【林道に入ると、英さんは雨に濡れた地面に目を移した。何故?】
【私は単なる道と思った。しかし彼は動物の足跡を見つけたのだ。】
人が仕事をしている昼間、
動物の姿を見ることは皆無である。
しかし、彼は夜に活動する
動物の足跡を見逃さなかった。
鹿の足跡である。この季節、
鹿は夜、「ピーピー」と恋い啼きするそうである。
鹿は岩煙草を食する。
イノシシは豊かな土壌に姿を現すという。
この辺りには天然記念物のヤマネも生息していると言う。
夜は、ムササビが出現するらしい。
豊かな森である証拠なのだ。
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ヤマネは「紀州ヤマネ」。
ムササビは「和歌山ムササビ」と呼ぶ。
和歌山。特に龍神は北に住む動物と、
南に住む動物が
混在して暮らしていると言う。
豊かな山の証拠である。
紀州・木の国と謂う所以である。
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【この山肌は先の大戦で強制伐採。戦後植えられた杉である。】
豊かな自然も政治の力で破壊されたのだ。
しかし人々は再び、森の再生を始めた。
そして今、再び、豊かな森を取り戻した。
【このスポットが100年の森。下草を刈って、間伐した所である。】
しかし、見てください。↑。
所々にサカキが残されていますよね。
山の持ち主は自分のことだけを考えず、
自生した、サカキを残したのだ。
理由は、村の人にこのサカキを還元して、
村の人の収入源にしたのだ。
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さらに、尾根伝いの枯れた杉を
2本そのまま残したのである。
理由は、村の皆に話さなかったようだが、
枯れた杉の穴に住む、ムササビの
生活を乱したくないという配慮なのだ。
森の生態系を崩さないようにとの心配りだ。
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これは、意図したことでは無く
林業を生業とする人々の当然の行為である。
植物・動物、そして人間が共存している
この土地では当たり前のことなのだ。
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【林道を過ぎた所に、作業道を作っている。凄い勾配である。】
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これも、山と人間の折り合いをつけるための成せる業なのだ。
本来の森を守る人達は、命ぎりぎりで山を守っているのだ。
だからこそ、龍神に限らず、山を生業とする人々は今を生きる。
生命の大切さ。生命を次の時代に
リレーしようと努力しているのだ。
龍神では、誰が教えるのでも無く
若者は、森に入る前には必ず
樹々に神酒を供え、昔ながらの
儀式を済ませてから
山に入るそうである。
これこそ、次の世代へ
生命のリレーをしている姿だと思い知ったのである。
だからこそ、生命のリレーは
本当に、尊いのである。
【龍神温泉は美肌効果の高い泉質で日本三美人の湯の一つだ。】
何か、凄い神聖な気持ちになった私だが、散策が終わり
宿に戻ると、すぐ温泉に浸かったのである。
考えてみると温泉も自然だ。
温泉は、地球からの贈り物であり
地球の履歴書であると思うのだ。
今を生きる人へのプレゼントだ。
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そして今は、食欲の秋。
私達の口に入る、魚や肉、野菜に
感謝しながら、秋の夜も深けたのである。
生命の共存。生命のリレー。
私達が今、生きている証なんだよね。