哲学とワインと・・ 池田晶子ファンのブログ

文筆家池田晶子さんの連載もの等を中心に、興味あるテーマについて、まじめに書いていきたいと思います。

『功利主義者の読書術』(新潮文庫)

2012-04-03 02:48:48 | 
佐藤優氏の読書に関する文庫の新刊があった。佐藤優氏については、立花隆氏と共著の読書案内本でも立花氏より好印象だった記憶がある。さらにこの本の目次を開くと、池田晶子さんの『死と生きる 獄中哲学対話』が取り上げられているので、大変うれしく思った。しかし、他に取り上げられている本をみると、何か様子がちょっとおかしい。資本論や小説が取り上げられているのはまだいいとして、なぜかタレント告白本まで並んでいる。佐藤氏の説明では、あえてそのように選んだとある。

「役に立つとか、功利主義というと、何か軽薄な感じがするが、そうではない。われわれ近代以降の人間は、目に見えるものだけを現実と考える傾向が強い。しかし、目に見えるものの背後に、目に見えない現実があると私は信じている。思いやり、誠意、愛などは、「これだ」といって目に見える形で示すことはできないが、確実に存在する現実だ。愛国心、神に対する信仰などもこのような目に見えない現実なのだと思う。
プラグマティズム(実用主義)や功利主義の背後には目に見えない真理がある。読書を通じてその真理をつかむことができる人が、目に見えるこの世界で、知識を生かして成功することができるのである。この真理を神と言い換えてもいい。功利主義者の読書術とは、神が人間に何を呼びかけているかを知るための技法なのである。」(「まえがき」より)

この文章を読んで、池田晶子さんの考えと似ているところもあるが、池田さんなら首肯しないだろう部分もある。くだんの池田晶子さんの上記書籍を読み解いた箇所も、池田晶子さんの考え方には全く触れず、死刑囚に関する話が中心だ。佐藤氏は、池田晶子さんについては、世間にそれなりに居る「哲学者」の一人くらいとしか捉えてなさそうである。

それにしても、陸田氏の死刑執行が2008年だから、池田晶子さんが2007年に亡くなった後である。両人の往復書簡時には、池田晶子さんが死刑囚より先に亡くなってしまうなんて想像もできなかったかもしれない。池田晶子さんの死後、陸田氏がどう考え続けたのか、知りたい気もする。