哲学とワインと・・ 池田晶子ファンのブログ

文筆家池田晶子さんの連載もの等を中心に、興味あるテーマについて、まじめに書いていきたいと思います。

『映画の構造分析』(文春文庫)

2011-09-10 02:39:39 | 
 新聞か何かの媒体で薦められていたので読んでみた。内田樹氏の本は、これまでもいくつか読んでおり、比較的好印象であったが、映画に関する分析というのは意外性があって面白そうに感じた。実際に読んでみて、取り上げられている映画の数がそう多いわけではないし、新しい映画もあまり取り上げられていないが、分析手法は大変面白い。

 本書を読んでみて、興味をもった部分を少し引用してみよう。


「退蔵してはならない、交換せよ。
 それが人間に告げられた人類学的な命令です。
 なぜ、そういう命令を人間が引き受けることになったのか、私たちはその太古的な起源を知りません。しかし、その命令を受け入れたものだけが「人間」として認知されるようになったということは否定のしようのない事実と思われます。」(P,137)


「人類学が教えるように、死者を安らかに眠らせるというのは生者の重大な仕事である。死者が「それを聞くと心安らぐような弔いのための物語」を語り継ぐことは、死者が蘇って、生者の世界に災禍をもたらすことを防ぐための人類学的なコストなのである。」(P,230)



 人類学について言及が少しづつあるのだが、人類学の知識は暗黙の前提とされているようで、詳しい説明があるわけではない。それにしても、退蔵せずに交換せよと引き受け続けるのが人類額的な命令で、しかも交換していく対象の正体は明かされない、とあるのは一体どういうことか。確かに全ての生物は命をつないでいくが、人類は命だけではなく、文明や文化の基礎となる英知を後世につないでいっている。その英知は、人間とは何か、宇宙は何故存在するのかといった究極の真理を探ろうとするものだが、究極の真理はついぞ明かされない。結局、無知の知をつないでいくのが人類なのか。「シーシュポスの神話」を思いおこすではないか。