ルーツな日記

ルーツっぽい音楽をルーズに語るブログ。
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ビョーク@日本科学未来館 後編

2013-09-04 19:58:37 | SSW
8月6日、お台場の日本科学未来館へ、ビョークの単独公演を観に行ってまいりました!! の、後編です。

開場時間前から大勢の観客達が入口近くに集まっていました。中には「チケット譲ってください」旨のプラカードを持った人達も。私も整理番号や入場の仕方がどうなるのかさっぱり分らないので、ちょっと早めに行って様子を伺っていました。そしていつしか入口右側に列が出来始め、みるみる内に長蛇の列に。もちろん私もその列に並びました。

そして開場時間。いよいよ列が動き始める。通常なら入口でチケットを切られるところですが、今回はカードリーダーにクレジットカードを通す。読み込まれるとレシートのような紙切れが発券され、そこにブロックと整理番号が記されている。と同時にメモリアル・チケット(写真上)を手渡される。そして無事入場。と言ってもこの時点ではまだライヴが行われる部屋には入れず、その手前のロビー部分でもう一度入場を待つことに。このロビーでは映像とパネルによって「Biophilia」が紹介され、グッズ販売やシャンパン等のドリンクの販売も行われていました。

正直、もうドキドキでしたね。私なんてクレジットカードを通す瞬間から心臓がバクバクしちゃいました。だってこんな入場の仕方初めてでしたから。そして入場してからはワクワクが止まりませんでした。この日は妻と一緒に来ていたのですが、二人して興奮状態。Tシャツ買って、シャンパン飲んで、もうウキウキな感じ。整理番号は100番を超えていたので最前列は無理だろうな~?なんて思いつつ、Bブロックと記された紙切れを見てはどの辺行く?と二人で妄想を重ねていました。昼間、会場に入って下見はしてますからね、この妄想もかなりイメージは具体的だったり。そうこうしているうちに番号が読み上げられる。物々しい最初の入場に比べ、今度はかなりラフにどんどん読み上げられる。あっという間に自分達の番号になり緊張しつつ足早に会場内へ。フロアには以外とまだ人が少ない。Bブロックは一番大きなブロックだったので、それも功を奏したのか、ほぼ最前列近くをキープ。正確に言いますと、妻が最前列で私はその後ろ、つまり2列目でした。

2列目と言っても、相当近いですよ! もうすぐ目の前がステージ。この距離でビョークを観れるなんて、これは夢じゃないのか?そしてここでいったいどんな世界が繰り広げられるのか? 小さなステージの四隅には、グラヴィティ・ハープ、ガムレステ&パイプオルガン、マヌ・デラゴのドラム・セット、マット・ロバートソンの電子機器がそれぞれ鎮座。上方には8枚の大型ヴィジョンが円を描き、さらにその頭上から日本科学未来館のシンボル「Geo-Cosmos」が見守るというこの偉容。私の位置は中央よりややドラムセット寄り。


「Biophilia」をオルガン用にアレンジしたようなSEの音色が、観客達の脳内を浸食し始めた頃、いよいよ開演時刻。場内が暗転し、知的な枯れを感じさせるような味わい深い男性ナレーションの声が「Biophilia」の開幕を告げる。この時点で既にフジロックとはまるで違う雰囲気。ちなみにこの男性ナレーション、後で知ったことなのですが、かのデヴィッド・アッテンボロー氏によるものだったそうですね。この声はその後も曲間に度々登場することになります。そしてアイスランドの若き女性合唱団グラデュアレ・ノビリが登場し、その美しいハーモニーが神秘の世界を演出すると、いよいよビョークが舞台に現れる。場内、割れんばかりの拍手と歓声。分っていたことですが、ビョークが近い!! もちろんこんなに近くでビョークを観るのは初めて。衣装はフジロックと同じ、黒、青、オレンジの小さな球が螺旋状にビョークの身体を包み込むD.N.A ヴァージョン。

曲は「Thunderbolt」。いきなり中央の巨大シンギング・テスラコイルが稲妻を光らせる。フジロックの時はノイズなのかシンセの音なのかよく分らなかったのですが、ここでははっきりとこの稲妻がバリバリとした爆音でリフを奏でているのが解る。その怪音と稲光、そしてビョークの歌声がまさに目の前で交差するその臨場感が半端ない!! そして「Crystalline」ではキラキラとした衣装に身を包んだグラデュアレ・ノビリ(総勢14人だったのでしょうか?)が碁盤の目のようなフォーメーションで踊りながらエキセントリックな和声を聴かせ、それを司令塔のごときビョークが圧巻の歌声でリードるす。それらを360度取り巻く観客席も含めて、全てがまるで前衛アート空間の様。さらに終盤にはそのアート空間を切り裂くかの如く怒濤のハードコア・ビートが鳴り響く。

もう序盤からその世界観に圧倒されっぱなしでしたね。しかも完成された芸術性の中にあってビョークはあくまでもビョークなんです。その歌唱はもちろん、表情や動きの節々にも彼女ならではの“自由”とか“野生”が溢れている。しかもそれを間近で感じとれる喜び! 彼女はドラムセットとモニタースピーカーの間を分け入って観客を煽ったりもする。そんな時、私の位置からはまさに目と鼻の先。手を伸ばせば届きそう! 近くにくるとビョークの衣装から風船が擦れるようなムキュムキュっとした音が聴こえる。(このDNA衣装はDaisy Balloonという日本人バルーン・アーティストの作だそうです)。「Hollow」では私の目の前で衣装を指差しながら“D,N,A”と囁き、くるっと振り返って、ひょこひょこと妙な動きで遠ざかっていったり。

前半は文字通り「Biophilia」からの楽曲が続きましたが、中盤は「Hidden Place」、「Mouth's Cradle」、「Immature」、「Jóga」等、過去作からの選曲が中心となり、さらなる深いビョークの世界に飲み込まれていきます。頭上に円く並ぶ8枚の大型ヴィジョンには、宇宙、大地、自然、火山、生命、細胞、など「Biophilia」のテーマとなる様々な要素が、時に神秘的に、時にポップに、時にグロテスクに映し出される。特に「Hidden Place」での無数のヒトデやらよく分らない生き物達が、アザラシのような死体に群がる映像は、あまりの気持ち悪さに思わず見入ってしまいましたね。あと「Jóga」につきましては、あの名作PVそのままだったと思いますが、あれ、もう15年も前のものですからね。それが最新の「Biophilia」のテーマにハマってしまう辺り、常に進化を続けるビョークの世界でありながら、その根本に流れるものは一貫しているんだなと感じさせられたり。

あと今回、ドラムセットに近い位置に居たため、マヌ・デラゴのプレイを間近に見ることが出来たのも収穫でした。フジロックの時は漠然と、打ち込みのリズムを主体に、それにマヌ・デラゴが生ドラムで人間的なグルーヴを付け加えているんだと思い込んでいたのですが、実際は、その打ち込みと思っていた部分もほとんどマヌ・デラゴが叩いているようでしたね。これは見ていて驚きました。「Crystalline」でのハード・コアなテクノ・ビートはもちろん、「Jóga」でのサンプリング音のコラージュのようなリズムですらも彼が叩いていたと思います。もちろんパッドなりに仕込まれた音を叩いている訳ですが、そんなところにも「Biophilia」の世界観を感じさせられましたね。あともう一つ気になったのがパイプオルガンとガムレステという二つの鍵盤楽器。私の位置からは裏側しか見えなかったのですが、至る所でオルガンらしき音が聴こえてくるものの弾いている人の姿はどうも見えない。これはマット・ロバートソンが遠隔操作していたんでしょうかね?よく分かりませんが、 こういったテクノロジーの使い方も「Biophilia」ならでは。


さて、ステージもいよいよ終盤。「Biophilia」の中でも最も攻撃的な曲「Mutual Core」。大地を揺るがすようなビートが炸裂し、グラデュアレ・ノビリのコーラスがまるでマグマの沸き立つような昂揚感をそそる。一気にステージの空気が沸騰すると、今度はその興奮を静かに包み込むように「Cosmogony」の美しいメロディが。この曲、ホント良い曲ですよね~。フジロックではこのメロディがオープニングを告げましたが、ここでは「Biophilia」を終演へ向かわせるレクイエムのよう。

美しき「Cosmogony」が静かに終わり、グラデュアレ・ノビリ、マット・ロバートソン、マヌ・デラゴがそれぞれステージを去り、ビョークだけが一人残される。ビョークの横にはiPADが用意され、巨大なグラヴィティ・ハープが持つ4つの振り子が大きく弧を描く。日本の琴のような音色がしっとりと響く中、ビョークが一人で歌う「Solstice」。おそらくあの振り子がハープの音色を響かせているのでしょうが、いったいどういう仕組みなのか? iPADのスクリーンは8枚の大型ヴィジョンに連動し、そこに写る幾何学的な図形の動きがハープの音色とリンクしているのか? その場に居てもよく分らないという不思議。サウンド的にはハープとビョークの歌声だけですし、ステージ上にはビョークと大きな振り子とiPADしかない。いたってシンプルでありながら、そこで何が行われているのかさっぱり解らない。そういう状況にゾクゾクしましたね。そしてステージを後にするビョーク。もうね、感動を通り越して畏怖の念すら抱きましたよ。いや~、ホント凄いものを見せられました!

ここまでのビョークは曲間に「アリガト!」「オツカレサマ!」と言う以外MCはほとんどなかったんじゃないでしょうか。その代わりはデヴィッド・アッテンボローのナレーションが務めていた訳で、それがまた秀逸でしたね。MCを挟まずに完成された「Biophilia」の世界を一気に見せてくれた芸術性の高さは半端ありませんでした。ですがいつもの「アリガト!」以外に新しく「オツカレサマ!」を挟んで軽く笑いをとる辺り、ビョークって可愛いなと思いましたね。この辺りのバランス感覚も流石としか言いようがありません。

さて、もちろんここで終わりではありません。アンコールを求める拍手喝采が響く中、マヌ・デラゴのドラム・セットにはHangと呼ばれる不思議な楽器が用意される。フジロックではこの楽器を使った「One Day」が印象的だったので、アンコールはきっとそれをやるに違いない、なんて想像するなか、一際大きな歓声に迎えられてビョーク&メンバー達がステージに再度登場。ここで初めてビョークはMCらしいMCをする。何かテスラコイルについて話していたのでしょうか?ま、私は英語がダメなのでその内容についてはさっぱりだったんですけどね。でも最後に「古い曲をやるわ!」的なことを言ったのは解りました。やっぱり「One Day」だ!と思った矢先にマヌ・デラゴがHangで叩いたメロディーは、なんと「Possibly Maybe」ですよ! これには参りましたね。私も大好きな曲なので、思わず「ウオ!」と声を上げてしまった程。このHangは亀の甲羅のような形をした手で叩くスティール・パンのような?そんな音色の楽器で、そのトロピカルな音色に絡むビヨークの歌声もまた素晴らしかったですね。しかもHangはトロピカルだけではなく、おそらくトリガー・マイクを仕込んであるのか、電子音的な音も響かせてましたし、さらに中盤にはそれまでトロピカルだった音色をステラコイルが稲妻を光らせながらビリバリと奏でるという斬新なアレンジ。こんな「Possibly Maybe」ありなのか?いや、これが「Biophilia」の世界。やはり素晴らしいの一言!

そして「Náttúra」。この曲はフジロックで聴いてその格好良さに目から鱗だった曲。もちろんこの日も格好良かったです! フェスの昂揚感とはまた違う濃密さにやられました。そしてラストは「Declare Independence」。フジロックでもラストを飾って大盛り上がりだったこの曲。扇動的なビートに乗って突き抜けるような歌声で煽るビョーク。それに応えて「ハヤ!ハヤ!」と叫ぶ観客達。ステージ狭しと踊りまくるグラデュアレ・ノビリの面々。カオティックな空気に包まれる会場。さらに終盤、ビョークはCブロックに身を乗り出して観客達を煽る。まるで狂乱状態なCブロックの観客達。それを見て我々Bブロックは「うわー、あっちか~!!」みたいな軽い嫉妬を覚えながらも、今、同じく空間に居れる喜びを全身で感じるが如くに踊り、叫ぶ。あ~、堪らない。ビョークって素晴らしい!!

何とも言えぬ高揚した余韻を残しながらステージは終了。鳴り止まない拍手。楽器群が片付けられ始めても、拍手は続く。永遠に続きそうな拍手は、まるで「Biophilia」が最後に仕掛けた超自然的な音色のようでした。


フジロックで見た時も素晴らしいと思いましたけど、それとはまったく別物でしたね。セットリスト自体は似ていましたが、環境の違いも含めて、想像を遥かに超えて濃密な「Biophilia」の世界でした。意外と多くやった過去曲の数々も見事に「Biophilia」の色彩に包み込まれていた一方で、おそらくビョークのライヴでは一番盛り上がるであろう定番曲「Hyperballad」をやらなかったというのも、いつものビョークとは違う「Biophilia」」というコンセプトをより明確にしていたと思います。そして800人というキャパは、親密とかいう生易しいものではなく、「Biophilia」の世界そのもに飲み込まれるような非現実的感覚による体感。まさに五感全てを支配されるようなビョーク体験でした。

いや~、ホント素晴らしいステージでした!!






この日のセットリストは以下のような感じだったようです。


01. Óskasteinar
02. Thunderbolt
03. Moon
04. Crystalline
05. Hollow
06. Dark Matter
07. Hidden Place
08. Mouth's Cradle
09. Immature
10. Virus
11. Jóga
12. Pleasure Is All Mine
13. Mutual Core
14. Cosmogony
15. Solstice
---encore---
16. Possibly Maybe
17. Náttúra
18. Declare Independence








↑開演前のロビーの様子とシャンパン。




↑購入したTシャツと、Tシャツ購入で貰えたポスター。






ちなみにフジロックの時のセットリストはこんな感じだったようです↓

01. Cosmogony
02. Hunter
03. Thunderbolt
04. Moon
05. Crystalline
06. Hollow
07. Hidden Place
08. Heirloom
09. One Day
10. Jóga
11. Pagan Poetry
12. Army of Me
13. Mutual Core
14. Hyperballad
15. Pluto
16. Náttúra
---encore---
17. Óskasteinar
18. Declare Independence

似ていますけど比べると結構違ってる。こちらのハイライトはやはり「Hyperballad」~「Pluto」ですよね。で、「Medúlla」からの曲がカットされていたり、グラヴィティ・ハープ使用の「Solstice」も無かったり。あと「Cosmogony」と「Óskasteinar」の位置の違いも興味深いです。そしてフェスより単独の方が長かったかというと、そうでもなかったみたいですね。


フジのビョークも格別でしたが、今回の単独はまさに一生に一度の体験でした。そして両方を見ることにより、一層ダイナミックにビョークを体感出来たと思っています。




~関連過去ブログ~ お時間有ったらぜひ!

 12.08.14 ビョーク@日本科学未来館 前編
 12.08.04 フジロック:ベスト・アクト!!(ビョーク)