願いは叶わなかった。7メートルは掘れたのに水脈に当たらなかった。しかも、塩ビ管を引き上げようとして繋ぎの部分で外れてしまった。しかし、残った部分の頭が80センチほど下に見える。これを引き上げればまた、掘ることも出来る。「もうダメだ」と言い放つ先輩に代わって、チェーンで引き上げる試みをする。すぐに諦めたくはなかったし、そういうことが続くとやる気を失うことにもなる。本当にダメと思えるまでやってみようと奮い立った。
しかし、結果は無残にもまたしても塩ビ管が途中で外れてしまった。ここまでやれば諦めるしかない。「成功しないと疲れる」と先輩たちは座り込み、「一息入れよう」と言う。それがいい。この場所は諦めてもう一度掘り直そうと、次の場所を決めて今日の作業を終わる。今日は朝からいい雰囲気ではなかった。「昨日は20代の青年に手伝ってもらったので助かった」と話すと、昨日参加していなかった先輩が声を荒げて「それはイカン。手伝わせるなら金を払ってやらないとイカン」と言い出した。
先輩は「私らはいい。けど、若い人に手伝わせるなら時給1千円以上は渡してやらんと気の毒だ」と言う。原則はそうであるが、私たちの仕事にそれほどの余裕はない。あくまでも生活に困らない年金生活者が「趣味」でやっているのだから。けれど、もう限界だ。今日も78歳、77歳そして73歳の私の3人しかいない。若い人に手伝ってもらわなければもう出来ないところに来ている。それに、私たちが年寄りだから若い人に手伝って欲しいのは事実だが、井戸掘りの方法も伝承していきたい。
「このまま私たちだけでやる」としたら、それは無理な話で、「解散」しかないだろう。10年近くやって来て、やはり歳を取った。まだまだ働けると気持ちで思っても身体は動かない。それでも受けた仕事を途中で投げ出すわけにはいかないから、何とかしなくてはいけないから、明日もう一度井戸掘りに挑戦する。今度こそ水が出ますようにと祈る。