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風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

トレードマークはweird

2024-09-12 01:10:30 | 時事放談

 米大統領選の討論会があったが、上智大の前嶋和弘教授は、二人の話は「終始全くかみ合わず」、今回の討論会は「大統領選の行方を変えることはなく」、今後の展望については「大接戦になるだろう」と総括された。

 昼のNHKニュースは、ハリス氏から歩み寄って握手し、トランプ氏は討論会中、ハリス氏の顔を見ることがなかったと伝えた。CNNは「トランプ氏のチームと共和党員が司会者を非難し始めている」と伝えた。「司会者はトランプ氏の発言について事実確認をしている一方でハリス氏についてはしておらず、ハリス氏にはより柔らかい質問をしていると主張している」のだそうで、これは「トランプ氏の支持者らが、トランプ氏がこの討論会で『勝利』したと考えていないことの表れ」だと指摘した。確かにいつもの根拠のないハチャメチャな自信満々さが感じられない。

 先週には、トランプ氏とバンス副大統領候補は、民主党候補側から「weird(変な人)」呼ばわりされて、予想以上に感情的に苛立っているとの観測記事もあった。

 そもそも相手にレッテルを貼って喜んでいたのはトランプの方だった。

  • Crooked Hillary(邪悪なヒラリー)
  • Low energy Jeb(低エネルギー・ジェブ)
  • Lying Ted(嘘つきテッド)
  • Sleepy Joe(寝ぼけジョー)
  • Crazy Kamala(クレイジー・カマラ)
  • Laughing Kamala(爆笑カマラ)

 まるで小学生である(微笑)。不動産ビジネスあがりで、価値よりディールを好み、「アプレンティス」なるリアリティ番組で、型破りで独善的で過激で詰めが甘く論理に飛躍があり予測不可能な言動で名を売って、大阪弁で言うところの「いきり」そのものである。「いきってる」というのは「粋がる」「調子にのる」「格好つける」というほどの意味で、ヤンキーのお兄ちゃんが使う以外には主にそのような小学生に与えられる称号で、だいたい周囲から浮いている(微笑)。

 これまで言論空間ではトランプ氏に関してもっともらしく複雑な人格分析が競われて来た。複雑な形容詞なら、本人は褒め言葉と受け止めるかもしれない(そこが「いきり」の本領)が、それに比べて、「weird」は素朴な庶民感覚そのままに、小難しい論理や子供じみた感情は抜きに、何の誤解もなくストレートで、それだけに威力があるのかも知れない。まあ、本人は攻撃好きだが逆に攻撃されることに慣れていないだけかも知れない。

 国取り合戦で言えば、ブルー・ステイト(民主党優位)とレッド・ステイト(共和党優位)を除くスウィング・ステイト(接戦)7州が帰趨を握ると言われる。同様に政策論争で言えば、それぞれの岩盤支持層の間にある無党派層の取込みが焦点だと言われる。ハリス氏個人は、移民政策では急進左派サンダース氏より左寄りの寛容な姿勢を示し、気候変動対策案「グリーン・ディール」の起案者の一人だったが、バイデン政権が推進して来たような、より穏健な政策を主張するのだろう。民主党内では、必ずしもハリス氏を支持していなかったが、トランプ氏に大統領の座を渡すくらいなら、一致団結した方がよい、というような流れが出来たが、この感覚を無党派層にまで広げられるかどうかが鍵になるのだろう。

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経済安全保障の罠

2024-09-07 09:26:00 | 時事放談

 日本製鉄によるUSスチール買収が難航しており、ワシントン・ポストなどはバイデン大統領が中止命令を出す方向で最終調整に入ったと伝えたらしい。悪手だ。

 かつて「鉄は国家なり」と言われたもので、これは日本製鉄の前身・官営八幡製鉄所の火入れ式(1901年)で伊藤博文が述べたものとされる。鉄は、18世紀後半の産業革命以来、船や大砲を造り、海洋国家イギリスの繁栄を支えた。19世紀後半には鉄道を造り、帝国主義全盛の時代の国力の源泉として、大陸国家ドイツの躍進を支えた。昨今、中国による一帯一路がそうだとまでは言わないが、鉄道網は軍の迅速な動員を容易ならしめ、イギリス人で地政学の祖とされるハルフォード・マッキンダーをして、ドイツの台頭を警戒させ、その抑止を唱えさせたほどだった。伊藤博文の50年前に、鉄血宰相の異名を持つビスマルクが議会演説で「国家は血なり、鉄なり」と発言した故事を、伊藤博文も知っていたのだろう。

 そんな鉄だから、アメリカでもUSスチールは名門企業の一つに数えられ、20世紀のアメリカの台頭を支えた。それだけに、昨年末、日本製鉄がUSスチール買収を発表したときには、否応なく時代の流れを感じないわけには行かなかったし、むしろ中国の台頭のもとで遅きに失したと言うべきかもしれない。最近と言わず日経新聞を飾るバズワードは(些か加熱気味ではあるが)AIや半導体であり、国力の源泉も、次の産業革命を牽引するのも、鉄ではなくてデータである。

 アメリカにはそんな郷愁もあり、日鉄によるUSスチール買収は一筋縄では行かないのではないかと、むしろこれが成功すれば快挙だと思っていた。経済合理性からは買収を是とするが、非とする理由は経済安全保障だと言う。これまで大統領令によって取引差止めの判断が下されたのは、実質的に全て中国がらみだったのに、よりによって今回は同盟国・日本が相手である。

 巷間、言われる通り、民主・共和の支持率が拮抗する大統領選を前に政治問題化されてしまったのだろう。労働組合が反対の声を上げると、ポピュリストのトランプ大統領候補も反対の声を上げて、労働者に寄り添う姿勢を見せた。USスチール本社があるのはスウィング・ステート7州の内の一つ、ラストベルトのペンシルベニアである。労組を基盤にする民主党のバイデン大統領も反対しないわけには行かない。

 昨日の日経によれば、選挙期間中より後に交渉した方が有利になるから、中止命令が出る前にCFIUS(対米外国投資委員会)の審査を取り下げる選択肢があるのではないかという識者の声を伝えた。他方で、申請を取り下げた場合、買収の破談に伴う違約金(5億6500万ドル)を日鉄が支払わなければならないという(敵対的ではない交渉事だから何とかなるだろうと思うが)。ジレンマである。が、同盟国相手の経済安全保障問題の先例は将来に禍根を残す。これでは安全保障概念が曖昧だと批判される中国に寄ってしまって、中国から、ほら見たことかと嗤われてしまうではないか。

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ヒロシマとナガサキ

2024-08-11 08:30:04 | 時事放談

 広島と長崎を漢字ではなく、ヒロシマ、ナガサキとカタカナで書くと、単なる地名であることを超えて、世界で唯一の原爆被爆地という特別の装いを帯びる。この季節は、特別な思いにとらわれる。

 今年は更に特別な事情が加わった。長崎市が、平和祈念式典で不測のセキュリティ・リスクを考慮し、イスラエルを招待しないと発表したことに、G7の6ヶ国の駐日大使が反発してご本人の出席を見合わせたからだ。

 私の知人は三国干渉の頃と変わらないじゃないかとムッとし、私も当初は踏み込んだ嫌がらせだと憤慨したものだが、調べてみると、長崎市は、駐日パレスチナ常駐総代表部には式典実施への支障はないと判断して招待状を送り、一等参事官が出席しているのを知って、翻意した。長崎市長は自民党の推薦を受けていたはずだが、今回の対応は不適切だったのではないか。

 広島市と長崎市のどちらもウクライナを招待しロシアとベラルーシを招待しなかったのは同じだが、イスラエルとパレスチナを巡っては正反対の対応となった。広島市はイスラエルを招待してパレスチナを招待しなかったのに対し、長崎市はパレスチナを招待してイスラエルを招待しなかったのである。そりゃ、G7の6ヶ国じゃなくても、疑問に思うだろう。この辺りが明確に報道されなかったのも問題だと思う。多くの報道で見られたように、イスラエルをロシアと同じ位置付けにしたというレトリックの方が受け入れられやすかったかもしれないが、要するにエマニュエル大使らは、長崎市がパレスチナを招待する一方、イスラエルを招待しないと決めたことにより、式典が政治化されたとして、参加を見合わせたのだった。

 報道では往々にして少数意見が大きく扱われて見間違うことがあるが、私を含め多くの日本人は広島市の対応を支持するだろう。それはイスラエルが今回(昨年10月)に限っては先制攻撃を受け、一般市民が殺害された上に、人質を取られたからだ。勿論、イスラエルの反撃は、自衛権正当化の三要件の一つ、必要な限度にとどめること(相当性、均衡性)を逸脱しているが(因みに残りの二つの要件は、急迫不正の侵害があること(急迫性、違法性)と、他にこれを排除して国を防衛する手段がないこと(必要性))、戦争という異常心理状態で節度を保つのは容易ではない。また、ガザで無辜の市民に被害がでているのは事実だが、ハマスの戦闘員が非戦闘員たる市民を盾にし、あるいは市民の中に紛れ込んでいるため、イスラエルは市民を逃すために一定の時間的猶予を与える配慮をした上で攻撃しており、ロシアの無差別攻撃とは比べられない。更にこれまでの近隣への拡張主義的なイスラエルの姿勢は問題とされるべきだが、今回の人道的問題とはとりあえず切り離すべきだろう。昨年まではイスラエルも式典に招待されていたのだから。

 核兵器廃絶の願いは全ての日本人に共通するが、他方で、中国・ロシア・北朝鮮という核保有国に囲まれ、アメリカの核の傘に守られた日本が、NATO諸国やカナダ、オーストラリア、韓国とともに核兵器禁止条約に参加しないでいるのは、報道ではダブル・スタンダードと非難されようが、日本人が保つ現実感覚だろう。今回の事案でも報道が偏っている先には、今なおヒロシマとナガサキへのアンビバレントな心情があるせいだろう。それは日本人が先の戦争を今なお総括できないでいることと関係している。

 ヒロシマにまつわる有名なエピソードがそこを突いている。かつて、小野田寛郎・元少尉は戦争終結を知らず、戦後29年間にもわたってフィリピンのルバング島で戦闘状態を解除せず、1974年になってようやく帰国を果たした。後に戦友とともに広島の平和記念公園を訪れ、慰霊碑に刻まれた言葉「安らかに眠ってください 過ちは繰り返しませぬから」を見て、「これはアメリカが書いたものか?」と尋ねた。戦友は「いや、日本だ」。続いて小野田氏が「ウラの意味があるのか? 負けるような戦争は二度としないというような・・・」と尋ねると、戦友は黙って首を横に振った。戦前の軍人魂と片付けるのは、た易い。戦後29年経った日本に舞い戻った浦島太郎の小野田氏は、「人間の誇りまで忘れて経済大国に復興した日本に無条件降伏させられているのだ」(氏の著書から)と感じ、程なくして日本を離れ、新天地ブラジルに渡った。小野田氏の問いかけに、私たちは今なお黙って首を横に振るばかりで、それ以上の言葉を見出せないでいる。

 当事者のアメリカは、戦争を終わらせるためとして原爆投下を正当化し、心の平穏を保とうとしてきた。故・安倍さんはオバマ氏との間で、ヒロシマと真珠湾への首脳の相互訪問を実現したが、安倍さんはバーターではないと明言されている。真珠湾攻撃は、宣戦布告の手交が遅れて、アメリカからは騙し討ちだと非難されるが、戦後の少なくない戦闘行為に宣戦布告があったかどうか寡聞にして知らないし、当時、日米間には友好的な空気はもはやなく、交渉は決裂していたし、学術的には、行き過ぎた制裁は武力行使を止められない、所謂「抑止」の失敗事例と捉えられるし、軍事施設を狙った、それ自体は合法的な攻撃であって、ヒロシマやナガサキへの原爆投下や日本中の主要都市への絨毯爆撃のような戦争犯罪とは区別されるべきものだからだ。

 暑い夏のさなか、8月6、9、15日と、毎年、脳裡をかすめるトラウマである。一部の(しかし声が大きい)リベラルなメディア報道と、近隣国による密かな世論戦(とまで言うと陰謀論に扱われかねないが 笑)と、内外から撹乱されて複雑な状況の中で、核兵器禁止条約への対応と同様、私たち日本人自身の良識が問われる問題である。

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米大統領選の行方

2024-07-23 23:56:20 | 時事放談

 選挙イヤーの今年は選挙が荒れる…とは言っても致命的な大波ではなく、小波程度の混乱ではあるのだが。

 アメリカ大統領選ネタが続く。バイデン氏が、現職大統領として56年振りに再選出馬を断念したことには、予想されたとは言え驚いた。断念させられたと言う方が正しいし、先月27日のTV討論会以降は周囲に不満と言う名の断念圧力が燻り、今月13日のトランプ前大統領暗殺未遂事件以降はそれが爆発すると言うよりも、さ〜っとまるで潮が引いたように人気がなくなり、バイデン大統領が一人取り残されたような寂寥感は、自業自得とは言え気の毒なほどだった。シューマー院内総務やペロシ前下院議長に続き盟友オバマ元大統領まで離れてしまった。さぞやご本人は無念だっただろう。所詮、政治家は次の選挙に(バイデン氏が"顔"では)勝てないことを最も恐れるのだ(厳密には神学者ジェームズ・フリーマン・クラークは政治屋と政治家を区別して曰く、政治屋は次の選挙のことを考え、政治家は次の世代のことを考える)。手のひらを返したように、なぜここまで決断が遅れたのか、などと後出しジャンケンよろしく論評され、やれバイデン氏は頑固だの、やれ側近はイエスマンだらけだの、何を今さら裸の王様だったかのような書き振りには違和感がある。バイデン氏に代わる候補者などいなかったはずだ(彼の肩を持つつもりはないが)。

 それが僅か一日で、民主党は図ったように一枚岩になって、後継候補がカマラ・ハリス副大統領に一本化されたことにも驚いた。副大統領職は「人類が発明した最も重要性に乏しい公職」(ジョン・アダムズの言葉)とされることなど忘れたかのように、やれ行政や外交の経験が乏しいだの、やれ(ハリス氏が担った)不法移民対策は難航し成果が乏しいだの、やれ側近が相次いで離れて組織をまとめあげる能力や人望が乏しいだの、やれインテリで冷淡な印象だのと貶めて、一顧だにしなかったではなかったか。それが、手のひらを返したように、やれ検事出身で弁舌に定評があるだの、やれ若者や女性や非白人の支持を獲得でき、トランプ氏と正反対の人として有効な候補者だの、やれダイナミズムがあり期待を持てるハリス氏が出て来たことで民主党が活性化するだの、提灯記事には些か片腹痛い。

 実はトランプ氏にとってバイデン氏のままの方が戦いやすかったとの苛立ちも見られるようだ。何しろ敵は自分より年上のバイデン氏81歳から、年下のハリス氏59歳へと若返り、自ら高齢批判に晒される立場に逆転するからだ。おまけに、前回ブログに書いたように年齢(や性別や人種)などの属性による対決を煽るのは、本来、ご法度であることを弁えつつ、次のTV討論会は、冴えない「高齢者」対決から、まるで「犯罪容疑者」対「検察官」であるかのような緊張感あふれる対決となり、ただの野次馬には見応えがありそうだ。

 選挙では(選挙だけに限らないが)一寸先は闇との思いを強くする。そしてメディアのご都合主義も甚だしい。

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大統領と年齢

2024-07-19 00:44:51 | 時事放談

 本来、年齢による衰えは(ある年齢を超えると)人それぞれなのだから、若くても意志と能力さえあれば抜擢されるべきという議論があるならば、年寄りだから若者に譲るべきという議論はナンセンスだ。アメリカ大統領選での問題は、先般のTV討論会で見せた、そしてまたこれまでにも垣間見させた老いによる現実的な「衰え(健康不安)」にある。

 それでもなお(しつこく)年齢に着目すると、バイデン氏は1942年11月20日生まれの81歳、トランプ氏は1946年1月14日生まれの78歳、このままでは二人とも史上最高齢の大統領候補者になる(バイデン氏が民主党大会で順調に指名されれば)。これでは四つ足して任期を全うする年齢まで数えると不安になる。

 Potus.comによれば、アメリカ大統領は平均すると55歳で就任して来たそうだ。かつて最高齢は、69歳で就任したロナルド・レーガンだったが、トランプ氏が70歳、バイデン氏が78歳と、次々に更新した。逆に若い方を見ると、テディ・ルーズベルトが史上最年少の42歳で就任し、次いでJFK43歳、ビル・クリントン氏46歳と続く。そのビル・クリントン氏(1946年8月19日生まれの77歳)が選出されたのは30年以上も前のことなのに、彼よりも年上の二人が今なお大統領の座を巡って争っているというのは、清少納言が今を生きていたら「いと浅まし」と嘆きそうな悲劇であり、喜劇だ。

 こうして、大統領に不測の事態が発生して副大統領が大統領に昇格する可能性はこれまでになく高いと言われ、副大統領が誰なのかが注目される仕儀となる。

 西山隆行氏(成蹊大学教授)によれば、米国の副大統領に関して、憲法制定者は必ずしも大きな関心を持っていなかったという。「アレグザンダー・ハミルトンは『フェデラリスト』の第68篇で副大統領についても言及しているが、その職の基本的な役割について説明していない。初代の副大統領となったジョン・アダムズは、その職を『人類が発明した最も重要性に乏しい公職』だと評したことは知られているかもしれない」(同氏)。そして驚くことに、副大統領に欠員が生じた場合の補充方法についての規定が定められたのは、ようやく1967年の合衆国憲法修正第25条においてだったということだ。

 その副大統領候補となりそうな民主党側のカマラ・ハリス氏はマネジメントに問題があると言われ、実際に今一つも二つも冴えないし、共和党側のトランプ氏が選んだジェームズ・デービッド・バンス氏(39歳)は若くて未知数、輪をかけたトランプ主義者で、結局、大統領候補のお二人に頑張って貰わなければならないと思う気持ちになる。

 しかし繰り返すが、年齢による衰えは人それぞれだから、年齢による決め付けは余計なお世話なのだろう。

 一方の、暗殺未遂事件で見せつけたトランプ氏の危機における超人的なタフさ(気力・胆力など)は、大統領時代に多少の訓練を受けていたであろうことが想像されるとは言え、彼自身のキャラと相俟って、演技がかって、やや無謀とすら思わせるが、特筆されるべきであり、世界最強の米軍・指揮官としての要件の一つを満たすと人々をして思わせるものがあった。しかし、そこに神が介在していたなどと、神がかりなことを言ったところで、トランプ支持者にしか受けないだろう。なお、1992年3月、右翼団体の構成員から銃撃を受けた金丸信氏(当時自民党副総裁、77歳)は、弾が逸れて無傷だったものの、その場で腰を抜かして自らの力では立ち上がれなかったそうだ。自分だったら、腰を抜かしてしょん●んをちびって立ち上がれなかっただろうと白状した人もいたが、ムベなるかな。

 他方、民主党ではバイデン降ろしが本格化しつつあるが、代わりが思い浮かぶわけではないのが悩ましい。まさに健康不安を払拭し、年齢を感じさせないタフさ加減を見せつけるべき正念場であろう(が、今更もう手遅れなのかもしれない、少なくともメディア報道によれば)。

 大統領選は相変わらず混沌としている。暗殺未遂事件は、アメリカ社会の分断を深めるばかりとなった。犯人が共和党員だったことで、辛うじて深刻な事態は避けることが出来たのかもしれない。

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トランプ氏 暗殺未遂(続)

2024-07-16 21:28:33 | 時事放談

 大統領または大統領候補が銃撃を受けたということで、懐かしいエピソードが紹介されていた。

 レーガン元大統領は、就任後まもない1981年3月の受難で、シークレットサービスや側近から有無を言わせず車の中に押し込まれたので、トランプ氏のような咄嗟の(しかし状況からすれば超人的な)パフォーマンスを見せることが出来なかったが、搬送先の病院で医者や看護師に向かって、「君たちはみんな共和党員だよね?そうならいいけど。」と問いかけた機転(ウィット)が高い評価を受けた、というものだ。ここまでは、かつてどこかで読んだことがあるが、続きがあって、その中の医師が、「今日一日は全員が共和党員です、大統領閣下。」と切り返したということだ。ちょっと出来過ぎのところもあるが、如何にもアメリカ人好みの小噺である。

 トランプ氏の場合は、恐らく伝説的となるであろう写真が拡散された(上記の通り)。星条旗を背景に(但し旗が裏向きなのが残念)、フランスの七月革命を描いたドラクロアの名画「民衆を導く自由の女神」を彷彿とさせる構図である。英紙ガーディアンは、トランプ氏の流した血は写真に宗教画のような効果を生んだと指摘し、そんなトランプ氏のことを、フランス紙フィガロは「闘技場に立つ剣闘士」と評し、ドイツ紙ウェルトは「劇場効果の天才」と評したそうだ。撮影者はAP通信ワシントン支局チーフ・フォトグラファーのエバン・ブッチ氏で、2020年5月にミネアポリスで起きた白人警官による黒人男性暴行事件を巡る抗議行動を撮影し、AP通信チームの一員として翌21年ピュリツァー賞速報写真部門を受賞している。CNNによれば、駆け出しの頃にイラクやアフガニスタン情勢を取材した経験があり、戦闘状態に身を置いたこともあったお陰で、混乱の中でも落ち着いていられたと語ったそうだ。「全てに焦点が合っていたこと、自分のすべき仕事をやり遂げたことに満足している。」(ブッチ氏)

 ブッチ氏もお見事だったが、トランプ氏もやはり役者である。出来過ぎとも思う。

 だからと言って、彼こそ大統領に相応しいかと言うと、それはまた別の話である。

 

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トランプ氏 暗殺未遂

2024-07-15 22:57:51 | 時事放談

 先週は、選挙イヤーでいろいろ驚かされることがあると書いたら、今週は、選挙演説中のトランプ前大統領が銃撃を受けたことに驚かされた。右耳上部に銃弾を受けたか、あるいは(プロンプターのような?)ガラスの破片を受けたという報道もあるが、ご本人の命に別状はなかったのは何よりだった(聴衆に犠牲者が出てしまったが)。

 ちょうど二年前、安倍元首相が銃撃を受けたのを、つい思い出してしまう。もし存命なら、今の自民党の体たらくは許さなかっただろうし、この秋の自民党総裁選に三度目の出馬があったかも知れないと思うと、なんだかやりきれない思いにとらわれる。

 トランプ氏は、一発目の銃声で「伏せろ」の声と身を挺するシークレット・サービスに守られて、身を屈めた。そして暗殺者は即座に、警護するシークレット・サービスのカウンター・スナイパーによって射殺された。如何にも銃社会のアメリカらしい、手慣れた対応には感心してしまう(もっとも、金属探知機で持ち物チェックされる会場内はともかくとして、会場外であっても演説場所から120~150メートル程度離れた建物の屋上という、ライフルで狙撃可能な場所を警戒しなかった警護の責任を追及する声があがっているようだ)。一方の安倍元首相は、一発目の銃声に伏せずに振り向いて、命を落としたのだった。平和な日本の脇の甘さと詰られても反論のしようがない。

 さて、トランプ2.0は、同盟国としては勘弁して欲しいと、つい思ってしまうが、決めるのはアメリカ国民だ。今回の銃撃事件に際して、トランプ氏は軽傷だったこともあり、会場を後にするときに拳を何度か突き上げて健在ぶりをアピールしたのは、さすがだった。大統領にはこうした力強さを、アメリカ人は求める。

 もっとも、選挙戦はまだ四ヶ月近く残されており、9月10日に第2回テレビ討論会が、また、10月には(2016年のヒラリー・クリントン氏のメール問題や、2020年のトランプ氏の新型コロナウイルス感染などのような)見えないイベント「オクトーバー・サプライズ」が控えて、予断を許さない。同盟国としては、国際秩序にも十分に目配りする大統領を期待するが、バイデン氏のように舌禍で弱腰に付け込まれたり、トランプ氏のように不規則発言で懸念国の行動を牽制したり、結局、どちらが良いのか、実はよく分からないのが正直なところではあるのだが。

 何はともあれ、最悪の事態でアメリカが、ひいては世界が混乱するのを避けることが出来たのは幸運だったと思う。そしてトランプ氏が強運であることも思わないわけにはいかない。

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東京都知事・七夕決戦

2024-07-09 23:10:46 | 時事放談

 今年は選挙イヤーと言われ、各地の様々な選挙でサプライズが続出し、世間を賑わせている。

 6月初めのEU議会選挙では、極右や右派などのEU懐疑派が躍進し、フランスやイタリアやオーストリアでは国内第一党になったのには驚いた。これを受けたフランス・マクロン大統領が国民議会(下院)解散・総選挙の賭けに打って出たことに驚いた上、マクロンの狙い通りに極右が失速したこと、更に左派連合が最大勢力になったことにも驚いた。マクロン政権の年金改革が不人気だったようで(不人気でもやるべきことをやったのは偉いと思うが)、彼の求心力が低下すると噂されるのは気の毒ではあるし、EUやNATOの結束という意味でも不安がある。

 イギリス下院選挙が予想外に早く実施されたのはともかくとして、5年前に屈辱的な惨敗を喫し、今後10年は立ち直れないと言われた労働党が、下馬評通りとは言え見事にカムバックしたことには驚いた。労働党が野党の立場から総選挙で勝利するのは27年ぶり、総選挙で勝つこと自体19年振りだそうで、久しぶりの政権担当能力が問われる。

 …とまあ、前置きが長くなった。一昨日の七夕に東京都知事選が行われ、現職有利は既定路線と言ってもよく、得票数こそ前回から大幅に落としたものの、8時の開票直後に小池さんに当確が出たことに驚きはない。蓮舫さんが国政の政局を持ち込んで「反自民・非小池」とやらかして不発だった上、共産党と組んで伸び悩んだことにも驚きはない。財政に余裕がある東京都で政策論争を仕掛けたところで勝ち目はなさそうだ。ところが、広島県安芸高田市の前市長(石丸伸二氏)が、緑の古狸と必殺仕分け人(ちょっと古い)という注目の二人に挟まれながら善戦し、165万票を獲得して二位に食い込んだことには驚いた(残念ながら二位ではダメなのだが、というのもちょっと古い)。知名度不足をSNSでの発信や連日連夜の街頭演説で克服したと賞賛されるのは、既存政党が飽きられているとは言え、並大抵ではない。「出来ることは全部やったと言い切れる」と胸を張ったのは天晴れと言うべきで、次に来年秋の広島県知事選出馬を狙っているのではないかと囁かれるのは、なかなか野次馬的には楽しみだ。

 選挙はやってみなければ分からない。また、選挙にはマーケティングが働く余地が多く、実はやってみると面白いものだ。私は、選挙好きの父に騙されて、小5の時に児童会書記に当選し、小6で会長に当時史上最多得票で当選したことがあって、応援演説にひょうきん者のカサマツ君を起用したり、ポスターや演説に凝ったりして、子供心に選挙なるものを楽しんだことを懐かしく思い出す。だからと言って、過去最多の56人もの立候補者の中に多数の売名出馬があり、ポスター掲示板ジャックやら掲示スペース販売が騒がれたのは、ちょっと大人げない。かつての私の真摯なるも心から楽しんだ選挙活動は所詮はガキの遊びで、見習えとは言わないけれども。

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北朝鮮の得意満面

2024-06-29 01:13:36 | 時事放談

 プーチンと金正恩が接近している。困った悪の枢軸である(苦笑)。それで、金正恩が得意なのには相違ないだろう。コロナ禍やウクライナ戦争で、世界の注目を浴びることが出来ず、干上がっていたのだ。

 近づいたのはプーチンだった。ウクライナ戦争が重荷になりつつあっても、自らの威信を保つために、おいそれと戦争をやめられないプーチンは、片や、独裁者なのにまともに国家経営も出来ないのかと馬鹿にしているかどうかは知らないが、貧しい中で核とミサイルの開発に余念がない北朝鮮を、都合の良い兵器廠代りにしようとしている。

 犯罪以外にまともな稼ぎがない金王朝の三代目には願ったり叶ったりだろう。かつては偽ドル札の印刷や麻薬の栽培に手を染め、(北朝鮮が制裁対象であることを知らない)アフリカの一部の国への武器輸出や軍事サービスの提供を行い、今は暗号資産の盗掘や(国連安保理から禁止されている)労働者派遣など(どうやら日本のアニメ制作の下請けまでしていたことが報道された)で、どうにか食い繋いでいる。貧しいせいではあるが、旧・ソ連時代の兵器を後生大事に持ち続けた甲斐があった。同じく旧・ソ連時代の兵器に頼るロシア軍には、恐らく部品の互換性もあり、使い勝手が良いはずだ。

 しかし、提供された武器・弾薬の半分ほどは使いものにならないほど、品質が劣悪だったらしい。プーチンからは足元を見られることだろう。冷戦期の同盟時代を記憶する人民は、見返りにプーチンから食料援助を期待するようだが、新たな相互援助の「同盟」(プーチンはついぞこの言葉を口にしないし、国連憲章やそれぞれの国内法の手続きに従い、との留保がついている)関係の下で、三代目は自前技術だけでは突破出来ない衛星や先端兵器の技術の提供を受けることを期待するようだか、どうなることやら。相変わらず、三代目と人民との間の意識のギャップは如何ともし難い。

 何しろ、法的には今なお朝鮮半島で戦争中という危機を偽装することでしか国家をまとめ切れないのだ(もっと言うと、金王朝の成り立ちも甚だ怪しく、存在自体が偽装まみれだ)。三代目にとっては「貧者の兵器」である核やミサイル以外に、韓国との間で比較優位はなく、結果、お隣の独裁者である中国共産党がその統治の正統性の源とする社会の安全や経済成長を、真似できない三代目は、声高らかに米韓との緊張を演出し、核やミサイル開発の成功を宣伝しないことには、統治の正統性を担保出来ないのだ。そんな茶番をいつまで続けるのかと、冷めた目線を送る我々との間の意識のギャップもまた如何ともし難い。

 かの喜劇の名優チャールズ・チャップリンは、「人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見れば喜劇である」(Life is a tragedy when seen in close-up, but a comedy in long-shot.)と言った。至言であろう。人民には、かつて満州に跋扈した匪賊のような統治能力の乏しい王朝の下で気の毒でならないが、世界の目には、かつてトランプ前大統領と交渉決裂したように統治の保全に汲々として現実を顧みず誇大妄想する三代目の北朝鮮の、現代にあってなお孤立した秘密国家ぶりにも、よく当て嵌まる。もっとも、北朝鮮の置かれた地政学的な難しさと歴史的現実には同情するから、さしずめ三代目はそんな厳しい現実に翻弄される深窓の令嬢といった趣きであろうか(その得意満面の裏側を想像するならば…)。

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台湾の自立意識

2024-06-22 09:34:48 | 時事放談

 台湾で頼清徳氏が新総統に就任することに決まってから、どんな就任演説をするか注目された。

 前総統の蔡英文さんは、就任演説で「中台関係」や「中国」を表現する際、「両岸関係」や「対岸」など、今から思えば穏やかな言葉を使ったが、頼清徳氏は「中国」で通したそうだ。中台が「一つの中国」原則を確認したと中国が主張する「1992年コンセンサス」には全く言及せず、この5000字余りの演説の中で、「中華民国」という呼び名を9回、「中華民国台湾」を3回繰り返したそうだ。さすが筋金入りの独立派で、確信犯である。

 これを息を殺して見ていた中国が面白かろうはずはない。早速、人民解放軍を派遣して威圧して見せる、いつもの嫌がらせをした。

 全体として、「独立」そのものは封印したものの、台湾における台湾アイデンティティの高まりを捉えて現状維持を主張するという、彼としては抑制気味ながらも、彼自身のアイデンティティを支持する人にもぎりぎり応える内容だったように思う。その上で、頼氏は「中国からの様々な威嚇や浸透工作」に対処するため、国防力を強化し、経済安全保障を構築して、「世界の民主主義国家」と連携を進める考えを示した。

 ウクライナ情勢は、ユーラシア大陸の東端の台湾にも影を落とす。ウクライナ制圧というプーチンの妄動を易々と許すならば、習近平をも台湾制圧へと駆り立てると言われて来た。ロシアと地続きのウクライナと違って、台湾島を軍事制圧するのはそれほど簡単ではなさそうで、余程の覚悟が要りそうだが、やや手垢に塗れたと言えるかもしれないハイブリッド戦ならお手軽で、既に始まっている。そして、プーチンの非道に立ち向かうウクライナ国民を、NATOを始めとする自由民主主義諸国が支える構図に乗じて、頼清徳氏も自由民主主義諸国への働きかけを強めて行く。

 話は変わるが、最近、宋美麗の伝記を読んだ。悪名高い?宋三姉妹の三女で、蒋介石に嫁いだ。因みに次女は孫文に嫁ぎ、長女は財閥に嫁いだ(長女の旦那は中華民国の行政院長(NO.2)にも就いた)。20世紀前半の中国で栄華を極め、中国の運命を左右したと言われるファミリーである。混乱を極めた当時、10%をピンハネするだけでも莫大である。1949年に大陸を追い出された蒋介石に対してアメリカが冷たかったのは腐敗が酷かったからだと言われるのも分かる気がする。習近平は権力闘争で反腐敗を旗印にしたが、このあたりは東洋的専制の体質だろう。

 それはともかく、宋美麗はアメリカ留学経験があり、南部訛りの流暢な英語を操り、蒋介石が軍人あがりで、さばけた人ではなかったので、彼女が蒋介石の通訳をしたり、アメリカ・メディアのインタビューを受けたり、寄稿したりして、アメリカ世論に多大な影響を与えたと言われる。ルーズベルト大統領夫人に取り入り、米国史上、議会演説した外国人女性としてはオランダ女王に次ぐ二人目で、全米にラジオ放送され、また、タイム誌の表紙には、1927年に蒋介石と結婚した時の顔写真が掲載されて以来、1955年までの28年間に、二人の写真が実に11回、宋美麗単独では4回も掲載されたらしい(譚璐美著『宋美麗秘録』より)。日本はついぞ大陸の戦闘で中国に負けたことはなかったが、世論戦で負けたとも言える。

 今も東アジアで行われているのは、世論戦を含む認知戦である。GDP比2%の軍事費も重要だが、私たちに認知戦への備えは出来ているだろうか。

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