旅限無(りょげむ)

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記念撮影の後先 其の八

2009-12-18 11:52:59 | 外交・情勢(アジア)
■草の根「長城計画」を大成功させて意気揚々と凱旋帰国してみたら、宮内著の何とか言う役人に文句を言われたと怒髪天を衝く怒りを露にしてしまったクラッシャー小沢は、得意の?憲法論を振り回して自分の「信念」を内外に示したものの、上手の手から水が漏れると申しましょうか、カッパの川流れと申しましょうか、もしかしたら虎の尾を踏んでしまったのかも?

自民党の「天皇陛下の政治利用検証緊急特命委員会」(委員長・石破茂政調会長)は17日、党本部で会合を開いた。……大原康男国学院大教授(皇室制度史)は特例会見があった15日は宮中で「賢所御神楽(かしこどころみかぐら)の儀」の祭祀が行われたことを明らかにし、「(お出ましになった)天皇陛下がお心を安らかに保たれなければならない日だった」と語った。小沢氏が「30日ルール」を「法律ではない」と発言したことには「宮内庁は宮内庁法第2条に基づきルールを作った」と反論した。また「他の国にはルールを守るよう求め、中国の無理強いだけを認めるのは極めて卑屈な政治的配慮だ」と、首相らを批判した。

■ちょっと危なっかしい憲法解釈を披瀝した上に、宮内庁を下に見る露骨な態度を示してしまったのは大失敗だったようです。関係各界の専門家が一斉に批判を始めたら、残念ながらクラッシャー小沢に勝ち目は無さそうです。立法府の実力者として法律の専門家でなければならない立場なのですが……。


百地章日大教授(憲法学)は「30日ルールは、自社さ連立政権で、鳩山由紀夫首相が新党さきがけ代表幹事だったときにできた」と述べた。羽毛田信吾宮内庁長官が小沢氏の辞任要求を拒否したことについては「30日ルールを無視した内閣の政治的要求を拒否するのは当然だ」と擁護した。また、外務省側は特例会見までの経緯について口頭で追加説明したが、文書での回答は岡田克也外相の指示を理由に拒否した。
2009年12月17日 産経ニュース

■元気だった頃の自民党だったら、舌鋒鋭い議員と腕力自慢の議員が一斉に反撃の狼煙を上げて大いに士気が高まったに違いないのですが、惨敗の元凶でしかない年長者と日和見続きの中堅、どれも小粒で大方は後援会と役人頼みの世襲議員ばかりの集団になってしまっては、民主党に向って吹いていた風が弱まったのに乗じて政局を巻き返しに出る元気が無いようにお見受けいたします。

■マニフェストに並んでいた公約がドミノ倒しのように引っくり返り、党幹事長と代表総理には政治資金の深い疑惑が噴出し、外交は大混乱!そこれに加えての天皇陛下の政治利用問題が出て来たのですから、弁慶の七つ道具が揃ったようなものです。ここで責め切れないようだと、自民党の復活は当分無理だということになりそうです。だからと言って政権与党の責任感がなかなか身に着かない生煮え状態の民主党を全面的に支持するわけにも行かず。有権者は来年の夏まで頭を悩まし続けることになりそうです。

記念撮影の後先 其の七

2009-12-18 11:16:51 | 外交・情勢(アジア)

カザフスタンで胡主席はナザルバーエフ大統領と公式会談を行い、両国関係や関心を共有する国際・地域問題について踏み込んで意見交換する。……トルクメニスタンで胡主席はベルディムハメドフ大統領と公式会談を行い、近年来の両国関係の発展の成果を総括し、次の段階の両国関係の発展と各分野の協力について展望や計画を示し、関心を共有する国際・地域問題について意見交換する。また、ベルディムハメドフ大統領の招待で、トルクメニスタン、カザフスタン、ウズベキスタンの各大統領と共に、中国・中央アジア天然ガスパイプラインの開通式に出席する。
2009年12月11日 人民網日本語版

■小沢訪中団との形ばかりの接見とは違い、この中央アジア歴訪はぎっしり実利という実が詰まった本当に重要なものでした。わざわざ開通式に出席するのも無理はなく、年間輸送能力は45億立方メートルで、2012年までに300億立方メートルに増やす計画があり、全長1801kmは地上に設置されたパイプラインとしては世界最長!「長城計画」を進めるクラッシャー小沢幹事長には悪い話ですが、今は万里の長城の時代ではなく、パイプラインの時代なのであります。勿論、東の海底ガス田からのパイプラインも含めて……。

■チャイナは「4エネルギー輸送ライン構築」を持っていて、①北西部の中央アジアから、②東北部のロシアから、③インド洋に面するミャンマーから、④東部の戦略石油備蓄基地というものです。特に③は、マラッカ海峡を通らずに済むので1200kmも輸送距離が短縮される上にインド洋を守るという大義名分も得られるという真に結構な?お話になっておりまして、来年にはミャンマーに30万トン規模の原油専用埠頭を建設して60万立方メートル分の貯蔵庫も建設してしまおう!という大計画だそうです。さてさて、東シナ海のガス田からの天然ガスが④の東部・戦略石油備蓄基地に送られるようになる前に日本政府は手を打てるのでしょうか?既に①ロシアからのラインはチャイナに横取りされたも同然のようなのですが……。

■こうした大計画と比べますと、小沢訪中団が嬉々として北京を楽しんでいた光景がますます滑稽なものになってしまいます。

 
民主党国会議員143人を含む総勢600人超が参加する異例の規模となった今回の訪中団は、航空機5便に分かれての北京入りとなった。……「長城計画」の一環だが、野党からは「これだけ大勢の国会議員が国を留守にするのは異例だ。自民党だったらこういう発想はしない」(谷垣禎一総裁)との声が出た。

■安全上の問題もありますから、選良が143人も団体で移動するというのは異様な光景と言えるでしょう。テロに狙われるほどの大物は含まれて居ない烏合の衆だから安心?とも言っておられません。交通事故や自然災害や毒入りギョーザなどの危険がありましょうし、チャイナ全土で連続している暴動騒ぎが北京に飛び火しないとも限りません。明治政府が元勲たちを欧米視察団として送り出した故事に倣った心算かも知れませんが、学ぶべき事柄も無い土地に国会議員が団子になって出掛ける危険を犯すほどの意義も価値も無いと思うのですが……。やはり、「政治は数だ!」を実現したクラッシャー小沢の自己満足だけが目的だったのか?


小沢氏は北京空港に到着後、中国側が用意した巨大な黒塗りのリムジン車に乗り込み、一般車両を止めてノンストップで市中心部に向かう厚遇を受けた。同行議員らは添乗員が持つ旗に従ってチャーターバスに乗り長い車列をつくった。「140人以上の国会議員が参りました。お忙しい中、それぞれの議員とツーショットをしていただきまして本当にみんな大変、喜んでいると思います」約30分にわたる胡氏との会談の冒頭、小沢氏は笑顔で語りかけた。胡氏との会談は4回目だが、政権交代後は初めてだ。

■小沢幹事長は日本では乗れない巨大なリムジンに乗せて貰って大感激だったのかも知れませんが、北京市で時々出っくわす突然の「道路閉鎖」は本当に迷惑なものなのであります。日本のマスコミでは「国賓待遇」の象徴的な対応のように報じていたところもあったようですが、地方政府のちょっとしたお偉方でも平気で環状道路を独占して会議や行事に向うこともありますし、実際に目撃して驚いたことに天安門広場から南下する前門大街の大通りを通行止めにして、日本の某高校の修学旅行と思(おぼ)しきバスの列が通っていたこともありましたぞ。何の予告も表示も出さずに行なわれる道路封鎖に北京市民は慣れっこになっているようなのですが……。

■小沢団長が厚く御礼申し上げた「ツーショット」の撮影風景は報道画面を見ている方が赤面するような光景でしたなあ。何が嬉しいのか、さっぱり理由が分からない参加議員も多かったようで、次の選挙に悪影響が出なければ幸いでありましょう。投票した人の中には唖然としたり激怒した人もいたはずですからなあ。


会談で胡氏は「小沢氏は中国人民の古くからの友人だ。中日関係発展のため数多くの貢献をしてきた。民主党の新しき友人、古き友人の皆様とお会いできて大変うれしい」と応じた。……会談に先立ち、訪中団が胡氏ら中国要人と行った記念撮影だ。議員のほとんどが一列に並び「一人0・5秒ぐらいのスピード」で胡氏とツーショット撮影、ポーズを決めていた。

■人民大会堂を埋め尽くす恐るべき人の群れを見慣れている胡錦濤主席にとっては、決して大人数とも思えない訪中団の規模だったでしょうから、握ったかどうかも分からない「握手」の連続なども慣れたものだったに違いなく、逆に一票欲しさに手首や指が壊れるほど力を込めて握手し続けて来た新人議員は面食らったことでしょう。それを見守るクラッシャー小沢の表情は、関取に赤ん坊を抱いてもらう父か祖父のようでもありました。やくざの親分にも似ていたような……。


……東シナ海ガス田開発問題や中国製毒ギョーザ事件……中国軍の不透明な国防費……こうした懸案についての突っ込んだ議論はなかった。「今日は政治的な課題を議論しにきたわけではない」(小沢氏)がその理由だ。逆に、会談後、小沢氏は記者団に対し、来夏の参院選に関し、胡氏との会談で自らを「人民解放軍の野戦軍司令官」になぞらえたことを紹介。個人的な信頼関係構築に腐心していることをうかがわせた。……
2009年12月10日 産経新聞

■実際の解放戦争には参加していない世代に属してる胡錦濤主席に対して、「野戦軍司令官」の比喩は適切だったかどうか?選挙は戦いだ!とも言われますが、「戦争」とまで表現するのは如何なものでしょう?伝説と宣伝で塗り固められた解放戦争神話など持ち出すよりも、小平に褒められて異例の出世の切っ掛けとなったチベット・ラサ市戒厳令の話でもしたら、もっと話が通じたかも知れませんぞ。「チベット人暴徒」を徹底的に弾圧した若き日の胡錦濤主席を見習って、今の自民党や気に入らない勢力を根絶やしにしてやる心算です!と言えば、陳情一本化で自民党の支持基盤を根こそぎ奪い取りつつある小沢幹事長の「戦争」が実感を伴って伝わったかも?

記念撮影の後先 其の六

2009-12-18 10:31:22 | 外交・情勢(アジア)
……143人の現役議員全員に、1人1秒足らず、胡錦濤主席と握手させ、写真を撮らせる演出は、まさに宗主国に恭順する近隣国の“朝貢の図”で、誇りある日本人の正視に耐えない。そうすると、先月中旬、学習院大学ホールで上演された中国人民解放軍総政治部歌舞団のオペラを、お忍びで皇太子殿下が観劇したのも、このパッケージの一部だったのかとかんぐりたくなる。総監督の人気オペラ歌手は習副主席の妻だからだ。

■この不思議な観劇については『週刊新潮』が大きく取り上げていたはずですが、一般の新聞やテレビではほとんど触れられていなかったような気がします。例の慌しい写真撮影は、選挙用パンフレットやポスター、選挙事務所のデコレーション用に行なわれたという面もあるようですが、勿論、相手側からすれば皇帝気分を満足させるには十分な演出でありました。


小沢氏の記者会見は、いい気分で凱旋した日本で小役人が反抗したことへの怒りの表れと思うが、天皇を戴くのは日本の2千年の政治の知恵であり、世界に比類のない国体である。平時は「権威」として政治に関与せず、民族の存亡にかかわる重大な時に、国民統合の象徴としてお力を発揮していただくというのが筆者の見解だ。ゆめゆめ一内閣の外交、ましてや党利党略に乱用することは許してはならない。
2009年12月17日 産経ニュース

■クラッシャー小沢にとっては、自分が政権与党の中枢に居座り続けられるかどうか、案外、それが日本の存亡に関わる重大事なのかも知れませんぞ。冷戦後の日本が対米外交姿勢を改めるのは当然なのでしょうが、それが日米関係の軽視や反米にまで話が進むのは非常に危険で、民主党が抱える最大の弱点である防衛政策、そして、集団的自衛権の現実的な見直しや憲法改正へとつながる大問題を解決してからでないと、一政治家の思い込みや変な期待感で舵を切られたらエライことになりましょうぞ。

■小沢大訪中団の日中「草の根」交流の実態と舞台裏が徐々に明らかになっておりますが、訪問前の報道を見ておりますと問題になっている天皇陛下との会見を無理強いしている頃は、まだ北京で胡錦濤主席との会見が出来るかどうか微妙だとの話が散見されます。それもそのはずで、胡錦濤主席はどやどやと数ばかり多い日本からの訪問団と写真撮影や代表者達と茶飲み話をしている暇など無かったらしいのですなあ。


外交部の王光亜副部長は(12月)10日の内外メディア向けブリーフィングで、胡錦濤国家主席が12~14日に予定しているカザフスタンとトルクメニスタンへの実務訪問について……中国と中央アジア諸国は地理的に隣接し合い、文化的にもつながりがある。中央アジア諸国との善隣友好協力関係の不断の強化・発展は、中国政府の一貫した方針であり、双方の人民の共通利益にも合致する。中国は引き続き相互尊重・平等互恵の原則に基づき、中央アジア各国と各分野で実務協力を実施し、平和で、安定した、発展する、調和ある地域の建設に向けて、たゆまず努力していくことを望んでいる。

■東シナ海での強引な掘削作業と連動するように西方からも長大なパイプラインで天然ガスを輸入する計画がどんどん進んでいるのが今のチャイナであります。「中国と中央アジア諸国は地理的に隣接し合い、文化的にもつながりがある」という決まり文句を聞くたびにウイグル自治区の皆さんは神経を逆撫でされるのでありましょうなあ。古くは漢の武帝以来、チャイナは何かと中央アジアに手を伸ばそうと計画したもので、逆に西や北から攻められて何度も滅亡の危機を味わった歴史がありますから、「つながり」は間違いなく存在します。しかし、「平和で、安定した、発展する、調和ある地域の建設」は相当に難しいのが現状でしょう。ソ連崩壊後、対テロ戦争を大義名分として米国が進出してロシア・米国・チャイナが三つ巴の陣取り合戦を繰り広げておりますからなあ。