旅限無(りょげむ)

歴史・外交・政治・書評・日記・映画

パイプラインを考える 其の四

2006-08-30 19:09:48 | 外交・世界情勢全般
■日本の財界からの圧力が有ったのでしょうが、石油に対抗して原子力発電を売り込もうと言うのは如何なものでしょう?日本はますますプルトニウム型原爆の材料が貯まる一方で、当初の計画だった核燃料サイクルも頓挫したままなのに、カザフスタンのウラン鉱山開発を助けてあげるとどんなメリットが有るのでしょう?ウラン資源は安定供給されている現状で、運び出しにリスクが有るカザフスタンがウラン鉱石をじゃんじゃん掘り出したら、何処に売り飛ばすか分かったものでは有りませんぞ!

ロシア政府は23日までに、先に閣議決定した北方領土を含む千島列島総合開発のための「クリール(千島)諸島社会経済発展計画(2007~15年)」の全文を公表した。同計画は千島海域の海洋資源保護を重視し、「経済犯罪を摘発する法執行機関に追加的な財政・技術的手段を提供する」と述べ、国境警備隊を拡充する方針を打ち出した。計画の全容が判明したのは初めて。

■日本にとっては「蟹食べ放題」の問題でしか注目されないような北方領土ですが、ロシアにとっては広大なパイプ・ライン設置計画にがっちりと組み込まれているのです。これでは喧嘩にもなりませんなあ。


計画は、法執行機関の強化が「この地域最大級の問題である密漁の解決につながる」としている。北海道根室市の漁船を銃撃・拿捕(だほ)した国境警備隊の武力や権限が拡大され、日本漁船摘発が進む可能性がある。財政支援は連邦機関が負担する。全文120ページの計画は、03年に千島中部の大陸棚で実施した資源探査で、有望な石油・天然ガス鉱脈が確認されたことを明らかにし、「近くクリール北部・南部でも石油・ガスの調査が計画されている」と指摘。北方領土周辺で石油・ガス探査に乗り出す方針を明らかにした。 
時事通信  8月23日

■貝殻島付近で銃撃・拿捕事件が起こったのは8月16日未明でした。外交交渉が暗礁に乗り上げてしまった上にロシアに遠慮して自主規制と称してどんどん北方領土から遠ざかっていた日本ですから、パイプ・ラインが敷設でもされたらニッチもサッチも行かなくなるでしょう。国後・択捉辺りに大油田でも発見されたら、外務省は国中から袋叩きに遭うでしょうなあ。世界がパイプ・ラインで結ばれてまったく新しい様相を呈しているのに、日本は何も手が打てない実情が浮き彫りになります。中央アジアやアフリカ諸国に大使館や総領事館を置こうと外務省は、ポスト小泉の麻生外相にアドバルーンを上げさせているようですが、これまでの在外公館がろくな情報収集もせず、邦人保護も等閑(なおざり)にしていた実情から考えて、数ばかり増やしても役人のポストが増えるだけで日本の外交能力が向上するとも思えません。とても憲法9条を保障する予防外交を展開する可能性は無いでしょうなあ。外交も小泉改革の延長線上で「民営化」するしかないようです。

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パイプラインを考える 其の参

2006-08-30 19:09:16 | 外交・世界情勢全般


中国大手石油会社、中国海洋石油(CNOOC)<0883.HK>は、東シナ海の日中中間線付近で開発を進めていた白樺(中国名・春暁)ガス田で生産を開始した。同社の親会社、中国海洋石油総公司がウェブサイト(www.cnooc.com.cn)で明らかにした。同サイトによると、現地を視察した張国宝・国家発展改革委員会副主任は「春暁はすでに完全に生産段階に入った」と表明。「下流部門のユーザーが不足しているため、開発ペースが制限される」とし、CNOCCにガスの販売先の確保を求めた。同社は、春暁の生産を今年前半に開始すると表明していたが、これまで、この問題に関するコメントは避けていた。
ロイター 8月5日

■二酸化炭素の排出量やエネルギー効率の良さから、21世紀最大の価値を持つとも言われる天然ガスですが、日本は船で輸入するしか方法は無いものの各分野での利用方法が確立しているとも言われていますなあ。チャイナはまだ質の悪い石炭をもうもうと煙を吐き出しながら使っている段階ですから、天然ガスの需要はまだまだ少ないというわけです。しかし、最終的には経済成長が続けば天然ガスの利用技術が普及するのは当然と踏んで、日本が昼寝している間に当面は必要の無いガス田をせっせと手に入れているというわけですなあ。贅沢な話です。その内、日本の方から領土問題を棚上げして、「共同開発」の話を持ち掛けて来るのを待っているのでしょうが、それまでには独占生産体制が整って、平然と「買え!」と言う事でしょう。


英国系メジャー(国際石油資本)BPのプルドーベイ油田(アラスカ州)がパイプラインの腐食で操業停止になった問題で、ホワイトハウスのスノー報道官は8日の会見で、サウジアラビアとメキシコ政府が米国の供給不足の補充に応じる考えを表明していることを明らかにした。ただし、現時点で深刻な供給不安に陥る可能性はないとの認識も示した。油田操業停止問題でサウジアラビア、メキシコ両政府と連絡を取った結果、「もし米国に供給不足が生じれば、われわれを助けることに同意してくれた」という。また、ボドマン・米エネルギー長官は同日の記者会見で、同油田の全面的な操業停止は必要ないとの見方を示した。アラスカから大量の供給を受ける米西海岸への影響が懸念されているが代替供給も確保できるという。しかし、エネルギー省では同油田の操業再開は来年1月までかかるという見通しを示している。
フジサンケイ ビジネスアイ 8月10日

■マネー・ゲームに熱中している間に、あちこちで米国のインフラの不足や老朽化が顕著になっているようです。利益最優先で抽象的な経済取引を楽しんでいる間に、具体的な製油所やパイプラインに支障が出て経済の基盤となる国民生活が不安定になっている米国は、ハリケーン対策とイラク派兵との両立が出来ずに立ち往生するような国になっています。中南米にの産油国は続々と反米姿勢を示しているのですから、イラクが片付いたらそちらで「石油のための戦争」を始めるのでしょうなあ。でも、イラクが終わらぬ内にイランが米国の足元を見て強硬姿勢を取り出しているのですから、ベネズエラから燃え広がっている反米産油国の連携は野放し状態が続く事でしょう。


ロシアのガスプロムネフチは、近く中央アジア3カ国に代表事務所を開設し、中国とアフガニスタンの石油市場への進出を図る計画だ。新華社が報じた。 キルギス政府が10日発表したプレスコミュニケによると、ガスプロムネフチのアジア子会社のアビルダエフ社長は同国バキエフ大統領との会談で、カザフスタン、タジキスタン、ウズベキスタンの3カ国に代表事務所を開設し、同社の石油採掘・加工事業を中央アジア全体に拡大する計画を明かした。アビルダエフ社長は、この戦略により同社の中国・アフガニスタン向け石油販売業務の展開が非常に有利になるとしている。同社は現在、キルギス国内で約100カ所のガソリンスタンドを経営している。
人民網日本語版 2006年8月11日

■米英両国がタリバーンの残党狩りをしているアフガニスタンで、しっかり商売を始めるロシアは高みの見物です。「上海機構」は最初は貧乏国家が集まって傷の舐め合いをするだけかと思われていたのに、どうしてどうして、合同軍事演習を実施してNATOばりの軍事同盟組織になろうとしている所を見せたかと思えば、今度はEUの前身だった「石炭共同体」のような経済共同体の構築に着手しているかのようです。蜘蛛の巣のようにパイプ・ラインが国境を越え、各国の主要地域を結び付けて運命共同体を生み出すつもりなのでしょうなあ。組織の結束を固めるには内外価格差を大きくして見せれば良いのですから、最悪の場合、日本は馬鹿高い石油と天然ガスを売り付けられることになるのかも知れませんなあ。


政府は16日、ウランの安定供給を図るため、カザフスタンとの協力強化に乗り出す方針を固めた。今月下旬に同国を訪問する小泉首相がナザルバエフ大統領との会談で、ODAによるウラン鉱山開発への技術協力を表明する。石油に依存するエネルギー政策転換を図るとともに、資源外交を展開する中露に対抗する狙いもある。
毎日新聞 8月16日

パイプラインを考える 其の弐

2006-08-30 19:08:35 | 外交・世界情勢全般
■カザフスタンも北京政府も、自国内でのイスラム過激派を押さえ込みたい思惑で一致し、ロシアが米国に同調して「対テロ戦争」を正当化する姿勢とも連動しています。この無人の沙漠を通るパイプ・ラインがテロの標的になるかならないか、世界を混乱させるには絶好の攻撃目標です。カザフスタン国境を越えたらすぐに爆弾騒ぎが続くウイグル自治区ですから、人民解放軍が必死で守るのでしょうなあ。

…日中間で激しい綱引きが続いている東シベリア原油パイプラインでも、中国が優位に立った。29日付の新華社によると、ロシア国営パイプライン会社・トランスネフチのワインシュトク社長は28日、東シベリア原油パイプラインの第一期工事をロシア政府の要求通り完成させることが可能であることを強調した上で、中国への支線接続に速やかに着手することを表明した。事実上、中国への支線接続を最優先する意向を示したものと考えられる。

■日本に対する嫌がらせと交渉条件を有利に導く作戦かと思っていたら、羽振りの良いプーチン政権は本気で日本を切り捨てる腹を固めたとも言われているます。日ロ間に信頼が生まれていないのですから、パイプラインの建設だけやらされて、完成したらポイと捨てられたら堪りませんが、シベリアは日本にとって最も近くに眠る巨大な地下資源の宝庫ですから、神業並みの外交手腕が必要なのですが……。


6日付の産権導刊はこうしたカザフスタンやロシアとの資源エネルギー分野における接近はマラッカ海峡における有事に対処するためと分析している。また同誌は、中国が進めているミャンマーやパキスタンとの協力や外国の石油企業の買収などもマラッカ海峡における有事を回避するための動きとして紹介している。
以上、サーチナ・中国情報局 - 7月31日

■「マラッカ海峡」は台湾有事となったら米国が世界の警察官として最初に確保しようとする重要な場所ですから、まだそれに対抗する海軍力を持っていない人民解放軍にとってはマラッカ海峡の奪い合いが戦局を左右するようなことになっては困る訳ですなあ。北京政府は着々と地球儀をぐるぐる回しながら、最速にして最大の効果の上がる外交戦略を展開しているということでしょう。とても日本には真似出来ない動きです。残念ながら……。


中国とアフリカ中央部のチャド共和国は6日、北京で「中国・チャドの国交回復に関する共同声明」を発表し、国交樹立を宣言した。同日付で中国新聞社が伝えた。声明の内容は「中華人民共和国とチャド共和国は両国国民の利益と願いによって06年8月6日から大使級の外交関係を取り戻す」「平等な立場から互いの国の大使館建設と業務履行に便宜を与える」といったもの。チャドはアフリカ中央部の内陸国で1960年にフランスから独立。97年8月から台湾と国交を交わし、中国との外交関係は断絶していた。……原油生産で同国南部には埋蔵量10億バレルの石油資源が存在するといわれる。03年には、同国南部ドーバから隣国カメルーンのクリビ港に至る全長1070キロメートルの石油パイプラインが世界銀行の融資によって完成し、稼動を開始。日量10万バレルの石油の商業生産を開始しており、今後25年間にわたって年間20億ドルの石油収入が見込まれている。中国は近年、資源確保のためのアフリカ外交を積極的に展開しており、今回の国交樹立もこの流れの一環とみられる。台湾政府はこれに伴い、チャドと断行することを発表した。台湾と外交関係のある国はこれで24カ国となった。
サーチナ・中国情報局 - 8月7日

■因みに日本の外務省はチャドに在外公館を持っていません。カメルーンの日本大使館が日本の3.4倍の面積を持つ、この巨大な産油国を管轄しているのだそうです。リビアの軍事的介入やスーダンからの難民流入で内政は不安定とは言いながら、そんな国だからこそ海外からの援助や友好関係の申し出には飛びついて来るとの北京政府の読みは迫力が有ります。同時に台湾を孤立化させる戦略にも有効なのですから、相当なリスクを覚悟で友好関係を維持するつもりなのでしょう。

パイプラインを考える 其の壱

2006-08-30 19:08:00 | 外交・世界情勢全般
■産油国でもない島国の日本にって、原油は遠い砂漠から海を越えて渡って来る物で、価格や分量も相手任せの他力本願になってしまいがちです。何とか2回の石油危機を乗り越えて、エネルギー効率を世界一に高めた成功体験を持っている人が国内の各界で重責を担っているからでしょうか、このまま何とかなるだろう、と多くの人が考えているのかも知れませんが、世界は熾烈なパイプ・ラインの争奪戦を繰り広げています。

業界関係者によると、イラク北部のトルコ向け原油パイプラインが攻撃を受け、輸出再開がさらに遅れる見通しとなっている。ある海運業者はロイターに「きのう再度爆撃を受けた」と述べた。パイプラインは、トルコのジェイハン港向けのもの。別の関係者もパイプラインが破壊活動を受けたと述べたが、詳細は不明だという。あるイラク石油省高官は、パイプラインのメンテナンス作業にはさらに時間が必要となる、と述べた。
ロイター - 8月1日

■NATO加盟国でEUにも参加したいと熱心に運動しているトルコは、中央アジアやカスピ海沿岸の原油を積み出す場所として唯一政治的にも安定しているイスラム国という地位を占めています。欧州諸国から信頼されれば、イスラム諸国から恨みを買う事にもなりますから、何とも危ない綱渡りを続けねばならないのが辛いところです。パイプ・ラインへの破壊活動は、小規模なものを含めると日常茶飯事に起きているようで、この8月1日のニュースのように大きく取り上げられる事は稀です。イラクの復興が大幅に遅れているのも、唯一の資金源になるはずの原油の輸出が予定通りに進まない事に大きな原因が有ると言われています。戦争で破壊された所を修理し、また壊されては修理している欧米の石油会社は、危険手当が付く高収入の仕事がいつまでも続くので密かに喜んでいる節が有りますが、予想を下回るイラク原油の積み出し量が市場に品薄感を広めて、取引価格が天井知らずに暴騰すれば、これまた石油会社の利益を積み増してくれるわけですなあ。

■露骨に表面化はしませんが、全世界が原油価格の暴騰で大儲けしている者と原材料費・燃料価格の高騰に四苦八苦している者とに二分割されています。日本のように、ほぼ全ての生産物の価格上昇を引き起こす原油高を利用して、あれこれと数値を並べて「景気回復」の証拠だ!と力んでいる国は珍しいのではないでしょうか?政府の中には深刻なエネルギー危機に対応しようとする動きも有って、小泉首相が取る物も取り合えず中央アジアに出掛けて行ったのも、東に伸びるパイプ・ラインに日本が食い込もうという算段なのでしょう。しかし、積み出し作業をする肝腎な国々との外交関係が気まずくなっていては、内陸で「友好親善」をぶち上げても何の役にも立たないような気がしますなあ。まして訪問国は「上海機構」加盟国となれば、北京政府とロシア政府の頭越しに交渉など絶対に出来ませんぞ。

■ロシアもチャイナも日本が何だかんだと「掴み金」をくれるなら、貰っておけば?ぐらいに眺めているのかも知れませんなあ。


中国が周辺地域からパイプラインを使った原油輸入を加速させている。カザフスタンから新疆ウイグル自治区に向けた原油パイプラインの全面運転が29日、開始した。一方、日中間で激しい綱引きが続いている東シベリア原油パイプラインの接続問題で、ロシアは中国への接続を最優先する意向を示した。(7月)31日付で新華社などが伝えた。

小泉首相の卒業旅行と茶化せない一種の緊迫感が漂っている今回の中央アジア歴訪は、こうした動きに衝撃を受けた外務省が急遽決めたものではないでしょうか?間に合えば良いのですが……。


…カザフスタンからパイプラインで輸入された原油は29日17時(現地時間)、新疆ウイグル自治区にある終着点の独山子石化公司製油所に到達し、全線で商用運転が始まった。同パイプラインの始点はカザフスタンのアタスで、終点は新疆ウイグル自治区の阿拉山口。全長は962.2キロメートルで、毎年輸送される原油は2000万トン。パイプラインの建設費用は7億ドル。建設工事は2004年9月に始まり、05年11月に完成した。阿拉山口と独山子を結ぶ246キロメートルは中国石油天然気(ペトロチャイナ)が完成させた。両国の資源エネルギー分野での協力は97年から開始。両国政府が天然ガスの分野における協力を盛り込んだ協定を締結し、カザフスタン西部と中国の新疆ウイグル自治区を結ぶ原油パイプラインを建設することも提起された。