旅限無(りょげむ)

歴史・外交・政治・書評・日記・映画

ロシア流サミット 其の参

2007-06-11 13:51:18 | 外交・世界情勢全般

米政府は、イランなどからの攻撃を想定し、ポーランドに迎撃ミサイル、チェコにレーダーの配備を計画している。これに対してロシア側は強く反発しており、プーチン大統領は先週、米国が計画を進めるなら、ロシアは欧州にミサイルの照準を合わせる、との姿勢を表明していた。ブッシュ大統領は、記者団に「プーチン大統領は興味深い提案を行った」と述べるにとどめ、既存レーダー活用案には直接は触れなかった。
6月8日 ロイター

■何だか日本の国会答弁みたいな意味不明の反応ですが、少なくとも米国は対イラン攻撃に関してはロシアの協力は求めないという事です。アフガニスタン攻撃では中央アジアの軍基地を借りているのですから、プーチン提案を蹴ったブッシュ大統領は、イランを攻撃する場合はペルシア湾とイラク領内からの進撃を予定していると白状したようなものです。


ロシアの軍事シンクタンク「政治・軍事分析研究所」のフラムチーヒン研究員は9日までに時事通信とのインタビューに応じ、米ミサイル防衛(MD)配備問題でプーチン・ロシア大統領がアゼルバイジャンのロシア軍レーダー基地の共同利用を提案したことについて、同基地の情報を迎撃ミサイルの誘導に使うのは技術上困難で、対立解消の決め手にはならないとの見方を示した。
6月9日 時事通信

■素人には理解不能の「技術上困難」という理由を出されると、反論のしようが有りませんし、どんな質問をしようとも「軍事機密」の一言で回答は拒否されてしまいますから、困りますなあ。まあ、素直に「ロシア製のレーダーはボロだから使えない」という意味にとっておきましょうか……。


…ハイリゲンダム・サミットに出席中の安倍晋三首相は7日夕(日本時間8日未明)、ロシアのプーチン大統領と個別に会談し、北方領土問題の解決に向けて「精力的に交渉を続ける」との方針で一致した。両首脳の会談は、昨年11月以来で2回目。安倍首相は会談で、「領土問題を先送りしたり、棚上げしたりしないで、最終的に解決しなければならない。交渉を促進しよう」と述べた。これに対し、大統領は「日露両国間の障害となるものをすべて取り除きたい。平和条約交渉のプロセスを停滞させず、促進させるよう改めて指示を出したい」と応じた。

■父の晋太郎外相が良いところまで進めていたロシアとの総合的な領土交渉は、妙な人気を博していた田中真紀子元外相によってメチャクチャにされてしまったので、マイナス地点から再開しなければなりません。北朝鮮の金正男取り逃がしと言い、ロシア交渉の破壊と言い、真紀子外相の破壊力は凄まじいものがありましたが、御本人はまったく反省をしていないようです。役人イジメと外交破壊は別問題なのですが、面倒な話が大嫌いな真紀子ファンの目には同じものに映っていたようですなあ。


また、両首脳は政治対話をさらに深めるため、9月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の際に首脳会談……、今年秋までにナルイシキン副首相、年内にラブロフ外相が訪日することで合意した。……ロシアの極東・東シベリア地域の安定的な発展に協力するため、エネルギーや運輸、情報通信、環境などの分野で政府・民間の協力を進めるための「日露間協力強化に関するイニシアチブ」を提案。大統領は「非常に魅力的で建設的な提案だ。専門家レベルで具体化させるべく関係当局に指示を出したい」と理解を示した。
6月9日 産経新聞

■樺太の原油と天然ガス開発でエグい事をして見せたロシアですから、あまり前のめりになるのは考え物ですが、いろいろと協力してもらう用事も多いので、上手に付き合って欲しいものです。でも、安倍首相の任期と人気が心配ですなあ。相手は法律を超える強権を振り回せる立ち場なのですが……。


ハイリゲンダム・サミット直前まで米欧への挑発的な発言を繰り返したプーチン露大統領は、サミット入りするとそれまでの強面を一変させた。7日の米露首脳会談に先立つ全体会合ではにこやかな表情で議長のメルケル独首相やサルコジ仏大統領らと会談、米露首脳会談でも、余裕の表情をのぞかせた。……ロシアの民主化後退や、米国が東欧への配備を計画するミサイル防衛(MD)システムをめぐり、両国関係が冷戦後最悪の状態といえる中で開かれた。

■本番の幕が開く前には強面(こわもて)で、そして佐々木小次郎を待たせた宮本武蔵みたいに遅れて到着、物騒な発言で胆を潰して待ち構える参加者を安心させるように振舞う。これくらいのパフォーマンスを仕掛けておけば、何処かの首相みたいに地元新聞に顔写真を間違えられたりはしませんし、肝腎の「環境問題」に関して無責任な態度を貫いても、「核戦争よりはましだ」と皆に思わせてしまえますなあ。

ロシア流サミット 其の弐

2007-06-11 13:50:48 | 外交・世界情勢全般

また、南部アストラハニ州ズナメンスクでは同日、移動式のミサイル発射装置「イスカンデル」から、同じく新型の巡航ミサイルの発射実験が行われ、3つの標的の破壊に成功した。RS24の配備は、米国への直接攻撃を可能とし、MD導入でも核のバランスが保たれる。巡航ミサイルの配備は、東欧などロシアの国境近くに設置されるMD施設の破壊が可能となる。

■スーダンやアフガニスタンで派手に巡航ミサイルの大盤振る舞いをして見せたのは米国でしたが、ロシアは米国の先制攻撃を批判しながら、しっかりと対抗兵器を開発しているというわけです。東欧に米国がミサイル基地を次々と設置しようとするのを、口先だけで非難しているのではなく、いつでも各個撃破が可能だと見せ付ける。外交とはそういうものです。


ロシアのプーチン大統領は、実験が行われた29日、MDの東欧配備計画について「欧州を火薬庫に変える」と述べ、軍拡競争を誘発する危険があると警告。MDの欧州配備が「欧州の安全保障と国際関係全体に不必要な危険をもたらす」と強調した。

■歴史的なマルタ会議の後、米国との軍拡競争に引き摺られて巨大な軍事費に押し潰され自壊したソ連でしたが、兵士に配る給料が無くても核兵器だけは腐るほど持っているのですから、これを有効活用しない手は有りません。米国は「イランの脅威」を言い立てますが、長距離ミサイルが完成するのはずっと先のことですし、核兵器の開発は勝手な事を言ってごねているものの「平和利用」の範囲内に留まっていそうです。今にも核弾頭付きの長距離ミサイルが雨のように降り注ぐぞ!と言いたげな米国は、ロシアでなくても目障りであります。


一方、……モルドバを訪問したリトアニアのオレカス国防相は30日、首都キシニョフで「わが国にMDシステムは必要だ。数年後に不安定な国々からミサイル攻撃を受ける脅威があり、抑止しなければならない」と述べ、MD導入を今後進めていく姿勢を示した。

■「不安定な国」とは何処でしょう?「数年後」とは何を根拠に算出した時間なのでしょう?バルト三国のリトアニアの国防省が、真っ直ぐ南に下ったモルドバまで出向いて、こんな発言をしますと、バルト海から黒海へと目に見えない対ロシア包囲網が広がっているような気がして来ます。ルーマニアとウクライナに挟まれ、ドニエストル川とドナウ川の支流プルト川の中に位置するモルドバの地図を見ていますと、要衝のオデッサからウクライナの領土が南側に食い込んでいて、まるでクウェートとイラクの地図を見ているような錯覚に陥りますなあ。

■そのドニエストル川の東岸、南北に細長い土地に住み着いたロシア人達が「沿ドニエストル共和国」を建国して実にややこしい所です。因みに「モルドバ」という名前は土着のダキア語で、「たくさんの砦」という意味だそうで、何とも物騒な響きがありますなあ。


ロシアは、石油や天然ガスなど豊富なエネルギーと核兵器を背景に欧米への強硬姿勢を強めており、力の源泉の1つである核ミサイルを無力化するMD計画への反発は、今後も強まるものとみられる。国内向けにも、今年末に下院選、来春には大統領選を控える中で、実験成功のアピールは、ロシア批判に傾く欧米への強硬姿勢として歓迎され、選挙で功を奏するとみられている。
5月31日 産経新聞

■欧州に対しては圧倒的に有利なエネルギー供給国として振る舞い、国内の分離独立問題に関しては強大な力で捻じ伏せる姿勢を崩さないロシアは、紛れも無く日本の領土を占領したまま返さない隣国であります。そのロシアが、最新式の大陸間弾道弾を発射してから、ドイツに乗り込んで来たのでした。


米国のブッシュ大統領とロシアのプーチン大統領は7日、主要国首脳会議(ハイリゲンダム・サミット)が開催されている当地で会談した。プーチン大統領は、米国が欧州で計画しているミサイル防衛(MD)システムに関して、アゼルバイジャンにある既存のレーダー施設を活用する代替案を示した。……「そうなれば、ロシアはミサイルの照準を(欧州の標的に)再び合わせる必要がなくなり、協調の基盤を築くことが可能」と述べた。

■ロシア側の言い分としては、「東欧のMDシステムの標的がロシアではなくイランに限定されているのなら…」という前提を押し付けて、米国の本音を読み取ろうとしたと思われます。カスピ海沿岸のイランと国境を接するアゼルバイジャンという、実に分かり易い地名を出して「標的はイランなんだろう?」と念を押しているわけです。

ロシア流サミット 其の壱

2007-06-11 13:50:17 | 外交・世界情勢全般
■ハイリゲンダム・サミットの本当の主役はロシアだったのではないか?と考えると、米ロ両国に挟まれている欧州勢力の凋落がくっきりと見えて来るような気がします。環境問題を中心に話し合われたドイツでのサミットでしたが、敢えて環境問題を切り離してサミット前後のロシアの動きを追ってみる必要が有るような思いに駆られました。

ロシアは5月29日、開発中の多弾頭型大陸間弾道ミサイル(ICBMM)など2種類の新型ミサイル発射実験を行い、いずれも成功したと発表した。米国が推進するミサイル防衛(MD)システムへの対抗姿勢を鮮明にした形だが、30日にはバルト諸国のリトアニアも、MDシステム導入の意向を表明、同システムをめぐる軋轢がさらに強まる恐れが出てきた。

■ソ連崩壊の混乱がそれなりに終息しつつあるロシアは、国内経済が合法的にマフィア化し、軍事費にも多少の余裕が出て来ているようで、何よりも大統領が昔取った杵柄の諜報機関を縦横に動かす裏側と、メディアを完全に掌握して子供世代を洗脳して集団化する表の動きとが見事に一体化して機能しているようです。こうして国内の締め付けが順調に進めば、対外的にも伝統的な感覚が戻って来るのも不思議ではありません。西からは欧州の先進文化が、絶え間なく自分達を野蛮な存在だと思い知らせるという文化的な圧力が有り、南からはイスラム勢力の浸透が続きますし、東からは最も恐ろしい蒙古・支那の潜在的な人口圧力が、波状的に押し寄せて来る。それを迂回してシベリアを東進すれば日本と衝突する。こうした歴史的な体験から学んだ恐怖の世界観は、国連だの米国や欧州との外交交渉などで簡単に消え去るようなものではありません。

■昔から、西の欧州に対しては決して牙を剥かないのがロシア流で、その反動というわけでもないでしょうが、蒙古とトルコに対して発揮した執念深い攻撃性は凄まじく、この二面性がロシアの特長とも言えそうです。東に向かったロシアの矛先に立ち塞がったのが日本で、海でも丘でも強硬に抵抗して見せたものです。従って、日本が軍事的に復活するのはロシアにとっては最も望まぬ悪夢というわけです。


ロシア軍は29日、北部プレセツク基地から「RS24」の最初の発射実験を実施、ミサイルは極東カムチャツカ半島の標的に命中した。RS24は、これまでのRS18(欧米での名称はSS19)、RS20(同SS18)に代わる次世代の多弾頭型ICBMで、米国が中心となり推進するMD網を突破する能力を持つとされる。

■この5月末の段階で、既に米ロと日ロの首脳会談がセットされていたはずですから、両方の国の鼻先に最新式の大陸間弾道弾を地平線の彼方から撃ち込んで見せたというわけです。北朝鮮が線香花火かネズミ花火みたいな小型ミサイルの発射実験をしたとニュース速報を出して騒ぐくせに、日本のマスコミはこの大実験に無反応だったのは不思議な話でしたなあ。このミサイルには10発の核弾頭が搭載されていると言われているので、本物が飛んで来たら日米が協力しても撃墜は不可能とも推測されている代物で、噂によりますと「トーポリM」米軍コードでは「SS25」という後継機種も開発済みで、こちらは単弾頭ながら積載量は1トン!という化け物サイズだそうです。核開発競争で米国に遅れを取った旧ソ連が、メガトン級のモンスター兵器を炸裂させたことを思い出しますなあ。

■大きな物が大好きなロシア人ですが、軍事面だけはIT化が進んで「量より質」への転換が起こっているとか……。米ソ間でまとまった核軍縮交渉で廃棄された中距離ミサイルの再配備も決定しているとかで、100年後の人類滅亡を「環境問題」で考えると同時に、来年を心配する軍縮交渉も進めねばならない事になりそうですなあ。

恥を忍んで…

2007-06-11 08:44:30 | 政治
■威嚇できず・発砲できず・突入できず。各警察署のエリートを召集して過酷な訓練を施し、通常の警察官では手に余る凶悪事件が起こった時には「風」のように現れて、「林」の木霊(こだま)のような声で犯人を説得し、「火」のような非難を全国から浴びても、「山」のように動かない案山子部隊、それを日本では特殊部隊と呼びます。勿論、隊員の士気と能力は世界に出しても遜色の無いものだそうですが、秀才官僚が頭脳となって彼らに指示を出すからこそ、世にも珍しく、海外からやって来る犯罪集団が思わずニンマリしてしまうような弱腰部隊になってしまっているだけなのですが……。

愛知県長久手町の立てこもり事件で、県警警備部機動隊所属の特殊部隊SAT隊員が殉職したことを受け、警察庁は11日までに、全国8都道府県警に配置されたSATが現場に出動する際、隊員の態勢などについて現地で本部長に助言したり、刑事部や本庁との連絡調整をしたりする専門チームの設置を決めた。SATの効果的な運用と受傷事故の防止が目的で、週内にも発足する

■役人の仕事はこうしたものでしょう。長久手の包囲作戦は大失敗でしたが、誰も責任を問われず、世間からの非難に対しては殉職した隊員が徹底的に利用されて遺族が楯に使われてしまったのも、組織防衛と上層部の地位保全が何よりも優先される日本の官僚機構ならでは風景でした。国民が忘れた頃に、「誰も悪くなかった」アリバイ工作が姑息に行われるのでした。


チームは「3S」(SAT・サポート・スタッフ、仮称)で、警察庁のほか、警視庁、大阪府警のSAT経験者、現役隊員ら10人程度で構成。SATが出動した際、このうち2、3人が現地に赴き、警察本部や現場の指揮所などでSATの態勢や活用方法について助言するほか、刑事部との連携、本庁警備局などとの連絡調整を支援する。 
6月11日 時事通信


■よく読まないと、まるで日本の特殊部隊は幼児用自転車みたいに「補助輪付き」でないと走れないようなヘッポコ組織だと思ってしまいそうな記事ですなあ。指揮・監督・助言が必要なのは最前線で命を懸けている隊員ではなく、弾が飛んで来ない場所でもじもじしているだけの阿呆な指揮官だけです。長久手事件の後始末として、無能さを曝け出した指揮官を更迭するなり、厳重な処分をする方が、全国の特殊部隊の隊員や警察官の士気も高まるでしょう。当然、阿呆な指揮官のお蔭で恥を晒し命まで落とす怒りと無念さと悲しみも、少しや癒えるというものです。誰も責任を取らずにシステムや法規や設備の不備や不足を言い立てて、新たな予算を分捕って責任は一切取らないというのは、警察も社保庁も変わりは有りませんなあ。


愛知県長久手町の立てこもり事件で警備部機動隊の特殊部隊(SAT)と刑事部捜査1課特殊班の連携の在り方が課題となったのを受け、警察庁は5日、全国警察本部の本部長を集め、警視庁のSATと特殊班SITの合同訓練をした。

■「何を今さら!」と顰蹙を買うのは承知の上なのでしょうが、実に恥ずかしい話です。治安維持の最後の切り札、伝家の宝刀、秘密兵器……その切れ味と性能と士気には何の問題も無く、指揮命令系統が未整理で、実弾が飛び交い、負傷者が横たわり、人質を取られている現場を目の前にしながら、阿呆たちは「縄張り争い」と「責任の押し付け合い」をしていた事が判明しています。記事に有るような「部隊の連携」などはまったく問題ではなく、「(有能な)指揮官の不在」と実戦をまったく想定しないで隊員に厳しい訓練を強いていた警察の上層部の能天気さが問題でしょう。攻撃出来ない特殊部隊の存在が世界に喧伝されたのですから、これを完全に打ち消すには莫大なコストがかかりますぞ!


全国警察本部長への合同訓練の公開は初めて。警察庁は、全国の警察トップにSAT、SITの技能や効果的な運用方法に関する理解を深めてもらい、実践的な訓練や事件対応に生かしてほしいとしている。訓練は東京都内の警視庁の専用施設で実施し、本部長約40人が参加した。人質立てこもり事件で、犯人が警察官に向かって銃撃したり、建物から出てきたりするシナリオに基づき、SATとSITが閃光(せんこう)弾や特殊拳銃を使った突入、ライフルでの狙撃などを役割分担して訓練した。 
6月5日 時事通信

■この合同訓練の目的がウソでないのなら、これまでは特殊部隊の「効果的な運用方法」をまったく理解していない「本部長」が全国の警察署の指揮を執っていたことになります。これは市民が治安のプロだとばかり信じ込んでいた公務員が、単なる「素人」だった事を認めてしまったことになりますぞ。今の段階で「訓練」をしているという事の重大性を、世界中から過激な連中が集まって暴れていたドイツから帰国した安倍総理はどう考えているのでしょう?たとえ、来年の洞爺湖サミットの頃には総理ではないとしても……。

-------------------------------------------
■こちらのブログもよろしく
雲来末・風来末(うんらいまつふうらいまつ) テツガク的旅行記
五劫の切れ端(ごこうのきれはし)仏教の支流と源流のつまみ食い

チベット語になった『坊っちゃん』―中国・青海省 草原に播かれた日本語の種

山と溪谷社

このアイテムの詳細を見る

------------------------------------------
チベット語になった『坊っちゃん』書評や関連記事