●宇宙探査●月と火星を第2の地球に!―SPE―         科学技術研究者   勝 未来

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●宇宙探査<ブックレビュー>●「宇宙に外側はあるか」(松原隆彦著/光文社)

2014-04-28 20:13:15 | ●宇宙探査<ブックレビュー>●

書名:宇宙に外側はあるか

著者:松原隆彦

発行所:光文社(光文社新書)

目次:第1章 初期の宇宙はどこまで解明されているか
    第2章 宇宙の始まりに何が起きたのか
    第3章 宇宙の形はどうなっているのだろうか
    第4章 宇宙を満たす未知なるものと宇宙の未来
    第5章 宇宙に外側はあるか

 宇宙の始まりは何時か?ビックバンが起こった137億年前というのがこれまでの定説であった。これは2003年に米航空宇宙局(NASA)のWMAP探査機による宇宙背景放射の観測をもとにしたもの。しかし、2013年3月に欧州宇宙機関(ESA)は、宇宙の始まりは、これより1億年前の138億年という数字を明らかにした。ESAでは2009年に打ち上げた宇宙望遠鏡「プランク」により15カ月間にわたりマイクロ波を調べ、観測可能な最も初期の宇宙図を作製し、これにより導き出された数字であるという。数字が137から138に変わっただけなので、訂正して一件落着ということになるのであろうが、我々の日常生活の感覚からすると、1億年という時間は、とてつもない時間の差であり、思わず「そういとも簡単に変えられては困る」とつい言いたくもなる。しかしこれは、現代という時代の宇宙観が、日進月歩のスピードで変化している証拠の一つとも言えるのであろう。

 それでは、今から138億年前にビックバンが起こったことは認めることとしよう。問題は、ビックバンが起こる以前と、138億年より先の宇宙はどうなっているのかである。ホーキング博士なら「ビックバンは神が起こさなくても、数学的に解明できる」ということにもなろうが、我々凡人にはビックバンが起こる以前がどうなっているのかを理解することは容易ではない。同時に、138億年かけて宇宙船に乗って宇宙の淵に到達し、窓から外を覗いたら何が見えるのか、という素朴な疑問も湧き上がって来る。今の宇宙論の常識では、どうも宇宙の外側は見えないらしい。それは、昔、人類は、水平線を見て、その先は海の水が滝のように流れ落ちていると信じていた。しかし、実際には違っていた。海を渡って行ってみるとぐるりと地球を一周して、また元の場所へと戻ってしまう、ということを体験したのだ。これと同じように、いくら人類が宇宙の外を見てみようとしても、宇宙をくるっと回ってもとの場所に戻ってくるだけだから、考えるのはおよしなさい、と。

 この書「宇宙に外側はあるか」(松原隆彦著/光文社<光文社新書>)は、以上に説明では、どうしても納得のいかない、一般の人が読む宇宙の研究書として最適な本だ。つまり、宇宙の専門知識はあまり持ち合わせていたくても、読み通すことが出来るのが、同書の特徴の一つに挙げることができる。著者の松原隆彦氏は、名古屋大学素粒子宇宙起源研究機構・准教授で、これまで東京大学大学院理学系研究科・助手、ジョンズホプキンス大学物理天文学科・研究員などを務めた第一線の研究者である。同書のプロローグで著者の松原隆彦氏は次のような疑問を投げかける。「宇宙はどうして始まったのか」「宇宙が始まる前は何だったのか、宇宙が始まる前の宇宙は宇宙でないのか」「宇宙に始まりがあるなら、宇宙に終わりはあるのか」「宇宙に終わりがあるとすると、宇宙の終わりの後には何があるのか。次の宇宙が始まるのか」「そもそも、始まったり終わったりするような宇宙はどこに存在するのか。この宇宙よりももっと大きな、何か、得体の知れないものの中にこの宇宙があるのか」。

 同書は、これらの疑問を一つ一つ解き明かす恰好な書籍ということができる。同時に、読み進むうちに、奇妙な感覚に捉われることも確かだ。例えば、最期の「第5章宇宙に外側はあるか」の終わりの方に、「マルチバースの世界」という項目が出て来る。「宇宙は英語で『ユニバース』です。ユニというのは『ひとつの』という意味なので、これを『多数の』という意味のマルチに変えた『マルチバース』という言葉が多宇宙を表します。マルチバースの中の一つの部分が私たちのユニバースです」。我々に宇宙のほかに、宇宙は沢山あって、我々の宇宙はその中の一つに過ぎないのではないかという、宇宙観である。もうこうなると、我々の宇宙の始まりが、137億年前から138億年前に訂正されたくらいの話はなんともなくなってくるから不思議だ。自分と同じ人間が別の宇宙に存在し、現在、生活をしているかもしれない、と考えると、何か、SFの世界に彷徨うようでもあり、奇妙な感覚に捉われる。地球はあと50億年もすると太陽に飲み込まれてしまうらしいが、それまでには宇宙の全容が解明されているいることを望むばかりである。(勝 未来)


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