知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

特許請求の範囲の解釈と明確性

2006-03-03 20:53:07 | 特許法36条6項
◆H17. 5.30 知財高裁 平成17(行ケ)10002 特許権 行政訴訟事件
条文:特許法36条6項

【概要】
 「モバイル式のコンピュータとその構造」とする発明について特許出願をしたが拒絶の査定を受けたので,これに対する不服の審判の請求をした。特許庁は,同請求を不服2002-5010号事件として審理した結果,審判請求時の補正を却下した上で、「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決を得たため、審決取消し訴訟を提起した。

【争点1】
 特許請求の範囲の「電源,キーボード,又はモニターを包含するスタンドアロン式コンピュータに転用する手段」という記載が,スタンドアロン式コンピュータに転用する手段の構成は明確か。

【争点2】
 「スタンドアロン式コンピュータに転用する手段」という記載自体から発明としての構成は明確であり,これを,その実施態様にまで掘り下げて特許請求の範囲に記載しなければならないか。

【判示1】
 「転用する手段」は学術用語であるとはいえないから,その有する普通の意味で使用されているものと解される。一般に,「転用」とは,「本来の用い方をしないで,他の用途に用いること。流用。」(広辞苑第5版),「本来の目的とは違った用途にあてること。」(大辞林第2版)といったことを意味することからすると、「身体装着型のモバイル式コンピュータ」を「スタンドアロン式コンピュータに転用する」ということは,本来の用い方によれば「身体装着型のモバイル式」であるコンピュータを「スタンドアロン式コンピュータ」として用いるということであり,「スタンドアロン式コンピュータに転用する手段」を有することが本願補正発明の構成要件となっているものと認められる。
 このような技術的意味を持った「転用する手段」がどのようなものであるかは,補正明細書の特許請求の範囲の【請求項1】の記載においても明らかでなく,念のために,発明の詳細な説明を精査しても,「転用する手段」を定義したり説明したりしている記載を見いだすことはできない。

【判示2】
 「スタンドアロン式コンピュータに転用する手段」は本願補正発明に必須の構成であり,これによってスタンドアロン式コンピュータに転用されるとしているのであるから,このような構成を本願補正発明の必須の構成要件としている以上,特許請求の範囲の記載において,その技術的意味を明確にすべきであることはいうまでもない。

(感想)
 特許請求の範囲の文言に忠実に発明を認定している。はたして、特許庁の実務、弁理士の実務においてこのような扱いはされているのだろうか?技術常識として記載しなくてもよい事項、そうではなくて、記載しなければ行けない事項について、実務においてもう少し配慮されるべきではないだろうか。

特許請求の範囲の解釈

2006-03-03 06:34:27 | Weblog
◆H18. 2.27 知財高裁 平成17(行ケ)10383 特許権 行政訴訟事件
http://courtdomino2.courts.go.jp/chizai.nsf/Listview01/C31B96BDF1DCBA5A49257123000C6025/?OpenDocument
条文:特許法29条の2

【概要】
 拒絶査定を受け,これを不服として審判請求をしたところ,発明の進歩性の欠如(特許法29条2項),先願明細書記載の発明との同一(同法29条の2)を理由に,審判請求は成り立たないとの審決がされたため,同審決の取消しを求めた事案

【争点】
本願明細書の発明の詳細な説明には,細粒化したガラス粒の透水性を利用することが記載されている。そのときに、「瓶ガラス,板ガラス,あるいは陶磁器などのガラス質原料を破砕して細粒化したガラス粒からなる透水性地盤改良用資材」と記載された請求項1から、本願発明が細粒化したガラス粒の透水性を利用することを認定することができるか。

【判示事項】
・前提
特許の要件を審理する前提としてされる特許出願に係る発明の要旨の認定は,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか,あるいは一見してその記載が誤記であることが発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなど,発明の詳細な説明の記載を参酌することが許される特段の事情のない限り,特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである(最高裁昭和62年(行ツ)第3号平成3年3月8日第二小法廷判決・民集45巻3号123頁)。
・本願発明の場合
 原告の前記主張について検討するに,本願発明においては,ガラス粒をどのように用いて透水性を持たせるかについての限定はないのであるから,本願発明における「ガラス粒からなる透水性地盤改良用資材」が,ガラス粒をそのままの状態で堆積させて地盤改良に用いるものであると限定して解することはできない。

本願発明が引用発明の後退発明である時の動機付け

2006-03-02 22:08:56 | 特許法29条2項
◆H17. 9.21 知財高裁 平成17(行ケ)10026 特許権 行政訴訟事件
条文:特許法29条2項

【概要】
 本件特許出願は、特許出願(特願平3-332242号)をし、その一部につき、新たな特許出願(特願平11-111391号)をし,さらに,上記分割出願の一部につき、新たな特許出願(特願2000-331145号)をしたもの。
 本件出願は、平成13年8月7日に拒絶査定を受け、不服審判に係属。特許庁は、これを不服2001-15789号事件として審理し、「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をしたが、東京高等裁判所は、上記審決を取り消した。
 特許庁は,不服2001-15789号事件について更に審理して「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をした。

【争点】
 引用例1は、分波器及び周辺回路をモジュール化しようとするのが目的であって、分波器モジュールから、分波器の部分だけを取り出すという変形をすること自体が引用例1の目的に反するものであるから、そのような変形をして分波器単体部分を取り出すことを可能にする動機付けがあるとはいえないか、
 
【判示事項】
 『要するに、原告のいう、分波器モジュールから,分波器の部分だけを取り出すという変形とは,分波器とその他の部品とを分離することであって,単に,引用発明1を従来の技術に戻すということにすぎないのである。そして,進歩した技術を進歩する前の技術に戻すことに格別の動機付けが必要とはいえない』

(感想)
 引用発明を引用発明の従来技術相当の構成に戻すことには、動機付けはいらないと明言している。あたりまえのように思うが、実は、意外におおい状況設定ではないかと思う。
 結論は、やはり、判示事項のようにすべきだと思う。