知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

損害の額の推定規定(114条3項)の適用、著作者人格権侵害の損害額の算定例

2007-03-11 07:50:56 | Weblog
事件番号 平成18(ネ)10090
事件名 損害賠償請求控訴事件
裁判年月日 平成19年02月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟

『(イ)  前提事実(3)イのとおり,本件侵害部分は本件テキストの本文50頁中10頁であるから,本件業務委託上の上記テキスト作成料の規定を形式的に適用して対価の額を算定すると,その額は多くとも6万円(6000円×10頁=6万円)となる。
しかし,被控訴人東京LMと被控訴人研究所との間で締結された本件業務委託契約は,被控訴人研究所が被控訴人東京LMから中小企業診断士試験用講座に関して,テキスト作成,答案添削等を含めた講義について,個々的に分離して実施するのではなく,あくまでも包括的に業務委託を受けることを前提としたものであるから,同契約書(乙1の1)に記載された各報酬費目は,被控訴人東京LMから被控訴人研究所に対して支払われる委託報酬総額について,各報酬費目ごとに便宜的に割り付けて決められた性質を有する面があることも否定できない。そして,本件テキストは合計350部印刷されているが(前提事実(3)イ(イ)),この印刷部数は概ね5年間の講義において使用することを念頭に置いたものである。また,本件テキストは,その性質上,被控訴人東京LMの委託により実施される上記講座の講習生のみに配布されるものであるから,これを入手しようとする者は,受講料全額を支払って受講生となるほかない。
 上記のような事情を勘案するときは,原告著作物の著作権侵害行為について著作権法114条3項に基づき損害額を算定するに当たって,本件業務委託契約上のテキスト作成料の規定を形式的に適用することは相当ではなく,上記講座の委託につき支払われる報酬総額や本件テキストの利用方法の特殊性等の各事情を総合考慮して,上記損害額については30万円と認めるのが相当である。』

『 このように,被控訴人らの行為により,原告著作物の内容について,これを交付するに際して被控訴人Y1から受けていた説明の趣旨に反して,控訴人の意図に反する形態で,これを掲載した刊行物に先立って公表がされた点は十分考慮すべきものであるが,本件テキスト350部のうち受講生等に配布された数は70部余であること,本件テキストの内容は,中小企業診断士の試験用講座の教材であるという性格上,他の参考文献に記載された文章や図表を引用し又は要約した部分が多いものであること等の事情をも勘案し,加えてその他本件にあらわれた諸般の事情を総合考慮すれば,本件における著作者人格権(公表権,氏名表示権,同一性保持権)侵害による損害額については,20万円と認めるのが相当である。』



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