ルーツな日記

ルーツっぽい音楽をルーズに語るブログ。
現在、 フジロック ブログ と化しています。

プリシラ・アーン

2009-01-07 11:01:10 | SSW
PRISCILLA AHN / A GOOD DAY

昨年来日し、そのピュアな歌声と屈託の無い人柄で、まるで心地よい風のように、ふわっと日本を吹き抜けて行ったプリシラ・アーン。LAを拠点に活動する24歳のシンガー・ソング・ライターです。

昨年リリースされた彼女の1stフル・アルバムが写真の「A GOOD DAY」。ジャズの名門ブルーノートからのリリース。と言ってもジャジーではなくフォーキー。そしてブルーノートが送り出した女性シンガーと言えばノラ・ジョーンズ。なのでプリシラはとかくノラと比較され、ネクスト・ノラ・ジョーンズと評されたり。実際、プリシラの才能を最も早く見初めた一人がノラと親交の深いエイモス・リーだったり、このデビュー作にノラの最新作にも客演していた鍵盤奏者ラリー・ゴールディングスが参加していたりと、ノラを連想する人脈もちらほら。

私がプリシラ・アーンに初めて惹かれたのは、タワー・レコードでプロモーションVTRを観た時でした。それまで私のプリシラ・アーンに対する印象は、第2のノラ・ジョーンズと呼ぶにはあまりに清楚すぎる歌声の持ち主。ですがその映像でのインタビュー・シーンで彼女はバンジョーを抱えていたのです。

この人、バンジョー弾くの?と驚きました。その後食い入るように映像を見続けましたが、実際にバンジョーを弾いているシーンはありませんでした。ただ静かな歌声と対照的な軽やかで可愛らしい笑い声に惹かれました。帰宅後、YouTubeで映像を検索してみましたが、残念ながらバンジョーを弾くプリシラは発見出来ず、しかしハーモニカ、ウクレレ、カズーといった、素朴且つ土っぽい楽器を扱うプリシラを発見し、妙に嬉しかったり。

ですがプリシラの面白いところは、フォーキーでありながらも都会的なポップセンスと洗練を併せ持っているところです。ライヴではアコギの惹き語りをしながらフットスイッチで自分の声をサンプリングし、ハーモニーを付けていくという、今時な技も見せてくれます。そしてアルバム「A GOOD DAY」でもそのポップ・センスが彼女のピュア・ヴォイスをさらに奥深く響かせています。

プロデューサーは、ドラマーとしてベックをはじめ、R.E.M.やスマパンとの仕事でも知られるジョーイ・ワロンカー。リッキー・リー・ジョーンズやザ・バード&ザ・ビーなどのレコーディングにも関わり、 プロデューサーとしてはザ・インクレディブル・モーゼズ・リロイや日本のトモフスキーなんかも手掛けています。そして彼ともう一人、ガス・サイファートなる人物。ウィロウビーとしての活動でも知られる人らしいのですが、残念ながら私は良く知らないんですよね…。とにかく、プリシラとこの2人が中心になって作り上げたアルバムが「A GOOD DAY」なのです。

ドラムスはもちろんジョーイ・ワロンカー、そして殆どの曲でギター&ベースを弾くガス・サイファート。彼は鍵盤もこなしてます。そしてプリシラ・アーンは、アコギ、ピアノ、ハーモニカ、ハープシコード、オートハープ、ウクレレ、グロッケンシュピール(鉄琴)など、驚く程の多才振り。バンジョーを弾いてないのが残念ですが、オートハープというカントリー系でよく使われる楽器が登場するのは嬉しいです。

そしてこの3人に絡むのがグレッグ・カースティン(ザ・バード&ザ・ビー)のキーボードだったり、マイク・アンドリュース(ザ・バード&ザ・ビーのイナラのソロ作をプロデュースしている人)のギターだったり、オリヴァー・クラウス(近くレイチェル・ヤマガタのバックで来日する)のチェロやストリングスだったり、ラリー・ゴールディングスの鍵盤だったり。おそらくジョーイ・ワロンカー人脈と思われる、この辺りのツボを得た人選に興味心をくすぐられます。

これだけ楽器や参加メンバーの名前を連ねると、何やら賑やかな作品と思われるかもしれませんが、いえいえ、基本はフォーキーなヴォーカル・アルバムです。土っぽさも殆どありません。ある意味LAらしいセンスを感じます。そしてプリシラのゆったりとした穏やかな歌声は、トロっとした癒しと、心地よい緊張感を同時にもたらし、飾り気のない歌い方がかえって表情豊かに響きます。そしてプリシラの作る、心にスーっと入ってくるような耳なじみの良いメロディー・ラインも秀逸。

出世作となった「Dream」はまるで雪の結晶のように美しい彼女の歌声にオリヴァー・クラウスのチェロが絡みます。コーラス部分のまさにドリーミーな音の重なりに、何処かへ連れ去られそうな気持ちになります。続く「Wallflower」は穏やかなリズムとサビに向かって儚く展開するメロディーが堪りません。そして今作中最も軽やかで楽しげな曲調の「I Don't Think So」。この曲は甘酸っぱい感じのサビと間奏のハーモニカが良いですね。

さらにベンジ・ヒューズというノースキャロライナのシンガーソングラーター(おそらくワロンカー人脈)カヴァー「Masters In China」。この曲がまた良いんですよ! ゆったりと流れる静けさの中、独特の浮遊間を演出するのがウルスラ・クヌースンが操るミュージカル・ソー。いわゆるノコギリですね。この辺りのセンスにもグッときます。甘く囁くようなプリシラの歌声にもうっとりです。またこの曲でプリシラはオートハープを使用。

「Astronaut」は何処となく中期ビートルズを思わせるサイケデリックな味付けがロマンチック。「Lullaby」はオリヴァー・クラウスによるストリングスと、プリシラ一人による多重コーラスが素晴らしく、出来ればヘッドフォンで聴くのがお勧め。色々な方向からプリシラの声が重なってきます。

そしてウクレレの音色が何とも可愛らしい「Find My Way Back Home」。こういったシンプルな曲でのプリシラの歌声はまさにピュア・ヴォイス。さらにノコギリとベルがまた良い味だしだしています。続く「Opportunity To Cry」はウィリー・ネルソンのカヴァー。そして最後は逆回転サウンドが宙を舞う中、静かにスピリチュアルにプリシラの声が響くタイトル曲「A Good Day (Morning Song)」が、ひと時の夢の終わりを告げるかのよう。

プリシラの持つフォーキーかつピュアな魅力と、そんな彼女の世界観を絶妙にサポートするポップなアレンジ、さらに好奇心旺盛な冒険的アプローチが見事に溶け合った作品であり、プリシラのしっとりとした中に天真爛漫さが覗くような、そんな微妙な感性に心惹かる作品。

で、彼女のライヴを昨年11月末に観に行ったのですが、しかもかぶり付きで。でもその話しはまた次回に。それにしても、何で日本盤はジャケット変えたんでしょう? こっちの方が断然趣があっていいと思うんですけど…。



PRISCILLA AHN / A GOOD DAY
こちらが日本盤。ジャケはオリジナルに負けていますが、ジャパン・オンリーのボーナストラックとしてハリー・ニルソンのカヴァー「Moonbeam Song」を収録。原曲のロマンチックな浮遊間をプリシラらしくしっとりとドリーミーに纏めた素晴らしいカヴァー。バック陣はアルバムとほぼ一緒ですが、アコーディオンでヴァンダイク・パークスが加わっているところが特筆もの。この辺のさりげなくルーツ色を出すあたりが憎い。


PRISCILLA AHN / PRISCILLA AHN
「A GOOD DAY」に先駆けて、インディーズで発売されていた5曲入りのEP。タワー・レコードでプッシュされていましたが、当時私はさほど気に留めませんでした…。プリシラと、ワロンカー、サイファート、クラウスの4人で作り上げたまさに「A GOOD DAY」のプロトタイプ。シンプルだからこそ、生っぽいプリシラの歌に惹かれます。