知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

クレームの用語の解釈時における発明の詳細な説明の参酌の限度

2007-03-11 10:46:41 | 特許法29条2項
事件番号 平成18(行ケ)10277
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年03月08日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一

『(2)  特許の要件を審理する前提としてされる特許出願に係る発明の要旨の認定は,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか,あるいは一見してその記載が誤記であることが発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなど,発明の詳細な説明の記載を参酌することが許される特段の事情のない限り,特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである(最二小判平3年3月8日・民集45巻3号123頁参照)。
 請求項2の「当接」との用語は,被告も指摘するとおり,一般的に用いられる言葉ではなく,広辞苑や大辞林にも登載されていないが,この言葉を構成する「当」と「接」の意味に照らすと,「当たり接すること」を意味すると解することができる。そうすると,請求項2の「前記カバー体(3)の内面と前記保持部(5)の上面とは当接する」とは,「カバー体(3)の内面と保持部(5)とが当たり接すること」を意味し,「前記カバー体(3)におけるヒンジ結合側端縁部は前記保持板(2)のヒンジ結合側端縁部と当接可能になっており」とは,「カバー体(3)のヒンジ結合側端縁部と保持板(2)のヒンジ結合側端縁部とが,当たり接することが可能な状態となっていること」を意味するものと一応理解できる。 

(3)  これに対し,審決は,本件訂正明細書の【発明の実施の形態】に係る段落【0028】【0033】に基づき,「請求項2に記載される『・・180°開いた状態において前記カバー体(3)におけるヒンジ結合側端縁部は前記保持板(2)のヒンジ結合側端縁部と当接可能になっており,・・』なる構成について,その回動過程の180°開いた時点において,『カバー体(3)におけるヒンジ結合側端縁部』と『前記保持板(2)のヒンジ結合側端縁部』とは,当接をし更なる回動を完全に阻止するものではなく,その後の回動を可能とすることを前提にその位置において当接が可能になることを特定すると定めるものである」と認定した
 要するに,審決は,「当接」の意義を,カバー体3と保持板2のヒンジ結合側端縁部が,さらなる相対回動を可能にする位置において当接する場合に限定し,さらなる回動が阻止されるような位置において当接する場合は,カバー体3と保持板2のヒンジ結合側端縁部が当たり接していても,「当接」とはいえないものと解釈したものということができる。

(4)  しかしながら,請求項2には,カバー体3が保持板2に対して収納状態(つまり0°)から180°開いた状態に相対回動可能になることと,180°開いた状態においてカバー体3と保持板2のヒンジ結合側端縁部が当接可能になることは記載されているが,カバー体3と保持板2とが180°開いた状態で当接した後,さらにカバー体3と保持板2とが相対回動するための構成についての記載はない。
 したがって,請求項2の「当接」が,カバー体3と保持板2が180°を超えて相対回動することを前提としているということはできない


 また,特許請求の範囲において同一の用語が複数用いられている場合には,特に異なる技術的意義を含むと認められない以上,同一の意味を有すると解すべきところ,請求項2には「カバー体(3)の内面と前記保持部(5)の上面とは当接する」との記載がある。ここにいう「当接」は,単に「当たり接すること」を意味すると理解するほかなく,「その後の回動を可能とすることを前提にその位置において当接」することを意味するとは理解できない。

(5)  審決は,「当接」の解釈に当たり,本件訂正明細書の段落【0028】【0033】の記載を参酌しているところ,これらの段落には,以下の記載がある。
「【0028】「・・・。」
【0033】「・・・。」
上記記載によれば,なるほど,カバー体3と保持板2とが「当接」した後,その「当接状態」を乗り越えて,カバー体3と保持板2との相対回動を許容する構成が記載されていると認められる。
 しかしながら,上記各段落の記載を参照するとしても,「当接」という用語自体はいずれも「当たり接すること」を意味するものとして用いられているというべきであり,しかも,上記各段落の記載は,本件発明2の実施例についての説明であり,請求項2自体には,カバー体3と保持板2とが180°開いた状態で「当接」した後,その「当接状態」を乗り越えて,カバー体3と保持板2との相対回動を許容するとの構成についての記載はないことは前記判示のとおりである


 そうすると,請求項2の「当接」という用語の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとして,本件訂正明細書及び図面を参酌するとしても,同請求項の「当接」は「当たり接すること」を意味するにとどまるというべきであって,審決のように「当接」の意義を限定的に理解することは相当ではない。』

(感想)
 29条2項等の審査時における発明の要旨の認定の際には、発明の詳細な説明の記載を、クレームの記載を超えて参酌しても許される、と考える立場もあった。例えば、意見書において、クレームに記載のない発明の詳細な説明を引用して、相違点を主張する方法は多く用いられるところである。

 この判決は、そのような扱いを否定し、請求項に記載のない範囲まで、参酌によって読み込むことを否定するものであると解される。

外国法人が国内販売代理店を通じて販売する場合の確認の利益

2007-03-11 10:12:18 | Weblog
事件番号 平成18(ネ)10060
事件名 商標権に基づく差止請求権不存在確認請求控訴事件
裁判年月日 平成19年03月06日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一

確認の利益は,判決をもって法律関係の存否を確定することが,その法律関係に関する法律上の紛争を解決し,当事者の法律上の地位ないし利益が害される危険を除去するために必要かつ適切である場合に認められると解すべきである
 本件においては,被控訴人の指摘するとおり,控訴人製品を日本国内で販売しているのは控訴人モンスター・ケーブルの販売代理店である控訴人イースであり,控訴人モンスター・ケーブルが日本国内で控訴人製品を直接販売しているわけではない。
 しかしながら,控訴人イースは,控訴人モンスター・ケーブルの販売代理店として,控訴人標章が付された控訴人モンスター・ケーブルの製品を輸入,販売しているのであるから,控訴人標章が本件登録商標に類似しているとして,同標章を付した控訴人製品の販売が差し止められた場合には,控訴人イースが控訴人製品を販売することができなくなるのみならず,控訴人モンスター・ケーブルにとっても,自らが製造し,控訴人標章を付した控訴人製品の日本国内における販売が差し止められることになる。また,控訴人イースの販売する控訴人製品の販売が,本件登録商標を侵害するとして差し止められた場合,販売代理店契約の解除などの形で製造業者である控訴人モンスター・ケーブルの法律上の地位又は利益が影響を受ける可能性も高い。
 そもそも,本件のように外国法人がその標章を付した製品を日本国内で販売する場合,自らの営業所やインターネットを通じて販売するか,販売代理店を通じて販売するかは,販売方法や経路の違いにすぎず,当該外国法人と第三者との間に商標権をめぐる紛争が生じたときに,当該外国企業がその製品を日本国内で直接販売している場合には商標権に基づく差止請求権不存在確認の利益を有するが,販売代理店を通じて販売する場合には同確認の利益がないと解することは,とりわけ,販売代理店が当該外国企業の意向に従って商標権に基づく差止請求権不存在確認訴訟の提起に踏み切るとは限らないことを考慮すれば,合理的な理由はないというべきである

 本件においては,控訴人モンスター・ケーブルが自らの標章を付して製造した控訴人製品の販売が本件登録商標と類似しているかどうかが主たる争点であり,この点について最も適切に争い得るのは,控訴人モンスター・ケーブルと被控訴人であることは明らかである。したがって,控訴人イースが本件訴訟の当事者であることを考慮してもなお,控訴人モンスター・ケーブルと被控訴人との間で,本件登録商標と控訴人標章が類似しているかどうかについて主張立証を尽くし,本件登録商標の侵害の存否を確定することが,本件紛争を解決する上で,必要かつ適切であるということができる。
 以上によれば,本件では,控訴人モンスター・ケーブルと被控訴人との間において,判決をもって本件商標権の侵害の有無を確定することが,本件紛争を解決し,控訴人モンスター・ケーブルの法律上の地位ないし利益が害される危険を除去するために必要かつ適切であり,控訴人モンスター・ケーブルは,本件訴えにつき,訴えの利益を有するというべきである。』

ア 外観
 (ア) 本件登録商標1及び3は,カタカナ部分を「モンスターゲート」として把握すべきことはもちろん,その欧文字部分も「Monster Gate」及び「MONSTER GATE」として一連一体に把握されるべきであり,本件登録商標2及び4についても,そのカタカナ部分を「モンスターゲート」として把握するとともに(本件登録商標4),その欧文字部分を「MONSTERGATE」として一連一体に把握されるべきであることは,当事者間に争いがない。

 ・・・
 控訴人標章の欧文字は,「MONSTER」を上段に配し,「GAME」を下段に配した上で,下段の「GAME」の文字に左横に,「>>>」という図形と,2つの円を同心円状に配し2本のクロス線と重ね合わせたターゲットをイメージさせる図形を配している。これに対し,本件登録商標1及び3は,「Monster Gate」ないし「MONSTERGATE」との欧文字(標準文字)を横一列に配したものであり,また,本件登録商標2及び4の欧文字は,縁取りがされ,立体感を強調して図案化されたものであり,横一列に配された「MONSTERGATE」との欧文字の中央下部には,盾と剣の図柄が配されている。この図柄は,控訴人標章の下段に配された図形とは異なる。

 このように,本件登録商標と控訴人標章には外観上の相違点が存在するものの,両者は,それぞれ11文字ある欧文字のうち,控訴人標章の「M」と本件登録商標の「T」(又は「t」)が異なるにすぎず,その他の「MONSTER」(又はMonster」),「G」,「A」(「a」),「E」(「e」)は同一である。これらの欧文字は,本件登録商標ないし控訴人標章の主たる部分を構成し,最も看者の目を惹くものである。その構成文字が1文字を除いて同一である以上,その他の図形,カタカナ,文字のデザイン等において相違する点があるとしても,本件登録商標と控訴人標章の外観は,これを離隔的に観察すると類似しているというべきである

イ 称呼
 控訴人標章からは「モンスターゲーム」との称呼が生じ,本件登録商標からはいずれも「モンスターゲート」との称呼が生じるところ,その差異は語尾が「ム」であるか「ト」であるかが異なるにすぎない。「ム」と「ト」は,いずれも語尾に位置することもあって,日常生活上の発声においては,必ずしも強い音として明確に発音されるとは限らないことを考慮すると,本件登録商標と控訴人標章とは,称呼において類似するということができる

ウ 観念
 「MONSTER」は「怪物,化け物」又は「怪物のように巨大な」を意味する語として,「GAME」は「ゲーム」又は「試合」を意味する語として,いずれも一般に広く認知された英単語である。控訴人標章の「MONSTER GAME」なる語は,「MONSTER」と「GAME」とが結合した造語であり,それ自体として一般に認知された意味を有するものではないが,「怪物の登場するゲーム」,「怪物により行われる試合」などといった観念を生じ得るものと認められる。
 他方,「GATE」は「門」ないし「出入口」を意味する語として一般に広く認知された英単語である。本件登録商標の「MONSTER GATE」(又は「MONSTERGATE」)は「MONSTER」と「GATE」を結合した造語であり,それ自体として一般に認知された意味を有するものではないが,「怪物のように巨大な門」,「怪物の住む世界への出入口」,「怪物の使用する出入口」などといった観念を生じ得るものと認められる。
 そうすると,控訴人標章と本件登録商標は,いずれも明確な観念が生じるものではないが,そこから生じ得る観念は必ずしも類似するものではないということができる

エ 取引の実情
(ア) 控訴人製品や本件登録商標を付したゲームの取引の実情に関し,後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
  ・・・

(イ)  以上の事実によれば,控訴人モンスター・ケーブルは,オーディオ,ビデオなどに用いられる高性能ケーブルの製造業者であり,テレビゲームの音声や映像を特に重視するゲーム愛好家を主要な購買層とするものと認められる。しかしながら,控訴人製品は,家庭用テレビゲーム機「プレイステーション2」及び「Xbox」に対応する製品であることからすると,控訴人製品がこれらの家庭用テレビゲーム機とともに販売されることも多いと考えられ,その需要者が高品質の音声や映像を求めて控訴人製品を購入することも十分に考えられる。そうすると,控訴人製品の需要者としては,テレビゲームの音声や映像を特に重視するゲーム愛好家に限らず,家庭用ゲーム機の需要者一般を想定するのが相当である
前記認定のとおり,控訴人製品はゲーム用ケーブルであり,外からケーブルが見えるような包装であるため,その購買者が控訴人製品をゲーム機であると誤認することは少なく,また,本件登録商標に係る「モンスターゲート」ゲームは,「対戦型メダルゲーム」であり,控訴人製品が対応している家庭用テレビゲーム機とは異なる。

 しかしながら,ゲーム機とその周辺機器であるゲーム用ケーブルは,被控訴人あるいは他のゲーム機メーカーの製造したゲーム機と同一の店舗や近接する売場で販売される可能性が高く,控訴人製品はゲーム用ケーブルであるが,「MONSTER GAME」との標章が付されていることに照らすと,モンスターゲートその他の被控訴人のゲームのケーブルであると誤認されるおそれがないとはいえない。また,前記のとおり,本件登録商標と控訴人標章とは外観上類似していることや,控訴人モンスター・ケーブルは,我が国においてゲーム機用ケーブルのメーカーとしては必ずしも一般に広く認知され高い知名度を獲得するにはいまだ至っていないことなども併せ考えると,控訴人標章を控訴人製品に付すことにより,本件登録商標との関係で,出所の誤認混同を引き起こすおそれがあるというべきである

オ 以上のとおり,本件登録商標と控訴人標章とは,その観念を異にするものの,その外観及び称呼上の類似性,取引の実情などを総合的に考慮すると,類似しているということができる

4 結論
 以上のとおりであるから,控訴人イースの請求は理由がないので,棄却されるべきものであり,同控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり,同控訴人の控訴は棄却することとする。
 また,控訴人モンスター・ケーブルの訴えは適法であるが,その請求は理由がなく棄却されるべきものであるところ,原判決は同控訴人の訴えを不適法として却下しているのに対し,被控訴人は控訴も付帯控訴もしていないことから,控訴人モンスター・ケーブルの請求を棄却することは同控訴人の不利益に原判決を変更することになる。このため,控訴人モンスター・ケーブルの訴えを却下した原判決を維持するため,同控訴人の控訴を棄却することとする。』

サポート要件(医薬分野の一例)及び出願後の文献による補足の可否

2007-03-11 08:17:24 | 特許法36条6項
事件番号 平成17(行ケ)10818
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年03月01日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一

医薬についての用途発明においては,物質名や化学構造からその有用性を予測することは困難であって,発明の詳細な説明に有効量,投与方法,製剤化のための事項がある程度記載されていても,それだけでは,当業者は当該医薬が実際にその用途において有用性があるか否かを知ることはできず,発明の課題が解決できることを認識することはできないから,さらに薬理データ又はこれと同視することのできる程度の事項を記載してその用途の有用性を裏付ける必要があるというべきである。そして,その裏返しとして,特許請求の範囲の記載が発明の詳細な説明の裏付けを超えているときには,特許請求の範囲の記載は,特許法36条5項1号が規定するいわゆるサポート要件に違反するということになる。』

『 原告は,本件明細書は,タキソールの175mg/m 及び135mg/m の用量で3時間注入という特定の用法,用量で所望の効果が得られることを開示した具体的記載(段落【0026】,【0028】及び【0030】)を踏まえて,「更に,より高投与量のタキソールで治療し得る患者には,約275mg/m までのタキソールが投与でき,・・・」(段落【0041】)と開示しているのであって,これが,同用法,すなわち3時間注入で135mg/m や175mg/m よりも高用量のタキソールを投与することを意図しているのは,当業者であれば,極めて容易に理解することができるし,仮に段落【0041】の記載が3時間投与に限定されたものでないとしても,特許請求の範囲で限定している好ましい3時間注入を専ら意図しているのは,明細書全体の記載からみて自明のことであると主張する。

 しかしながら,本件特許発明が3時間注入で135mg/m や175mg/m よりも高用量のタキソールを投与することを意図し,又は専ら意図しているものであるとしても,上記(3)のとおり,発明の詳細な説明には,3時間のタキソール投与量が175mg/m を超えるものについては,その有効性や安全性を裏付ける記載がないのであるから,本件特許発明1ないし3に係る特許請求の範囲の記載が発明の詳細な説明の裏付けを欠いていることに変わりはない。』

『 原告は,高投与量の3時間注入という条件で予備投薬中の固形癌,白血病又は卵巣癌の患者に適用したときに望ましい効果が現に得られることは,高用量のタキソールを用いた日本での試験結果である甲9ないし11に示されているとおりであると主張する。
 しかしながら,上記(3)のとおり,発明の詳細な説明には,3時間のタキソール投与量が175mg/m を超えるものについては,その有効性や安全性を裏付ける記載がないのであるから,当業者は,タキソールが実際にその用法,用量で有用性があるか否かを知ることができない。そして,甲9ないし11は,甲9が1995年(平成7年)12月,甲10が1996年(平成8年)2月,甲11が1995年(平成7年)6月といずれも本件特許発明の特許出願後に刊行された文献であるところ,これらにおいて,高投与量の3時間注入という条件で予備投薬中の固形癌,白血病又は卵巣癌の患者に適用したときに望ましい効果が現に得られることが開示されているとしても,これをもって,発明の詳細な説明の記載内容を補足することは許されないというべきである。』

商標を構成する漢字の読み方に、簡易迅速性を重んじる取引の実情を考慮した例

2007-03-11 08:03:47 | Weblog
事件番号 平成18(行ケ)10512
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年03月01日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟 裁判長裁判官 塚原朋一


『(2) 本件商標の指定商品は,「日本酒,洋酒,果実酒,中国酒,薬味酒」であり,引用商標のそれは,「ビール」及び「日本酒,洋酒,果実酒,中国酒,薬味酒」であって,取引者及び需要者を共通にし,かつ,需要者は,漢字に対し特別な知識を有していない一般大衆であって,これを購入するに際して払われる注意は高度なものではないということができる。そして,上記(1)のとおり,当用漢字改定音訓表(昭和47年6月28日)や常用漢字表(昭和56年10月1日内閣告示)は,一般の社会生活における漢字使用の目安を示したものであるが,漢字「寛」について「カン」と記載し,また,近時の国語辞書においては,「くつろぎ」の見出しに「寛ぎ」と記載されていることを併せ考えると,簡易迅速性を重んじる取引の実情において,引用商標を酒類等に使用したときに,取引者及び需要者は,引用商標を構成する「寛」の文字について,通常,「カン」と読むほか,人名の「ヒロシ」と読み,送り仮名に「ぎ」が付されているのであれば格別,送り仮名に「ぎ」が付されていないにもかかわらず,ことさらに「クツロギ」と読むことがあるとは認め難い
 そうであれば,引用商標からは,「カン」又は「ヒロシ」の称呼が生じるものであって,「クツロギ」の称呼が生じるとは認められない。

(3) 原告は,「くつろぎ」の見出しに「寛」の表示をしている国語辞典は現在でも存在するし,「当用漢字改訂音訓表」や「常用漢字表」は,漢字使用の目安を示したもので,表示した音訓以外は使用しないという精神によって定められたのではなく,また,「送り仮名について」(昭和48年6月18日内閣告示)が改正された昭和56年以前に社会人であった者は多数存在しているのであって,「寛」の表示を「くつろぎ」と称呼する需要者も少なくないから,引用商標から「クツロギ」の称呼が生ずると主張する。
 しかしながら,「寛」の文字から「クツロギ」と読むことができるとしても,上記(2)のとおり,簡易迅速性を重んじる取引の実情において,引用商標を酒類等に使用したときに,取引者及び需要者が,「寛」の文字について,ことさらに「クツロギ」と読むとは認め難いのであって,引用商標から「クツロギ」の称呼が生じるとは認められない。原告の上記主張は,採用することができない。』


損害の額の推定規定(114条3項)の適用、著作者人格権侵害の損害額の算定例

2007-03-11 07:50:56 | Weblog
事件番号 平成18(ネ)10090
事件名 損害賠償請求控訴事件
裁判年月日 平成19年02月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟

『(イ)  前提事実(3)イのとおり,本件侵害部分は本件テキストの本文50頁中10頁であるから,本件業務委託上の上記テキスト作成料の規定を形式的に適用して対価の額を算定すると,その額は多くとも6万円(6000円×10頁=6万円)となる。
しかし,被控訴人東京LMと被控訴人研究所との間で締結された本件業務委託契約は,被控訴人研究所が被控訴人東京LMから中小企業診断士試験用講座に関して,テキスト作成,答案添削等を含めた講義について,個々的に分離して実施するのではなく,あくまでも包括的に業務委託を受けることを前提としたものであるから,同契約書(乙1の1)に記載された各報酬費目は,被控訴人東京LMから被控訴人研究所に対して支払われる委託報酬総額について,各報酬費目ごとに便宜的に割り付けて決められた性質を有する面があることも否定できない。そして,本件テキストは合計350部印刷されているが(前提事実(3)イ(イ)),この印刷部数は概ね5年間の講義において使用することを念頭に置いたものである。また,本件テキストは,その性質上,被控訴人東京LMの委託により実施される上記講座の講習生のみに配布されるものであるから,これを入手しようとする者は,受講料全額を支払って受講生となるほかない。
 上記のような事情を勘案するときは,原告著作物の著作権侵害行為について著作権法114条3項に基づき損害額を算定するに当たって,本件業務委託契約上のテキスト作成料の規定を形式的に適用することは相当ではなく,上記講座の委託につき支払われる報酬総額や本件テキストの利用方法の特殊性等の各事情を総合考慮して,上記損害額については30万円と認めるのが相当である。』

『 このように,被控訴人らの行為により,原告著作物の内容について,これを交付するに際して被控訴人Y1から受けていた説明の趣旨に反して,控訴人の意図に反する形態で,これを掲載した刊行物に先立って公表がされた点は十分考慮すべきものであるが,本件テキスト350部のうち受講生等に配布された数は70部余であること,本件テキストの内容は,中小企業診断士の試験用講座の教材であるという性格上,他の参考文献に記載された文章や図表を引用し又は要約した部分が多いものであること等の事情をも勘案し,加えてその他本件にあらわれた諸般の事情を総合考慮すれば,本件における著作者人格権(公表権,氏名表示権,同一性保持権)侵害による損害額については,20万円と認めるのが相当である。』



再審請求を却下する審決までに、再審請求の瑕疵が治癒した場合

2007-03-11 07:38:01 | Weblog
事件番号 平成18(行ケ)10514
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年02月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 三村量一

『1 特許庁における手続の経緯
 原告は,発明の名称を「家ダニ駆除沸湯容器」とする発明につき,平成12年4月14日,特許を出願(特願2000-152126。以下「本願」という。)したが,平成14年8月16日付けの拒絶査定を受けた。原告は,同月30日,審判請求を行うとともに,同日付け手続補正書を提出した。

 特許庁は,この審判請求を不服2002-19586号事件として審理し,その結果,平成18年1月24日,平成14年8月30日付け手続補正を却下した上で,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「前審決」という。)をし,平成18年2月12日,前審決の謄本が原告に送達された。

 原告は,平成18年2月20日,前審決に対する再審の請求(以下「本件審判請求」という。)をした。特許庁は,本件審判請求を再審2006-95003号事件として審理し,その結果,平成18年10月16日,「本件審判の請求を却下する。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,同年11月8日,本件審決の謄本が原告に送達された

2 審決の理由
 別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本件審判の請求は,前審決が確定していないにもかかわらず,前審決の再審を求めるものであり,「確定審決」に対して請求されたものではないから,不適法であって,その補正をすることができない,仮に再審の請求が「確定審決」に対して請求されたものであるとしても,原告の主張内容は,本来,特許法178条1項の規定に基づいて,前審決に対する取消しの訴えを提起して主張すべきものであって,再審の請求に基づいて主張することは許されない,とするものである。』

『第5 当裁判所の判断
1 原告の主張する取消事由について
原告の主張する取消事由は,前審決がした認定判断を非難するものであり,前審決に対する取消しの訴えを提起して主張すべき事由であって,本件審決の取消事由とはならないものである。

2 本件再審請求の適法性について
 前記第2の1のとおり,本件審判請求がされたのは平成18年2月20日であるところ,前審決の謄本が原告に送達されたのは同月12日であり,本件審判請求の時点では,前審決は確定していない。しかし,本件審決がされた同年10月16日の時点では,前審決は確定していたものである。

 特許法171条1項によれば,再審の請求が「確定審決に対して」されたものでなければ,不適法であるが,同法135条は,「不適法な審判の請求であって,その補正をすることができないものについては,…(中略)…審決をもってこれを却下することができる」と定めているところ,本件再審請求の時点で前審決が確定していなくても,本件審決の時点で前審決が確定していれば,本件再審請求の瑕疵は治癒されたものというべきであるから,上記瑕疵を理由として本件再審請求を却下することはできないと解するのが相当である

 しかしながら,本件再審請求書(乙第3号証)の記載をみるに,同請求書において,特許法171条2項が準用する民事訴訟法338条1項及び2項並びに339条所定の事由を,原告が主張しているとは認められない。したがって,上記の瑕疵が治癒されたとしても,再審事由の主張のない本件再審請求は,いずれにしても不適法というべきであるから,本件審決の判断には,結論において誤りはない。』


特許法29条2項のクレームの用語解釈の例

2007-03-11 07:22:45 | 特許法29条2項
事件番号 平成18(行ケ)10202
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年02月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

『本願発明の構成中の「(所定の波長の光に対する)反射率が高い薄膜層」の意義については,①特許請求の範囲の記載において,「反射率が高い」と記載され,格別の限定はないこと,②本願明細書の発明の詳細な説明には,薄膜層は,本願発明に係る光ディスクを使用する際に,ディスク駆動装置の光ヘッドが各データ面から同量の光を受け取ることができるように,データ面における所望の量の光の反射をもたらすためのものであることが説明されていることが認められ,上記記載に照らすならば,「反射率が高い薄膜層」とは,「該データ面のデータを読み取れる程度に再生波長(所定の波長が再生波長を指すことについて争いはない。)の光を反射する薄膜層」であると理解すべきであって,これをもって足りる。

 この点,原告は,「反射率が高い薄膜層」とは,「屈折率が高く,かつ吸光係数が低い材料からなる薄膜層」であると解すべきであると主張する。

 しかし,材料,屈折率及び吸光係数については,特許請求の範囲の記載において格別限定されていないし,発明の詳細な説明等を参照しても,そのように限定的に理解すべき根拠は見い出せない。原告のこの点の主張は採用できない。』

プログラムの機能を分割して独立した手段とした場合

2007-03-11 07:09:14 | 特許法29条2項
事件番号 平成17(行ケ)10779
事件名 特許取消決定取消請求事件
裁判年月日 平成19年02月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官三村量一

『 原告は,刊行物1記載の「コントローラ部210」は,たとえ2分割しても本件発明1の課題を達成することができるものではないし,各接続方式との関係を示唆する何らの記載もないから,本件発明1の「前記印刷情報データを受信する印刷装置インターフェース制御部」と「前記印刷装置インターフェース制御部が受信した前記印刷情報データに基づき印刷制御を行う印刷装置データ処理部」とを兼ねたものに相当しないと主張する。

 しかしながら,刊行物1によれば,刊行物1記載発明の「コントローラ部210」は,「転送されてきた印刷コマンドに基づき,…(中略)…印刷イメージを展開」して,後に「レーザプリンタエンジン211によって印刷」される機能を有するもの(刊行物1の6頁左下欄10行~14行)であることが認められる。したがって,「コントローラ部210」は,本件発明1における「前記ホストコンピュータインターフェース制御部から前記接続方式に対応した転送方式で転送されてきた前記印刷情報データを受信する」機能及び「前記印刷装置インターフェース制御部が受信した前記印刷情報データに基づき印刷制御を行う」機能を共に有するものである。

 上記のとおり,刊行物1記載発明の「コントローラ部210」が本件発明1の「印刷装置インターフェース制御部」と「印刷装置データ処理部」とを兼ねたものに相当するとの決定の認定に誤りはない。』

 『原告は,本件発明1の「ホストコンピュータデータ処理部」及び「ホストコンピュータインターフェース制御部」は,各接続方式に対応する書き出しプログラムに代えて,2分割し,機能分けをしたものであると主張する。

 しかし,特許請求の範囲には,「各接続方式に対応する書き出しプログラム」の文言はなく,発明の詳細な説明にも,そのように限定的に解釈すべき記載はない。本件発明1の「ホストコンピュータデータ処理部」及び「ホストコンピュータインターフェース制御部」を各接続方式に対応する書き出しプログラムに代えて2分割し機能分けしたものであると限定的に解釈すべき理由がない。』


基本的な測定原理の開示を欠いて実施できないとされたもの

2007-03-11 06:48:18 | 特許法36条4項
事件番号 平成18(行ケ)10083
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年02月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 三村量一

『(3) 原告は,本願発明は物質の発明に関するものであるから,その得られた物質の物性等の測定を,発明完成時に存在したその分野で知られている測定装置を使用してその測定結果を測定し,その測定結果を明細書に記載すれば足りる旨主張する。
ア 発明の構成を特定する指標の測定方法に関して,測定装置から直接得られる実測値だけで特定できる場合,あるいは測定方法自体が周知慣用である場合は,測定装置あるいは測定結果を記載する程度の開示であっても当業者は容易に理解できるといえるが,それに当たらない測定方法の場合は具体的な説明が必要である。
イ 本願発明は,溶融相の含有量を「ポリマー含量の5~50重量%」からなる点をその構成要件としているから,製造されたポリマー物質において当該含有量を特定する必要があるところ,本願明細書には,DSC装置を用いることは記載されていても,DSC装置を用いてどのような数値を測定し,どのように計算すれば当該含有量を得られるのかが明らかにされておらず,また,原告の主張する測定方法が本願の優先権主張日当時,技術常識であったと認めるに足る証拠も見当たらないことは,すでに説示したとおりである。
ウ そうすると,本願発明の内容を理解するに当たり,測定装置を構成する学術的な測定原理は必要としないまでも,基本的な測定原理そのものが本願明細書に記載されていないのであるから,上記含有量の測定方法について当業者が容易に理解できる程度に記載されていないことは明らかである。原告の主張は採用することができない。』