読書な日々

読書をはじめとする日々の雑感

『旅・戦争・サロン―啓蒙思潮の底流と源泉』

2017年06月07日 | 人文科学系
高橋安光『旅・戦争・サロン―啓蒙思潮の底流と源泉』(法政大学出版局、1991年)

17世紀・18世紀のフランスの啓蒙思想に関する逸話とか著者の雑学などを、旅、戦争、サロンという三つの主題を中心に披露したもの。

ヴォルテール関係の翻訳や著書がある著者の該博ぶりを披露するためのもの、要するに自分の雑学・知識を書き綴ったというようなもので、とくに上のテーマにそって一つの問題設定があって、それに基づいて書かれているというような類のものではない。

ただそれだけに意味がないかといえば、必ずしもそういうわけでもなく、随所に面白い知識の披瀝がある。要するに、読む側が「おや」「なるほど」「こんなものがあったのか」と感心しながら読めるなら価値があるが、そうでないならあまり読む価値はない。

私にとってはサロンの主題の部分が興味深く読めた。17・18世紀のフランスの啓蒙思想はサロン抜きには語れないだろうし、18世紀になると徴税請負人やその妻が開いていたサロンが重要な芸術家や文人と交流があったり、育てたりしたことがあるからだ。

例えば、ヴォルテールとラモーが知り合うきっかけになったラ・ププリニエールという徴税請負人はイタリア音楽の支持者であり、彼が持っていた常設のオーケストラの音楽監督にラモーを雇い入れていた。ラモーの後は、ドイツ古典派の走りとなるシュターミッツを雇い入れていた。

またルソーが一時期秘書をしていたデュパン夫人の夫も徴税請負人で、二人はモンテスキューの『法の精神』に対する反論書を書いたりしている。デュパン夫人の秘書時代にルソーの反文明的思想が形成されたことを考えても、思想家ルソーの形成に大きな意味を持っていた。

徴税請負人という制度そのものが実に面白い。政府から税金徴収を請負い、例えば1億リーヴルの税金徴収を請け負う契約をして、決まった時期に1億リーヴルを政府に支払うが、実際に国民からどれだけの税金を徴収するかは自由なのだ。だから、政府に収めたのと同じ額ほどの差額が自分の懐に入ることになる、というような信じられない制度である。

啓蒙思想家と経済についてだれか研究してくれないかな。きっと面白いものができると思うけど。


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