哲学とワインと・・ 池田晶子ファンのブログ

文筆家池田晶子さんの連載もの等を中心に、興味あるテーマについて、まじめに書いていきたいと思います。

『無敵のソクラテス』(新潮社)

2010-02-11 13:50:37 | 
 先日本屋を覗いたら、思いもよらぬ池田晶子さんの新刊が棚に並んでいた。新潮社文庫の3冊のソクラテスシリーズを1つにまとめた単行本という。文庫本をわざわざ高価格な単行本に再編集する意味はあるのか?、と大いに疑問に思ったが、文庫に収録している以外のソクラテス対話編も入れているというから、それをまとめたかったのだろう。

 まあこれはこれで良しとして、池田晶子さんが雑誌に発表してまだ単行本化されていない文章がまだあるので、そちらも早く出版してほしいものだ。


 ところで、昔このソクラテスシリーズを読んでいて、池田晶子さんの言っていることがすぐにはよくわからなかった部分がある。「シンドラーのリスト」という項だ。何度も読んでみて、わかったつもりになっても、なかなかしっくり来ない感じがある。さらにニーチェやハイデガーも登場して、その理解も必要になるので余計にそう感じる。


 池田晶子さんは、映画の中で殺されることと現実に殺されることは決定的に違うから、反戦映画を作る側も観る側もずるい・不真面目だとしている。また、生命尊重が人類普遍の原理だといっても、現実の生死には何の関係もなく、理念の発生と結論の順序があべこべだという。


 映画を観る行為は、小説を読むのと同じようなイメージでいたが、ドキュメンタリーを俳優の演技で作るとなれば、確かに決定的に違うといえる。さらに池田さんのいう通り、生命尊重という理念は現実の生死に何の関係もない。日本は確かに平和だといえるが、殺人事件は少なくなく発生し続けている。例えば、今突然強盗が押し入り、自分が殺されようとされれば、理念としての生命尊重など確かに何の力もない。


 スクリーン上の生死には涙するが、現実の生死についての考え方もわからない、と言われてしまうことのないように、しっかりと考えておきたいものだ。