住まいだったそうだ。私は蒲田ですが、ご夫妻は大田区のどちらだったのだろう。今度伺ったときに聞いてみよう。

女性の二人客が入ってきたのを潮時に席を立つ。今日はずいぶんおしゃべりをした。

また、夏に来ますね。

「素敵なカフェでしたね」と坂井先生が店の外に出てから言った。もちろん同意。

ちなみに私の「素敵なカフェ」の条件は3つである。

 (1)落ち着ける空間であること。

 (2)ドリンク・フードが美味しいこと。

 (3)マスター・マダムの人柄がよいこと。

とくに変わった条件ではないが、(3)は個人経営のカフェであることが前提である。

坂井先生は4時半の電車で大町に帰るが、もう一軒、カフェの梯子をする時間はある。

昨夜、前を通ったレストラン「鯛萬」の前を通る。山田太一のドラマ『高原にいらっしゃい』に出てくるホテルみたいな外観である。

坂井先生に連れて行かれたのは今町通りをちょっと住宅街に入ったところにあるカフェ「matka」(マトカ)。私は初めての店である。いい感じの外観じゃないですか。

入口で靴を脱いで上がる。床は板張り。木製の椅子はテーブルごとにデザインが違う。旅行者にとってカフェは街歩きの途中で「腰を下ろす」場所だから椅子へのこだわりはよいカフェの条件「落ち着ける空間であること」の構成要素である。

私はチャイを注文。両手で持って飲むタイプの器で出て来たが、これは「GRAIN NOTE」で私がよく購入している(研究室で使っている)田中一光さんの作品である。器へのこだわりも「落ち着ける空間であること」の構成要素である。

「素敵なカフェですね」と今度は私が言った。(坂井先生と違うことろは店内で言うところだ)

「matka」(マトカ)はフィンランド語で「旅」の意味。

「まつもとクラフトナビ」の中で「matka」が紹介されている→こちら

火曜日が定休。松本のお気に入りのカフェやギャラリーは定休日がバラバラだが、一泊二日あれば全部回れる。

時刻は4時。駅に向かう坂井先生を途中まで見送る。

今日はほとんど真夏日ですが、次は本当の「夏カフェ」で会いましょう。

私は6時半の特急なので、まだ2時間半ほどある。

市立美術館へ。

中庭で子供の椅子の展示会をやっている。坂井先生は今日の午前中にこれを観てから私とホテルのロビーで待ち合わせたのである。

美術館2階のロビーの椅子に座って、閉館の5時近くまでの時間を過ごす。

今回の信州旅行の最後のカフェは昨日に続いての訪問の「栞日」(しおりび)。

コーヒーとドーナツを注文し、4階のテーブル席へ。

ここで1時間ほどノートパソコンを開いて写真の整理をする。

ほかに客はなく、借りている仕事部屋のようである。

眼下の通りは「あたがの森通り」。右に行くと市立美術館やあがたの森公園がある。

左に行くと松本駅だ。

6時に「栞日」を出る。また来ますね。「栞日」のホームページは→こちら

ホテルに寄って預けてあったバッグを受け取る。チェックアウトした後でもこういうサービスがあることは街歩きをする旅行者にはありがたい。これがあるので駅の近くのホテルに宿泊することが便利なのである。

午後6時の時点で気温がまだ26度もある(発表では今日の最高気温は29度だったが、アスファルトの道路を歩いているときの気温は間違いなく30度を越えていたと思う)。

北アルプスに沈む夕日。

駅構内の売店で夕食用の弁当を購入。

落としても大丈夫な場所でチケットの確認。

 発車してすぐに弁当を広げる。買ったのは「山賊焼」という弁当で、初めて食べる。

当たり外れの少ない牛肉弁当にしようかどうしようかで迷ったが、東日本駅弁総選挙(2015年)で「郷土賞」を受賞したという宣伝文句に惹かれて「山賊焼」にトライしたのだが、当たりだった。

メインは鶏の唐揚げ(鶏揚げる→取り上げる→山賊となったようである)。ご飯に油が浸み込まないように唐揚げとご飯の間に油取りのシートが敷いてある。唐揚げは美味しかった。レモン汁をかけて食べる。長芋の天ぷらが入っていて、それに振りかける塩が付いているのもいい。醤油じゃなくて塩というのがいい。

9時過ぎに新宿着。

帰宅は10時。

旅行中に月が替わったので、書斎の壁のカレンダーをめくる。獏か。庄司薫のエッセー『バクの飼い主をめざして』(1973)を思い出す。ちょうど私が大学に入った年に出た本で、内ゲバ騒ぎで荒廃していた大学で生き抜いていくための指南書として、前著『狼なんかこわくない』(1971)とともに読み込んだ本である。当時36才だった著者は今年で79歳になるのだな。

春学期の4分の1が終わった。

風呂から出て、「爽」(メロンソーダ味)を食べながら、『ラブソング』第4話(録画)を観る。今回は歌う場面がなくて残念。

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