哲学とワインと・・ 池田晶子ファンのブログ

文筆家池田晶子さんの連載もの等を中心に、興味あるテーマについて、まじめに書いていきたいと思います。

吉本隆明氏逝去

2012-03-19 20:46:46 | 時事
 かつて左翼思想の中心にも居た思想家とされる吉本隆明氏が亡くなったそうだ。私も『共同幻想論』は読んだことがある。ただ、メディアでは詳しく報道されないが、印象深いのは同氏がかつて左翼から「転向」を自ら表明したことだ。池田晶子さんにも、その頃の同氏を取り上げた文章がある。


「時代とともに平行移動してゆく吉本氏のような仕方でものを考えることが、我々各自の人生と、また社会そして人類の総体にとって、最終的にどういう意義をもち得るだろう。そう、「最終的に」。最終的な意義などというものを求めること自体がもはや虚構なのだと言うならば、ゴロツキの諸君、私は言おう。君は一切の言論活動から身を退くべきだ。そうでなければ、意義などないと公に説く君自身の行為の意味を釈明するべきだ。
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 自分とは何か
 この自同律とは
考えるから彼は思想家なのであって、これらの全てを自明と信じて、そこから話を始めている吉本は、だから思想家ではない、普通の人だと私は言ったのだ。自らそう認めている通りでもある。私はここに、生活が良くなれば本質的なことを考えなくなってしまう元思想家の姿を見て、とても残念に思う。」(『メタフィジカル・パンチ』「吉本隆明さん」より)



 池田晶子さんがこの文章を発表したのは、95年の「諸君!」誌上だそうだから、からこれ17年くらい前になるわけだ。吉本氏を普通の人と言い放つ池田さんの謂いは厳しいように聞こえるが、転向を発表した頃の吉本氏に対しては、結構他にも厳しい批判があったような気がする。組織のリーダーに朝令暮改があってはならないように、人々を引っ張る人物が考え方を根本的に変えてしまうということは、大きな失望にしかならないのだろう。これまでは一体何だったのだろうか、と。最近の吉本氏の著作は読んだことはないが、メディアでは肩書きを「評論家・詩人」としているから、既に思想家であることはやめていたということだろうか。