知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

サポート要件(医薬分野の一例)及び出願後の文献による補足の可否

2007-03-11 08:17:24 | 特許法36条6項
事件番号 平成17(行ケ)10818
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年03月01日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一

医薬についての用途発明においては,物質名や化学構造からその有用性を予測することは困難であって,発明の詳細な説明に有効量,投与方法,製剤化のための事項がある程度記載されていても,それだけでは,当業者は当該医薬が実際にその用途において有用性があるか否かを知ることはできず,発明の課題が解決できることを認識することはできないから,さらに薬理データ又はこれと同視することのできる程度の事項を記載してその用途の有用性を裏付ける必要があるというべきである。そして,その裏返しとして,特許請求の範囲の記載が発明の詳細な説明の裏付けを超えているときには,特許請求の範囲の記載は,特許法36条5項1号が規定するいわゆるサポート要件に違反するということになる。』

『 原告は,本件明細書は,タキソールの175mg/m 及び135mg/m の用量で3時間注入という特定の用法,用量で所望の効果が得られることを開示した具体的記載(段落【0026】,【0028】及び【0030】)を踏まえて,「更に,より高投与量のタキソールで治療し得る患者には,約275mg/m までのタキソールが投与でき,・・・」(段落【0041】)と開示しているのであって,これが,同用法,すなわち3時間注入で135mg/m や175mg/m よりも高用量のタキソールを投与することを意図しているのは,当業者であれば,極めて容易に理解することができるし,仮に段落【0041】の記載が3時間投与に限定されたものでないとしても,特許請求の範囲で限定している好ましい3時間注入を専ら意図しているのは,明細書全体の記載からみて自明のことであると主張する。

 しかしながら,本件特許発明が3時間注入で135mg/m や175mg/m よりも高用量のタキソールを投与することを意図し,又は専ら意図しているものであるとしても,上記(3)のとおり,発明の詳細な説明には,3時間のタキソール投与量が175mg/m を超えるものについては,その有効性や安全性を裏付ける記載がないのであるから,本件特許発明1ないし3に係る特許請求の範囲の記載が発明の詳細な説明の裏付けを欠いていることに変わりはない。』

『 原告は,高投与量の3時間注入という条件で予備投薬中の固形癌,白血病又は卵巣癌の患者に適用したときに望ましい効果が現に得られることは,高用量のタキソールを用いた日本での試験結果である甲9ないし11に示されているとおりであると主張する。
 しかしながら,上記(3)のとおり,発明の詳細な説明には,3時間のタキソール投与量が175mg/m を超えるものについては,その有効性や安全性を裏付ける記載がないのであるから,当業者は,タキソールが実際にその用法,用量で有用性があるか否かを知ることができない。そして,甲9ないし11は,甲9が1995年(平成7年)12月,甲10が1996年(平成8年)2月,甲11が1995年(平成7年)6月といずれも本件特許発明の特許出願後に刊行された文献であるところ,これらにおいて,高投与量の3時間注入という条件で予備投薬中の固形癌,白血病又は卵巣癌の患者に適用したときに望ましい効果が現に得られることが開示されているとしても,これをもって,発明の詳細な説明の記載内容を補足することは許されないというべきである。』

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