息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

高瀬舟

2013-02-24 10:07:27 | 著者名 ま行
森鴎外 著

罪人を乗せて島へと送る高瀬舟。
別れの哀しさと、これからの不安で満ちているのが普通なのに、
その日乗せられた男は違っていた。

護送役の同心・羽田庄兵衛は、いつも違う罪人の様子に声をかけてみる気になる。
30歳ほどの男・喜助は、弟殺しの罪を負っていた。

彼は輝く月を見上げながら晴れ晴れと語る。
これまで極めて困窮した暮らしをしてきたこと。
司直により島送りが決められ、生まれて初めて与えられた金を懐に入れたこと。
とてもありがたく思っていること。

羽田は貧しい役人の少ない報酬に不満を抱いていたことを密かに恥ずかしく思う。
その一方でこれほどの男がなぜ罪を犯したのかを問う。

喜助の弟は病気だった。
早く両親を亡くし、ともに助け合いながら働いてきた兄弟にとって、
これは大きな打撃であり、それを本人が一番わかっていた。
ある日、喜助が家に帰ると、弟は自らの喉を剃刀で切り虫の息であった。
そして早く剃刀を抜いて楽にしてくれと喜助に懇願した。
喜助はその通りにした。
そして罪を負ったのだ。

なにが悪かったのか。なにが罪でなにが罰なのか。
もはやわからない。
そしてこんな状況は現代ではもっともっと起こっているのではないか。

人工呼吸器をはずす。胃瘻をやめる。
痛み止めを大量に投与する。
本人が望んでいて、確実に楽にはなるが、したものが罪に問われるもの。

羽田はこれが本当に殺人なのかと思い、裁きに身を委ねるしかないと考えながらも、
お奉行に尋ねてみたいという気持ちが残った。

喜助のようにすべてを超えて幸せだといえる人は少ないだろう。
達観したような姿には崇高なものすら感じる。
そして裁きとはなんなのかと思う。

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