知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

クレームの用語の解釈時における発明の詳細な説明の参酌の限度

2007-03-11 10:46:41 | 特許法29条2項
事件番号 平成18(行ケ)10277
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年03月08日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一

『(2)  特許の要件を審理する前提としてされる特許出願に係る発明の要旨の認定は,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか,あるいは一見してその記載が誤記であることが発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなど,発明の詳細な説明の記載を参酌することが許される特段の事情のない限り,特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである(最二小判平3年3月8日・民集45巻3号123頁参照)。
 請求項2の「当接」との用語は,被告も指摘するとおり,一般的に用いられる言葉ではなく,広辞苑や大辞林にも登載されていないが,この言葉を構成する「当」と「接」の意味に照らすと,「当たり接すること」を意味すると解することができる。そうすると,請求項2の「前記カバー体(3)の内面と前記保持部(5)の上面とは当接する」とは,「カバー体(3)の内面と保持部(5)とが当たり接すること」を意味し,「前記カバー体(3)におけるヒンジ結合側端縁部は前記保持板(2)のヒンジ結合側端縁部と当接可能になっており」とは,「カバー体(3)のヒンジ結合側端縁部と保持板(2)のヒンジ結合側端縁部とが,当たり接することが可能な状態となっていること」を意味するものと一応理解できる。 

(3)  これに対し,審決は,本件訂正明細書の【発明の実施の形態】に係る段落【0028】【0033】に基づき,「請求項2に記載される『・・180°開いた状態において前記カバー体(3)におけるヒンジ結合側端縁部は前記保持板(2)のヒンジ結合側端縁部と当接可能になっており,・・』なる構成について,その回動過程の180°開いた時点において,『カバー体(3)におけるヒンジ結合側端縁部』と『前記保持板(2)のヒンジ結合側端縁部』とは,当接をし更なる回動を完全に阻止するものではなく,その後の回動を可能とすることを前提にその位置において当接が可能になることを特定すると定めるものである」と認定した
 要するに,審決は,「当接」の意義を,カバー体3と保持板2のヒンジ結合側端縁部が,さらなる相対回動を可能にする位置において当接する場合に限定し,さらなる回動が阻止されるような位置において当接する場合は,カバー体3と保持板2のヒンジ結合側端縁部が当たり接していても,「当接」とはいえないものと解釈したものということができる。

(4)  しかしながら,請求項2には,カバー体3が保持板2に対して収納状態(つまり0°)から180°開いた状態に相対回動可能になることと,180°開いた状態においてカバー体3と保持板2のヒンジ結合側端縁部が当接可能になることは記載されているが,カバー体3と保持板2とが180°開いた状態で当接した後,さらにカバー体3と保持板2とが相対回動するための構成についての記載はない。
 したがって,請求項2の「当接」が,カバー体3と保持板2が180°を超えて相対回動することを前提としているということはできない


 また,特許請求の範囲において同一の用語が複数用いられている場合には,特に異なる技術的意義を含むと認められない以上,同一の意味を有すると解すべきところ,請求項2には「カバー体(3)の内面と前記保持部(5)の上面とは当接する」との記載がある。ここにいう「当接」は,単に「当たり接すること」を意味すると理解するほかなく,「その後の回動を可能とすることを前提にその位置において当接」することを意味するとは理解できない。

(5)  審決は,「当接」の解釈に当たり,本件訂正明細書の段落【0028】【0033】の記載を参酌しているところ,これらの段落には,以下の記載がある。
「【0028】「・・・。」
【0033】「・・・。」
上記記載によれば,なるほど,カバー体3と保持板2とが「当接」した後,その「当接状態」を乗り越えて,カバー体3と保持板2との相対回動を許容する構成が記載されていると認められる。
 しかしながら,上記各段落の記載を参照するとしても,「当接」という用語自体はいずれも「当たり接すること」を意味するものとして用いられているというべきであり,しかも,上記各段落の記載は,本件発明2の実施例についての説明であり,請求項2自体には,カバー体3と保持板2とが180°開いた状態で「当接」した後,その「当接状態」を乗り越えて,カバー体3と保持板2との相対回動を許容するとの構成についての記載はないことは前記判示のとおりである


 そうすると,請求項2の「当接」という用語の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとして,本件訂正明細書及び図面を参酌するとしても,同請求項の「当接」は「当たり接すること」を意味するにとどまるというべきであって,審決のように「当接」の意義を限定的に理解することは相当ではない。』

(感想)
 29条2項等の審査時における発明の要旨の認定の際には、発明の詳細な説明の記載を、クレームの記載を超えて参酌しても許される、と考える立場もあった。例えば、意見書において、クレームに記載のない発明の詳細な説明を引用して、相違点を主張する方法は多く用いられるところである。

 この判決は、そのような扱いを否定し、請求項に記載のない範囲まで、参酌によって読み込むことを否定するものであると解される。

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