知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

周知著名である商標をその主要な構成部分に含む商標

2007-03-09 01:44:03 | Weblog
事件番号 平成18(行ケ)10375
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年02月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官篠原勝美

『 商標法53条1項は,商標権者からその商標権について通常使用権の許諾を受けた通常使用権者が,指定商品又はこれに類似する商品についての登録商標に類似する商標の使用であって他人の業務に係る商品と混同を生ずるものをしたときは,何人も,当該商標登録を取り消すことについて審判の請求をすることができるとして,使用権者の不正使用による商標登録取消審判の制度を定めている
 原告(請求人)は,本件商標について商標権者である被告から通常使用権の許諾を受けた本件通常使用権者が,指定商品についての登録商標に類似する商標である本件使用商標の使用であって原告の業務に係る商品と混同を生ずるものをしたとして,上記規定に基づき,本件商標の商標登録を取り消すことについて本件審判の請求をした。
 これに対し,審決は,「本件通常使用権者の使用する『EVEPAIN』(注,本件使用商標)は,その使用によっても,請求人(注,原告)又は請求人と経済上何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのごとく,商品の出所について混同を生ずるおそれはないものというを相当とする。」(審決謄本16頁第4段落)と判断し,原告は,取消事由1ないし3において,審決の判断の誤りを主張する
ので,これらを一括して検討する。』


『4 本件使用商標と引用商標の類否,出所混同のおそれについて
(1 ) 本件使用商標は,「EVEPAIN」の欧文字からなるものであるところ,被告商品における使用態様は,別紙2のとおり,「EVEPAIN」を製品パッケージ正面の上段に白抜きのややデザイン化した欧文字により大きく横書きしているものである。

 「EVEPAIN」は,その下に付された片仮名文字からも,「イブペイン」との称呼を生ずるものであるが,それ自体,直ちに一体として特定の観念を生ずるものではない

 他方,「PAIN」ないし「pain」は,「痛み」等を意味する比較的平易な英単語であり,「ペイン」についても,「痛み。苦しみ。」(大辞林第三版)と説明され,「ペインクリニック」は,「神経痛・癌末期の痛みなど,治りにくい痛みの軽減を目的とする診療部門。」(大辞林第三版),「末梢神経・神経叢・神経節などに局所麻酔薬あるいは神経破壊薬を注射して,各種の痛みをとることを専門とする診療部門。」(広辞苑第五版)であって,古くは,自由国民社発行の1969年(昭和44年)版「現代用語の基礎知識」に「ペインクリニック」の語が掲載され,その他,集英社発行の1987年(昭和62年)版「imidas」,朝日新聞社発行の1990年(平成2年)版「知恵蔵」に「ペインクリニック」の語が掲載されている(甲39ないし41)。

 そうすると,「EVEPAIN」のうち,「ペイン」の称呼を生じる「PAIN」の部分は,これに接した取引者,需要者に,「痛み」の観念を生じさせるものと認められ,特に,原告商品の製品パッケージ正面には,前記3(2)のとおり,「痛み・熱36錠」と付記されているところ,別紙2のとおり,被告商品の製品パッケージ正面にも「痛み・熱に」と記載されているように,被告商品は,鎮痛・解熱剤であって,「痛み」に関連する商品であり,被告商品においては,「痛み」は,商標が付された商品自体の特性に係るものであるから,このことからも,より一層,「EVEPAIN」のうち,「PAIN」の部分は,「痛み」との観念が生じ得るものということができる。

 このことに,「EVE」の欧文字と「イブ」の片仮名文字からなる引用商標が,前記3(2)のとおり,鎮痛・解熱剤である原告商品を表示するものとして,周知著名な商標になっていたこと,被告商品も鎮痛・解熱剤であること,被告商品は,別紙2のとおり,製品パーケージにおいて,引用商標と同様,欧文字を大きく表示するという使用態様であること,「EVEPAIN」は欧文字の7文字で構成され,それを「EVE」」と「PAIN」とに分離することが取引上不自然なほど,不可分に結合しているとまで断定することはできず,審決の「不可分一体に構成され・・・『EVE』と『PAIN』とが軽重の差がなく結合し,分離不能なほどに,一体的な強い結合状態をなしている」(審決謄本15頁下から第2段落)との判断はにわかに首肯し難いことを併せ考慮すると,被告商品に付せられた本件使用商標である「EVEPAIN」に接した取引者,需要者は,それらを「EVE」と「PAIN」とからなるものと理解し,「EVE」の部分においては,周知著名な引用商標を想起するとともに,「PAIN」の部分は,「痛み」との観念を生じ,その商品の特性に係る部分であり,周知著名な引用商標に係る原告商品の関連商品の特性を示す部分として認識され,それ自体としては自他識別力を欠くものと認めるのが相当である。

 そうすると,本件使用商標は,原告の製造,販売する鎮痛・解熱剤を表示するものとして周知著名である引用商標をその主要な構成部分に含む商標として,当該構成部分が他の部分から分離して認識され得るものであり,引用商標と観念において類似し,外観,称呼の一応の相違をしのぐものと認められる。

 そして,本件使用商標を鎮痛・解熱剤である被告商品に使用したときは,本件使用商標と原告の引用商標とが類似することから,これに接した取引者,需要者に対し,その商品が原告又は原告と何らかの緊密な営業上の関係にある者の業務に係る商品であるかのように,その出所につき混同を生ずるおそれがあるというべきである。 』


『以上によれば,本件通常使用権者による,本件商標に類似する本件使用商標の使用は,原告又は原告と何らかの緊密な営業上の関係にある者の業務に係る商品であるかのように,その出所につき混同を生ずるおそれがあるというべきであるから,これと異なる審決の判断は誤りというべきである。そして,本件商標の商標権者である被告は,商標法53条1項ただし書所定の事由,すなわち,本件通常使用権者の上記不正使用の事実を知らず,かつ,相当の注意をしていたことについては,何ら主張・立証しないのであるから,上記判断の誤りが審決の結論に影響することは明らかである。原告の取消事由1ないし3の主張は,以上の趣旨をいうものとして理由があり,審決は取消しを免れない。』


組み合わせの動機付けの検討例

2007-03-09 01:04:43 | 特許法29条2項
事件番号 平成18(行ケ)10350
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年02月27日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官中野哲弘

『 第1引用発明は,おむつを着用者へ取り付けるとき,出っ張り部50を含むウエストの伸縮性部材38又は40に取付操作中に発生する張力が伸縮性部材34,36を直接膨張させることにより着用者の回りでの脚カフのよりきつい嵌合が保証される,という本願発明と同様の効果を奏するから,おむつの縦方向の長さ調節のために,後方ウエスト部分の取付手段の幅を前方ウエスト部分の取付手段の幅より大きくするという,第2引用例に開示されている上記(2)の技術的事項を第1引用発明と組み合わせる動機付けが存在するということができるし,また,第2引用例に記載された上記(2)の技術的事項を第1引用発明と組み合わせることによって,様々な寸法の着用者に応じて脚カフの嵌合具合を調節することができるという効果を奏することができるというべきである。

 なお,第2引用例には,「前記前方ウエスト部分の取付手段の幅の前記後方ウエスト部分の取付手段の幅に対する百分率比は約10%ないし約30%の間,好ましくは約25%であること」という,本願発明の数値は記載されていないが,おむつの縦方向の長さ調節のために,後方ウエスト部分の取付手段の幅を前方ウエスト部分の取付手段の幅より大きくするに際して,前方ウエスト部分の取付手段の幅の後方ウエスト部分の取付手段の幅に対する割合をどの程度にするかは,当業者が適宜選択すべき事項であって,本願の発明の詳細な説明(甲5)にも,前記2(1)ア(イ)のとおり,この数値が好ましいと記載されているのみであるから,この数値について当業者が容易に想到し得るものではないということはできない。』

相違点に副引用例を適用する理由が十分に検討されていない場合

2007-03-09 00:57:36 | 特許法29条2項
裁判年月日 平成19年02月27日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一

『6 取消事由5(審決判断2における相違点1についての判断の誤り)について原告は,引用発明2における「一時的なパスワードとユーザID」をバーコードに置き換えるようなこと(正確には,上記のとおり,「『一時的なパスワードとユーザID』を『バーコードと発信者番号』に置き換えること」であり,対応関係を考慮すれば,「『一時的なパスワード』を『バーコード』に置き換えること」である。)を,当業者が行うとは考え難い旨主張する。

 しかるところ,甲第1号証には,審決が認定するとおり,「・・・」(段落【0113】)との記載があり,この記載によれば,認証用コード(ユーザーコード情報)には,様々な種類があり,かつ,その種類によって入力手段(入力装置)も異なることが認められる。そうすると,当業者がどのような認証用コードを選択するかについては,認証用コードを用いる目的や,それぞれの認証用コードを用いた場合の利害得失,認証用コードを入力する状況(入力者が,認証要求者側であるか,被認証者であるか,入力場所が認証要求者の支配領域であるか,被認証者の支配領域であるか,認証要求者と被認証者が対面しているか否か等)などを考慮して決定されるものであることは明らかであって,これらの点を度外視して,特定の認証用コードが,周知又は公知であるからといって,それを適用することが直ちに容易であるとすることはできない。』

『 甲第3号証には,・・・ との各記載があり,これらの記載によれば,引用発明2は,ネットワークサービスに関する利用者の認証システムであり,認証用コードである「一時的なパスワード」は,例えば「VWXYZ」のような文字メッセージであって,利用者(被認証者)により,利用者のパーソナルコンピュータに入力されるものであることが認められ,また,認証用コードを使用する場所は,利用者の自宅等,被認証者の支配領域内であり,被認証者と認証要求者(ネットワーク資源の提供者)とは対面しておらず,認証用コードは,利用者のパーソナルコンピュータのキーボードという,通常,パーソナルコンピュータに付属し,かつ,汎用性の高い入力機器によって入力されることが示唆されているということができる。

 そうすると,上記甲第2号証の場合において,認証用コードとしてバーコードを利用することを合理的とした事情,とりわけ,店舗内という他の来店客等の目を考えなければならない状況,認証要求者側の者と被認証者が,認証要求者の支配領域内で対面し,認証コードの入力を認証要求者側が,認証要求者の装置で行い得るという不正に対処する上での利点,バーコード読取り装置の汎用性のないという欠点を,多数の来店客について使用することによって補い得ること等は,引用発明2においては存在し得ない条件となるから,これらの点について何ら考慮することなく,甲第2号証に,携帯電話を認証に用いる際,認証用コードとしてバーコードを表示するものが示されているとの理由により,引用発明2に,認証用コードとしてバーコードを適用することが,当業者に容易になし得ることとするのは誤りである。 』