かたつむり・つれづれ

アズワンコミュニテイ暮らし みやちまさゆき

帰ってきたパスポート

2012-10-02 16:06:44 | アズワンコミュニテイ暮らし

 35年来の友人が娘さんといっしょに我が家を訪ねて来た。

 彼は、タイに暮らしている。

 「25年になるんだあ・・・」と、ぼそっと、言った。

 聞いて、「もうタイは、彼の人生そのものだなあ」と、コトバにすれば、

そんな感慨があった。

 

 「あんなあ、こんなことが最近あったんだ」と彼は切りだした。

 「日本人数人がタイに来て、レストランで食事してたんだ。

そのとき、カバンを盗まれた。それがなあ、パスポートとか

お金とか、いろんなものが入っていたんだ」

 「そりあー、びっくりしたろうな」

 「うーん、それがなあ、俺ら食事しているとき、若いタイ人の

女の人が親しげに寄ってきたんだ。ぜんぜん、知らん女の人だった

けど、そんなに声かけてもらったら、悪い気せえへんやろ。

 まわりの連れも、やいのやいの、囃し立てたりして・・・」

 「へえー、それで?」

 それで、食べ終わって、いざ帰ろうとしたとき、カバンがないこと

に気が付いた。あっ、やられた!・・・どーも、一人じゃなく、何人か

グルになっていたんだろう。いや、まいったなあ、そんときは」

 

 「そのあと、なんとパスポートが出てきたんだ」

 「そりゃ、またどうして」

 「それがな、そのときカバンのなかにダライラマについて書いた

本を入れてあったんだ。その本といっしょにパスポートが置かれて

いて、連絡がきたんだ。」

 「それだけか?」

 「それだけといっても、パスポートが戻ってきたのが、なによりさ。

おもうに、ダライラマに救われたって感じかなあ・・・」

 

 以前、彼からタイの人たちが日頃に暮らしでよく使うコトバに

「マイ・ペン・ライ」というのがあると聞いたことがある。

 日本語に訳すと、「気にしない、気にしない」というような

ことらしい。

 ただし、このコトバは、なにかの不始末で怒っている相手に

むけても、「マイ・ペン・ライ」と使うという。

 友人も納期が遅れていたものが、届いたというのでその店に取りに

行ったら、じっさいは無かった。

 「とどいていると言ったじゃないか」と迫ると、店員が

「マイ・ぺん・ライ」と応えたたという。

 友人は、「そうだよな、じっさいに無いものは無いもんな。

怒ったりして、なんかこっちが可笑しなことをしてるって、反省した

もんね」

 友人の異文化体験談は愉快だし、考えさせられもした。

 

 タイのカバン泥棒グループも、味なことをするもんだ。

 余裕というか、ユーモアというか、おもわず人間味を感じて

しまった、彼の土産話だった。