知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

商標を構成する漢字の読み方に、簡易迅速性を重んじる取引の実情を考慮した例

2007-03-11 08:03:47 | Weblog
事件番号 平成18(行ケ)10512
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年03月01日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟 裁判長裁判官 塚原朋一


『(2) 本件商標の指定商品は,「日本酒,洋酒,果実酒,中国酒,薬味酒」であり,引用商標のそれは,「ビール」及び「日本酒,洋酒,果実酒,中国酒,薬味酒」であって,取引者及び需要者を共通にし,かつ,需要者は,漢字に対し特別な知識を有していない一般大衆であって,これを購入するに際して払われる注意は高度なものではないということができる。そして,上記(1)のとおり,当用漢字改定音訓表(昭和47年6月28日)や常用漢字表(昭和56年10月1日内閣告示)は,一般の社会生活における漢字使用の目安を示したものであるが,漢字「寛」について「カン」と記載し,また,近時の国語辞書においては,「くつろぎ」の見出しに「寛ぎ」と記載されていることを併せ考えると,簡易迅速性を重んじる取引の実情において,引用商標を酒類等に使用したときに,取引者及び需要者は,引用商標を構成する「寛」の文字について,通常,「カン」と読むほか,人名の「ヒロシ」と読み,送り仮名に「ぎ」が付されているのであれば格別,送り仮名に「ぎ」が付されていないにもかかわらず,ことさらに「クツロギ」と読むことがあるとは認め難い
 そうであれば,引用商標からは,「カン」又は「ヒロシ」の称呼が生じるものであって,「クツロギ」の称呼が生じるとは認められない。

(3) 原告は,「くつろぎ」の見出しに「寛」の表示をしている国語辞典は現在でも存在するし,「当用漢字改訂音訓表」や「常用漢字表」は,漢字使用の目安を示したもので,表示した音訓以外は使用しないという精神によって定められたのではなく,また,「送り仮名について」(昭和48年6月18日内閣告示)が改正された昭和56年以前に社会人であった者は多数存在しているのであって,「寛」の表示を「くつろぎ」と称呼する需要者も少なくないから,引用商標から「クツロギ」の称呼が生ずると主張する。
 しかしながら,「寛」の文字から「クツロギ」と読むことができるとしても,上記(2)のとおり,簡易迅速性を重んじる取引の実情において,引用商標を酒類等に使用したときに,取引者及び需要者が,「寛」の文字について,ことさらに「クツロギ」と読むとは認め難いのであって,引用商標から「クツロギ」の称呼が生じるとは認められない。原告の上記主張は,採用することができない。』


最新の画像もっと見る