息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

芸者

2013-05-23 10:00:58 | 著者名 ま行
増田小夜 著

けっしてうまい文章ではない。
しかし、一文字一文字に生命力があり、伝えたいものがにじみ出る。
人の心を捉えて離さない。

著者は幼い頃、子守として売られたのを皮切りに、厄介者として転々とし、
仕込みっ子となり、やがて芸者となった女性だ。
学校には行かず、読み書きができるようになったのは中年にさしかかってから。
独学とは思えないしっかりした文章には驚かされるが、それまで文盲なことで
どんな苦労を舐めたのかと思うと胸がいたむ。

華やかな姿と美しい芸、そしてその影で身を売ったり、妾となったりという哀しみ。
そんなイメージしかなかったが、そんな芸者としての苦労よりも、その前の
望まれない子どもとしての苦労の方がはるかにまさっていたようだ。

まだ庇護がなくては生きられない幼い子供が、誰にも構われることなく、
雇い主の気のままに使われ、虐待される。
当時の農家では、作物や家畜を育てるように、女の子を育てて売る、という話が
書かれているが、食べるのがやっとの時代、これは真実だったのだろう。
豊作が続けばどうにかまわる生活も、一旦飢饉が起こればどうしようもない。
条件や価格などどうでもよい、口が減るならよしとされたのもわかる。

芸者としてどうにか身が立っても、身請けされて自由になっても、
そこに足りないものは生きがいだった。
恋愛もできず、目標もないただの女。
自暴自棄になった果て、彼女は弟を育てることに生きがいを見出す。

自分と違い、最低限の学問を。
清潔で正しい暮らしを。
ただ弟のためだけに努力した日々、どん底でも彼女は幸せだった。

しかし、彼に死なれ、再び彼女は生きる目標を失う。

そんな彼女が少しずつ近所の子供との関わりや、地味な仕事について
暮らしを立てていく姿はほっとする。

それにしてもこれほどに翻弄された人生。こんな人が大勢いたのだろうと
思うと怖しい。
彼女は賢かった。自ら書く事を身につけた。
それができなかった、語れなかった多くの人を思うと切ない。

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