●宇宙探査●月と火星を第2の地球に!―SPE―         科学技術研究者   勝 未来

                 ~各国は月と火星の探査計画を着々と実行に移している~   

●宇宙探査<ブックレビュー>●「宇宙はなぜこのような宇宙なのか」(青木 薫著/講談社)

2014-06-18 06:06:21 | ●宇宙探査<ブックレビュー>●

書名:宇宙はなぜこのような宇宙なのか~人間原理と宇宙論~

著者:青木 薫

発行:講談社(講談社現代新書)

目次:第1章 天の動きを人間はどう見てきたか
    第2章 天の全体像を人間はどう考えてきたか
    第3章 宇宙はなぜこのような宇宙なのか
    第4章 宇宙はわれわれの宇宙だけではない
    第5章 人間原理のひもランドスケープ
    終 章 グレーの階調の中の科学

 私が「宇宙はなぜこのような宇宙なのか~人間原理と宇宙論~」(青木 薫著/講談社)を購入した理由は、本のサブタイトルに“人間原理”という言葉を見つけたからだ。我々は、気が付いてみたら地球上で生活してわけで、現在の地球環境が当たり前だと感じる。それどころか、暑いだの、寒いだのと文句ばかりを言う。でもよく考えて見ると、人類は、地球の衛星の月でさえまだ定住生活の経験をしていない。というよりは、できないのである。空気がないし、ようやく最近になって水があるようだと分り始めたところだ。また、宇宙線から人体をどう守るかの問題もクリアーしなければならない。さらに、人間が定住生活をするための居住環境をどのようにつくり出すかも問題である。月面にある砂状の鉱物を固めてビルを建てればいい、という人もいるが、この方法でビルが建設できる保証があるわけでもない。日本のJAXAでは、月観測衛星「かぐや」によって、月面の様子を調べたが、この時に、洞窟らしき穴を見つけ出した。JAXAは、月面に下りたら、まずこの洞窟に逃げ込み、定住生活環境づくりの作戦本部とする計画だという。

 要するに、地球の直ぐ側の月でさえ、人類にとっては過酷な環境なのだ。ましてや火星で人類が生活するなんて、今のところ夢物語だ。確かに、火星旅行を企画している民間団体は存在しているが、火星に行くだけで、帰りのロケットは飛ばない。つまり、今火星旅行をしようとすると、一生を火星で過ごし、地球には帰還できない。というわけで、地球という環境は、何故にこうも人類にとって都合のいい環境にできているのか、大いなる疑問が湧く。たまたまなのか、あるいは、何か今までの常識を超えた、新しい基準が、この宇宙に隠されており、この基準でもって、我々人類は生かされているのであろうか。そう考えると“人間原理”という考え方に基づいた宇宙論は欠かせない考え方かもしれないと思い始める。その一方で、“人間原理”という言葉から連想するのは、地動説みたいな響きを伴っており、そう安易に受け入れるわけにはいかない、という気もする。

 ということで、勢い込んで「宇宙はなぜこのような宇宙なのか~人間原理と宇宙論~」(青木 薫著/講談社)を読み始めたのだが、“人間原理”に話に入る前に、第1章 天の動きを人間はどう見てきたか、第2章 天の全体像を人間はどう考えてきたか、の2つの章で人類がこれまで宇宙をどう認識してきたのか、が丁寧に解説される。この2章は、天文学の門外漢が読んでも理解できるので、大変参考になる。例えば、第1章 天の動きを人間はどう見てきたか、の中の「誤解されたコペルニクス」を読むと、我々のコペルニクスに関する知識は実に曖昧であることを痛感させられる。素人考えでは、「コペルニクスは、それまでの地動説をひっくり返して、天動説を打ち立てた」であるが、実は話はそう単純ではないことがこの書を読めば分ってくる。実は、コペルニクスは天球を信じていたというのだ。コペルニクスは、地球と太陽の役割を交換して、地球を運ぶ天球を「偉大な球」と呼び、その偉大な球の中心を、宇宙の中心としたという。詳しくは本書を読んでほしいが、漠然と考えていた過去の宇宙論が、この2章によって正確な知識として身に付けることができる。

 第3章 宇宙はなぜこのような宇宙なのか、になってようやく“人間原理”の本論に入る。その前に筆者は、前書きの冒頭で、「20世紀半ば、宇宙論の分野に『人間原理』というとんでもない考え方が登場した。とんでもないというのは、少しも大袈裟ではない。なにしろ人間原理は次のようなことを主張していたからである」。この人間原理の主張というのが、「宇宙がなぜこのような宇宙であるのかを理解するためには、我々人間が現に存在しているという事実を考慮に入れなければならない」。この議論を始めるとなると、何やら哲学的あるいは宗教的なニュアンスが感じ取れる。筆者も最初は、こんな“人間原理”の考え方を素直には認めることはできなかった、と告白している。著者の青木 薫氏は、京都大学の理学部を卒業したれっきとした科学者であり、これまで数多くの科学書の翻訳を手掛け、2007年度日本数学学会出版賞を受賞している科学書の翻訳のエキスパートである。因みにこの書は、同氏の最初の著作物という。そんな、著者も、今では「『人間原理、毛嫌い派』から『人間原理、要検討派』に転向した」という。同書の中で人間原理の主導者の一人であルケンブリッジ大学のブランドン・カーターの次のような言葉が紹介されている。「宇宙は(それゆえ宇宙の性質を決めている物理定数は)、ある時点で観測者を創造することを見込むような性質をもっていなければならない。デカルトをもじって言えば、『我思う。ゆえに世界はかくの如く存在する』のである」。(勝 未来)


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