知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

一つの請求項で拒絶査定するのは適法か

2006-03-26 21:41:41 | Weblog
◆H14. 3.28 東京高裁 平成12(行ケ)180 特許権 行政訴訟事件
特許法49条

<注目点>
 複数の請求項の内、一つの請求項に係る発明で拒絶するのは適法か。

<判示>
 原告は,本願発明2ないし14の中には,審決が引用した刊行物に全く開示されていない構成が含まれているものがあり,これらの発明については,特許を受けることができるはずである,・・・審決は,本願発明1について審理しているのみで,本願発明2ないし14については,全く審理をしていないから,審決には,判断遺脱の違法がある,と主張する。

 平成5年法律第26号による改正前の特許法49条(以下,単に「特許法49条」という。)は,次のとおり規定している。
「・・・。」
上記規定によれば,特許出願に係る発明が,特許法29条等の,出願人が特許を受けることのできない事由を定めた規定に該当し,特許をすることができないものであるときは,審査官は,その特許出願について拒絶査定をしなければならない。
 このことは,昭和62年の特許法改正前の一発明一出願の制度においては,当然のことであった。同改正により同制度が廃止され,関連する複数の請求項に係る発明を一つの願書で特許出願をすることが認められた後においても,同条は,次に述べる理由により,一つの特許出願における複数の請求項に係る発明のいずれか一つが,上記特許法29条等の規定に該当し,特許をすることができないものであるときは,その特許出願全体を拒絶すべきことを規定しているものと解すべきである。

 特許法49条は,前記のとおり,「その特許出願に係る発明が・・・第29条・・・の規定により特許をすることができないものであるとき」は,「その特許出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない。」と規定して,平成5年法律第26号による改正前の特許法51条(以下,単に「特許法51条」という。)の「特許出願について拒絶の理由を発見しないときは,出願公告をすべき旨の決定をしなければならない。」との規定とともに,一つの特許出願について,拒絶査定か出願公告をすべき旨の決定かのいずれかの行政処分をなすべきことを規定している。
 この点は,昭和62年改正により,一つの特許出願において複数の発明を複数の請求項に記載することができるとの改正がなされたときにも,何ら変更されていない。

 また,このことは,特許法が,特許無効の審判について,「2以上の請求項に係るものについては,請求項ごとに請求することができる。」(123条1項柱書き)と明文で規定し,特許査定という行政処分をなした後には,各請求項ごとに,無効審判の申立てをすることができることを明記しているのに対し(現行特許法では,特許査定後の特許異議の申立てについても,「2以上の請求項に係る特許については,請求項ごとに特許異議の申立てをすることができる。」(113条本文)と明文で規定し,特許査定という行政処分をなした後には,各請求項ごとに,異議申立てをすることができることを明記している。),前記49条及び51条においては,これと対照的に「特許出願について」拒絶査定ないし出願公告をすべき旨の決定をすることを明記していることからも明らかというべきである。

 特許法が上記のようなものとして49条の規定を設けた制度的な理由は,大量の特許出願について迅速な処理をすべき要請があることにあるであろう。もっとも,他方では,このような制度によると,一つの特許出願における複数の請求項に係る発明の一つについて,特許法29条等が規定する,出願人が特許を受けることができない事由がある場合には,その他の請求項に係る発明について,特許付与を受ける機会が奪われることになり,出願人にとって不利益な結果となることが懸念されるところである。

 しかし,特許法は,審査官に拒絶査定の前に拒絶の理由を通知すべき義務を負わせ(50条),出願人は,拒絶理由通知を受ける前はいつでも,同通知を受けた後は所定の期間内に,明細書又は図面について補正をする機会を与えられているのであり(17条の2第1項,4項),審判段階においても,同様に拒絶理由の通知の制度(159条2項)と明細書又は図面の補正の機会が与えられているのであるから,出願人は,これにより拒絶理由通知により拒絶されることが予想される請求項に係る発明を補正したり,削除したりすることができ,柔軟な対応が可能となるのである。また,特許法は,出願人に分割出願の制度も認めており,出願人は,願書に添付した明細書又は図面について補正をすることができる期間内に限っては,二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができるのである(44条1項)。したがって,出願人は,拒絶理由通知の制度,並びに,同通知の前及び同通知の後の所定の期間内における補正又は分割出願の制度により,適切な対応をすることが可能なのであるから,特許法49条についての上記解釈により出願人が不当に不利益を被る結果となることについては,そうならないようにするための十分な手続的な手当てがなされているとみることができる。

最新の画像もっと見る