(承前)
「源智のそば」を出て、腹ごなしの散歩。散歩はとくに目的地を定めなくてもよいが、あがたの森公園を取り合えず目ざす。
東京と違って、「山のある風景」というのが地方都市の特徴である。 「山のある風景」の有無はきっと人間の気持ちのありように反映すると思うが、いまそれを語りは始めると長くなるので、やめておく。でも、何も語らないのも、もったいぶっているみたいなので、ポイントだけあげおくと。「山のある風景」は、「山に抱かれている」感覚と「山の彼方への思い」をはぐくむだろう。言いかえれば、自然への畏怖と脱出願望である。
あがたの森公園に到着。
旧制松本高校の校舎が保存されている。
北杜夫『どくとるマンボウ青春記』の世界である。
あがたの森公園は広い公園である。
信州の山並みが見える。
公園を出て、あがたの森通りを歩く。松本市立美術館の前を通る。松本出身の草間彌生の意匠を凝らした美術館である。
70歳以上の公募による美術展「老いるほど若くなる」が開催中である。老いるほど若くなる・・・か。そのままでは矛盾した命題だが、「老いる」は暦年齢・身体的年齢のことで、「若くなる」は諸々の社会的拘束からの自由(精神的自由)のことだと解釈すれば、命題としては成立する。ただし、すべての老人に当てはまる命題ではないだろう。
「高橋ラジオ商会」は「栞日」が入る前のものだが、あえてそのままにしている。街の歴史の記録でもあり、人々の生活の記憶でもあり、そしてレトロなオシャレ感覚でもあるだろう。
「栞日」はたくさんの本や雑誌で取り上げられ、いま、おそらく松本でもっとも有名なカフェとなった。
テーブルの上のパソコンは店主の菊地さんのものである。彼はよくこの場所で仕事をしている。
今日は私のお気に入りの窓際の机(写真奥の右手)に先客がいる。
いましがたまで先客のいた店の中央の丸いテーブルに座ることにする。
シナモンドーナツとホットジンジャーを注文。
「手のひらサイズの旅」を特集した雑誌『1/f』Vol.7を手に取る。
「「手のひらサイズ」は普通、ハンディ(handy)という意味で使われますが、今回のエフイチではちょっと違います。手のひらは大きさ、厚さ、形も人それぞれ。そんな「十人十色」に近い言葉です。旅は自分の直感やタイミングでつくりだすクリエイティブなもの。そんな〝自分サイズの旅の物語〟を、今だからこそ、しっかり握りしめたい。」(7頁)
窓際の机が空いたので、そちらに移動する。
チョコレートドーナツとブレンドコーヒーを追加注文。
やはり馴染んだ場所は落ち着く。同じ街の同じカフェに私が繰り返しゆくことの理由はそこにある。旅を日常と対比させて、非日常的なものとの出会いを強調するならば、私の年に数度の松本旅行は旅ではない。しかし、普段の日常とは違う日常、もう一つの日常のある場所にいくことも旅なのではないか、と私は思うのである。
菊地さんはGWにオープンする「栞日」の分室に出かけていた。「また明日も来ますね」と奥様に挨拶して店を出る。
「竹風堂」で夕食用に栗おこわを買って行こう。
一人前用の折詰(864円)を購入。注文を受けてから厨房で折に詰めてくれる。
今日の最後のカフェは「chiiann」だ。昨日も来たが、松本滞在中は毎日顔を出す。いわば松本カフェ巡りのベースキャンプみたいなものである。
昨日、「ガルガ」でお会いしたあかねボンボンさんがカウンター席にいらして、マスター夫妻とおしゃべりをしたいたので、仲間に入れていただく。
カステラとダージリンを注文。
カステラは「chiiann」の看板スイーツである。
あかねボンボンさんは松本市内巡りの地図(英語版)の改訂作業をされていた。既存の版ではただ「cafe〇〇」と表記されているところを、それぞれのカフェの特徴を一言添えていきたいとのこと。
ホテルに戻り、しばらくしてから夕食。
栗おこわとコンビニで購入した豚汁。
たぶん胡塩は折に入っていないだろうと思い、コンビニで胡塩も買っておいた。やはり胡麻塩を振りかけたほうが美味しと思う。
今日一日の日記を付ける。4月始まりのほぼ日手帳(カズン)の最初の一日である。
日付の横のタイトル欄に今日一日のトピックを記入、左側の時間軸欄に一日の行動を記入。メモ欄は全部文字で埋めることはしない。今日撮った写真(ミニサイズを数枚)を添付するスペースを考えながら文章を書く。 雑誌感覚の一種の編集作業である。楽しいから続けていけるのである。
部屋のカーテンを閉めていたので気づかなかったが、このとき外は雪が降っていた。
1時半、就寝。普段より早いのは歩き回ったせいである。