心と神経の哲学/あるいは/脳と精神の哲学

心の哲学と美学、その他なんでもあり

ギルバート・ライル

2012-08-18 22:53:12 | 哲学

ギルバート・ライルの『心の概念』は名著である。
心は身体とは別の「実体」である、と主張する二元論の主張をカテゴリー・エラーとして完膚なきまでこき下ろした。
「デカルトの神話」と題された章は見事である。
このライルの辛辣かつ鋭敏な分析を示されて以来、デカルトの信者は激減した。
すごすごと退散したと言ってもよい。
ライルは言語分析系の哲学者だが、実はアリストテレス学者でもあった。
アリストテレスは既に2600年近く前に、心の実体説を否定していた。
彼によると、心(プシューケー)は身体の形相にして生命の原理なのであった。
それは、身体とは別の実体ではなく、身体の自己組織化の原理、つまり生命の機能なのである。
胃という実体とは別の存在次元に「消化」があるわけではないし、肺から独立して不滅の「呼吸」という実体があるわけではない。
ところが、人間の知性はもともと「心」を過度に神聖視し、それを非物質的「実体」として捉える癖がある。
これは存在論的にみると極めてナイーヴな思考姿勢である。
多くの一般人が今なお、この思考の罠にはまっている。
また、この心の実体説は、古くからある霊魂実体説と類縁関係にある。
宗教家が唯物論を蛇蝎のように忌み嫌うのは、詐欺商売ができなくなるからである。
デカルトはもともと科学者として唯物論者の資質も持ち合わせていたのだが、教会からの圧力に屈して、心(霊魂実体)を機械としての身体とは別次元に置く二元論を捏造したのである。
それをライルは完膚なきまで論破し、まやかしを明らかにした、というわけである。
ライルの立場はハイデガーやメルロ=ポンティとも共通点を持っており、それに関する研究もある。
また、ライルの愛弟子で最も優秀だったのは、あのダニエル・デネットである。
ライルとデネットの関係についてはまた後で論じることにしよう。


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