哲学とワインと・・ 池田晶子ファンのブログ

文筆家池田晶子さんの連載もの等を中心に、興味あるテーマについて、まじめに書いていきたいと思います。

『白川静』(平凡社新書)

2008-12-15 23:18:23 | 知識人
 2年前に96歳で亡くなられた有名な漢字学者の評伝であるが、著者自身(松岡正剛氏)、書くべき者が書いたという感慨と自負を表明している通り、白川静氏についての客観的評伝というよりも、白川静氏と松岡正剛氏と心身融合して書いたのではないかと思うくらい、松岡氏の思いがあふれ出ている本である。松岡流白川静伝なのである。しかし、それはそれでその思いに委ねて読んで、損はない内容だと思う。

 最初に漢字学者と書いたが、この本を読むと、決してその枠に留まらない研究者であったことがわかる。漢字の呪能の話にはじまり、漢字の語源的解明によって古代の中国や日本の民俗や世界観まで解明できるという。いわば文字以前に人が持っていた世界観を、漢字を基に知ることができるのだ。

 漢字に限らず、例えば万葉集の歌に関する解析でも「目から鱗」のような鋭さであることが触れられている。例として、万葉集の歌の「草摘み」や「標野」がかなり神聖な呪術的儀式を意味することが、わかりやすく説明されている。その他、詩経や孔子などについても白川静氏らしい解釈が挙げられている。松岡氏のこの本は白川静氏の入門書として結構お薦めである。