知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

外国法人が国内販売代理店を通じて販売する場合の確認の利益

2007-03-11 10:12:18 | Weblog
事件番号 平成18(ネ)10060
事件名 商標権に基づく差止請求権不存在確認請求控訴事件
裁判年月日 平成19年03月06日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一

確認の利益は,判決をもって法律関係の存否を確定することが,その法律関係に関する法律上の紛争を解決し,当事者の法律上の地位ないし利益が害される危険を除去するために必要かつ適切である場合に認められると解すべきである
 本件においては,被控訴人の指摘するとおり,控訴人製品を日本国内で販売しているのは控訴人モンスター・ケーブルの販売代理店である控訴人イースであり,控訴人モンスター・ケーブルが日本国内で控訴人製品を直接販売しているわけではない。
 しかしながら,控訴人イースは,控訴人モンスター・ケーブルの販売代理店として,控訴人標章が付された控訴人モンスター・ケーブルの製品を輸入,販売しているのであるから,控訴人標章が本件登録商標に類似しているとして,同標章を付した控訴人製品の販売が差し止められた場合には,控訴人イースが控訴人製品を販売することができなくなるのみならず,控訴人モンスター・ケーブルにとっても,自らが製造し,控訴人標章を付した控訴人製品の日本国内における販売が差し止められることになる。また,控訴人イースの販売する控訴人製品の販売が,本件登録商標を侵害するとして差し止められた場合,販売代理店契約の解除などの形で製造業者である控訴人モンスター・ケーブルの法律上の地位又は利益が影響を受ける可能性も高い。
 そもそも,本件のように外国法人がその標章を付した製品を日本国内で販売する場合,自らの営業所やインターネットを通じて販売するか,販売代理店を通じて販売するかは,販売方法や経路の違いにすぎず,当該外国法人と第三者との間に商標権をめぐる紛争が生じたときに,当該外国企業がその製品を日本国内で直接販売している場合には商標権に基づく差止請求権不存在確認の利益を有するが,販売代理店を通じて販売する場合には同確認の利益がないと解することは,とりわけ,販売代理店が当該外国企業の意向に従って商標権に基づく差止請求権不存在確認訴訟の提起に踏み切るとは限らないことを考慮すれば,合理的な理由はないというべきである

 本件においては,控訴人モンスター・ケーブルが自らの標章を付して製造した控訴人製品の販売が本件登録商標と類似しているかどうかが主たる争点であり,この点について最も適切に争い得るのは,控訴人モンスター・ケーブルと被控訴人であることは明らかである。したがって,控訴人イースが本件訴訟の当事者であることを考慮してもなお,控訴人モンスター・ケーブルと被控訴人との間で,本件登録商標と控訴人標章が類似しているかどうかについて主張立証を尽くし,本件登録商標の侵害の存否を確定することが,本件紛争を解決する上で,必要かつ適切であるということができる。
 以上によれば,本件では,控訴人モンスター・ケーブルと被控訴人との間において,判決をもって本件商標権の侵害の有無を確定することが,本件紛争を解決し,控訴人モンスター・ケーブルの法律上の地位ないし利益が害される危険を除去するために必要かつ適切であり,控訴人モンスター・ケーブルは,本件訴えにつき,訴えの利益を有するというべきである。』

ア 外観
 (ア) 本件登録商標1及び3は,カタカナ部分を「モンスターゲート」として把握すべきことはもちろん,その欧文字部分も「Monster Gate」及び「MONSTER GATE」として一連一体に把握されるべきであり,本件登録商標2及び4についても,そのカタカナ部分を「モンスターゲート」として把握するとともに(本件登録商標4),その欧文字部分を「MONSTERGATE」として一連一体に把握されるべきであることは,当事者間に争いがない。

 ・・・
 控訴人標章の欧文字は,「MONSTER」を上段に配し,「GAME」を下段に配した上で,下段の「GAME」の文字に左横に,「>>>」という図形と,2つの円を同心円状に配し2本のクロス線と重ね合わせたターゲットをイメージさせる図形を配している。これに対し,本件登録商標1及び3は,「Monster Gate」ないし「MONSTERGATE」との欧文字(標準文字)を横一列に配したものであり,また,本件登録商標2及び4の欧文字は,縁取りがされ,立体感を強調して図案化されたものであり,横一列に配された「MONSTERGATE」との欧文字の中央下部には,盾と剣の図柄が配されている。この図柄は,控訴人標章の下段に配された図形とは異なる。

 このように,本件登録商標と控訴人標章には外観上の相違点が存在するものの,両者は,それぞれ11文字ある欧文字のうち,控訴人標章の「M」と本件登録商標の「T」(又は「t」)が異なるにすぎず,その他の「MONSTER」(又はMonster」),「G」,「A」(「a」),「E」(「e」)は同一である。これらの欧文字は,本件登録商標ないし控訴人標章の主たる部分を構成し,最も看者の目を惹くものである。その構成文字が1文字を除いて同一である以上,その他の図形,カタカナ,文字のデザイン等において相違する点があるとしても,本件登録商標と控訴人標章の外観は,これを離隔的に観察すると類似しているというべきである

イ 称呼
 控訴人標章からは「モンスターゲーム」との称呼が生じ,本件登録商標からはいずれも「モンスターゲート」との称呼が生じるところ,その差異は語尾が「ム」であるか「ト」であるかが異なるにすぎない。「ム」と「ト」は,いずれも語尾に位置することもあって,日常生活上の発声においては,必ずしも強い音として明確に発音されるとは限らないことを考慮すると,本件登録商標と控訴人標章とは,称呼において類似するということができる

ウ 観念
 「MONSTER」は「怪物,化け物」又は「怪物のように巨大な」を意味する語として,「GAME」は「ゲーム」又は「試合」を意味する語として,いずれも一般に広く認知された英単語である。控訴人標章の「MONSTER GAME」なる語は,「MONSTER」と「GAME」とが結合した造語であり,それ自体として一般に認知された意味を有するものではないが,「怪物の登場するゲーム」,「怪物により行われる試合」などといった観念を生じ得るものと認められる。
 他方,「GATE」は「門」ないし「出入口」を意味する語として一般に広く認知された英単語である。本件登録商標の「MONSTER GATE」(又は「MONSTERGATE」)は「MONSTER」と「GATE」を結合した造語であり,それ自体として一般に認知された意味を有するものではないが,「怪物のように巨大な門」,「怪物の住む世界への出入口」,「怪物の使用する出入口」などといった観念を生じ得るものと認められる。
 そうすると,控訴人標章と本件登録商標は,いずれも明確な観念が生じるものではないが,そこから生じ得る観念は必ずしも類似するものではないということができる

エ 取引の実情
(ア) 控訴人製品や本件登録商標を付したゲームの取引の実情に関し,後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
  ・・・

(イ)  以上の事実によれば,控訴人モンスター・ケーブルは,オーディオ,ビデオなどに用いられる高性能ケーブルの製造業者であり,テレビゲームの音声や映像を特に重視するゲーム愛好家を主要な購買層とするものと認められる。しかしながら,控訴人製品は,家庭用テレビゲーム機「プレイステーション2」及び「Xbox」に対応する製品であることからすると,控訴人製品がこれらの家庭用テレビゲーム機とともに販売されることも多いと考えられ,その需要者が高品質の音声や映像を求めて控訴人製品を購入することも十分に考えられる。そうすると,控訴人製品の需要者としては,テレビゲームの音声や映像を特に重視するゲーム愛好家に限らず,家庭用ゲーム機の需要者一般を想定するのが相当である
前記認定のとおり,控訴人製品はゲーム用ケーブルであり,外からケーブルが見えるような包装であるため,その購買者が控訴人製品をゲーム機であると誤認することは少なく,また,本件登録商標に係る「モンスターゲート」ゲームは,「対戦型メダルゲーム」であり,控訴人製品が対応している家庭用テレビゲーム機とは異なる。

 しかしながら,ゲーム機とその周辺機器であるゲーム用ケーブルは,被控訴人あるいは他のゲーム機メーカーの製造したゲーム機と同一の店舗や近接する売場で販売される可能性が高く,控訴人製品はゲーム用ケーブルであるが,「MONSTER GAME」との標章が付されていることに照らすと,モンスターゲートその他の被控訴人のゲームのケーブルであると誤認されるおそれがないとはいえない。また,前記のとおり,本件登録商標と控訴人標章とは外観上類似していることや,控訴人モンスター・ケーブルは,我が国においてゲーム機用ケーブルのメーカーとしては必ずしも一般に広く認知され高い知名度を獲得するにはいまだ至っていないことなども併せ考えると,控訴人標章を控訴人製品に付すことにより,本件登録商標との関係で,出所の誤認混同を引き起こすおそれがあるというべきである

オ 以上のとおり,本件登録商標と控訴人標章とは,その観念を異にするものの,その外観及び称呼上の類似性,取引の実情などを総合的に考慮すると,類似しているということができる

4 結論
 以上のとおりであるから,控訴人イースの請求は理由がないので,棄却されるべきものであり,同控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり,同控訴人の控訴は棄却することとする。
 また,控訴人モンスター・ケーブルの訴えは適法であるが,その請求は理由がなく棄却されるべきものであるところ,原判決は同控訴人の訴えを不適法として却下しているのに対し,被控訴人は控訴も付帯控訴もしていないことから,控訴人モンスター・ケーブルの請求を棄却することは同控訴人の不利益に原判決を変更することになる。このため,控訴人モンスター・ケーブルの訴えを却下した原判決を維持するため,同控訴人の控訴を棄却することとする。』

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