知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

記載されているものから自明な構成とは

2006-03-26 22:04:12 | 要旨変更・新規事項の追加
◆H15. 7. 1 東京高裁 平成14(行ケ)3 特許権 行政訴訟事件
特許法53条1項

(注目点)
 願書に最初に添付した明細書又は図面から自明である事項とは

(判示)
 原告は,本件補正書において補正した事項は,当初明細書の請求項1,2中の「等」及び「など」の語によって,すべて記載されていると解すべきである,と主張する。

 しかしながら,補正が認められるか否かの判断において問題とされる「願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項」とは,願書に最初に添付した明細書又は図面に現実に記載されているか,記載されていなくとも,現実に記載されているものから自明であるかいずれかの事項に限られるというべきである。

 そして,そこで現実に記載されたものから自明な事項であるというためには,現実には記載がなくとも,現実に記載されたものに接した当業者であれば,だれもが,その事項がそこに記載されているのと同然であると理解するような事項であるといえなければならず,その事項について説明を受ければ簡単に分かる,という程度のものでは,自明ということはできないというべきである。

拒絶査定時に引用されていない拒絶理由の引例で審決するのは適法か

2006-03-26 21:49:54 | 特許法29条2項
◆H15. 3.31 東京高裁 平成14(行ケ)41 特許権 行政訴訟事件
特許法29条2項

(注目点)
 拒絶査定時には甲9,10を引用例としたが、拒絶理由には、甲6も示されていた。審決時に、甲6で審決できるか。

(判示)
  (1) 審査においてした手続は,拒絶査定に対する審判においても効力を有し(特許法158条),審査官のした拒絶理由の通知(同法50条)も,審査における他の手続と異なるところはない。審査官は,本願発明について,引用例発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとする拒絶理由通知書(甲8)を発しているから,審判において,上記拒絶理由に基づいて審判請求が成り立たない旨の審決をする限り,改めて拒絶理由の通知をすることを要しない。
  (2) 原告は,拒絶理由を事前に通知しなかったことにより原告に意見を述べる機会が与えられなかったと主張するが,原告には,審査官の発した上記拒絶理由通知に対し意見を述べる機会を与えられているから,同一の拒絶理由について改めて審判において通知を受けなくとも,意見を述べる利益を害されたということはできない。したがって,拒絶理由通知に係る手続違背をいう原告の主張は理由がない。

一つの請求項で拒絶査定するのは適法か

2006-03-26 21:41:41 | Weblog
◆H14. 3.28 東京高裁 平成12(行ケ)180 特許権 行政訴訟事件
特許法49条

<注目点>
 複数の請求項の内、一つの請求項に係る発明で拒絶するのは適法か。

<判示>
 原告は,本願発明2ないし14の中には,審決が引用した刊行物に全く開示されていない構成が含まれているものがあり,これらの発明については,特許を受けることができるはずである,・・・審決は,本願発明1について審理しているのみで,本願発明2ないし14については,全く審理をしていないから,審決には,判断遺脱の違法がある,と主張する。

 平成5年法律第26号による改正前の特許法49条(以下,単に「特許法49条」という。)は,次のとおり規定している。
「・・・。」
上記規定によれば,特許出願に係る発明が,特許法29条等の,出願人が特許を受けることのできない事由を定めた規定に該当し,特許をすることができないものであるときは,審査官は,その特許出願について拒絶査定をしなければならない。
 このことは,昭和62年の特許法改正前の一発明一出願の制度においては,当然のことであった。同改正により同制度が廃止され,関連する複数の請求項に係る発明を一つの願書で特許出願をすることが認められた後においても,同条は,次に述べる理由により,一つの特許出願における複数の請求項に係る発明のいずれか一つが,上記特許法29条等の規定に該当し,特許をすることができないものであるときは,その特許出願全体を拒絶すべきことを規定しているものと解すべきである。

 特許法49条は,前記のとおり,「その特許出願に係る発明が・・・第29条・・・の規定により特許をすることができないものであるとき」は,「その特許出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない。」と規定して,平成5年法律第26号による改正前の特許法51条(以下,単に「特許法51条」という。)の「特許出願について拒絶の理由を発見しないときは,出願公告をすべき旨の決定をしなければならない。」との規定とともに,一つの特許出願について,拒絶査定か出願公告をすべき旨の決定かのいずれかの行政処分をなすべきことを規定している。
 この点は,昭和62年改正により,一つの特許出願において複数の発明を複数の請求項に記載することができるとの改正がなされたときにも,何ら変更されていない。

 また,このことは,特許法が,特許無効の審判について,「2以上の請求項に係るものについては,請求項ごとに請求することができる。」(123条1項柱書き)と明文で規定し,特許査定という行政処分をなした後には,各請求項ごとに,無効審判の申立てをすることができることを明記しているのに対し(現行特許法では,特許査定後の特許異議の申立てについても,「2以上の請求項に係る特許については,請求項ごとに特許異議の申立てをすることができる。」(113条本文)と明文で規定し,特許査定という行政処分をなした後には,各請求項ごとに,異議申立てをすることができることを明記している。),前記49条及び51条においては,これと対照的に「特許出願について」拒絶査定ないし出願公告をすべき旨の決定をすることを明記していることからも明らかというべきである。

 特許法が上記のようなものとして49条の規定を設けた制度的な理由は,大量の特許出願について迅速な処理をすべき要請があることにあるであろう。もっとも,他方では,このような制度によると,一つの特許出願における複数の請求項に係る発明の一つについて,特許法29条等が規定する,出願人が特許を受けることができない事由がある場合には,その他の請求項に係る発明について,特許付与を受ける機会が奪われることになり,出願人にとって不利益な結果となることが懸念されるところである。

 しかし,特許法は,審査官に拒絶査定の前に拒絶の理由を通知すべき義務を負わせ(50条),出願人は,拒絶理由通知を受ける前はいつでも,同通知を受けた後は所定の期間内に,明細書又は図面について補正をする機会を与えられているのであり(17条の2第1項,4項),審判段階においても,同様に拒絶理由の通知の制度(159条2項)と明細書又は図面の補正の機会が与えられているのであるから,出願人は,これにより拒絶理由通知により拒絶されることが予想される請求項に係る発明を補正したり,削除したりすることができ,柔軟な対応が可能となるのである。また,特許法は,出願人に分割出願の制度も認めており,出願人は,願書に添付した明細書又は図面について補正をすることができる期間内に限っては,二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができるのである(44条1項)。したがって,出願人は,拒絶理由通知の制度,並びに,同通知の前及び同通知の後の所定の期間内における補正又は分割出願の制度により,適切な対応をすることが可能なのであるから,特許法49条についての上記解釈により出願人が不当に不利益を被る結果となることについては,そうならないようにするための十分な手続的な手当てがなされているとみることができる。

請求項を統合したときの引用例の組合わせ(反論の機会)

2006-03-26 21:35:22 | 特許法29条2項
◆H14. 3.28 東京高裁 平成12(行ケ)180 特許権 行政訴訟事件
特許法29条2項

(注目点)
 請求項1に係る発明に引用文献1が通知され、請求項5に係る発明に引用文献2が通知されて拒絶査定された際に、審判請求時の補正により、請求項1に請求項5の記載をとりいれて新請求項1とした。
 そのときに、審判官は、請求項1に対して引用文献1及び2を組み合わせて、特許法29条2項の規定で審決したが、これは、違法か。


(判示)
 請求項1に係る発明が,形式上,請求項5に係る発明と別発明であるとしても,拒絶査定で引用刊行物2に記載された発明に基づいて進歩性がないとされている技術事項を,請求項1に係る発明に加えたことで,当該技術事項が進歩性を帯びるなどといったことは,あり得ないことである。
 当該技術事項の加わった請求項1に係る発明は,当然に,引用刊行物1,2に記載された発明に基づいて進歩性がないとされていたことになるというべきである。

 原告は,審査段階において,引用刊行物2は,請求項5の発明の「海綿状のセラミックフォーム」という構成について引用されておらず,鋳型の「突起」に関して引用されていたにすぎなかった,と主張する。

 拒絶理由通知において,引用刊行物2が引用されたのが,「海綿状のセラミックフォーム」という構成との関連においてでないことは,原告主張のとおりである。(拒絶理由通知時の請求項5は「海綿状のセラミックフォーム」の構成を有していなかったから,いかなる刊行物であれ,これとの関連で引用されることはあり得ない。)。

 しかしながら,前認定のとおり,拒絶査定においては,引用刊行物2は,上記構成の進歩性を否定するためにも引用されていることが明らかであり,原告は,この拒絶査定を不服として審判の請求をしたのである。

 仮に,同刊行物を上記構成との関連でも引用することをあらかじめ明らかにしないままで,拒絶査定をなした点を,手続上の瑕疵と呼ぶとしても,これをもって,審決を違法にするほどのものとすることはできない,というべきである。

引用例の別の実施例の参照(反論の機会)

2006-03-26 20:23:07 | 特許法29条2項
平成14年(行ケ)第109号 特許取消決定取消請求事件
特許法29条2項

<注目点>
 取り消し理由通知で、引例1の図7に示される実施例から、引用発明1を認定した場合に、異議決定において、引用発明1を評価する際に、他の図面に示される他の実施例を参照することは許されるか。

<判示>
 取消理由通知の内容と比べると,(異議決定は)引用発明2を周知技術の一つとして例示するにとどめたこと,及び,引用発明1の解釈に当たって,刊行物1の第8図に記載された実施例を参酌したこと,の2点において変更されている,ということができる。

 第2の点については,引用発明1に引用発明2に例示される周知技術を適用することについて,これを困難にする事情があるかどうか,すなわち,引用発明1が,拘束部材が埋設された中空円筒形のゴム体を弾性支持体の孔の内周に加硫接着することとは相いれない内容の発明であるかどうかとの問題である。

 したがって,この点は,引用発明1の技術内容に関するものであるから,刊行物1に記載された発明である引用発明1の技術内容の判断に当たって,刊行物1の記載全体を参酌することができることは当然であり,刊行物1に記載された他の実施例である,第1図ないし第6図の各実施例及び第8図の実施例とその余の記載を参酌した上で,この点を判断することは,何ら問題はないところである。

 取消理由通知において,刊行物1を引用し,その第7図に記載された発明を引用発明1として明示している以上,決定が,刊行物1のその余の実施例についての記載も参酌して,引用発明1の内容を認定することは,特許権者に意見陳述の機会を保障した特許法の前記規定の趣旨に何ら反するものではないというべきである。